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File46 下駄(げた)


壱のツボ 桐は、年輪を履いて味わう

日本の伝統的な履物、下駄(げた)。

みなさん、どのくらい下駄のことをご存知ですか?

「下駄」とは、木の板に鼻緒がついた履物。

シンプルなこの履物の始まりは、はるか2千年前にさかのぼります。


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静岡市登呂博物館 蔵

歯は無く、大きな板に鼻緒の穴が4つ。
これが下駄のルーツと言われる、「田下駄」です。
弥生時代、水田で足が沈まないように使われていました。

江戸時代の初めのころまで、庶民の履物の主流は、草履(ぞうり)。

下駄は、雨や雪の日にぬかるんだ道を歩くための履物でした。


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桐の博物館 蔵

これは、江戸時代の下駄。
草履と下駄が合わさったような履物です。


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元禄時代、町人文化が花開くと、下駄は、おしゃれな履物として洗練されていきました。

江戸情緒残る、浅草。

しにせの履物店です。
店内に並ぶさまざまな下駄。それぞれに名前がついています。
ご主人の辻毅政さんに教えていただきましょう。

辻「これが普通の駒下駄ですね。
女性の駒下駄の場合、関東では芳町ではね、芳町という町がありますけど、あそこで一番最初に芸者さんとか小粋な人が履いたので、芳町と呼ぶんですけど」


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駒下駄は、四角い板に歯が二本あるもの。
もっとも一般的な形です。
そのすっきりした形が、江戸で大流行しました。


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辻「前が斜めになっているもの、江戸では “ のめり ” 、関西では “ コウベ下駄 “ と呼びます」

前に傾いて歩きやすい「のめり」は、幕末「神戸」で生まれました。

かかとが丸いのは「後丸」。
これにも粋な呼び名があります。

辻「粋な言葉を使いたいので、小町と呼びます。小野小町の小町です」

草履のような下駄は、「右近」と呼ばれます。
歌舞伎役者の名前から付けられたとか。
下駄は、粋な履物として今も愛される日本ならではの履物です。


ところで、下駄に使われている木はなんだと思いますか?
ほとんどが軽くて丈夫な桐(きり)なんです。

まずは、「桐」に注目です。

福島県、喜多方市。
会津桐の名産地です。

黒澤孝司さんは、会津桐にこだわる下駄職人。

黒澤「まずその材料の樹齢をまず想像しますね。
それはまあ枝ぶりとか。
たとえばこの場合ですと、まだ肌が割れていますよね。
というのは、まだ成長しているというか、成長が止まっていないという所で年輪がこう均等に配置しているんじゃないかな、ということですね、だからこれは下駄に向いているんじゃないかなと思います。」


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会津桐は、日本一の桐と言われています。
厳しい冬の寒さと夏の蒸し暑さ、その温度差が年輪の締まった桐を育てます。

これが会津桐の年輪。

黒澤「私たちは、お客さんに下駄を買ってもらうというよりも、年輪1本1本を買っていただく、年輪を履くという、それにつきると思います。」

下駄鑑賞最初の壺は
「桐は、年輪を履いて味わう」

 

年輪が縦に並んだ、まっすぐな木目を「柾目(まさめ)」と言います。
桐下駄は「柾目」が詰まっているほど美しく見えます。

幹の中心に向かって、材を切り取ると、年輪は、まっすぐに現れます。
これが「柾目」です。

柾目を切り出すための「スミカケ」の作業。
樹齢45年の桐から、年輪が密に詰まった部分を選びます。


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男性の下駄幅およそ12センチ。
そこに25年分の年輪が生かされます。

年輪が均一でない部分は、避けるため、この桐から取れるのはわずか3足分です。


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丸太から、縦に切り出された下駄。
下駄の表を合わせた形で加工されます。

こうして一足の下駄は、同じ柾目になります。
それを「合目」と呼び、特に贅沢(ぜいたく)で高級な桐下駄になるのです。

その美しさは、後ろ姿にも現れます。
年輪がつながり、まるで一本の桐を見ているかのようです。
履いた時に、足の裏で感じる年輪の深み。
訪れた先で脱いだ時がお披露目の瞬間です。

弐のツボ  塗りで 贅沢に浸る

次は「塗り」に注目です。

江戸時代の半ば、下駄を華やかにしたのは、遊郭の女性たちでした。
おいらんが練り歩く時に履いた、道中下駄。

格を上げるために、競って贅沢な塗り下駄を履きました。

塗り下駄は、特別な時に履く物でした。


静岡市ある浅間神社は、
塗り下駄にゆかりのある場所。

徳川家が、造営のために全国から呼び寄せた職人の中に漆塗り職人もいました。
彼らは、建造後もこの地に残りました。

その職人たちの技を生かして作られたのが駿河塗下駄。
美しいつやと履き心地の良さで全国に広まりました。

駿河塗下駄職人の佐野成三郎さん。
この道50年…。

佐野「いい白木の下駄はたくさん取れるわけではないし、塗ってその下駄の価値をあげていく、それが静岡の伝統的な方法だと思うんですけどね。」

下駄の価値を上げ、贅沢に楽しむ。

下駄鑑賞 二番目の壺

「塗りで 贅沢に浸る」


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塗り下駄は、できるまでに半年かかります。
下地は、布を張り、砥石(といし)の粉を混ぜた漆を塗ります。
この作業を何度も繰り返すことで厚みを持たせ履き心地を良くします。

