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File87 沖縄の美


壱のツボ 螺鈿(らでん)は海の神秘を映す

沖縄は、19世紀後半まで、琉球という独立した王国でした。
日本、中国、東南アジアを結ぶ交易の拠点として栄え、独自の文化をはぐくんできました。


浦添市美術館 蔵

「琉球文化の華」といわれてきた漆器。
琉球へは、中国から漆の技が伝わり、15世紀には漆器作りが始まっていました。
特に、貝殻を漆に散りばめる螺鈿細工が発達します。
ここで使われるのが夜光貝。高貴な輝きを放ちます。

琉球王国は、17世紀初めから中国に仕えると同時に、薩摩藩にも支配されました。
貢ぎ物や輸出品にする工芸品を作っていたのは、「貝摺(かいずり)奉行所」と呼ばれる官営の工房。
貝摺、つまり螺鈿細工こそが琉球工芸の花形だったのです。


浦添市美術館 蔵

琉球漆器の鮮やかな朱色と螺鈿の組み合わせは、中国の皇帝を夢中にさせました。
優美な尾長鳥。
夜光貝の貝殻を使った精ちな表現です。

現代の琉球漆器を代表する作家の一人、前田孝允(まえだこういん)さん。

前田「夜光貝は世界中の貝の中で、真珠層がもっとも強くてきれいだといわれています。いろんな色がありますので、木は青い部分、花は赤いところ、屋根も赤といった具合に、絵画的に表現していきます。」


浦添市美術館 蔵

琉球の螺鈿は、夜光貝が秘める虹色の輝きから生まれました。

琉球漆器、鑑賞のツボ、
「螺鈿は海の神秘を映す」


沖縄本島北部にある漁港。
外間勝吉(ほかまかつよし)さんは潜水を専門とする漁師です。
朝、7時。夜の間、海にもぐって捕った夜光貝を水揚げします。
夜光貝は、種子島よりも南の海にしかいません。

外間「夜光貝は、陸上でいったらカタツムリがはっているような感じで、珊瑚礁(さんごしょう)の上にいます。それを捕まえてくるのです。」

磨き上げた夜光貝。ゴツゴツした表面からは想像できない真珠色の輝きが現れます。
螺鈿によく使われる鮑(あわび)などに比べて、柔らかな光沢が特徴です。

真珠層を薄く削って螺鈿の材料にします。
大きめの貝一個から一・二枚しか取れません。


浦添市美術館 蔵

螺鈿を施した16世紀ごろの机です。
金色の部分は、文様の上に金ぱくをはり付けています。
華やかな螺鈿に金を加えた、ぜいたく極まりない調度品です。

螺鈿材で作品を飾っていく工程です。
色や光沢を見ながら、絵柄にあった部分を切り出します。
しかし、今見えている色のまま仕上がるわけではありません。
漆の上にはると、まったく違う色合いになります。


浦添市美術館 蔵

18世紀頃作られた黒漆に螺鈿の作品。
この時代、日本の武家の好みに合わせ、黒漆が主流になりました。

金色に輝く牡丹(ぼたん)の花…
光の当たり方によって虹色が浮かびます。
螺鈿の裏に、ごく薄い金ぱくをはっているからです。
数々の技法を駆使して作る螺鈿細工。夜光貝の神秘の光が宿っています。

弐のツボ おおらかなアジアを愛でる

那覇市壺屋地区に残る古い窯跡…
17世紀後半、琉球王国は各地の窯をこの地域に集めました。
壺屋焼の始まりです。


那覇市立壺屋焼物博物館 蔵

壺屋焼の代表的なスタイルは、クリーム色の地肌に、青や飴色(あめいろ)などの彩色を施したもの…
庶民が日々の暮らしの中で使ってきた器です。

壺屋焼のクリーム色の肌は、中国から伝わった白磁へのあこがれ。
この赤絵は、色合いも絵柄も、ベトナムの焼き物の影響を感じさせます。

婚礼などで使われた酒器。
中国では金属の錫(すず)で作られていましたが、沖縄に伝わり、焼き物に姿を変えました。

数百点もの貴重な壺屋焼を集めてきた、翁長良明(おながよしあき)さんです。

線彫りなども、本土の焼物だったら完ぺきにやりますよね。でも、沖縄の人はゆったりとした温かみのある感じにします。

翁長「線彫りなども、本土の焼物だったら完ぺきにやりますよね。でも、沖縄の人はゆったりとした温かみのある感じにします。沖縄の言葉で『てーげーぐぁー』というんですが、これは『適当(に)』という意味です。でも、『適当』という中には温かさ、大らかさ、優しさ、そういったものが込められています。」

