バックナンバー

File38 箸

 

壱のツボ 漆塗りに『用と美』の秘密あり

毎日の食卓に欠かせない箸。たった二本の棒でいろいろなことができるんです。

 

割る。つまむ。混ぜる。そして、巻く。


クリックで拡大表示

飛鳥時代に中国から伝来したと言われる箸は、江戸時代、人々の生活に定着してゆきました。

現在私たちが使っている箸は、色鮮やかで、様々なデザインが施されています。

漆を塗った「塗箸」は、江戸時代に各地で作られるようになりました。

実用品である箸に漆の装飾を施すのは、日本だけだそうです。その始まりは、この若狭塗り箸。まずは、漆の「塗り」に注目です。

漆を塗った箸の生産量日本一を誇る、福井県小浜市。「若狭塗り箸」発祥の地です。

桃山時代に塗師・松浦三十郎が、アワビや卵の殻、そして色とりどりの漆を用いて海の底を表現したのが始まりです。

こちらは小浜で80年以上続く箸問屋。その3代目、松本喜代司さんに、一膳の箸を見せていただきました。

松本さん 「これは現存する塗箸の中で、最も古い塗箸だと思われます」

江戸時代初期に作られた箸。漆の美しさと貝殻の輝きが、300年以上の時を経た今も残っています。

こちらも全て江戸時代に作られた若狭塗り箸。

箸に漆を塗る。このことが、日本の箸を大きく変えました。

 

松本さん 「箸はもともと竹や木を切って何も塗らずに使うのが一般的でした。江戸初期の裕福な商人が作らせた漆を塗った箸が、非常にデザイン性の   高い、また耐久性の高い箸を作った。それが「用」と「美」を兼ね備えた塗りの箸を作らせたルーツではないか。」

 

漆は、美しさだけでなく防水や防腐という実用性も兼ね備えていました。

 

箸鑑賞、最初のツボは 「漆に『用と美』の秘密あり」。

塗箸作りには、長い時間と手間がかけられています。古井正弘さんは、50年にわたって「若狭塗り箸」を作って来ました。

漆には強い接着力があります。アワビの貝殻を張り付け、その上に何度も漆を塗り重ねてゆきます。

更に、卵の殻を小さく砕き臼でひいたものを、散らします。一度漆を塗ったら、乾くまで2日程置きます。

漆を繰り返し塗ること、およそ30回。薄く何度も塗り重ねることで強度が増すのです。


クリックで拡大表示

クリックで拡大表示

クリックで拡大表示

何色かの異なった漆を色の層を作ります。

 

砥石で研ぎ出すと… わずかに盛り上がっていた貝や卵の殻が削られ、その周りには何色もの漆の層が鮮やかに浮かび上がりました。

古井さん  「漆そのもののよさ。 漆独特の感触が出て来る。肌触り、口に当てたときの感触が出て来る。」

ザラついた木の表面を、漆は滑らかに、そして硬く包み込みます。滑らかで丈夫な塗箸。箸を永く、そして心地よく使うことが出来るようになりました。

 

古井さん 「使い込んで行くことによって色合いが出てくる。それが漆の一番良いところ。漆の美しいところ。」

上は、新しい塗り箸。下は、40年程前に作られたもの。

古い方が透明感があり、柄が浮き上がっています。漆には時を経るごとに、空気中の水分と反応して透明になってゆく性質があるのです。

日本ならではの漆の塗箸。そこに込められた「用と美」の秘密。おわかりいただけましたか?

弐のツボ 箸先一寸が命

今度は箸先に注目しましょう。

こちらは東京都内の、箸専門店。店内に、ところ狭しと置かれた箸は2000種類。太さや長さ、デザインも様々です。箸先も、いろいろな形のものがありますね。ユニークな箸先の世界をちょっと覗いてみましょう。

 

柔らかい豆腐には「豆腐箸」。 平たく削った箸先に豆腐を乗せると、崩さず口まで運べます。

こちらは「ラーメン専用の箸」。 麺が滑りにくいように、箸先に溝を彫りました。

「パスタ箸」はパスタをつまみやすいように、箸先をねじっています。


クリックで拡大表示

「豆腐箸」をはじめ、色々な箸を創作して来た竹田勝彦さんです。そのこだわりは、箸先にあると言います。

竹田さん 「箸先が太いと、食べ物より先に箸が唇に触れ違和感がある。だから細く作っている。細いと、刺身などの柔らかいものも美味しく食べられる。だから箸先にこだわって作っている」

箸鑑賞、二のツボは 「箸先一寸が命」。

 

旅が盛んになった江戸時代、多くのひとが自分の箸を持って旅をしました。

こちらは大名や裕福な商人が携帯した箸。わずか10センチの箸にはちょっとした仕掛けがありました。


クリックで拡大表示

こうして振ると…

中から箸先が飛び出してきます。

 

