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File107 天守閣


世界遺産に登録されている姫路城。
江戸時代の初めに建てられました。

城の中でもっとも高い建物・天守閣は、支配者のシンボル。
戦に備えて、見張り台や司令塔としての役割を持っていました。

今日見られるような天守閣を初めて建てたのは、織田信長です。
信長はみずから天守閣に暮らし、客人を最上階に招いては、眺望を自慢しました。
天下を統一した豊臣秀吉も、壮麗な天守閣を造ります。

大坂城天守閣。
黒漆に金という豪華な装いでした。

威厳ある姿を城下に示すことは、天守閣の重要な役割。

天守閣は、軍事的な機能に美しさを兼ね備えた城の顔です。

壱のツボ 破風(はふ)が天下に威光を放つ

まずは、「破風」と呼ばれる飾りに注目。

山陰地方を代表する城・松江城の天守閣です。

5層に重なる屋根が生み出す、重々しい外観。
そこに付けられた三角形の破風(はふ)が、華やかさと力強さを与えています。

この造形が、いつの時代にも人々をひき付けてきました。

明治時代、松江に暮らした作家の小泉八雲は、こう記しています。

「幻想的で怪奇なまでに入り組んだ細部」
「まさに建築によってつくられたドラゴンであり、あらゆる方角に目を向けている」

小泉凡さん。八雲のひ孫です。

小泉「屋根の雰囲気が、城の天守の特徴になっていると。最上階の部分、そこに反り返っている鯱(しゃちほこ)が乗っていますけど、さらに破風を含めて、どうも八雲の目には、封建時代の甲、Feudal helmetと原文で書いてありますけど、そう見えたんですね。」

天守閣の美は破風がつくり出します。

最初のツボ、
「破風が天下に威光を放つ」


破風が天守閣にどんな効果を与えているのか、松江城の天守閣を分解してみましょう。

まず、下の階です。
大きな入母屋(いりもや)破風を作ることで、寺の本堂にも似た雄大さをかもし出しています。

その上に直角に交差するように、同じく破風のある屋根を加えます。

もうひとつ直角に、楼閣のような部分を重ねました。

どこから見てもすきのない姿…
互い違いに建物を重ねたように見える複雑な外観を破風が生み出しています。


美しい破風の例をもう一つ…
琵琶湖のほとりにある彦根城。
小ぶりの天守閣に18もの破風があり、その種類も多彩なことで知られます。
曲線が美しい唐(から)破風は、寺院建築から生まれました。
中国風を意味する呼び名ですが、日本にしかありません。
軒下から別の屋根が突き出たかのように見える切妻(きりづま)破風です。
なぜ、これほどたくさんの破風がついているのでしょうか…

城の研究家・三浦正幸さんです。

三浦「城主というのは、とても徳のあるものですから、天守閣を城下町から見たときに、全部が正面でなくてはならない。城主というのは民に向かって背中を向けてはいけないのです。天守が四方正面になるように見せるためには、やはり、四方にたくさんの破風を飾ることが大切になります。」

破風の形や位置によって、天守閣の表情は微妙に異なります。

すべての方角に向かって、破風が堂々たる風格を見せているのです。

弐のツボ 白と黒 壁の色は時代のモード

次の見どころは、壁の色です。

国宝・松本城。
豊臣秀吉に仕えていた石川数正・康長親子によって建てられました。

関ヶ原の合戦以前の城の姿を伝える、貴重な天守閣です。

主君・秀吉の大坂城にならった黒壁。
板に黒漆を塗った豪華なものです。

一方、白く輝く天守閣の流行は、徳川家康が建てた江戸城から。

土壁を漆喰(しっくい)で塗った巨大な天守閣でした。

徳川家を支えた譜代大名、井伊家の城・彦根城。
代表的な白い天守閣の一つです。

黒い壁と白い壁。その違いは、何を表しているのでしょうか。

三浦「豊臣秀吉の大坂城は、外の壁が黒く、板壁であったとよく知られています。分厚い板を縦に張って、そこに黒い漆を掛けた最高級の壁だったと思われます。白い壁のほうは、漆喰塗の壁ですから、これはお寺の本堂にも使うような高級な壁になります。黒い漆塗の天守で見えを張るのか、もしくは白壁の天守で見えを張るのか、見えの張り方が二種類あったと思うのがよいでしょう。」

豊臣から徳川の天下へ。
壁の色も劇的に変わりました。

第二のツボは、
「白と黒 壁の色は時代のモード」

秀吉の時代に最高とされた黒漆塗りの天守閣。
松本城では、その輝きを守り続けています。

日本人は、縄文時代から漆を使いこなしてきました。

漆黒(しっこく)といわれる深い黒は、質実剛健を重んじる武家の好みに合いました。

漆の弱点は、紫外線に弱いこと。
太陽光線に長く当たると、輝きが失われます。

漆の塗装を専門とする碇屋公章さんは、毎年9月から10月にかけて、松本城の補修に掛かりっきりです。

使うのは、器などに塗るのと同じ高級な漆。
天守閣全体を塗り直すのには、お盆にして1万2千枚分もの漆が必要です。

碇屋「漆って貴重なんですよね。普通ですと、渋だとか墨を塗るのが多いんですけど…このお城を築城した当時のお殿様が、漆ってものに思い込みがあったのか、黒いお城っていうのも、結構、重要なことだったと思うんです。」