沖縄では珍しい鶴(つる)を「てーげーぐぁー」の精神で描いています。

壺屋焼、鑑賞のツボ、
「おおらかなアジアを愛でる」


那覇市立壺屋焼物博物館 蔵

壺屋焼では、中国でめでたい柄とされてきた魚の文様がよく描かれています。
沖縄で初めて人間国宝となった金城次郎の作品。魚が笑っているように見えます。

壺屋焼を作る工程を見てみましょう。
沖縄の土は、ほとんどが赤土です。
クリーム色にするため、水に溶かした白土に漬けます。
これを白化粧と言います。

続いて、彫刻刀で絵柄を彫っていきます。
下描きなし。精神を集中して、一気に彫ります。
作品は、まきを使う昔ながらの登り窯で焼いています。

ふたたび、金城次郎の代表作。
大ぶりな壺に、鋭い線で描かれた魚文が躍ります。
アジアの風を受けて育った壺屋焼。大らかな造形が見どころです。

参のツボ 小さな泡は海のきらめき

海岸に打ち寄せる波をイメージした色と形。
琉球ガラスもまた、沖縄特有の工芸です。
大胆で重量感のある造形に、色ガラスを効果的に使うのが特徴です。

50年以上にわたって琉球ガラスを作り続けている稲嶺盛吉(いなみねせいきち)さんです。
稲嶺さんの作品は、ガラスにたくさんの泡があるのが特徴です。

稲嶺「泡をつくることによって、沖縄の海が表現できると考えました。 沖縄で、海のそばで育っているから、自然にそういったアイデアが浮かぶのでしょう。」

まるで青い海をすくい取ってきたかのよう…

琉球ガラス、鑑賞のツボ、
「小さな泡は海のきらめき」

工芸としてのガラス作りが始まったのは、戦後のことです。
当時、沖縄は、アメリカの統治下にありました。
ガラスの原料が不足する中、アメリカ軍が持ち込んだ飲物の空き瓶が利用されました。
空き瓶には、ラベルや塗料などの不純物が含まれるため、溶かしたとき、どうしても泡が生じます。

稲嶺さんは、その泡を積極的に作品の表現に取り込んできました。
空き瓶を砕き、炉の中で溶かします。
あえて備長炭や黒糖などの不純物を加えることで、さらに泡を作ります。

完成した花瓶。波打ち際の潮だまりを思わせます。
やわらかな泡の間から、海の青が、幻想的な光を放ちます。

四のツボ 珊瑚がくれた贈りもの

竹富島は、350人ほどが暮らす小さな島。
沖縄の伝統的な町並みが残されています。

竹富島の朝は、ほうきの音から始まります。
自分の家の周りだけではなく、空き家の前も分担して、掃き清めます。
竹富島の道は、海の神様が通ると信じられているのです。
道に敷かれた白い砂は、すべて珊瑚のかけら。

その砂と対比を見せるのが、家々を囲む灰色の石垣。
積み重ねられた石も、実は、珊瑚礁が生み出したものです。

竹富島の郷土史にくわしい阿佐伊孫良(あさいそんりょう)さん。

阿佐伊「竹富島は、隆起珊瑚礁の島で、ちょっと掘れば、珊瑚礁の石がゴロゴロ出てきます。私たちの先祖が、この島をどう作っていこうかと考えたとき、珊瑚礁に着目したのでしょう。珊瑚礁の岩や砂を使って、清潔感にあふれるたたずまいの島としてつくっていこうと。」

竹富島には、沖縄の原風景が残っています。

町並み、鑑賞のツボ、
「珊瑚がくれた贈りもの」

珊瑚礁は、硬い骨格をもつサンゴ虫が集まったもの。
その骨格が、長い年月をかけて積み重なり、石灰岩の層になります。
地殻の変動で隆起した石灰岩の層。琉球石灰岩と呼ばれます。
人々は、古くからこの石を使いこなしてきました。

沖縄には、12世紀から15世紀の城跡が300以上も残されています。
城壁は、すべて琉球石灰岩。アーチ型の門を作るなど、高度な石組みの技術が発達しました。

素朴に積み上げられた竹富島の石垣。
島に暮らす人々の強い絆(きずな)が、この風景を作ってきました。

阿佐伊「ユイマールというものがあって、お互いに労働の貸し借りをしながら、島じゅうの人たちが力を寄せ合って、石垣を積んでいきます。」

ユイマールとは町づくりや農作業などを共同で行う助け合いの生活習慣。

海の神様が訪れるという竹富島の町並み…
それを守るのは、変わることのない人々の営みです。

伍のツボ 遊ぶ獅子が家を守る

今度は、民家の屋根の上を見てみましょう。
そこには魔よけの獅子、シーサーがいます。
瓦葺(かわらぶき)が普及した戦後、家々の屋根に乗りました。
このシーサーは、魚を銜(くわ)えて、なんともユーモラス。

竹富島にある博物館の館長をつとめる上勢頭芳徳(うえせどよしのり)さんにお話をうかがいました。

上勢頭「本当にこれで魔よけになるのかなって心配になります。そこらへんが沖縄人の大らかさっていいますか… 『敵対してやっつける』というよりも、『折り合いをつけて適当にやっていこう』と。それでも家には入ってくるなよというぐらいの感じで見ていただいたら、このシーサーの表情も納得いくんじゃないかと思いますね。」

沖縄の魔よけ、鑑賞のツボ、
「遊ぶ獅子が家を守る」

ベテラン屋根職人の森長隆光(もりながたかみつ)さん。

シーサーは、屋根職人が仕事をもらったお礼に赤瓦と漆喰(しっくい)で作るものです。

森長「シーサーの目は、真正面を見つめているように作ります。 しかし、出来の良いシーサーは、家の前にいる人が少しくらい横に行っても目が追ってきて、見つめているような感じになるんです。」

