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まずは「素材」に注目してみましょう。
各地で、地元の天然素材を使った素朴な弁当箱が作られてきました。
スギやヒノキ、ヒバ、サワラなど木材の柔らかさを生かした丸い形です。 |
| これは秋田県に伝わる伝統的なスギの弁当箱です。
「曲げわっぱ」と呼ばれています。 |
| スギ独特の、目がそろったつややかな質感。日本を代表する弁当箱の一つです。
木材を丸めたこうした弁当箱は、日本の米文化と深く関わっているといいます。 |
| 曲げわっぱの産地、秋田県北部を訪ねました。秋田スギの森が広がっています。
地元では、樹齢150年以上のスギを「天然秋田スギ」と呼んでいます。
高さおよそ50メートル。まっすぐに伸びたスギは、年輪が整い、香りが豊かです。 |
| 大館市の「曲げわっぱ」の工房です。
曲げ物師、柴田慶信さんは、40年以上に渡って、天然秋田スギで曲げわっぱを作ってきました。 |
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切り出したスギの板は、まず80度の熱湯にひたします。
熱を加え柔らかくした板を、型に押しつけていきます。
板が熱いうちに、すばやく丸めるのが、コツです。
角を作らない、この丸い形は軽くて丈夫な上に、ご飯をすくいやすいという利点も持っています。 |
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さらに、スギの板にはご飯の味を際だたせる特性があると、いいます。
柴田「とにかくおいしい。ご飯が立つというから」 |
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弁当箱鑑賞、一つめのツボは、
「天然木肌に、ご飯おいしい秘密あり」 |
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柴田さんの工房では、スギの板の中でも、ある特定の断面しか使いません。
「柾目(まさめ)」と呼ばれる木目がまっすぐ通った面です。美しいだけでなく、ゆがみにくい特徴があるからです。
さらに木肌は、余分な水分を吸収し、適度な湿度に保ちます。 |
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水分を吸収する、しないで、ご飯がどのように変わるのか、曲げわっぱとプラスチック製の弁当箱で比べました。
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5分後プラスチックの弁当箱では、ご飯から出た蒸気が行き場を失い、水滴になっています。
水気が多くなり、味が落ちていきます。 |
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一方の曲げわっぱの弁当箱には、水滴は見られません。
蒸気が木肌に吸い込まれたおかげです。 |
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ご飯粒には、デンプンやアミノ酸などの層もできています。
おいしさや食感のもと、いわゆるおねばです。 |
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このおねば、必要以上に水分がつくと、薄まって水っぽくなってしまいます。 |
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曲げわっぱの内側の木肌が余分な水分を吸収し、ご飯をおいしく、長時間保ってくれるのです。
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食文化に詳しい奥村彪生さん。
奥村「ご飯粒におねばの薄い皮膜ができるんですよ。早く言いますと、オブラートでご飯粒を包んでいる感じになる。ですから味がいいわけですね。
自然の素材そのものが、ご飯を
おいしく保つ働きをしてくれているわけですね」
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柴田さんの工房です。曲げわっぱの完成が近づいていました。
丸めて、のりで留めたわっぱの合わせ目に、山桜の樹皮を通し、とじていきます。
金具は一切使いません。 |
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白木のままの木の肌に、やすりをかけて、できあがりました。
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スギが持つ水分調整の特性を生かした曲げわっぱ。
それは、ご飯のおいしさを長持ちさせてくれる優れものの弁当箱でした。
柔らかで美しい天然木肌の弁当箱は、日本の米文化と木の文化の知恵の結晶だったのです。 |