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File78 和紙


壱のツボ 優雅さに秘めた強さあり

古代中国で始まり、日本に伝えられた紙作り。

奈良時代から平安時代にかけて、独自の材料や技術が開発されていきました。

和紙の代表的な原料は楮(コウゾ)です。

大陸から伝わった紙には麻などが使われていました。
日本の野山に育つ植物を原料にしたことから、和紙の歴史は始まります。

楮の木で、紙に使われるのは樹皮の部分。

表面の層を除いた「白皮」です。
皮をはいだ木材から作られる洋紙とは、この点が大きく違います。

和紙の中で、特によく知られている越前奉書紙(えちぜん・ほうしょし)。

古くから公文書に使われました。浮世絵にも欠かすことはできません。

こちらは、世界一薄い紙といわれる土佐典具帖紙(とさ・てんぐじょうし)。
この薄さにもかかわらずたいへん丈夫で、文化財の修復などに使われます。

東京・日本橋で350年前から続く和紙の専門店。
店長の一瀬正廣さんにうかがいました。

一瀬「和紙は木の皮を原料としていますので、非常に繊維自体が強じんでして、洋紙に比較しますと非常に強いということが言えるかと思います。」

和紙の強さを試してみましょう。
ほぼ同じ厚さの和紙と洋紙で輪を作り、引っ張ると……洋紙の方が切れてしまいます。
丈夫さも、和紙の大きな特徴です。

和紙鑑賞、最初のツボは
「優雅さに秘めた強さあり」

和紙の強さの秘密はどこにあるのでしょうか?

柔らかくなるまで煮た楮の白皮を念入りにたたき、白皮の繊維をほぐします。

洋紙の場合、材料の繊維は原形を残さないほどに打ち砕きますが、和紙は、ある程度繊維の形を保ったまま仕上げます。

楮を使った和紙では、繊維の長さは5ミリから10ミリ。

一方、洋紙は1ミリ以下です。
この繊維の長さが、和紙の強さの理由。

しかし、長い繊維のまま紙をすくことは、容易ではありません。

楮の繊維をただ水に溶いたもので紙をすいてみましょう。

長い繊維は固まり、ムラになって、薄く広がりません。

そこで登場するのが、これ。
トロロアオイなどの植物から採った粘りのある液体で、「ネリ」と呼ばれます。
これを楮の繊維とともに水に混ぜ紙をすくのが、和紙独特の製法。

ネリを加えることによって楮の繊維はほぐれ、まんべんなく広がります。
また粘りがあるため、水分はすぐに簀(す)から流れ落ちてしまわず、よく揺することができます。
そうすることで、さらに薄く均一に繊維を広げていくのです。

薄く広がった繊維は、互いに強く接着し、強度のある紙に仕上がります。

美しく、そして強い。
和紙が、生活のあらゆる場面に生かされてきた理由です。

弐のツボ 色を重ねて百花繚乱(ひゃっかりょうらん)

 

楽しむ和紙の代表といえば、千代紙。

千代紙は、和紙に木版刷りで色鮮やかな装飾を施したものです。
小物を包んだり、紙細工の材料にしたりします。

和紙鑑賞、二つめのツボ
「色を重ねて百花繚乱」

 

千代紙の魅力は多様な図柄です。

花々が咲き乱れる庭園を描いた千代紙では19色で、彩りあふれる世界を作っています。

それぞれの色は、別の版木を使います。

この千代紙の場合、濃淡のぼかしなどで微妙な表情を出すため、28回も刷りを重ねました。

こうした多色刷りの表現ができるのは、和紙の丈夫さがあってこそです。

千代紙は、ただ見て楽しむだけではなく、さまざまな用途に使われます。
かつて武家の女性たちは、贈り物や菓子を千代紙で包みました。
残ったお菓子も、こうして渡せばすてきなおみやげです。

