バックナンバー

File110 オルゴール


そもそもオルゴールという呼び名は、日本独自のものだということをご存じですか?
語源はオランダ語でオルガンを意味するオルヘル。
オルヘルから転じた「オルゴル」は「音楽を奏でる不思議な箱」という意味で使われていました。
そのため、幕末に渡来した、初めて目にする自動演奏装置を、オルゴルと呼んだのです。

こちらは、オルゴールにみせられコレクションを始めたという名村義人さんです。
趣味が高じて、自費で博物館を作ってしまったというほどのコレクター。

名村さんが一番気に入っているというオルゴールがこちら。
20世紀初め、家庭用に大量生産された代表的な機種です。

名村「こんなに小さい円盤形のオルゴールなのにちゃんと音楽を演奏するんですね。音そのものは鉄が鳴っているだけなのに、たいへんさわやかな心の中に風が吹いてくるような音がしたんです。」

そもそもオルゴールは、時を告げる鐘、カリヨンを起源とします。
回転する円筒に取り付けられたピンで、ハンマーを動かし、鐘を鳴らす仕組みです。

その後、オルゴールは王侯貴族の間で広まります。
こちらでは、ロシア王朝最後の皇帝、ニコライ二世と皇后アリックスが愛用したオルゴールが、当時のまま残されています。

こちらは、ニコライ二世が愛妻アリックスのために、パリ万博の装飾を担当した、著名な家具デザイナーに注文し、製作させたもの。皮に描かれた、なかむつまじい恋人たちの絵が、目を引きます。

オルゴールは、好きな音楽をいつでも聴けるという夢を、初めて実現した装置。
そして音楽を奏でる工芸品でもありました。
こうして、オルゴールはブルジョア文化に花を添えたのです。
そして今も、外観の美しさと暖かな音色に多くの人々が魅了され、その人気は健在です。

壱のツボ シリンダーに印(しる)された旋律を愛(め)でよ

ではまず、オルゴールの仕組みに注目してみましょう。
こちらはオルゴールの心臓部。
櫛歯(くしば)と呼ばれる櫛の形をした金属板が、次々に弾かれていることが分かります。

櫛歯を弾く役目をしているのがシリンダー。シリンダーには無数の細かい突起、ピンがあり、回転しながら櫛歯を弾くことで音色が生まれます。

ピンの配列を見てみましょう。

シリンダーの表面を広げて伸ばし、譜面と比べると、よく似た配列になっていることが分かります。ピンの配置で音階と音と音との間隔が決まります。

一見、何の規則性もないように見えるピンの配列ですが、そこには計算され尽くした機能美が宿っています。

そこで、オルゴール鑑賞、一つ目のツボは、
「シリンダーに印された旋律を愛でよ」

こちらは、日本で唯一、シリンダーを手作りしている工房です。
専門のスタッフが、お客さんの要望に応じたオリジナルオルゴールを製作しています。
編曲から調律、曲の記録に至るまで、すべてを手作りで仕上げます。

シリンダー作りを見せていただきました。
楽譜を元に、シリンダーのどの部分にピンを打つか、位置を計算で割り出し、穴を開けます。

そして、金属製のピンを一本一本手作業で植えていきます。
ピンの角度は音色に影響するのでチェックが欠かせません。
最後に一本一本、念入りに調整していきます。

技術スタッフリーダーの和田さんです。

和田「ピンがまっすぐ植わってなく、あっちこっち向いていると、リズムがバラバラになってしまうので、まっすぐ植えるのが重要になります。」

究極のピンを持つオルゴールがあるといいます。
「ルクルト・グランジェ・エクスプレッシブ」
いったいどのようなピンなのでしょうか?

通常はまっすぐに打つピンが、微妙に曲がっていることが分かります。
しかも、一本一本そのカーブはさまざま。
これは、オルゴールのある欠点を補うためなのです。

名村「オルゴールは鉄の歯をピンが弾くだけですから、常に同じ音しか出ません。そうすると、音楽を表現するときにメリハリがどうしもないんです。」

そこで、「ルクルト・グランジェ・エクスプレッシブ」は、数千本あるピンを一本一本、リズムを狂わさない程度、わずかに曲げることで、音色にメリハリを付けているのです。

名村「少しカーブが弱いと強く弾くことができますし、丸くなっていますと弱く弾きます。ルクルトグランジェエクスプレッシブは究極の、タッチまで表現してしまうというオルゴールの技術のおもしろさがあると思います。」

いかに美しい音楽を奏でるか、職人の究極の挑戦がシリンダーに刻まれているのです。

紙腔琴(しこうきん)は明治17年、銀座の楽器店で考案された自動演奏装置です。
木箱の上部に通した穴のあいた紙ロールが、ハンドルを回すと流れていきます。
紙ロールの穴だけを空気が通ることでメロディーを奏でる仕組みです。

