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File92 とんぼ玉


とんぼ玉は、女性たちの心をとらえて離さないアクセサリー。

東京、浅草橋にある専門店には、色とりどりのとんぼ玉が1000種類以上も並んでいます。

ネックレスや携帯電話の飾りとして、組みあわせを楽しみます。

とんぼ玉とは、穴が開けられた小さなガラス玉のこと。古くから世界中で作られ、日本でも古墳時代のものが残っています。

時代は下って江戸時代、とんぼ玉は大流行。オランダからの輸入品を手本に、さまざまな色や模様のとんぼ玉が作られました。


ハロー安曇野とんぼ玉美術博物館 蔵

その一つがこちら。
花のような小さな模様が散りばめられています。
江戸時代の人々はこれをあるものに見立てました。

それはトンボの目です。
独特の表情を持つ「複眼」を連想させることから、「とんぼ玉」の名がついたともいわれています。


KOBEとんぼ玉ミュージアム羽原コレクション 蔵

とんぼ玉だけを展示している専門の美術館には、とんぼ玉の長い歴史が紹介されています。
これは紀元前14世紀から13世紀にかけて、古代エジプトで作られたとんぼ玉。
副葬品として使われた壺をガラスで模して、お守りにしていたと考えられています。


KOBEとんぼ玉ミュージアム羽原コレクション 蔵

こちらは古代ローマのとんぼ玉。
上流階級の人々が、アクセサリーとして用いたといわれています。

古代のとんぼ玉を収集してきた羽原恵子さんです。

羽原「とんぼ玉は、人の作った宝石だと思います。そこに古代人の美意識が反映されている小さな宝石だと私は思っています。」


ハロー安曇野とんぼ玉美術博物館 蔵

3500年もの間、世界の人々を魅了し続けてきたとんぼ玉は、まさに、人類が作り出した宝石そのものです。

 

壱のツボ ガラスが生む色のマジック

まずは、江戸のとんぼ玉が持つ、独特の色合いに注目です。

30年にわたって、とんぼ玉を集めてきた、保高進作さん。特に江戸時代に作られたとんぼ玉、「江戸とんぼ」の色彩に、魅せられてきました。

保高「色も日本人の、東洋人にあった独特の色です。中国にもヨーロッパにもない、日本独特の四季の風景に似た色というか、自然の色を取り入れた色合いだと思います。」

江戸とんぼの特徴は、繊細な色遣いです。
春の野に咲く花のような、淡い色合い。

透明なガラスに青を加え、水の流れを表す。ここに、日本の小さな四季が息づいています。

保高「作ろうと思って出来るんじゃなくて、作ってる中で、たまたまいい色のものができる。そうやって出来たものは、見て楽しめる。」


ハロー安曇野とんぼ玉美術博物館 蔵

コレクションの中でも、技術の高さと色遣いが際立っているのがこちら。青、黄、緑などの色ガラスを使った線は、江戸とんぼを代表するデザインです。

そこでとんぼ玉鑑賞、壱のツボは、
「ガラスが生む色のマジック」

江戸から明治にかけて、最もとんぼ玉の製造がさかんだったのは、大阪です。
その技術を受け継ぐ職人の藤村眞澄さんは、親の代から、色ガラスを使って繊細な線や模様を作る、江戸とんぼの技法を研究してきました。

赤、青、黄のガラスが描く線模様。

これは、3色の色ガラスを束ねて細く引き伸ばした「色生地」を使って作ります。
まずはベースとなるガラス玉に、熱してやわらかくなった色生地を巻きつけます。

そしてガラスの生地ごとヤットコでねじっていきます。
コテで押さえると、線模様は、細く、複雑な形へと姿を変えます。

薄く伸ばされた線模様。地の色と一体になることで、色に深みが加わります。

藤村「色生地を玉にすると厚みが出て、色が変化する。だから、そこまで計算してかからないと、狙った色は出ない。」

技術的に最も難しいのは、実は、直線の模様。

藤村「表面張力で常に模様の幅が変化しているから、押さえるタイミングで線の表情が変わってしまう。」

溶けていく色生地を、絶妙のタイミングで定着させることで、ふくよかで温かみある味わいが、生まれます。
ガラスが作る線模様に、同じものは二つとしてありません。
華やかな色彩で描かれた江戸とんぼには、日本人ならではの繊細な職人技が息づいています。

弐のツボ 受け継がれた神秘の力


市立函館博物館 蔵

とんぼ玉は、いつの時代も大切な「宝物」です。

北海道函館には、大量のとんぼ玉が残されていました。
アイヌの人々が宝物として、大切に受け継いできた「タマサイ」と呼ばれるネックレスです。

市立函館博物館館長の長谷部一弘さんです。

長谷部「タマサイは女性の大切な宝物。使われているとんぼ玉は、実は18〜19世紀にかけて、中国大陸との交易でアイヌの人々にもたらされたものや、本州からももたらされたもの。」

