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File86 錦鯉(にしきごい)


美しく優雅に泳ぐ錦鯉。
日本庭園には、欠かすことができません。

錦鯉とは、色や模様があり、観賞用として飼育される鯉のこと。
一匹として同じ模様のものはなく、「泳ぐ宝石」と呼ばれています。

日本人にとって、鯉は立身出世を表す縁起のいい魚。

古くから、池に放ち、ゆったりと泳ぐ様を愛(め)でて来ました。

実は、江戸時代まで人々が鑑賞していたのは、この真っ黒な真鯉でした。

新潟県旧山古志村。錦鯉は、江戸後期、この地で生まれました。
冬場、雪に閉ざされるこの一帯では、食用として真鯉を育てていました。
その一部が突然変異を起こし、色の付いた鯉が誕生したのです。

それが、青い鱗(うろこ)を持つこの『浅黄』。
真鯉の色素が抜け、白く変化したものです。
これが、錦鯉の原点。

以後、この浅黄を掛け合わせ、色彩豊かな品種が次々と作られました。

全国的に知られるようになったのは、大正3年に開かれた博覧会。

ここに山古志村で作られた27種類の錦鯉が出品されました。
当時は模様鯉と呼ばれ、その美しさに人々は驚きます。

それからおよそ100年。今や錦鯉は海を越え、世界中に多くの愛好家がいます。



 

壱のツボ まずは『紅白』を極めよ


まずは、さまざまな品種を紹介していきましょう。

今年2月、最も美しい錦鯉を決める品評会が東京で開かれました。
「錦鯉の祭典」と呼ばれるこの大会に出品されたのは、およそ1600匹。
どれも、見ごたえのあるものばかりです。

錦鯉には、およそ130の種類があります。
その一部をご紹介しましょう。

黒地に白がのった『白写り(しろうつり)』。

肌の白さと、漆のようなつやのある黒とのコントラストが特徴です。
豪快な黒が見る人を引き付けます。

『丹頂』は、丹頂づるのように頭に丸い赤が一つある鯉。
頭全体に入った赤と透き通るような白い肌。
清そさが魅力です。

背中に紺色の大きな鱗が並んだ『秋翠(しゅうすい)』。
秋空のさわやかな青さを思わせる品種です。

そして、今回の品評会でみごと優勝を果たしたのが、この『紅白』という品種の鯉です。
雪のように白い肌に、大きくて鮮やかな赤が大胆にのっています。

飼い主は、アメリカ人の実業家でした。
「錦鯉には100万通りの楽しみ方があります。ホントに優雅で美しく、また宝石のように輝く姿は、見るものを楽しませてくれます」

さまざまな模様を持つ錦鯉。実は、その美しさを鑑賞する上で、まず押さえておかなければならない品種がいます。

30年来、錦鯉を飼育してきた愛好家の高橋重勝さんに伺いましょう。

高橋「紅白から始まり紅白に終わるという例えがあるごとく、やはり紅白を極めたいですね。そして紅白をまず見ることによって、いろんな鯉に連動され、またそれに連なっていろんな鯉を勉強することができる。だから鯉をまず勉強されるのは、私は紅白から入った方がいいんじゃないかと、そう思います。」

錦鯉観賞、最初のツボ、
「まずは『紅白』を極めよ」

新潟県小千谷市で錦鯉の生産をしている伊佐(いさ)ハジメさん。
紅白を極めるには、どこに注目すれば良いのでしょうか。

伊佐「基本的にはですね、まずアタマの部分で1つ、それで背中の部分で2段目、それで尾の所で3段目ということになっているんですが、尾っぽをちょっと白地を見せて止めるのが基本ですね。」

これは、品評会の紅白の部門で優勝した鯉。
その模様の入り方を見てみると…。

確かに、頭に一つ。背中に一つ。
さらに、尾の部分に一つと、バランスよく、みごとな3段模様になっています。
この3つの模様の入り方が重要なポイントです。

続いて、応用編といきましょう。
この『紅白』に、『大正三色』、『昭和三色』という種類を加えたのが、錦鯉の御三家といわれています。

まずは『大正三色』。
これは『紅白』に黒がのったもの。
紅白を基本として、赤と赤の間に黒が入ったものがよいとされます。
全体的に、赤、白、黒のバランスを重視します。

こちらは、より複雑な模様を持つ『昭和三色』。
見方は、やはり『紅白』が基本ですが、この品種は『大正三色』よりも、さらに黒が多いのが特徴です。
したがって、黒の流れの連続性や豪快さを楽しみます。

どうです?
『紅白』は錦鯉鑑賞の基本。
見方が分かると、他の鯉も楽しめるのです。

弐のツボ ふっくら美人に御注目

続いては、体形に注目です。

ところで、皆さん、錦鯉は、どれぐらい大きくなるのかご存知ですか?

大きなものは、なんと体長1メートルほどにもなるのです。
鯉は50年〜70年生きますがわずか4、5年で大きく成長します。

しかし、ただ大きければいいというわけではありません。
鯉を生産する伊佐さんは言います。

伊佐「体型ですよ。それが第1番。それが鯉の見方の基本になるというかね、すべての魚に関してやっぱりそうですね」

良い体形を持つ鯉のほとんどがメス。
それも肉付きの良い鯉ほど、美しいとされます。

錦鯉鑑賞、二つ目のツボは、
「ふっくら美人に御注目」

理想的な体形は、真ん中が糸巻きのようにふっくらとしてボリューム感のあるもの。
これは、メスに多く見られる体形です。
 
一方、オスはというと、上半身が太め。
筋肉が発達しているため、野球のバットのような体形になります。

つまり、やんちゃな男の子よりも、おっとりとした女の子の方が、立派な良い鯉に育つというわけ。

さらに、体形の中でも特に大事なのが頭の形。なめらかなラインが良しとされます。

とがっていたり、角張っていたりしてはいけません。

ふっくらとして、頭の形がよいという条件を持ち合わせた、品評会のチャンピオン。
もちろんメスです。
彼女のようなふっくら美人は、どのようにして育つのでしょうか?