紙腔琴は明治天皇に献上されています。
こちらがその献上品。
総漆塗りの箱は、みごとなまき絵が施されています。
日本が誇る装飾美を注ぎ込んだ、まさに芸術品です。

弐のツボ 木の響きに耳を傾けよ

つづいては、箱に注目です。
オルゴールの箱は、誕生のころから、華麗な装飾で飾られてきただけでなく、音の響きを考え、大きさや材料など、くふうが凝らされてきました。

そして現在−
箱に特別な思いと、こだわりを持っている永井淳さんです。
永井さんは、木と音の関係にみせられて、今までにないオルゴールの箱作りに挑戦しています。

永井「一番のこだわりは音ですね。響き。それをいかによくするか、それが第一です。そして、それぞれのもっている木の美しさ、それを引き出すように考えています。」

永井さんはこれまで70種類以上の木を試し、箱を作りました。
無垢材(むくざい)ならではの木目の美しさは、響きだけでなく、目も楽しませてくれます。

オルゴール鑑賞、二つ目のツボは、
「木の響きに耳を傾けよ」

箱がある場合とない場合で音を聞き比べてみると、箱がある場合のほうが響きが広がり、音が柔らかくなることが分かります。

永井さんのオルゴールは三本足です。
四本足より安定し、響きが良くなるため。
グランドピアノを参考にしたといいます。
また、箱の内側をあえて彫刻刀で削っています。
これも音をよく響かせるためのくふう。和太鼓と同じ加工法なのだそうです。

さらに、永井さん独自のくふうが施されています。
それは、江戸指し物の技術です。

指し物とは、くぎや接着剤を使わずに木工品を丈夫に美しく組み立てる日本伝統の技術。
組み合わせる部分のわずかな透き間が音の響きに影響するといいます。
永井さんは、その技術をオルゴールの箱作りに生かしました。

永井「接着剤を使うと薄くても膜ができます。そうすると連続が途切れる。いい響きが得られるというのは木の繊維をできるだけ長くする。それが一番の基本なんです。」

バードアイと呼ばれる鳥の目のような木目が特徴の、メープルの無垢材で作ったオルゴールです。
見た目の美しさと流麗な音の響き。永井さんのさまざまなくふうが凝縮した、作品です。
箱へのこだわりは、オルゴールが誕生したときから今まで、連綿と受け継がれているのです。

参のツボ オルゴールは小さな劇場

  最後は遊び心に注目です。
オルゴールの技術は、さまざまなカラクリへ応用され、広がっていきました。
そもそもオルゴールは、20世紀初頭の最先端の技術で作られた、当時のハイテク製品。
技師たちは、シリンダーを回転させる動力を利用し、さまざまなカラクリを作り出していったのです。
こちらは19世紀後半にスイスで作られたもの。
コインを入れると一曲演奏され、曲に合わせて人形が踊ります。
主に駅やレストランなどに置かれ人々を楽しませました。

プラクシノスコープが作られたのは、映画誕生のころ。
オルゴールと映画の原理を合体し、音楽とアニメーションを同時に楽しめます。
オルゴールは技師たちの創意くふうと遊び心が詰まった、夢の箱でもあるのです。

そこで最後のツボは、
「オルゴールは小さな劇場」

岡山県の山間の町でカラクリオルゴール作りを続けている西田明夫さんです。
西田さんのカラクリオルゴールはすべて手作り。
デザインから組み立てまで一人で行います。

西田さんは、最先端の技術が、ブラックボックス化している今だからこそ、仕組みが目に見えるカラクリオルゴールを作りたいといいます。

カラクリが生み出すユニークな動きと、その暖かさをよりいっそう引き立てるオルゴールの音色が相まって、心なごむ作風が特徴です。
オルゴールの音色は作品に温もりを与えるため、欠かせないと西田さんは言います。

西田「ご覧になった方がぷっと吹き出したり、自分の人生に照らし合わせて、こういうシーンもあるなということろのメッセージを表現できればと思っています。」

見る者が、思わず引き込まれてしまうカラクリオルゴールの世界。
作り手の遊び心が感じられる、まさに小さな劇場なのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

目で見てため息、耳をすませてため息のオルゴール!あの音に包まれると、機械に囲まれたスタジオの中もとても暖かな空間に感じられました。仕組みはシンプルなのにいろんな音が重なり合ったハーモニーが奏でられて、まさに奇跡の響きですよね。豪華なオルゴールもいいし、自分の好きな早さで動かせる手回し式も素朴で味わいがあります。今回は、作家もコレクターも男性の方が多数ご登場。老若男女に愛される魔法の箱なのですね。
私のオルゴール好きは実は筋がね入りです。何しろ赤ちゃんのときからオルゴールを聴いていたんですから。今でも耳に残るあの音・・・赤ちゃんの私はオルゴールのついたうさぎの形の枕で眠っていたのです。黄色いタオル地の枕で目のところは赤い糸で刺しゅうがしてありました。曲は「月の沙漠」。哀愁漂うあのメロディが私の最初の記憶。今でも大好きな曲です。皆さんにもそんな思い出、ありませんか?

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Moanin' Art Blakey
Eurasian Hoedown Turtle Island String Quartet
eo Turtle Island String Quartet
Milestones Turtle Island String Quartet
Milestones Turtle Island String Quartet
NOS.2 Chic Corea
Lush Life 増尾好秋・岡田勉
Naima Turtle Island String Quartet
One Bass Hit Modern Jazz Quartet
Round Midnight Kronos Quartet
Green Sleeves Paul Desmond
NOS-12 Chic Corea
Hindu Toes Turtle Island String Quartet
I'll Close My Eyes Jimmy Smith