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file148 「少女雑誌」

少女雑誌は明治時代に始まりました。
明治35年、当時誕生したばかりの女学生をターゲットに最初の雑誌が創刊されました。以後、昭和初期にいたるまで13誌が刊行され、少女雑誌は活況を呈していました。

東京にある弥生美術館では少女雑誌の展覧会が開かれ(10/1~12/23)、廃刊された雑誌が復刻されるなど少女雑誌の芸術性が今、改めて注目されています。

壱のツボ カバーガールの瞳の奥を見よ

雑誌の表紙絵の少女像、その瞳は明治から大正、昭和にかけ徐々に大きくなっています。なぜでしょうか?

明治38年11月号の「少女界」の表紙絵。少女の目は、線や点でシンプルに描かれています。江戸時代以来の美人画の伝統を受け継いだ顔です。

大正5年2月号「新少女大」。正時代、竹久夢二の描く少女像が登場。初めて瞳が開き、瞳の輝きが描かれています。語りかけてきそうな、生き生きとした表情が生まれました。

大正15年2月号「少女画報」。夢二の後、大きな瞳が主流になります。高畠華宵(たかばたけかしょう)の描く少女は、大きな二重まぶた。白めが強調され、あでやかさが特徴です。

昭和14年4月号「少女の友」。瞳は、昭和に入ると極端な大きさになります。中原淳一の絵です。大きな瞳が支持された背景には、当時、自由な発言ができなかった少女たちが目で自分の意思を伝えたい、という自己表現への思いが反映されている、と評論家の上笙一郎氏は語ります。

最初のツボは、
「カバーガールの瞳の奥を見よ」

弐のツボ 付録は夢一杯の紙の宝石

小さくても、かれんで精巧な技術を使った付録の数々。当時の少女たちが何より大切にした宝物でした。

千葉県に暮らす花田みよさん。戦争中は、付録をリンゴ箱につめて田舎に疎開させたおかげで、今も70年も前の付録に囲まれて少女時代を懐かしむ日々です。

「少女の友」昭和12年1月号付録。「スーヴニール」思い出、と題された小さなノートです。表紙は、木彫りかと思う重厚な立体感。実は、厚紙を型押し、凹凸をつけたもの。


当時、付録は輸送上の規制から、紙しか使えないことになっていました。 広げると中原淳一の絵と北原白秋など文豪の詩が描かれています。

「少女の友」を出版した実業之日本社現在の担当部長、岩野氏は語ります。

岩野 「細かい切り込みなどは、すべて手作業でやっていただろう。採算のことを考えたらできなかったと思います。当時の編集者たちは、とにかくいい物を作るんだ、少女に夢を与えたいという熱意だけで突き進んだのでしょう」


「少女の友」昭和11年1月号付録。付録の最高傑作といわれる、「彦根屏風たとう」。手紙や切手などをしまいます。国宝・彦根屏風をアレンジして作られました。

中を開くと・・・華麗で複雑なつくりになっています。折り込みの中は鹿の子染の鶴と松の模様という懲りようです。こうした付録が、毎月20万人もの少女の元へ届けられました。

二つめツボは、
「付録は夢一杯の紙の宝石」

参のツボ 誌面はちょっと危ないほうが面白い


少女雑誌は「良妻賢母」を標ぼうしながら、一方で少女たちが抱く恋愛への憧れに応えていきました。昭和12~13年に連載された川端康成の少女小説「乙女の港」。ミッションスクールを舞台に上級生と下級生が、「S(エス)」と呼ばれる、友情を超えた関係をもつ物語です。


熱心な読者だった遠藤さんは、女学校時代「エス」をまねることが全国で流行っていたと語ります。

遠藤「米沢の女学校でしたが、お友達が、私のところに手紙を持ってきて「あなたのクラスのあの人にこれを渡して」と。あぁあれだと思いました。一種の擬似恋愛だったんでしょう。」

最後のツボは、
「誌面はちょっと危ないほうが面白い」


読者の中から選ばれた少女がモデルになって「乙女の港」を実演する誌面も登場。この企画は大反響を呼び、「エス」の流行にますます拍車がかかります。

昭和15年6月号、淳一最後の表紙。しかし、少女雑誌は、軍からの圧力のよって路線変更を余技なくされます。淳一が「少女の友」から降板。以後、恋愛のテーマは姿を消し、戦時色の強い内容へと変わっていきました。

少女雑誌は、過酷な時代を生きざる得なかった少女たちが紡ぎだした、つかの間の美の王国だったのです。

古野晶子アナウンサーの今週のコラム

私、物が捨てられないタイプなんです。いつか使うかもしれない、捨ててから後悔するのは嫌だ!という気持ちが働き、いろいろとため込んでしまいます。引越しをするたびに意を決して大量に捨てるのですが、それでもどうしても捨てられないものが「雑誌」です。インテリア雑誌にファッション雑誌、メイクアップの仕方を特集したものなど・・・。お気に入りの雑誌は毎月欠かさず購入し、コレクションのように数年分取ってあるものもあります。パラパラとページをめくりながら、なぜ残しておきたくなるのか?と自問したところ、それらの雑誌に“ある共通点”をみつけたのです。それは美しい写真を載せながら“憧れの生活スタイルを提案している”という点でした。「こんな家具に囲まれて暮らしてみたいなあ」とか、「こんなおしゃれをして美術館にでも出かけてみたいなあ」なんて、雑誌を眺めながらいつも空想の世界に浸っています(笑)そんな私が今回の番組・「少女雑誌」を見て、とても驚いたことがありました。番組をきっかけに明治時代に創刊された「少女雑誌」(読んだのは昭和10年代の内容が中心になった復刻版です)を手にしたところ、現在の女性雑誌と同じように“憧れの生活スタイル”がさまざまな形で示されていたのです!今ほど写真は多用されていないのですが、鮮やかなカラーで描かれた少女のイラストや小説の中の挿絵など、いたるところにこの服装や髪型をまねしてみたい!と思うような要素が散りばめられていたのです。いま改めて読んでも新鮮で、十分に楽しめるものでした。だからこそ50年近くの長きにわたって、多くの少女たちから支持される雑誌になったのでしょう!時代は違っても、女性がカワイイ物やキレイな物に憧れる気持ちは一緒なのですね。捨てられない私の雑誌コレクション、いつか復刻版を作るのに役立ててもらえるかも。その日までまだ捨てられません・・・。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名
 Moonglow Benny Goodman Quartet
 Old acquaintance Jo Stafford
 My lazy uncle 小曽根真
 The way you look tonight Chris Botti
 Je te veux The fascinations
 Profumo di donna Antonio Faraò
 Dark eyes Itzhak Perlman, Oscar Peterson
 Body and soul Coleman Hawkins and his Orchestra
 Someone to watch over me 早川泰子トリオ
 I wish you love Ann Sally
 La javanaise Richard Galliano
 Fables of Faubus 中村健吾
 Just a gigolo 渋谷毅
 Forgetful Chet Baker
 I loves you Porgy Itzhak Perlman, Oscar Peterson
 Il prete sposato Antonio Faraò
 Avalon Benny Goodman Quartet

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