下地を終えて、塗りに入るのは3か月後。
さらに3か月の時間をかけて塗り繰り返します。

塗りが乾くと「炭研ぎ」という作業。
柔らかい、地元の駿河炭を使い、表面を磨き上げます。

何度も塗り重ねられた塗り下駄は、水を通しにくく、長持ちします。


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卵の殻や蒔絵で装飾するのも駿河塗下駄の魅力です。

足が滑り込む滑らかな塗り…。手の込んだ装飾…。
伝統の技が生む贅沢です。

履いて良し、見て良し。
日本の美を履く、塗り下駄です。


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参のツボ 鼻緒で遊ぶ 江戸の粋

「鼻緒」の「鼻」は先端のこと。
「緒」はひものこと。
鼻緒には実は、大切な役割があるんです。
浅草の辻毅政さんにお聞きしましょう。

辻「下駄は元来、サイズは一つだったんです。
足の格好を見て、それから好みを聞いて鼻緒の前つぼと後ろの固さをちゃんとアジャストして、かなりかかとが出ても歩けないことはなかったんです。」

そう!かかとを1センチくらい出して履くのが粋。
それぐらい知っておかないと下駄を履く資格なし!

昔から、人々は鼻緒でおしゃれを楽しんでいました。


神楽坂にある老舗の履物店。
ご主人の石井要吉さんです。

石井「京都の着倒れ、そして大阪の食い倒れ、そして江戸東京の履きだおれと言われております。江戸っ子はそれほど日銭を持たなくてもですね、足もとに金をかけて粋に履いていた。
そこいらへんが江戸っ子の心意気だったのかなと思います」

というわけで、

下駄鑑賞 最後の壺は
「鼻緒で遊ぶ 江戸の粋」




四季折々の鼻緒の選び方をご指南していただきましょう。


まずは、春。

着物は、明るいネズミ色の地に橙(だいだい)色の花柄。
鼻緒は、淡い肌色。
着物より控えめな色合いですが前つぼの赤がアクセントに。


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続いて夏の装い。

石井「シルク印伝といいまして、絹の上に漆で、この場合ですとうさぎの柄をあしらった鼻緒でございます。
鼻緒の下うちが真っ白に純白にしてありますので、特に夏などに使っていただくと、 清涼感があっていいと思います。」


夏はやはり浴衣ですね。
先ほどの下駄に、紅色の浴衣を組み合わせてみました。
着物と鼻緒を同じ色で合わせるのが初心者の方にはお勧めです。


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こちら男性には、涼しげな藍(あい)色の浴衣。

帯と鼻緒を縞(しま)柄で合わせてみました。
すっきりと粋な装いです。


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そして秋。

秋は、白足袋を履いて。
鮮やかな紫の着物に淡い紫色の帯。
鼻緒は、その中間の紫色を選びました。
ちょっと上級者向けの、洗練された、組み合わせです。


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最後は、冬の装い。

冬にぜひ試していただきたいのが暖かみを感じさせる塗り下駄。
こげ茶の着物に、赤い帯。
下駄は黒の塗りです。

鼻緒に使われた赤が、渋い味わいを醸します。

石井「布の上に漆で色を染めた素材の鼻緒でございます。
この素材のものは、一年を通してお使いになれます。」


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石井「着物の着こなしもそうでしょうし、着物に合わせた帯の結び方とか、そして足もとですと履物。
それをご自分の着物、帯などとカラーコーディネートする。
やっぱり足下っていうのは、着物を着た時の一番最後になるんですけど、フィニッシュなんですけれども、そこでひとつ決めていただくと、おしゃれに、そして楽しくお履きになれると思います。」


装いを引き立てる粋な小道具、鼻緒。

これを極めることができれば、あなたも下駄の達人になれるかも…。

日本の伝統と文化が育んだ下駄は、シンプルでありながら、奥の深い履物なのです。

今週の音楽

 

曲名
アーティスト名
The sheik of Araby Coleman Hawkins's All Star Octet
Someone to watch over me Oscar Peterson
Music Matador Eric Dolphy
Old devil moon Sonny Rollins
It might as well be spri ng Clifford Brown
Cantalope island Herbie Hancock
Who can I turn to Oscar Peterson
Hub cap Freddie Hubbard
I had to be you Frank Sinatra
Wadin Horace Parlan
Like someone in love Lem Winchester
Remember Hank Mobley
Moonlight in Vermont EllaFitzgerald Louis Armstrong
While we 're young Kieth Jarrertt
You fascinate me Blossom Dearie