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File75 和室


壱のツボ 畳のぜいたくは五感で知る

まずは畳に注目です。

和室といえば、欠かすことのできないものが畳。
日本独自の敷物です。

日本の暮らしと切り離すことのできない畳。
どんな作りになっているか、ご存じですか?

畳の土台は、稲わらを圧縮した畳床。

ここに畳表をかぶせます。

さらに縁を縫いつけて出来上がりです。

畳の良し悪しを決めるのは、何と言ってもこの畳表。 いぐさという植物を使った織物です。

色や線の美しさ、弾力、香り。畳は、さまざまな感覚を刺激します。

和室鑑賞・最初のツボ
「畳のぜいたくは五感で知る」

広島県福山市。
高品質ないぐさの産地として知られます。

世界各地の湿地に育ついぐさ。

日本では弥生時代から利用されてきました。

刈り取ったいぐさには、泥染めという加工が施されます。
同じ地域の土で泥水を作り、いぐさをさっと浸すのです。

泥染めをして乾燥させたいぐさは、銀色を帯びた独特の色合いになります。
畳特有の香りも、この泥染めによって生まれるのです。

福山一帯で収穫されたいぐさは、地元で畳表に織られます。
「備後表」とよばれ、古くから最高級品とされてきました。

いぐさを密度高く織り込んでいるので、畳の目がくっきり盛り上がります。

足がしびれにくい理由は、ここにあります。
ほどよい弾力があり、盛り上がった部分が座る人の体重を分散させるのです。

敷き方にも見どころはあります。これは、現在最も一般的な配置。
外側から渦を巻くように置き、畳の合わせ目がT字状になるようにします。

なぜ、この敷き方が広まったのでしょうか。
建築家の加美山敦嘉(かみやま・のぶよし)さんにお聞きしましょう。

加美山「同じ方向に畳を敷いてしまうと部屋の雰囲気がすごく硬くなる。それで、このように渦巻くように敷いていく。そのことによって部屋全体がものすごく優しい感じになると思うんです。」

かつては、時と場合に応じて畳の敷き方を変えることがありました。

全て同じ向きに並べる敷き方は不祝儀敷きと呼ばれ、家庭では葬儀などの時だけ行われました。

こちらは、畳を2枚ずつそろえて卍(まんじ)のような形に置く方法。

江戸時代半ばまでは、普通の8畳間の敷き方でした。

現在の敷き方が好まれるようになったのには、いくつもの理由があります。

和室で、最も人の視線が集まるのは床の間。
畳を並行に置くことですっきりとし、飾り付けが引き立ちます。

また、人が出入りする方向といぐさの繊維の向きが合うため、畳表がすり切れるのを防げます。

そして、外側の畳の目と光の入る方向が直角になり、線の美しさが強調されるのです。

三畳、四畳半、十畳で構成された広間。
人の動きや光の向きを考えた配置が、最大限に生かされています。

見て美しく、座って快適。
和室の心地よさは畳で決まるのです。

弐のツボ 障子に樹木の声を聞け

続いて建具に注目しましょう。

障子やふすまなど、家の空間を仕切るものを建具と呼びます。

その原型は板戸。
ここから、建具は日本独自の発展を遂げていきました。

木の枠に唐紙という装飾用の和紙を張ったふすま。

光を柔らかく反射しながら、部屋全体を包み込みます。

外から光を取り入れるために考え出された障子。

陰影を愛する日本人の美意識がここにも表れています。

薄い和紙で直射日光をさえぎり、柔らかな光に変えるのです。

広い面から光を取り入れるために、木の骨組みは細く作られるようになりました。

こちらは、細かな木材で複雑な幾何学模様を表現する「組子」です。

料亭など華やかな雰囲気を楽しむ場所で、職人が細工の腕をふるいました。

一般の障子は縦横の骨組みに紙を貼ったもの。
それだけに、作り手たちは木材の扱いに工夫を凝らしてきました。

建具師の木全章二(きまた・しょうじ)さんに見どころを教えていただきましょう。

木全「木が立っているときは円い柱なんですけど、それをイメージしながら、木が立っているままを建具にしたいということを、私たちは師匠から教わってずっと守ってきてます。そしてそれは、理にかなっている気がするんですね。」

和室鑑賞・二つめのツボ
「障子に樹木の声を聞け」

木全さんが木材を選ぶとき、まず見るのは木目です。

木全「こちらの木の方が目が細かい。障子に向くのはこっち。素直に育ってるんですよ、この木はね。」

さらにこんなことにも注意を払います。

丸太から切り出した木材は、外側の樹皮に面した方を木表、中心に面した方を木裏と言います。
木表は水分を多く含むため、乾燥するにつれて縮んでいきます。その結果、木裏が反り、表面がはがれやすくなります。