おどけた表情のシーサー。
屋根の上から島の暮らしを見守ります。

六のツボ ミンサーは愛のメッセージ


竹富民芸館 蔵

竹富島は、織物の伝統で知られています。
芭蕉布(ばしょうふ)は、バナナの仲間の芭蕉という植物の繊維から作ります。
蝉(せみ)の羽に喩(たと)えられる軽さと薄さ…
この芭蕉布をはじめ、竹富島の女性たちは、さまざまな織物を伝えてきました。

ミンサーと呼ばれる藍(あい)染めの帯。
島ごと、地域ごとに、異なった絣(かすり)模様が伝わっています。
竹富島のミンサーは、五つと四つの四角い模様が特徴です。

吉澤やよいさん。
生まれ育った竹富島で手織りの技を守っています。
緯糸(よこいと)を手の力で締める「手締め」という織り方。しなやかな風合いに仕上がります。
ミンサーは、プロポーズされた女性が結婚を受け入れるとき、自分で織って渡すものです。

吉澤「一本一本、心を込めて手締めをしていくと帯に思いがこもります。五つと四つの模様には、『いつ(五)の世(四)までも仲むつまじく私のことを愛してください』という意味がこめられています。本当に婚約のいいプレゼントになるんですよ。」

手織りの帯、鑑賞のツボ、
「ミンサーは愛のメッセージ」


喜宝院蒐集館 蔵

竹富島の恋には、手作りの美しい小道具が欠かせません。
愛の告白は女性から…
それが南の島の習わしでした。
女性から男性へ、そっと渡すのがティーサジ。手ぬぐいです。

紅花で、ほのかな赤に染めました。

上勢頭「女性が織ったもの、身につけたものというのは、その女性の霊が宿るといわれます。だからその霊力で、私はあなたを守ります。だから結婚してください。そういった想いのたけをこのティーサジに込めるのですね。」


喜宝院蒐集館 蔵

いよいよ男性からプロポーズするときには、舶来品の高価なガラス玉を使ったブレスレットを贈ります。

そして、心を決めた女性が、夫となる男性に贈るのがミンサーでした。
それは、島に生きる男女の永遠の愛の誓いです。


竹富民芸館 蔵

最後に、もう一度、ミンサーをよく見てみましょう。
帯の両端に、細かい模様が織り込まれています。
これは、ムカデの脚を表しています。
婚約した女性の家に「足繁(あししげ)く通ってくださいね」というメッセージ。
ミンサーには、女性たちの深い思いが織り込まれているのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

ちょうど朝の連続テレビ小説「ちゅらさん」の放送があったころ、初めて沖縄に旅行しました。地元のタクシーの運転手さんの案内でまわった本島南部の戦争の傷跡と、米軍基地のある生活・・・今でもとても心に残っています。
と同時に、美しい海、白い砂、サンゴの石垣が続く家並みなど、沖縄ならではの情景にはいやおうなく心を奪われました。風通しのよい南国の家は開放感がたっぷりで心地よく、そんな空間でいただく料理やお酒の美味しいこと!波の音を聴きながら時間がゆっくりと流れていきます。
さまざまな文化・歴史が積み重なってきた場所は訪れる人を優しく包み、また新しい文化のゆりかごとなっていくのかもしれません。那覇市の壺谷焼の窯元や琉球ガラスのギャラリーが集まる地域では、伝統的なものから斬新なものまでたくさんの魅力的な作品が並んでいました。沖縄に移り住んで作品作りに取り組む若い人たちの作品もありました。
海の色の泡ガラスでできた鉢とロックグラスが我が家の戸棚に入っています。まりやさんが谷さんに送った「抱瓶」ではありませんが、手に取ると本当に「海の音」が聞こえる気がします。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Hurricane come and gone Monty Alexander
Stella by starlight Monty Alexander
(女踊)四つ竹 西江喜春、玉城正治
コザの街 平安 隆&ボブ・ブロッズマン
Vim'n'vigor Farrell, Louis Hayes
Snow fall Ahmad Jamal
Desart air Chick Corea
Softly as in a morning sunrise John Coltrane
Sunset McCoy Tyner Trio
Montevideo Monty Alexander
Look to the sky Antonio Carlos Jobim
It could happen to you Miles Davis Quintet
Out of this world John Coltrane
Obatala Mongo Santamaria
The breeze and I Ahmad Jamal
What game shall we play today Chick Corea
We kiss in a shadow Ahmad Jamal
Little girl blue Oscar Peterson
Andalcia (The breeze and I) Steve Kuhn Trio
Con Alma Dizzy Gillespie
Bahia Gato Barbieri
Aborigine dance in Scotland Elvin Jones & Jimmy Garrison Sextet
Conflict Jimmy Woods Sextet
Dolphin dance Herbie Hancock
Night and day Pass
But beautihul 与世山澄子
How high the moon Pass
I Could Write A Book Miles Davis Quintet