まずは、建具の成り立ちを見てみましょう。 障子。襖。板戸。家の空間を仕切るものを建具といいます。 建具は日本で独自の発展を遂げてきました。その特徴は何よりも取り外しができること。障子と襖を組み合わせることで、部屋の温度や明るさを 調節することができます。 建具の原型はこの木の板戸。家の中と外を区切るために作られたものです。
平安時代に入ると建具は飛躍的に進歩しました。
木の枠に紙を貼った襖が生まれたのです。襖のおかげではじめて部屋の中を仕切ることができるようになりました。
その後、家の中に光を取り入れるために作られたのが障子。
建具には華やかな装飾も施されました。 豪華絢爛なふすま絵。
建具は時代とともに芸術品にまで進化していったのです。
障子は日本独特の建具です。 障子の「障」はさえぎる、という意味。
直射日光をさえぎり、その光をやわらかく部屋全体に取り入れることができます。
多くの光を取り入れるために木の骨組みはより細く作られるようになっていきました。
障子を作る職人たちは木材の加工にさまざまな工夫をします。
建具師の木全章二さんにツボを教えていただきましょう。 木全さん 「木が立っているときは、こう丸い柱なんですけど、それをイメージしながら、木が立ってるままを建具にしたい、と師匠から教わってきて、守ってきている。それは理にかなっているんです。」
建具鑑賞一つ目のツボ、障子に立ち木の姿を見よ
木全さんが木材を選ぶ時、まず見るのは木目です。 木全さん 「こちらは目が細かくて、障子に向いている。素直に育っている、この木は。」 さらにこんなことまで見極めます。
木全さん 「建具は木裏、木表をよく考えて作ってるんですけど」
一つの部屋に用いる障子は一本の木から作るのが理想。 そうすることで色合いや表情が調和し、部屋全体が美しく引き締まります。
障子には自然の姿がそのまま映されているのです。
東京、浅草の日本料理店。文化庁の有形文化財に指定されています。 明治時代の建物を忠実に復元した部屋には美しい組子が施された障子。 釘をまったく使わずに木組みだけで複雑な幾何学模様が表現されています。 まさに障子のキャンバスに描かれた絵画です。
建具師の横田栄一さんは組子作りの第一人者。 40年以上にわたってさまざまな組子を手がけてきました。 横田さん 「人のできないものを、人の思いつかないモノをやってやろう。競い合うようにして、難度の高い技術とデザインが生まれてきた。」
建具鑑賞、二つ目のツボ、組子は建具師が描く木の絵画
組子は、切り込みを入れた何本かの木材を交差させ組んで作ります。 こちらは三本の木材で作る「三つ組手(みつくで)」。 これが基本となる組み方です。
この三組手(みつくで)を組み合わせることで いくつもの正三角形の連続模様が現れます。 その中の『亀甲(きっこう)』という6角形の部分に合わせて、さらに小さな木をぴったりとはめ込みます。
これが『麻の葉(あさのは)』と呼ばれる形。古くからある日本の模様です。
横田さん 「麻の木ははまっすぐ伸びる。まっすぐ成長する木にあやかって子供のお宮参りするとき麻の葉の模様の入った着物きせる。 縁起の良い模様。」
さまざまな模様を試行錯誤しながら組み合わせて作った独自の世界。ほかの職人には簡単に真似のできない表現です。 横田さん 「昔から伝わってる中にもどうやって組んだのかな、という組み方しているものがある。そのときの職人の根性っていうか、こんなところでこんな苦労をして工夫してやってるな、と見える。」
部屋を仕切るための建具である襖。 そこには平安時代以降、「唐紙(からかみ)」と呼ばれる装飾用の和紙が使われてきました。 金銀の粉を蒔く 『砂子蒔き(すなこまき)』の技法で飾られた唐紙。
こちらは木版で模様を摺った唐紙です。 小泉幸雄さんは江戸時代から続く唐紙職人の家の五代目です。
絵の具に使うのは、雲母(きら)という銀色の鉱石の粉末を、のりで溶いたもの。 『ふるい』と呼ばれる道具で絵の具を木版につけていきます。この上に紙をのせ手のひらでなでるように摺っていきます。 『木版雲母摺り』という技法です。
やさしいふくらみを持った真珠色の模様が浮かび上がります。
小泉さん 「光の加減によって模様が見えるときと見えないときがある。銀と違って暖かみのある、やわらかな温かみのある反射だと思う。」
建具鑑賞、最後のツボ、襖の唐紙に光を感じよ
小泉さんが摺り上げた唐紙です。雲母の模様がおぼろげでやさしい光を放ちます。 手刷りによる偶然が生み出す表情です。 小泉さん 「これが雲母摺りの特徴、流れになる、地紋のような流れ。」
雲母の模様は光の当たり具合でその表情を微妙に変えていきます。
小泉さん 「襖は和室の中で、主なのは床の間、掛け軸や置物であるはず。それを食っちゃうような模様だったら襖じゃなくなる。唐紙を襖に使う場合一段、一歩控えたような、キラッと光るようなそれが雲母摺りの良さ。」
唐紙作りのもう一つの技法、「砂子蒔き(すなこまき)」です。
砂粒状の金銀を振りながら和紙に蒔いていきます。 その上に小さく刻んだ金箔銀箔を蒔き、奥行きを生み出します。
永井さん 「大気中の霧だとかが光とか風で形を変えていく、それを模様にしている。光で変わるのが自然と一致する部分。作っていても自然を意識する時がよくある。」
部屋の中でも、自然の気配を感じたい。そんな日本人の感性が襖の模様に映し出されています。 永井さんは、唐紙の無地の部分もまた重要だ、と言います。
永井さん 「鳥の子って言うんですが、黄色っぽい色が絵の具で出せないいい色。鳥の子の色身が襖の無地で一番きれいに見える。無地と拮抗させたい、無地を多くしたい、なかなか難しい。」
日光、田母沢御用邸(たもざわ ごようてい)。 明治以来、代々、皇室に愛されてきました。
襖は装飾のない鳥の子の和紙。部屋全体がやわらかな光で包まれます。 襖は家の中で光を感じるための建具でもあるのです。
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