アイヌの人々は中国の清朝や松前藩などと交易を行っていました。狩猟で得た動物の毛皮などの代価として、このとんぼ玉を受け取っていたのです。

とんぼ玉鑑賞、弐のツボは、
「受け継がれた神秘の力」


KOBEとんぼ玉ミュージアム羽原コレクション 蔵

古代から、とんぼ玉の模様には特別な意味が込められてきました。
これは、アイビーズと呼ばれる目玉模様のとんぼ玉。
古代エジプトでは、この目玉には邪悪なものをにらみ返す力があるとされ、お守りとして使われました。


KOBEとんぼ玉ミュージアム羽原コレクション 蔵

交易によって、アイビーズは世界各地へと伝えられました。
中国でも高貴な人々が亡くなるといっしょに埋葬されました。

羽原「アイビーズは、丸の重なり。同心円紋は非常にシンプルだったために、代々、地域を越え、時を越えてつながっていったんだと思います。アイビーズは、とんぼ玉の中のロングセラーですね。」

17世紀のベネチア。アイビーズを受け継いだとんぼ玉が作られ、交易に用いられました。
伝統的なガラス工芸の技術を生かし、宝石並みに価値を持つとんぼ玉を作ることができたのです。

それがトレードビーズと呼ばれるもの。主に西アフリカとの交易で、貨幣の代わりに用いられました。
鮮やかな色と複雑な模様を持つトレードビーズは、アフリカの人々を魅了します。ベネチアの商人は、これと引き換えに宝石や金などを得て、巨万の富を築いたのです。


市立函館博物館 蔵

アイヌの人々もまた、とんぼ玉の美しさに強く惹かれます。
そして、タマサイを単なるアクセサリーではなく、神聖な宝として扱いました。

光り輝くガラスの玉に、霊魂が宿ると考えたのです。

長谷部「とんぼ玉に霊力が宿るとされ、悪霊から身を守るために、タマサイは熊送りなどの儀式、儀礼のときに女性が身につけた。そして、女性の宝物として、母親から娘へと受け継がれた。」

美しい輝きを放つとんぼ玉。
そこには神聖な力が宿ると考えられてきたのです

参のツボ 異国情緒漂うコーディネート

最後は、おしゃれを楽しみましょう。

まずは、昔ながらのとんぼ玉を使った小物です。
こちらは、ちょっと気取った煙草(たばこ)入れ。

こうした袋物の紐(ひも)を締めるために必要な緒締めの玉。色鮮やかなとんぼ玉は、江戸時代から、男女を問わず、小物のアクセントとして重宝されました。

そして、女性たちが楽しんだのが、この玉かんざしです。
独特の存在感を放つ色と模様。とんぼ玉のかんざしは、粋な女性たちに好まれました。

着物スタイリストの石田節子さん。コーディネートにとんぼ玉を積極的に取り入れています。

石田「海外旅行が珍しかった明治のころ、花柳界の人たちは、だんなさんが海外で買ってきたお土産を競ってつけた。
お土産でもらったとんぼ玉を身につけることで、異国情緒を演出し、遠い国に行けないけど思いをはせた。」

これは石田さんが作った羽織紐。そこはかとなく異国の香りがします。

とんぼ玉鑑賞、三つ目のツボ、
「異国情緒漂うコーディネート」

つむぎの着物に更紗(さらさ)の帯。
南国ムードを感じさせる着こなしに、帯留めとしてとんぼ玉を使います。

洋風の髪型をくずし、そこに玉かんざしを合わせれば、東洋でも西洋でもない、明治の女性が憧(あこが)れたエキゾチックな世界が広がります。

石田「なぜとんぼ玉が更紗と合うかというと、異国のもの同士。また、更紗も手書きですね、とんぼ玉も一つ一つ手で作る、どちらも手作りだから。また、着物は肌に沿わせて着るものなんですけど、とんぼ玉の立体感がアクセントになる。」

小さなガラス玉に、遠い国への思いをはせる。
とんぼ玉は、小さなものを愛(め)でる日本人がとりわけ大切にしてきたおしゃれの小道具なのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

小さくてきれいで光るもの、女性はみんな大好き。ネックレスにストラップに、自分のセンスで使えるのも魅力、和風にも洋風にもなるし、いくつあってもいい小物です。
世界中で作られてきたものだけに、比べてみると、それぞれの国の文化や風土がデザインにも反映されているようで興味をひかれました。江戸とんぼの優しい色はいかにも日本人好みです。
これからの季節、夏の着物を着るたびにとんぼ玉の帯止めがほしくなります。涼しげで遊び心もあって、女性たちから注目されること間違いなし!
毎年実現しないまま夏が終わるのですが、今年は本気で探してみようかな。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Show me Sherry Manne & His Friend
A thrill from the blues Milt Jackson
I'll close my eyes Blue Mitchell
Duet suite Chick Corea & Gary Burton
Moniebah Archie Shepp, Abdullah Ibrahim
Cantaloupe Island Hervie Hancock
Tempo de waltz Lee Morgan
Vendome The Modern Jazz Quqrtet
Calcatta cutie The Horace Silver Quintet
Fee-fi-fo-fum Wayne Shorter
Meditetion Keith Jarrett
Wouldn't it be loverly Sherry Manne & His Friend
Can't we be friends? Ella Fitzgerald, Louis Armstrong
In your own sweet way Don Freedman Trio
Sweet serenade Django et Compagnie
Vilia Artie Shaw