〈美の壺〉の収録が行われているのは、都内のおもむきある古い洋館。4月からナビゲーターを務める草刈正雄を訪ねると、ちょうど“天の声”に、「木造校舎」の鑑賞のツボを聞くシーンの撮影中だった(6月5日放送)。草刈独特のユーモラスな口調に、思わずスタッフの間から笑い声があがる。
「最初のころは、とぼけた感じを織り交ぜるにしても遠慮しながらやっていたんです。でも、『もっとやってもいいんじゃない』という声も聞こえてきたんでね。そうか、しめしめと。やりすぎたら演出家が抑えてくれたらいいんだからって(笑)。とにかく思いっきり楽しんでやらせてもらっています」(草刈)
番組の中で見せる“ちょっととぼけた二枚目”のキャラクターは、自身に近いところがあるそうだ。「三枚目的なところとかね。ふだんからぼくは“おちゃめ”ですよ。どーん、と暗いときもたまにはありますけどね」と笑う。
撮影中も、草刈から「こんな感じでどうですか」と演技のアイデアが出されていた。聞けば、思わず笑ってしまったという声も多かった、「木の椅子」の回の椅子を亀の甲羅のように背負って去っていく演出も、草刈の案だったという。
「最近少しだけ余裕が出てきたんで、ちょっとアドリブを入れたりしています。却下されるときもありますけどね(笑)。アドリブとかアイデアを出したシーンでは、モニターチェックをしながら、『よしよし』とか、『してやったり』とか、一人で思ったりして(笑)。そんな感じだから、この現場がとにかく楽しいんです。あとね、いろんな美術品を紹介するので、ぼくも勉強になる。それも楽しみの一つですよね」
意外にも、物にこだわりや執着がなく、美術品にもこれまであまり興味がなかったそうだ。
「なんの趣味もなく暮らしてきた退屈な男なんですよ(笑)。唯一テニスだけは好きでやっているんですけどね。そんな自分でも、この番組でたくさん物を見るようになって『休みの日に骨董品店にでも行ってみようか』なんて気になったりして。そういった好奇心がもてるようになったことがすごくうれしい」
最後に、番組コンセプトにちなんで、草刈が思う“暮らしの中の美”を聞いてみた。
「ぼくね、“老夫婦が手をつないで歩いている姿”が、世界でいちばん美しい姿だと思うんです。もともとは、もう亡くなった外国の女優さんがおっしゃったことなんですけど、感銘を受けましてね。本当にそのとおりだな、と。ぼくと妻は、もうちょっと年をとってから、ですけどね」
にっこり笑って、すてきな答えをくれた草刈は、番組の中のチャーミングなイメージそのものだった。
「NHKウイークリー ステラ」09年5月29日号掲載
写真/川口俊介