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File17 琉球の染織

 

壱のツボ 「紅」は王の輝き

南北1千キロにわたって百六十余りの島々が、つらなる沖縄。

古くから中国や東南アジアの影響の受け、自の文化を育くんできました。
15世紀以降、琉球の王家のもと 壮麗な文化が花開きます。

その中で、独特の色合いや模様を生み出したのが、 「染めもの」と「織物」です。

4種類のカラフルな糸を複雑に組み合わせて花のような模様を作りあげる読谷花織。

深い藍色が美しい宮古上布

白地に絣模様がひきたつ八重山上布

そして色合い豊かな琉球の布の中でも、ひときわ目をひくのが、「紅型」です。

紅型の紅とは、沖縄の言葉で、「多彩な色」を意味します。鳥や花を染める目が覚めるような鮮やかな色。

紅型には、亜熱帯の風土の中で育まれた琉球文化の精神が、こめられているといいます。

佐藤先生 「すごく強烈な色彩ですね。それが、濁りがない。まっすぐな 心、やわらかな心というものが、光り 輝く中から感じとられる気がする」

紅型の歴史を振り返ってみましょう。

紅型の起源は15世紀ごろ。 当時、王家やその一族などしか身にまとうことができない大変貴重なものでした。

18世紀には、交易していた外国からの使節団を迎えた宴で、宮廷舞踊の装束としても使われていました

琉球の王家に伝わってきた紅型の最高傑作ををご紹介しましょう。
今年、国宝に指定されました。

こい桃色の地に、王を象徴する 鮮やかな黄色の龍。紅型の華やかな色使いが絶大な王の権威を表わしているかのようです。



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琉球の染め織り鑑賞 一の壺、 「紅は王のかがやき」

 

琉球王 尚真が統治していたN世紀後半、琉球は周りの国々と盛んに交易を行い、栄えました。

琉球の王家の権威を諸外国に示すものとして、次第に鮮やかな紅型が使われるようになって いったのです。

紅型には琉球にはないモチーフが描かれ、その色も、現実にはない鮮やかなものでした。

真っ赤な菊。

青いしだれ桜。

 

琉球にない花や動物を、実物とは異なる色彩で描くことで、異国の様々なものを手に入れることができる琉球の力を示そうとしたのです。

王朝時代から、紅型作りに携わってきた城間家15代目城間栄順さんです。

城間さん 「灼熱の中に、海岸でね、自然に負けないような、本当に宝石みたいに輝いていますし、また海の色とも負けないくらいの自然を代表するような色なんですね。その辺をね、やっぱり昔の人は自然を捉えて王族、士族の衣装とかね、あるいは踊りのいろんなものに仕立てあげたんじゃないかと。」

紅型に使われる鮮やかな色。

 

この赤や黄色の作るこの粉末は、 鉱物を砕いて作る「顔料」と呼ばれる物です。

顔料は、強い日差しに当たってもほとんど色あせることがありません。

植物などから作る染料とその違いを比べてみました。

 

粒子の細かい植物染料は、簡単に布にしみこみます。

一方、顔料は、粒子が粗いため、表面に残ります。そのため光をより反射し、染料の2倍以上の鮮やかさを 感じさせるのです。

 

黄色や赤の原色の花々にも負けず、 空や海の真っ青な輝きにもひけをとらない紅型。
琉球のつよい太陽の光の中で、 いっそう輝きを増します。

紅型の鮮やかな色が生み出す存在感。それこそが、王が自らの権威を示すために必要としたものだったのです。

弐のツボ 見えない結び目を探せ

琉球の織物には、とてもユニークな素材を使ったものがあります。

淡いクリーム色が涼しさを感じさせる芭蕉布です。

最高級の芭蕉布は、布の向こう側が透けてみえるほど薄く 「トンボの羽」にもたとえられます。

芭蕉布は、バナナの木ににた芭蕉の木から採れる繊維で作られます。

かつては、琉球の全土で作られていましたが、戦争や戦後の生活の急激な変化の中で、途絶えかけたこともありました。

今は、そのほとんどが、沖縄本島北部の喜如嘉という村で作られています。

芭蕉は、木の幹をはいでいく中で、 3つの部分に選別されます。

このうち上質の芭蕉布は、内側の「ナハグ」と 呼ばれる部分から取れる糸だけで織られます。
一反の布を織るには、なんと 200本の芭蕉の木が必要なのです。

芭蕉の木が多く自生していた 琉球では、芭蕉布は、かつて庶民の着物として愛用されました。今もその暮らしを守り続けている。喜如嘉の人々がいます。

玉那覇さんの夏の一番のお気に入りは、奥さんが木から育て、織り上げた芭蕉布で作ったシャツです。

玉那覇さん 「これ着たら、他のものは着れないですね。風が通りぬけていくような感じで、とても涼しいですから。」

薄くて着心地のいい芭蕉布。

その布を作るために、琉球の人々は様々な工夫を重ねてきました。

実は、この布には、 一目、見ただけではわからないほどの  小さな結び目がいくつもあるのです。

琉球の染め織り鑑賞 二の壺  「見えない糸の結び目を探せ!」

 

