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File77 屏風(びょうぶ)


壱のツボ 表装が絵を引き立てる

和紙と木でできた屏風は、日本で独自に発展した調度品です。


紫織庵 蔵

扇(おうぎ)のように折りたたむことができることからひとつひとつの面を扇(せん)と呼びます。

これは室町時代以降、基本的なスタイルとされた六曲一双(ろっきょくいっそう)の屏風です。
右隻左隻を対にして飾ります。

 

屏風は、7世紀ごろには中国から伝わったといわれます。
寝殿造りの家屋で風よけとして使われ「風を屏(ふせ)ぐ」道具、屏風と呼ばれました。

屏風にはむかしから美しい絵が描かれてきました。


サントリー美術館 蔵

徳川幕府の御用絵師だった狩野探幽が描いた『桐鳳凰図屏風(きりほうおうずびょうぶ)』。

権力者たちは巨大な屏風に金箔(きんぱく)などを使ったきらびやかな絵を描かせ、富と権力を誇示しました。

屏風を多く所蔵するサントリー美術館の学芸員、石田佳也さん。

石田「権力者が国を代表する贈答品として屏風を贈るようになったので、当時の画家の粋を集めた屏風が残っているのです。」

屏風は生活の道具を越えて名画のキャンバスとなったのです。

東京都、墨田区。屏風だけを展示する個人博物館。

そのご主人、屏風師の片岡恭一さんです。

片岡「絵より、角や裏とか紙に目が行く、そういうところに目を向けて絵を支えてるのは本体であることを知って欲しい」

屏風は和紙や布による表装で決まる、と片岡さんは言います。

屏風鑑賞、一つ目のツボは
「表装が絵を引き立てる」

屏風は、何層もの紙を重ね貼りして作ります。

屏風にとって最も重要なのが蝶番(ちょうつがい)の部分。

紙の蝶番で扇を透き間無くつなげることができ、さらに360度動かすことができるので、折りたたむことが可能になったのです。
そして大画面を作ることができ、屏風にはさまざまな絵が描かれるようになります。

狩野探幽が描いた『桐鳳凰図屏風』。
将軍家の婚礼の儀に使われた、とされる豪華なものです。

この屏風には細かい龍の文様が織られた金糸の裂(きれ)や、葵(あおい)の紋の飾り金具で表装が施されています。


サントリー美術館 蔵

屏風に描かれた絵は、細部にまで心配りがされた表装とともに今に受け継がれているのです。

弐のツボ 折り曲げて見える美の世界

表具師、中谷宜久さん。
500点以上の屏風を集めてきました。
中谷さんは屏風絵ならではの鑑賞法があると言います。

中谷「屈曲を生かした屏風の置き方をすることでより画が遠近的に見えます。」

屏風絵は折り曲げて立てることを前提にえがかれている、と中谷さんは言います。

屏風鑑賞、二つ目のツボは
「折り曲げて見える美の世界」

絵を見る上で大切なのは視点です。

中谷「常に真正面でなく右、左からみるのも表現方法が変わってくる。」

この屏風を右から見ると、川がつながった一枚の絵となります。
一方、左から見ると、木と花が引き立つ絵に。
片側から見ると見える面は少なくなりますが、それぞれ違った表情が立ち表れます。

中谷「畳の上で座って、見た感じで見るといい。」

屏風という独特な形を持つ道具にえがかれた絵画。
角度や視点を変えることで、あなたも、新しい世界を見つけてみませんか?

参のツボ 飾り方で伝えるメッセージ

最後は屏風の使い方です。

めでたい席に欠かせないのが金屏風。
金は邪気をはらう色とされ、変色しにくく輝きが保たれるため“永遠”を表します。

屏風は使い方によってさまざまな意味を持ち空間を演出します。

屏風鑑賞、最後のツボは
「飾り方で伝えるメッセージ」

これは逆さ屏風といって亡くなられた方が愛用した屏風を、枕元に逆さに立てて、哀悼の意を示す屏風です。

屏風は、冠婚葬祭、さまざまな場面で使われてきました。

こちらは高さ70センチほどの小さな屏風。
いったいどんな意味があるのでしょうか?

これは茶室で使われる風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)とよばれるもの。お茶をたてる場所、点前座を区切るための屏風です。

表千家の茶道を今に伝える堀内宗心 宗匠。

堀内 宗匠「点前座は踏み込むことを許さない場所、ふだんから踏まないよう心がけています。茶人として特別な場所として考えています。」

点前座は特別な場所、風炉先屏風は、お茶の席に臨む人たちにそのことを伝えています。

屏風には、立てるだけでその場に意味を加える力があるのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

テーマに合わせて蔵の中から色々なものが出てくる谷さんのお屋敷。今回は立派な屏風が登場!繊細な筆遣いで描かれた花がとても優しい雰囲気・・・「屏風は部屋の雰囲気を決める」と言われるそうですが、まさにその通り、大変な存在感です。いつもは広く感じる谷さんの部屋がずいぶん狭く感じられました。
尾形光琳の『風神雷神図』に代表されるように、今では鑑賞するものというイメージが強い屏風ですが、もともとは風よけ。考えてみれば昔の家はすきま風が通るのが当たり前、寝る時も寒かったはず。枕元にたてた屏風は想像以上に大きな役割を果たしたんでしょうね。生活に欠かせない調度品が芸術にまで発展したところに屏風の奥の深さ、日本人の「美を愛する心」を感じます。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
St. Louis blues Art Tatum
Ballin' Hank Mobley
Suite Kathy Curtis Fuller
Naima Pharoah Sanders
Down fuzz Lem Winchester
I love you Duke Pearson
Polka dots and moonbeams Chet Baker
Your mine you Lee Morgan
Mimosa Herbie Hancock
Cello suites for string bass pizzicato 3 courante Ron Carter
Stormy weather Art Tatum
Moonlight in Vermont Jonny Smyth
Who can I turn to Oscar Peterson
When the saints go marchin' in Louis Armstrong