遊び心あふれる箸ですが、実は毒味用に使われたのです。

先端部分は銀。ヒ素などの毒に触れると変色するという、銀の性質を利用したものです。


クリックで拡大表示

箸職人・竹田さんの工房です。使いやすさを追求し、五角形や六角形の箸を作っています。

持ち手の部分だけではなく、箸先までしっかりと角をたてるように削ってゆきます。

 

ところが、その折角削った箸の一番先の部分だけはヤスリで潰してしまいました。

竹田さん 「箸先一寸が大事な心臓部ですが、先端の先だけは、器を傷めてはいけないということで、丸めている」

箸先一寸、およそ3センチ。 箸の最も大切な部分には、様々な工夫が凝らされています。

それは、一本一本手作りで箸を作る職人の心遣いなのです。

参のツボ 色や香りを食事とともに楽しむ


クリックで拡大表示

箸には色々な素材が使われて来たんです。

「琥珀」で出来た箸。琥珀は、植物の樹脂が化石化したもの。アメ色の光沢が好まれ珍重され、清の皇帝も愛用したと言います。

ちなみにこの箸の値段はナント55万円。


クリックで拡大表示
こちらは「象牙」の箸。4000年前の中国でも使われていました。

日本は「木の国」。身近な素材を使ってそこに色々な意味や願いを込めて来ました。

東京都内にある、明治43年創業の割り箸専門店。割り箸だけでも十種類以上の素材があります。

香りがよく木目がきれいな杉は高級料理を食べるときに使われます。

白い柳の割り箸には、霊が宿ると伝えられ、婚礼や正月など祝いの場で用いられます。

割り箸専門店社長 山本さん 「ただ食べ物を口に運ぶための道具ではなく、まず最初に形の優雅さとか木目の美しさ、香りの良さを鑑賞して次に食事をする、大切な道具」


天然の素材そのものを愛でる。これも、古くから伝わる箸の楽しみ方。

 

箸鑑賞、最後のツボは「色や香りを食事とともに 楽しむ」。

 

この箸の素材は「南天」。細い木なので、箸を作るには樹齢数百年の木が必要です。「難」を「転ずる」という意味が込められています。

こちらは柔らかい質感が特徴の「クヌギ」。「苦」を「抜く」という語呂合わせ。

 

茶の湯でふるまわれる懐石料理にも沢山の箸が使われます。 茶懐石の料理を研究している柳原一成さんに 料理と箸を用意していただきました。

それぞれが使う箸は「赤杉」。「赤杉」は杉の中でも高級な素材。爽やかな香りが料理を引き立てます。

 

懐石料理では、ひとつの器に盛られた料理を「取り箸」で 銘々の皿に取り分けます。


料理制作 柳原一成

「取り箸」に使われるのは竹。竹は変化に富んだ色や形を、楽しむことができる素材です。

柳原先生 「竹には節がある。その節をどのように使うか。 美の世界に入ってゆく」

 


料理制作 柳原一成

焼き物には節が中程にある竹箸を使います。 竹は切り出したばかりの青々としたもの。料理の色が移りにくいのが特徴です。

 

焚き合わせには節が端に寄った竹箸。節の位置を変えることで変化を楽しみます。


クリックで拡大表示

「青竹」ばかりではなく、秋には燻された「煤竹」を使うなど、季節によってもその種類を使い分けます。
「香の物」には斑点のある「ゴマ竹」の箸。ここで少し気分を変えてもらおうという趣向です。

最後に出されるお菓子には 「黒文字」の木でできた箸を使います。

シナモンに似た、ほのかな香りが漂います。

柳原先生 「変化してゆく色を楽しむ。削ると香りの出る黒文字、その香りも楽しむ。それが、日本人の美意識であり、素材の楽しみ方ではないかと思う」
箸に用いられる様々な自然の素材。形や色、そして香りを食事とともに楽しむ。日本の食文化は箸とともに洗練されて来たのです。

今週の音楽

 

曲名
アーティスト名
One Bass Hit Modern Jazz Quartet
Undecided Curtis Fuller
The Boy Next Door Bill Evans
Blue Train John Coltrane
GreenSleeves Paul Desmond
On Green Dolphin Street Miles Davis
Cool Struttin’ Sonny Clark
DiDi Shorty Rogers
Love Is Just 5 Trombones Four Freshmen
I Remember Clifford Lee Morgan
Take The A Train Ray Bryant
A Ballad Four Freshmen
Alligator Bogaloo Lou Donaldson
Laura Branford Marsalis
Hymn Of The Orient Clifford Brown
But Not For Me Miles Davis
It Could Happen To You Chet Baker
Red Hot Pepper Wynton Marsalis