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File67 招き猫


壱のツボ 素朴な土人形の温(ぬく)もり


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片手をあげ、おいでおいでのポーズをとる「招き猫」。
お店の前にインテリアに、日本中どこでも目にする事ができる置物です。

「招き猫」は、開運招福・千客万来など、私たちの願いが託された縁起物です。


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「招き猫」といえば、愛くるしい大きな目に、光り輝く小判。
このデザインが作られたのは、愛知県・常滑市、戦後まもなくの事です。

老舗(しにせ)の三代目を継ぐ冨本きくえさんは、120パーセントの気持ちを込めて作っているといいます。

冨本「職人として、100パーセントは当たり前で、後の20パーセントは作り手の愛情。 縁起物なので、皆さんの所にたくさんの福が来るように、と思いながら作っています。」

それでは、まずはその由来から。

そもそも猫は、奈良時代に中国からネズミを退治する動物としてやって来たといわれています。
では、なぜ猫が福を呼ぶのでしょうか?


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中国には、「猫面(おもて)を洗いて耳を過ぐればすなわち客至(いた)る」という故事があります。
手を上げた猫の仕草が、人を招くと考えられたのです。


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「招き猫」の起源には幾つかの説があります。
中でも有名なのが東京・世田谷の「豪徳寺」の伝承。

江戸時代の初め、寺でかわいがっていた白猫が、鷹(たか)狩りを終えた彦根藩・井伊家の殿様を、寺に招き入れた、その直後…突然、激しい雷雨が襲い、殿様は難を逃れる事ができました。
後に、この寺は井伊家の手厚い保護を受け、栄えたと伝えられています。
猫が寺に福を招いたことから、「招き猫」が生まれたという説です。

そのほかにも、猫が戦国武将の出世を招いたという話や、災難を防いだ話などが残されています。

江戸末期に「招き猫」が売られていたという記録が残されています。
浮世絵師・歌川広重が描いたもので、体を横に向け、右手を挙げています。「○(まる)〆(しめ)猫」と呼ばれました。
○(まる)〆(しめ)とは、お金を節約して貯めるという意味です。


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この「○〆猫」が、5年前、新宿の武家屋敷跡から発掘されました。
現在確認できる最古の「招き猫」で、粘土を素焼きにした土人形です。


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「○〆猫」の面影を残す土人形が、千葉県・上総地方に伝わっています。

地元の郷土人形を手がける千葉惣次さん。
この猫の土人形は、明治の始め、ここに伝えられたといいます。

千葉「手に持った時に伝わってくる温もりといいましょうか、柔らかさとも申しましょうか、素朴という、これは土の魅力と言っても良いんじゃないでしょうか。」

招き猫鑑賞、壱の壺は、
「素朴な土人形の温もり」



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土人形は、庶民の縁起物として、各地で愛されてきました。

材料は、焼き物用の粘土。
石こうの型に、粘土をていねいに押し付けて形をとります。

ひな人形や七福神などさまざまな土人形が、作られてきました。
特に「招き猫」は、幕末から明治にかけて全国に広がります。


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その発信地は、京都・伏見稲荷大社。


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参道で、霊験あらたかと言われる稲荷山の土で作った猫の人形が、お土産物として、人気を呼んだのです。


全国の土人形を収集し、趣味が高じて店まで開いてしまった平田嘉一さん。
自慢のコレクションが伏見の「招き猫」です。
お稲荷さんの影響か、顔も狐に似せられました。

平田「稲荷大社に参詣して、人形をお土産に持って帰って、それが割れたら、田畑に入れると作物が良くなるという。五穀豊穣の信仰の物です。」


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素朴な温もりを持つ土人形。
そこに込められた五穀豊じょうや商売繁盛の祈りが、各地に郷土色豊かな「招き猫」を生み出したのです。

弐のツボ 福は仕草(しぐさ)と色にあり


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東京・浅草。
明治から店を構えるおそば屋さん。
帳場に祀(まつ)られた神棚には、1対の「招き猫」が置かれています。


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田中「家の守り神です。手がこちらは左手で、おいでおいでで、こちらは右手でおいで、両方でおいでおいでやってるですね。帳場の私なんかより、ずっとお上手みたい。」

そのご利益は、ご覧のとおり。
今日も、商売繁盛です。

「招き猫」は縁起物。
手のあげ方から、体の色までさまざまな意味が付けられています。

招き猫鑑賞、弐の壺。
「福は仕草と色にあり」



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まずは、手から。
一般に右をあげると、「金運」を…、左をあげると、「客」を呼ぶとされています。
左手は、遊女が客を呼ぶ時の姿から右手は、打ち出の小づちを振る手だから等と、言われています。

続いて、色。圧倒的に多いのが「白」で、福を招く色として幅広く支持されています。

今では、さまざまな色が登場し、それぞれに願いが込められています。
「金」はお金を呼ぶ、まさに金運の色…。
「青」は、交通安全や学業向上とか。「ピンク」は、恋愛運を呼ぶ色…。
そして、「黒」、古くから親しまれてきた色です。



