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File60 からくり人形



壱のツボ 精密な動きに味わいあり


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トヨタテクノミュージアム
産業技術記念館 蔵

まずは、ご覧あれ。
クルクルと後転しながら階段を下りるのは、「段返り人形」。

まるで曲芸師のような正確な動きです。


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こちらは、「文字書き人形」。
なんと筆で、美しい文字を書きます。

どうです。このりりしい姿。
書いたのは「寿」の文字。
お見事!



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機械仕掛けの「からくり人形」。
江戸時代、最先端の技術を「からくり」と呼びました。

「からくり人形」が人々の前にはじめて登場したのは、寛文2年。
人形師竹田近江(おうみ)が大阪道頓堀で行った「からくり芝居」が人気を博しました。

初めてからくり人形を見た、井原西鶴は、その驚きをこのように書き記しました。

「目口の動き、足取りの働き、手をのべて腰をかがむ、さながら人間のごとし。」



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犬山市文化史料館 蔵

それからおよそ百年後に出版された
「機巧図彙(からくりずい)」。

この書物によって、ながらく門外不出だった、からくりの技術が世に広まりました。

その後、さまざまなからくり人形が登場するようになったのです。


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その代表がこの「茶運び人形」。

茶わんを乗せると客のもとへと運んでいきます。
茶わんを取ると止まって、じっと待つ。
茶わんを戻すと、元の場所へと戻って行きます。

まずは、そんな人形たちの精巧な動きに注目です。


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トヨタテクノミュージアム
産業技術記念館 蔵

江戸時代の名品「弓曵童子」。

みずから矢を取り。

しっかりと構えて…。

矢を放つ。


この精巧な動きを生み出したのは、からくり儀右衛門こと、田中久重。
幕末に活躍した天才からくり師です。



からくり人形師東野進さん。
久重の人形の修復も手がけてきました。

東野「江戸時代のからくりを今の技術でやるのはむずかしいことはない。でもね、ロボットと並べてみなさい。全然味が違う。」

江戸の先端技術を用いたからくり人形。
そこには、素朴な手作りのぬくもりがあります。

からくり人形最初の壺は、
「精密な動きに味わいあり」。



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からくり人形は、どのような仕掛けになっているか…?
ちょっと着物を脱いでいただきました。

部品には、さまざまな種類の木が使われています。




摩耗しやすい歯車や車輪は、固いカリンや樫(かし)の木。

それも一枚の板ではなく、8枚の扇形の板を継ぎ合わせて
います。
板目を放射状にすることでかかる力が分散し、割れにくい、頑丈な歯車になるのです。


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これ、なんだか分かりますか?
からくり人形の重要な部品…ゼンマイです。

素材は、鯨のヒゲ。
口の中にある、プランクトンなどをこしとるブラシのようなもの。
固くて弾力性に富みます。

このゼンマイが動力となって、人形を動かします。
その仕組みを見てみましょう。

ゼンマイを締め…。

ねじ巻きを外すと…。

ゼンマイが元に戻ろとする力が、人形の動力になるのです。

東野「からくり人形のおもしろさは、ひとつのくじらのゼンマイ、限られた素材で、いかにすばらしい物を作るかです。」


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味わい深い動きを生む仕掛けは、どうなっているのでしょうか?

まずは、発進と停止の仕組み。

茶運び人形は、茶わんを置くと動き出します。
腕と連動するひもが、ストッパーにつながっているのです。

腕を下ろすとストッパーが外れて歯車が回転します。


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次は方向転換。

茶運び人形には、三輪車のような前輪が着いています。

その方向を決めるがこの舵(かじ)。
歯車と一緒に回るカムに連動しています。

回転するカムが一定の場所に来ると…。
舵を押して、前輪の方向を変えます。
しばらくするとカムが外れ、再びまっすぐ進みます。

速度を一定に保つのは、ぶるぶると振れているテンプという装置。
ちょっと止めて見てみましょう。

上の四角い木の部分は重り。
下にある二つの木の部品が歯車に振れることで速度を調整します。

重りが軽いとテンプは、激しく揺れます。
二つの木の部品が歯車に接触する時間が短くなり歯車は早く回転します。

重りを重くすると、揺れはゆっくりに。
木の部品が、歯車により長く接触するため歩く速度は、遅くなるのです。


こちらは田中久重の「茶酌娘」。


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三つの茶わんを一度に運び、客の前でみずから止まります。
あたかも客をもてなす気持ちを持っているような動きです。