1度に錦鯉が産む卵は、およそ50万個。
その中で、賞を取るような錦鯉になるのは、ごくわずかです。

美しいメスを育てるには、「野池」と呼ばれる大きな泥の池が必要です。
 
ここで春から秋にかけて、ストレスを与えないように、伸び伸びと育てます。
 
そして、秋。
娘たちを池から揚げる、待ちに待った瞬間です。

この野池にはいろいろなメリットがあります。
太陽の光をたくさん浴びることで、肌の発色が良くなります。

水質が酸性になると色があせてしまうため、蛎殻(かきがら)などを入れて水をアルカリ性に保ちます。

肌のツヤを良くするために、蚕のサナギなどを与えます。

こうして手塩にかけて育てた美しいメスには、オスの10倍以上、数十万から数百万円もの高値が付きます。

理想のプロポーションを持ったふっくら美人は、まさに錦鯉の女王なのです。

参のツボ 整然と並ぶウロコを愛でよ

江戸時代中ごろ、端午の節句に男の子の出世を願い、鯉のぼりを飾る習慣が始まりました。

歌川広重が描いた江戸の風景。
錦鯉が生まれる前、鯉のぼりは黒い真鯉しかありませんでした。

現在の鯉のぼりのモデルは、もちろん、錦鯉。
色とりどりの鯉が空を泳いでいます。

鯉のぼりの生産量日本一を誇る埼玉県加須市(かぞし)。

ここでただ1人、手描きで鯉のぼりを作る橋本隆さん。
日ごろから、実際の錦鯉をよく観察し、鯉のぼり作りに役立てていると言います。

橋本「錦鯉も鯉のぼりも、鱗が一番目立つんですよね。鯉のぼりも泳いでるときには鱗の美しさがはためいたときに実に勇ましく、だから鱗1枚1枚の迫力がなかったらその鯉は死んじゃったような鯉になりますよね。」

鯉という字は、「魚」へんに里」。
この「里」は、理論の理を意味します。つまり、鱗が整然と並んだ様子を表しているのです。

錦鯉鑑賞、最後のツボは、
「整然と並ぶウロコを愛でよ」

『浅黄』は、鱗を鑑賞する鯉の代表格。

見どころは、編み目のように並ぶ鱗と清涼感のある青。

お腹に鮮やかな赤を持つものが良いとされます。

こちらは、『鳴海浅黄』。

愛知県の染め物、鳴海絞りの模様を思わせることから名付けられました。

さらに、こちらは、『浅黄』を赤に改良した『赤松葉』。
やはり、くっきりとした鱗が印象的です。

新潟県南魚沼市。

ここに世界でも非常に珍しい鱗を持つ鯉がいます。

その貴重な品種がこちら。
『パール銀鱗(ぎんりん)』。
真珠を割って、1枚1枚はり付けたように鱗が輝きます。

生産者の関口一男さん。

関口「鱗の並びを鑑賞する品種は、例えば鱗が1枚欠けてもですね、がっくりと価値は下がります。あくまでもきれいに並んでいること、ピカピカに光っていること、これが1番大切なことですね。」

こちらは、鱗の一枚一枚に銀ぱくをはったように光る『ベタ銀』と呼ばれる品種。

さらに、ダイヤモンドのように鱗が輝く『ダイヤ銀』です。

錦鯉は、日本人が作り出したまさに「泳ぐ宝石」。

整然と並ぶ鱗の美しさ、ごたんのういただけましたか?

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

うろこ一枚一枚の色の違いが生み出す錦鯉の模様、美しく、そして神秘的でした。
驚いたのは、愛好家の方に喜んでじゃれる鯉の姿!鯉ってあんなに人懐っこいものなのですね。ディレクターによると、撮影中はやや緊張?があったようですが、カメラが回っていない時はジャンプして抱きついたりキスしたり、体全体で親愛の情を表していたそうです。(しかも、誰にでもそうするのではなく、ちゃんと『飼い主』を認識しているとのこと。)子どものころ飼っていたグッピーがえさをほしがって口をパクパクしていたときの表情を思い出しました。
錦鯉発祥の地・旧山古志村は4年前、大きな地震に見舞われたところです。池も大きな被害を受け、多くの鯉が失われました。今新しい池で立派な鯉が育っている姿を見て、長く鯉とともに生きてきた皆さんの底力を感じました。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Everything happens to me Charlie Parker
Free wheelin' Joe Henderson
Charlie's cavern Mel Lewis Sextet
Broadway Art Pepper
Old devil moon Ella Logan
Nomad Grant Green
Stella by starlight Jim Hall
Mamselle The Dave Brubeck Qualtet
Green Dolphin street Bill Evans with Philly Joe Jones
You'd be so nice to come home to Paul Chambers
You took advantage of me Mel Lewis Sextet
Reflection Roy Haynes, Phineas Newborn, Paul Chambers
Crisis Freddie Hubbard
Ballad for Gabe-Wells Curtis Fuller
Brookside Mel Lewis Sextet