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古来、「黒猫」は、福猫と呼ばれ、珍重されてきました。

京都 「檀王法林寺(だんのうほうりんじ)」。
本尊の脇に主夜神(しゅやじん)という神様が祀られています。
その主夜神の前に、右手を挙げた黒の「招き猫」が置かれています。

檀王法林寺 住職「主夜神さんというのは、夜の災い、火災とか盗難を防いで頂くというふうな神様です。そのお使いとして、霊力が強いと言われている黒い招き猫が、このお寺に伝わっています。」

暗い所でも目が利く猫の習性とあいまって、黒の「招き猫」には、魔よけ厄よけの力があると信じられてきたのです。


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そして、赤。
こちらも伝統的な色です。
全身が赤く塗られた郷土人形、麻疹(はしか)や疱瘡(ほうそう)除けとして作られました。
こうした病は、赤を嫌うと信じられ、赤い「招き猫」も病除けとされています。


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色やしぐさを変えることで、どんな願いもかなえてくれる…
それが「招き猫」の人気の秘密です。

参のツボ ご当地のこだわりあり


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群馬県・高崎市。
木型の上に、紙を張り合わせて作る張り子の「招き猫」が、明治の中ごろから作られています。
えびすさんなど、おめでたい絵が書かれ、愛きょうのある親しみやすいものです。

この地方は、昔から張り子の達磨(だるま)を作ってきました。
その技法が「招き猫」作りにも使われています。

ここの「招き猫」には、どんな願いが込められているのでしょうか?

荻原「元々は群馬県は養蚕県でしょう。
養蚕のやってる農家は、ほとんどネズミ封じと呼ばれる張り子の「招き猫」を求めた。
昔はネズミがいっぱいいて、お蚕様や繭になった奴を食べた。
これも一つのネズミ駆除の方法。」


鼠(ねずみ)封じの張り子の「招き猫」は、養蚕が衰退した今も、商売繁盛の縁起物です。
「招き猫」は、各地に伝わる伝統の技術を用いて作られ、産地ならではの特徴が活かされています。

招き猫鑑賞、参の壺。
「ご当地のこだわりあり」



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瀬戸物で有名な愛知県・瀬戸市。
ここで磁器製の「招き猫」が、大正時代から作られてきました。


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こちらは、昭和初期の瀬戸の「招き猫」です。
磁器ならではの白く滑らかな質感、細身ですっきりとしたデザイン。
よだれ掛けは、焼き物を彩る絵付けの技法で、華やかに飾られています。

加藤靖彦さんは、40年にわたって、瀬戸の技術を生かした「招き猫」作りにこだわってきました。

瀬戸の「招き猫」は、上質の粘土を用いた生地を、高温で焼き上げて出すつややかな味わいが特徴です。

加藤「瀬戸はね、磁器独特の重みと品があると思っておるけどね。
日本優秀な技術を持って、品のあるような置物として、もっと力を入れて行きたいと、日本には誇れるもんの一つやないかなあと思ってるけどね。」



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床の間に鎮座する大正時代に瀬戸で作られた逸品。
75センチもある「招き猫」です。
生地作り、上絵付けなどそのすべてに最高の技術が投入されたものです。


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こちらは、石川県・能美市。
華やかな作風で知られる「九谷焼き」の産地です。

ここで作られる「招き猫」には、全体に極彩色(ごくさいしき)が施されています。
花や渦の模様が、立体的に浮かび上がっています。


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「盛絵付(もりえつけ)」と呼ばれる絵付けの技法です。
青や赤、緑などの絵の具をチューブから、少しずつ絞り出しながら、盛り上げるように素早く模様を描いていきます。
九谷焼き独特のち密で立体感ある絵柄です。

こうした豪華けんらんな「招き猫」は、なぜ作られたのでしょうか?

九谷焼の卸し問屋を営む4代目・米田純彦さんに、貴重な資料を見せて頂きました。


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提供:米田純彦

米田「これは先代、もしくは2代目が作った昭和6年当時の輸出向け専門のカタログです。
やはり最初は日本国内よりも輸出のほうが早かったと考えられます。
当時の外国人は、この絵付けを見て、日本の神秘性を感じたんじゃないかと思います。」



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華やかな絵柄をまとった九谷焼の「招き猫」に、欧米の人々は目をみはりました。

それぞれの産地に伝わる技法やデザインを駆使して作られた「招き猫」…。
世界に例を見ない、まさに縁起物の王者です。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Funny blues Art Pepper
The cat Jimmy Smith
Both barrels Lem Winchester
El gato Gato Barbieri
Hank's tune Horace Silver
Blue Monk Thelonious Monk
Pint of blues charlie Mariano
Satin Doll Barney Kessel with Shelly Manne and Ray Brown
East of the sun Bud Powell
Eclypso The Cats(Tommy Flanagan,John Coltrane,Kenny Burrell)
Tom cat The Big Apples
The cat walk Donald Byrd
Dusk in sandi Claude Williamson Trio
Whims of Chambers Paul Chambers Sextet
Cat walk Mal Waldron Trio