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鑑賞マニュアル美の壺

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File141 「手ぬぐい」

手ぬぐいとは、幅1尺、長さ3尺ほどに切った布のこと。
材質は、主に木綿。布の端は縫っていません。
だから、ぬれても乾きやすく、簡単に裂くこともできます。

木綿の生産が始まった江戸時代、安くて、便利な日用品として庶民の間に広まりました。
時と場合に合わせたさまざまな被(かぶ)り方が誕生し、いなせな男たちの間で流行します。

かつては、誰もが持っていた手ぬぐい。
この小さな一枚の布に日本人は、暮らしを彩るためのさまざまなくふうを凝らしてきたのです。
まずは、デザインに注目です!

壱のツボ 三尺に込めた江戸のしゃれ

江戸時代から、オシャレにこだわる人々は、きそって粋なデザインを追求してきました。
江戸の粋を今に伝える落語家は、その代表格。
落語家の「五明樓(ごめいろう)玉の輔(たまのすけ)」さんは無類の手ぬぐい好きとして知られています。

こちら、玉の輔さんのコレクション。
仲間の落語家たちがそれぞれ趣向を凝らして作ったオリジナルの手ぬぐいが中心です。

例えば、こちら。
ありふれた水玉模様のようですが、豆に芽が出ているものも。「芸の芽が出るように」との願いが込められた手ぬぐいです。

そこで、手ぬぐい鑑賞一のツボは、
「三尺に込めた江戸のしゃれ」

時は、江戸。上野不忍池。
手ぬぐいのデザインでしゃれっけを競う催しものまで開かれていました。
主催したのは人気戯作者(げさくしゃ)で絵師の山東京伝。

京伝がその時の様子を記した書物
「たなくひあわせ」。
合計79種類の図柄が載っています。

これらの図柄に魅(み)せられたのが手ぬぐい絵師の川上千尋さん。
川上さんは、「たなくいあわせ」を元に、当時の手ぬぐいを復刻しています。

川上「当時の文化人や粋筋、おいらんが、天明4年という日本中が飢きんの時に元気を出そうということだったのかな…」

手ぬぐい。
幅1尺、長さ3尺の空間は、江戸の人々が自由自在に遊び心を表現する身近なキャンバスでもあったのです。

弐のツボ 手ぬぐいは裏まで楽しめ


次は、染めの技法に注目です。
江戸から昭和にかけての手ぬぐいの銘品(めいひん)を収集している豊田満夫さんです。江戸時代の手ぬぐいには、今とは違うひとつの特徴があるといいます。

豊田「当時のあい染とか絞り以外は、片面が多い。」

なるほど、確かにこちらの手ぬぐいは裏まで染まっていません。
江戸時代は、絵柄を染める場合は型紙を使っていました。
実は、この方法では、裏まで一気に染めることはできなかったのです。


中には、こんなものも。
染められているのは、力士のしこ名。めくってみると、この通り!裏からも文字を反転させて染めています。
どうしてこんなに手間をかけたのでしょう?

例えば、ねじり鉢巻きをすると…この通り。
模様がない裏側が見えています。何だか格好良くありませんよね。
裏が無地なのは粋じゃないとされていたのです。
そこで、手ぬぐい鑑賞二のツボは、
「手ぬぐいは裏まで楽しめ」


そこで明治に入って開発されたのが、『注染(ちゅうせん)』という技法でした。 この技法によって、手ぬぐいの製造工程は大きく変化し、手ぬぐいはさらに人々の間に広がることになりました。
こちらは東京・足立区の染物工場。「注染」の技法が今に受け継がれています。


まず、一つ一つの模様のまわりをペースト状ののりで囲みます。


模様の部分に染料を注ぎ込みます。
囲んだのりが堤防の役割を果たしそれぞれの色が混じりません。

よく見ると、注ぎ込まれた染料が勢いよく吸い込まれているのがわかります。

下から機械で染料を吸引する仕組みになっているのです。

何枚も重ねられた手ぬぐいの一番下まで染料が染み込んでいます。

染めの技法を研究する大澤美樹子さん。

大澤「注染は、たっぷりの染料が流れていきますから染料が布の繊維の中に染みて、柔らかい、私たちは模様の際(きわ)っていってますけども、柔らかい感じでにじんでいく…。」

「注染」は、手ぬぐいに新しい魅力をもたらしました。「にじみ」や「ぼかし」です。
こちらは、おぼろ月が「注染」の技法でみごとに表現されています。

参のツボ 使い込むほど味が出る

手をぬぐうための布、手ぬぐい。日本人は、さまざまに応用してきました。創業明治5年、日本橋の手ぬぐい問屋の5代目、小林永治さん。一枚の手ぬぐいを何年も使い込むといいます。

小林「洗濯何回もして、色が薄くなっているけど深みが出て『味』が出てくる」

最後の手ぬぐい鑑賞、三つ目のツボは、
「使い込むほど味が出る」

手ぬぐいは、さまざまに姿を変えて、皆(みんな)のために活躍します。
使い込んで柔らかくなったら赤ちゃんのオムツに。細かく裂くと、ハタキにもなります。
そして、最後にはぞうきんに…。

日本人の暮らしに、寄り添ってきた手ぬぐい、ボロボロなのは、愛され、必要とされてきた証しなのです。

古野晶子アナウンサーの今週のコラム

私の出身地、福岡の夏の風物詩といえば「博多祇園山笠」。この山笠にも手ぬぐいが欠かせません。博多では手ぬぐいのことを“手のごい”と呼んでいます。祭りを運営する上でさまざまな役職があり、その役割や責任に応じて手のごいの柄や色が決まっているのです。手ぬぐい鑑賞の4つ目のツボになると思いませんか?!誰でも一番初めは“白(しろ)手のごい”を渡され、山笠の経験を積んで認められてくると、次の“赤(あか)手のごい”(全面赤い色)というように、色や柄を変えておよそ8段階もあるのだそうです。(ただし流(ながれ)ごとに多少違います)山笠にかかわる男たちにとって、上位の役職を表す手のごいはあこがれのもの。地域の行事に積極的に参加し、頼りにされるようになってこそ一人前だという考え方が今も受け継がれているのです。なぜこんなに山笠について思い入れ深く語っているかというと・・・。高校時代にあこがれていた先輩が山の「舁き手(かきて)」(担ぐ人)だったので、山笠についていろいろと調べたことがあったのです(笑)その恋は思いを伝えぬままに終わってしまいましたが、山笠の季節になるとその時の甘酸っぱい記憶がよみがえります。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名
You'd Be So Nice To Come Home To Art Pepper
Hello, Dolly Louis Armstrong
Afrodisia Kenny Dorham
Moritat Sonny Rollins
Tico Tico Grant Green
Everyday Lambert Hendricks & Ross
Autumn In New York Buddy DeFranco
New Orleans Bump Wynton Marsalis
Sidewinder Turtle Island String Quartet
Lament Duke Pearson
Laura Charlie Parker
Country Keith Jarrett
My Song Pat Metheny
Stella By Starlight Duke Pearson
Red Hot Pepper Wynton Marsalis

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