秀吉の美学を受け継いだ黒い天守閣。
時代の変化を乗り越えて、重厚な姿をとどめています。

一方、こちらは白鷺(しらさぎ)城と呼ばれる姫路城。
江戸時代初期に、家康の娘婿・池田輝政によって建てられた天守閣。

家康好みの白い城の流行をリードしました。

漆喰には、雨に弱いという欠点があります。

姫路城では、昔ながらの方法で、白い輝きを維持してきました。

漆喰の主原料は石灰ですが、そこにカキ灰と呼ばれるものを加えます。

カキの殻を焼いて細かく砕いたもので、漆喰に混ぜると、純白の光沢が現れます。

白亜の天守閣。
それは、新しい時代の到来を告げるものでした。

黒と白、両方の壁を持つ天守閣もあります。

ここは松江城。
黒い部分は、板壁に煤(すす)と柿渋(かきしぶ)を塗った、倹約型の壁です。
黒漆も、漆喰も、多くの大名にとってはぜいたく過ぎるものでした。

限られた資金で、できるかぎり美しく見せたい…
目立つところにだけ使われた白壁は、時代の流れを取り入れようという城主の思いを表しているのかもしれません。

天守閣の壁の色。
それは、権力と美意識の移り変わりを物語っています。

参のツボ 石垣は城の舞台装置

天守閣を支える石垣を「天守台」といいます。

こちらは萩城の天守台。
かつて長州・毛利家の城がありました。

5層の天守閣は、明治6年の廃城令によって取り壊されました。

あとに残された天守台は、かつての城の姿をしのばせます。

加賀百万石、前田家の城として名高い金沢城。

天守台はありませんが、さまざまな種類の石垣が残り、「石垣の博物館」と呼ばれています。

金沢城で、石垣の研究に携わる冨田和気夫さんです。

冨田「石垣の変遷はお城の歴史とともにあるんです。信長の時代、秀吉の時代を経て、徳川になって天下太平の世になってくると、敵の侵攻を食い止めるような城壁だけでなくて、格式の高い場所を格式の高い空間として演出するための舞台装置のような、そんなありかたになります。」

天守閣鑑賞、三のツボ、
「石垣は城の舞台装置」

石垣の積み方は、時代とともに変化しました。

もっとも古い形は、自然石をそのまま積み上げる「野面(のづら)積み」です。

荒々しく力強い印象。
水はけが良く、城の土台を堅固にするという利点がありました。

桃山時代には「打込みハギ」が登場します。

石の角や面をたたいて形を整え、透き間を少なくしています。

野面積みよりも、石が安定するため、より高く積めるようになりました。

江戸時代に入ると「切り込みハギ」という技法が確立。
石を積む現場で正確に削りました。

かみそりの刃も入らないといわれる端正な姿。
石垣の技術は数十年の間に、大きな進歩を遂げました。

ところで、金沢城にはこんな石垣もあります。

石が縦に置かれ、いかにもバランスが悪そう。
なぜ、このような積み方をしたのでしょうか?

代々、金沢城の石垣を手がけた後藤家の秘伝書。

そこに、こんな記述があります。

横に置いた石は陰、縦の石は陽だというのです。

当時は、すべての物事に陰と陽の性質があり、両方を合わせることで完全になると考えられていました。

この積み方は、いわば「おまじない」だったのです。

秘伝書には、石垣を積むための注意事項が和歌の形で記されています。

「鏡石(かがみいし)、ところを知りて築くべし必ず神もいます、とぞ知れ」

鏡石とは、ひときわ大きな石のこと。
歌は、そこに神が宿っているといいます。

鏡石には、神の力を借りて城を守るという意味があったのです。

将軍家のおひざ元、江戸城にも天守台が残っています。

江戸時代の初め、ここに天守閣が建っていましたが、1657年の明暦の大火で焼失し、その後は再建されていません。

しかし、天守台は江戸城の一画に残されました。

当時最高の技術で積み上げられた、美しく堅ろうなたたずまい。

たとえ天守閣はなくとも、偉大な城のシンボルという役割を果たしていたのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

『城』というと、私はどこか、もの悲しい哀愁のようなものを感じます。
「荒城の月」の曲調そのままの世界・・・苔(こけ)むした石垣はもちろん、どんなに壮麗な輝く姿であっても、主(あるじ)を失った運命は共通・・・まさに兵(つわもの)どもが夢のあと、栄枯盛衰、流転の歴史に思いをはせてしまうからです。
今回の美の壺で、かつてのまま現存する天守閣は全国に12か所だけだということと知りました。焼けたり、壊されたり、時代の変化とともに、ほとんどの城は消えていったのですね。黒い壁、白い壁、一国一城の主となった大名たちのこだわりがしみじみと胸にしみます。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Moanin' Art Blakey
Home Is Africa Horace Parlan
Buzzard Song Miles Davis
All The Things You Are 松本 茜
Don't Stop This Train Modern Jazz Quartet
War Orphans Charlie Haden
What Have You Done? Wynton Marsalis
Infant Eyes Wayne Shorter
Last Tango In Paris European Jazz Trio
Stella By Starlight Oscar Perterson
Kucheza Blues Horace Parlan
The Single Petal Of A Rose Duke Ellington
Concierto De Aranjuez Jim Hall
Evidence Wynton Marsalis
Mam'Selle 4 Freshmen and 5 Trombones
Watermelon Man Herbie Hancock