| 島根県浜田市。
秋、収穫が終わるころ、あちこちの神社で祭りが行われます。
奉納されるのは、この地方に伝わる石見神楽(いわみかぐら)。神話の世界が華やかに演じられます。
お姫様から神々まで個性的なキャラクターが次々と登場し、見る人を物語の世界へと引き込みます。 |
| 中でも人気なのが、商売繁盛の神・恵比須様です。
一目で分かる満面の笑顔。いかにも血色の良さそうな色で、笑っている表情が強調されています。 |
| こちらは、ヤマタノオロチを退治する神様、スサノオノミコト。
大きく見開いた目と歯を食いしばった口元が、悪を懲らしめる力強さを表します。 |
| 悪事を働く狐(きつね)の面。
真っ赤な口を大きく開けることで迫力を出しています。
祭りの面は、善悪それぞれの性格をはっきりさせることで、どんな役柄なのか分かりやすく表現しているのです。 |
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こんな独特な面は、伝統的に地元の職人が手がけてきました。
その一人、柿田勝郎さん。子どものころから石見神楽に親しんできました。
柿田「神楽の場合は、喜怒哀楽をはっきりというのが本来のものだと思います。能のように非常に幽玄な舞ではなくて、どちらかというと動きの激しい舞ですから、表情もそれぞれにこだわりがあるんですね」
ゆったりと舞う能では、微妙に変化する面の表情で喜怒哀楽を表現します。
一方、動きのある神楽では表情を追うのは困難です。そのため、一目でわかるように性格を際立たせた面が作られました。
祭りの面鑑賞、一のツボ。
「誇張された表情を楽しむ」 |
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面の表情はどのようにして作っていくのでしょうか?
石見神楽の場合、まず粘土で型を作ります。 |
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粘土でできた型に、地元特産の丈夫な和紙を幾重にもはっていきます。
和紙を使うのは面を軽くするため。動きの激しい石見神楽独特の技法です。 |
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乾燥させ粘土の型を壊すと面の原型ができます。
ここにどのように色を塗るかによって、表情が大きく変わります。 |
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その一つが隈(くま)取り。墨を使って陰影をつけ、輪郭を浮かび上がらせます。
柿田「優しい顔、怒った顔、隈取りをしっかりとるわけです。はっきりした方がわかりやすい」 |
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続いて彩色。
白い胡粉(ごふん)で塗られた顔に、真っ黒な眉(まゆ)、そして赤い口。
人目を引くように、あえて原色を使います。 |
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中国の魔よけの神、鍾馗(しょうき)の面。力強さの中にもどこか品格が漂います。 |
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一方、こちちは鍾馗に退治される疫病神。
全体が濃く隈取りされ、邪悪さが強調されています。
喰(く)わんとばかりに威嚇する悪の面です。
原色に彩られ誇張された表情が、勧善懲悪の物語を強烈に印象付けます。 |