千代紙を着物や帯にして遊ぶ姉さま人形も人気を集めました。
豊かな色彩で、和紙の世界は大きく広がったのです。

参のツボ 扇子は持ち歩くアート

扇子は和紙を使った工芸品の代表です。

開いたり畳んだりを繰り返す扇子。
和紙の強さが生かされています。

そこに美しさが加わり、鎌倉時代以降海外へも輸出されました。

扇子は、誰もが手に取ることのできる身近な美術品でした。

和紙鑑賞、三つ目のツボ
「扇子は持ち歩くアート」

扇面には、古くから名だたる絵師が腕を振ってきました。

扇絵の制作を見てみましょう。
伝統的な扇絵の手法を研究してきた、京都の絵師・菅彩月(かん・さいげつ)さん。

絵は、織り目をつける前の扇形の和紙に描きます。
画材は、泥絵具にニカワを配合したもの。
ニカワを混ぜることで、何度折り畳んでもはげにくくなるのです。

すぐれた扇面は、美術品として鑑賞されてきました。
たとえば俵屋宗達とその一門は、扇絵を全面に散らした屏風(びょうぶ)。

宗達は、もともと扇を専門とする絵師でした。
扇絵は、和紙に描かれた手のひらにのる絵画。
それを貼りまぜた屏風は、さながら小さなギャラリーのようです。

扇子は、礼儀作法に欠かせない道具としても使われてきました。

お茶の席であいさつをするときは、必ず扇子を使います。

これは結界、つまり境界線を意味します。

一歩退いて、相手を敬う気持ちを表しています。

江戸後期の画家、酒井抱一の作品。
背景の銀が、重厚な輝きを放ちます。

日本人のしぐさに華やかさを添えてきた扇子。
和紙が生んだ、生活の中のアートです。

四のツボ 光を変える紙の魔術

日本の伝統的な明かりは、和紙と切り離せません。
火を和紙で囲うことによって、豊かな陰影を生み出してきました。

枠板にあけられた丸い穴。
そこにレンズがはめ込まれ、光を集めます。

夜更けまで読書を楽しむ--
人々の暮らしが豊かになる中で、明かりにも多くの形が生まれました。

長年、和の明かりを収集してきた坪内富士夫さん。

坪内「私たちが親しんでいる庶民的な燈火具というのは、町人文化の発展、そういうものにそって楽しいものがたくさん生まれてきたと思います。」

坪内「これは円周行灯です。丸い障子が二枚重なっていて、これを回転すると、中の明かりが外へ広がるようになっています。」


扇絵の制作を見てみましょう。
伝統的な扇絵の手法を研究してきた、京都の絵師・菅彩月(かん・さいげつ)さん。

和紙鑑賞、最後のツボ
「光を変える紙の魔術」

日本古来の明かりの中で、最もなじみ深いのは提灯(ちょうちん)。

夜外出するときの必需品として、江戸時代、庶民に広まりました。

東海道の宿場町・小田原で作られてきた小田原提灯。

折り畳めることで旅人の人気を集めたこの提灯、毎晩使っても壊れないように配慮がされています。

小田原提灯は、強く振っても大丈夫。
ここでもまた、和紙の強さが発揮されています。

和紙が明かりに使われたのは、強さだけが理由ではありません。
和紙を通した柔らかい光が、人々に好まれたのです。

和紙は繊維の密度が低くすき間が多いという特徴があります。

光は、このすき間を通るとき繊維に乱反射します。
そのため、目に柔らかく感じられるのです。

和紙の魅力に注目し、新しい明かりを生み出したアーティストがいました。

日系アメリカ人の彫刻家、イサム・ノグチです。

むき出しの電気は和紙の魔術によって自然の光、太陽となった--

ノグチの言葉です。
和紙が作り出す柔らかな光は、今では世界で愛されています。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

障子にふすま、せんすに提灯・・生活のあらゆるところに使われてきた和紙。日本の文化と分ちがたく結びついている素材です。
そういえば歌舞伎には「紙衣(かみこ)」といって和紙でできた着物が出てくる演目があります。裕福な商家の若だんなが落ちぶれた様子などを表すのに、この紙の着物(舞台では手紙を切り貼りしてつくられているような衣装だったりします)が使われるのですが、実際に江戸時代には、柿渋を塗ってから柔らかくもんだ和紙で作る着物があり、安価な上暖かいというので人気だったそうです。丈夫でどんな形にもなって絵も描けて光も通す・・・和紙のパワーと柔軟性に脱帽です。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
How high the moon Lionel Hampton
It's only a paper moon Nat King Cole
Everybody's jumpin Dave Brubeck Qualtet
Fungii mama Blue Mitchell
Softly as in a morning sunrise Sony Clark
I wish I knew Lionel Hampton
Some day my prince will come Bill Evans
You've got something I want Blossom Dearie
Moonglow Lionel Hampton
Parisian thoroughfare Clifford Brown and Max Roach
My heart stood still Bad Powell
Everything happens to me Bill Evans
Mona's mood Blue Mitchell
My funny Valentine Bill Evans
I've got a crush on you Nat Adderley
La vie en rose Louis Armstrong