江戸のからくり師たちは、機械仕掛けの人形に温かい心を吹き込みました。

最先端の技術と遊び心。
日本人ならではの感性が、味わい深い、からくり人形の数々を生み出したのです。

弐のツボ 顔


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先ほどご紹介した「弓曵き童子」。
今度は、顔をじっくりご覧ください。

矢を弓に添え、顔を寄せる。

そして…放つ。
なんともリアルな表情です。





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東野進さんは、からくり人形を修復しながら、顔の作りも研究してきました。

東野「日本人形は、じっとした顔、弓曵きの顔は、動かした時にひねって顔を嬉しい顔、悲しい顔、能面と同じ。」

からくり人形は、顔を動かす事でさまざまな表情を作り出します。

からくり人形二番目の壺は、
「顔に喜怒哀楽を見よ」。




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一つの面で歓びや悲しみなどさまざまな感情を表現することが出来る能面。

顔の角度によって、その表情が変化していきます。

からくり人形の顔も同じ。
角度に寄って、表情が微妙に変化しているのがお分かりでしょうか?





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「文字書き人形」。
筆を自在に動かして文字を書く、世界でもまれなからくりです。
注目すべきはその顔。

人形を上から見てみると…繊細で思慮深い、表情。






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横から見ると…。
男らしい自信に満ちた表情に見えませんか?

ひとたび動き出せば、表情はさらに豊かに…。

歯車や無数のひも、重りを組み合わせた仕組みによって、複雑な動きとともに表情も作り出されます。

筆を追う真剣なまなざし。
風格さえ漂います。

この誇らしげな顔。

あたかも生きているかのようなからくり人形。
その表情一つ一つは、すべて
計算された美しさなのです。

参のツボ 山車からくり


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山車からくりの秘密をのぞいてみましょう。

毎年7月に行われる京都祇園祭り。
山鉾(やまほこ)と呼ばれる山車が32基も並ぶ、豪華けんらんなお祭りです。

中でも人気なのがこの山鉾。
1メートル50センチもある、巨大なカマキリのからくり人形です。

縦横に張った糸を人が操ることを「絡繰る(からくる)」と言います。
これがからくり人形の語源とも言われています。




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犬山市文化史料館 蔵

山車からくりが登場したのは、江戸の初め、尾張東照宮の祭礼でした。

娯楽に寛大だった、尾張の殿様、徳川宗春の時代にいっそう豪華になりました。

人形浄瑠璃や操り人形とひと味違うのは、大掛かりな仕掛けです。




からくり人形師、九代目玉屋庄兵衛さんは、代々山車からくりを手がけてきました。

山車からくり人形のだいご味はどこにあるのでしょうか?

玉屋「山車からくりは、お祭りでの山車。
それをいかに人間らしい動きにさせるか。」






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操る人の手によって人形に命が吹き込まれます。

からくり人形最後の壷は、
「山車からくりに人の鼓動を感じよ」。


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九代目庄兵衛さんの作った山車からくり人形。
より人間らしく見せる工夫があります。

玉屋「人形は8頭身」

8メートルの山車を見上げた時に、バランスよく見えるようにするために足を長く作ります。




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愛知県犬山市で毎年春に行われる犬山祭り。
派手な山車からくり人形が見所です。

玉屋家は、江戸時代から犬山祭りの山車からくりを制作して
きました。

玉屋「これで30本くらいかな。
4人くらいで動かす。まずは、動かしますよ。これ前進なんですよ。
樋を使って前進させながら足を動かすと前から見るとほんとに動かしているように見える。」





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片手を左右に動かしながら微妙な動きを人形に伝えていきます。
このからくり人形には、「五穀豊穣」の願いが込められています。

顔が一瞬にして翁(おきな)になりました。
「黒い翁」は、豊作の象徴。
重要な場面は、派手に決めます。




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山車からくりは、人形師と人形を操る町の人たち、そして観客が一体となって完成します。

「山車からくり」の魅力は、祭りという大きな舞台で人々の心が作り上げているのです。


今週の音楽

曲名
アーティスト名
Turtle twist Jelly Roll Morton
My Melancholy baby Django Reinhart
Mox nix Art Farmer
Prelude to a kiss Bobby Timmons
My Melancholy baby Charlie Parker
Five spot blues Thelonious Monk
Freddie freeloader Miles Davis
Profoundly blue Edmond Hall & Chalie Christian
D&E The Oscar Peterson Trio
A message from boysie Lem Winchester & The Ramsey Lewis Trio
Remember Hank Mobley
Blue and green Clifford Brown
My Melancholy baby Dave Mackenna
The touch of your lips Art Farmer