框(かまち)と呼ばれる縦の枠。
職人の知恵が表れる部分です。

框は、手に触れる外側の部分が木表になるように組み立てます。
木表は木目が美しく、トゲになりません。
反対にトゲの出やすい木裏は内側にします。

障子を立てると、自然の樹木そのままに木表が外側に来るのです。

さらに、框の上下は、必ず立っている木と同じにします。

大地に立つ一本の樹木の、あるがままの姿を意識して作るのです。

一つの部屋に用いる障子は、一本の木から作るのが理想。

そうすることで、色合いや表情が調和し、部屋全体が引き締まります。

木の声に耳を傾けながら、組み上げられる障子。
和室の繊細な美しさは、ここから生まれます。

参のツボ 額縁に込める もてなしの心

最後は、床の間の鑑賞法です。

江戸後期に建てられた京都の町家。
座敷の主役は床の間です。
客をもてなすためにさまざまなものを飾る空間。

床の間は、落掛、床柱、床框で四角く囲まれています。

さながら大きな額縁を思わせます。 

数々の歴史的な建物を修復してきた中村昌生さん。

中村「そこに飾るもの、亭主の客に対するいろんなメッセージですね、心を込めて工夫するわけですから、それを客に印象的に伝えるためには、やはり額縁が必要であると。」

というわけで、

和室鑑賞・三つ目のツボ
「額縁に込める もてなしの心」

美術品を印象的に見せるため、床の間では光に工夫が凝らされています。
書院と呼ばれる窓から入ってくる光。

和紙を通したほのかな明るさで、床の間を照らします。

一方、床の間の上には小さな壁があり、影を作っています。

この影が、床の間に奥行きを生み出すのです。

影がなく、光が全面にあたると、掛け軸は平面的に見えてしまいます。

また、書院をふさいでしまうと、暗すぎて掛け軸がよく見えません。

ほの暗い空間の中、やわらかな光が差すことで、掛け軸に描かれた世界がひときわ奥深く感じられるのです。

床の間の隣に設けられた「床脇」にも、客をもてなすための大切な役割があります。

床の間との間に開けられた「洞口」は、書院からの光を床脇へ導くためのもの。

床脇では、美術品を手にとって楽しみます。
たとえば和歌の好きな客のためには、歌集を飾っておきます。

さらに、興が乗れば筆をとることもできるように、すずり箱を用意。
床脇は、客へのさりげない心遣いを示す場なのです。

中村「そこに集う人もやはり亭主の心意気を受け止めて、そこでお互いにうち解けた、心の通う集まりを実現しようという、こういう気持ちが日本の座敷に込められているわけですね。」

主人と客の間柄や客の好みなどを考えて飾り付けられる床の間。 こうした飾り付けを「しつらい」と呼びます。

京都で古美術商を営む柳孝さんに、しつらいの極意を伝授していただきましょう。

柳孝「やはり季節にあった掛け物を吊るということが基本でしょうね。それに合わせて、そのときの季節の花を生けると。掛け物と花入のバランス、それを取り合わせというんですが、それが大切だと思います。」

まずは、大切な客を迎えるときの少しかしこまったしつらいです。

柳さんが選んだ掛け軸は、徳川家光が描いた木菟(みみずく)の絵です。

花入は、長い掛け軸と合わせるとき床柱の方にずらして置くのが基本。
花が掛け軸と重ならないようにするためです。

ここでは桃山時代の伊賀焼を選びました。
重厚な雰囲気が、掛け軸と見事に調和しています。

つづいて親しい友人を迎えるしつらい。

掛け軸は、与謝蕪村が描いた軽やかな味わいの俳画です。

信楽焼の花入は、もともと日用品として使われたもの。
くつろいだ雰囲気に満ちた取り合わせです。

和室に招かれたら、あなたも床の間のしつらいをじっくり味わってみませんか?

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

何を隠そう、私はあの「畳の感触とにおい」が大好き。もっというなら畳の上でごろごろするのが大好きなのです。高校時代、部室が「畳の部屋」(和室)というだけで茶道部に入り、部活がない日も、部室に行っては畳の上で本を読んだりおしゃべりに花を咲かせたりしたものでした。よく考えると、祖父母が住んでいた家は、全ての部屋に畳が敷かれていました。障子があって、日当たりのよい縁側があって・・障子を開け閉めすることで、日なたも日陰も作ることができました。あの懐かしい家の記憶が、今でも和室を心地よい空間にしてくれているような気がします。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Mambo de la pinta Art Pepper Quintet
Dianne's dilemma Art Pepper Quintet
Moment's notice John Coltrane
Senor blues Horace Silver
Jordu Clifford Brown
Delilah Clifford Brown
Tail of the fingers Paul Chanbers Sextet
Las cuevasde mario Art Pepper
Left alone Mal Waldron
My one and only love Chick Corea
It's easy to remember John Coltrane
I got it bad and that ain't good Milt Jackson
How long has this been going on Tommy Flanagan