木の幹から取り出される芭蕉の繊維です。1本は1メートル20センチほどです。
採りだされたた繊維を糸にするのは地元のおばあたちです。

芭蕉の繊維を細く裂き、繋げていく 「苧うみ(ウーウミ)」と呼ばれる作業です。

結び目は、大きさ0.5ミリ程。

この作業が芭蕉布作りの中でももっとも熟練を要します

弱く結んでしまうと、引っ張るとすぐほどけてしまいます。

しっかり結んでも、糸のきり方が悪いと織るときに、他の糸に ひっかかってしまいます。


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では最高の結び方をお見せしましょう。

どうです、この小ささ!

普通に見ていると見落としそうなくらいの結び目です。

平良さん 「細く紡ぎ、きちんと抜けないようにする。 糸うみの技術が、織りになった場合きちんとわかるんです。」

 

作業すべてを一人ですると、一年で作れるのはたった二,三反です。

織り上げられた布を じっくりみてみましょう。どこが結び目かわかりますか?

繊維1本、1本が見えるほどクローズアップして、やっとわかりますね。離れるとやっぱりみえません。

 

織り上げた布は、さらに灰汁で煮こみます。こうすることで、芭蕉の糸が、やわらかくなり、着心地が良くなるのです。

乾かした後、湯のみでしごいて、 さらにやわらかく、また結び目が目立たないように仕上げます。


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風にそよぐ薄い芭蕉布

おばあたちの手わざが生み出す小さな結び目が、トンボの羽根にたとえられる芭蕉布の薄さの秘密なのです。

ここで、究極の芭蕉布をご紹介しましょう。

光がすけて見えるほどの薄さです。見えない結び目がここにはいくつも隠されています。手わざを惜しまず作った最高級の逸品です。


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参のツボ 島々の絣を楽しめ

最後に着物の模様を見てみましょう。

 

琉球の織物を飾る絣模様。その数は、何百種類にもおよびます。

幾何学的な形が、特徴ですが、実は、そのほとんどが、琉球の自然や生活に身近な品をモチーフに作られたものなのです。

染め織り鑑賞、最後の壺は「島々の絣模様を楽しめ」です。

これは水の流れをあらわした 「ミジグヮー」。

こちらは、 馬と荷台を繋ぐ金具をモチーフにした 「クヮンカキー」

徳利の形をしているのは、 「トックリビーマ」

舞飛ぶホタルをあらわすのは、 「ミィーツ・ジン」です。


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こうした琉球の絣には、 悲しい歴史があります。1609年、薩摩藩が琉球王国を侵略したのです。

宮古島に現在も残る「人頭税石」。
高さ1メートル42センチ。島民は、誰でも背丈がこの石の高さを超えると税金を課せられるようになりました。

薩摩藩は、税を米などで納めさせるだけでなく、琉球で盛んだった織物も納めさせました。

島民に見本帳を配り、琉球の美しい絣の文様をちりばめた様々な布を織らせたのです。
こういった絣文様の入った布は、「薩摩絣」として大阪や江戸で人気を博し、薩摩藩の財政を潤しました。


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そうした辛い環境の中でも、琉球の女性たちは、豊かな絣模様を発展させていきました。

実は、多様な絣模様を生み出す独特の方法が琉球には あったのです。

それが「手結い」です。
白い部分が残る横糸を1本1本手でずらすことで、自由自在に絣の模様を作るのです。

同じ一本の糸でも、ずらし方が異なれば、まったく違う模様を作ることができます。


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まず水の流れを織り上げてみました。

糸のずらし方を変えれば今度は、鳥の形ができました。

 

どうしてこんなことができるのか、よくみてみましょう。

水の流れを表わすには、糸の白い部分をずらす方向を最初は、左に、序々に右へと変えていきます。

同じ糸でも、中央部分だけ右へずらすと、 鳥の形になりますね。

「手結い」では、織る人の自由な発想が、そのまま絣の模様となるのです。
桃原先生 「自分で想像しながら、他の絣作ったり、鳥が出てきたり、その後に、その絣で水が 出てきたり、いろんなのに展開できるから。」

美しく織り上げられた琉球の絣。

鳥や花、水といった模様ひとつ一つがランスよく組み合わさり、一枚の布に調和のとれた見事な空間が生まれます。身近な自然や暮らしの中から模様を創造し、それを「手結い」でひとつひとつ丁寧に作りあげる。
多彩な絣模様には、どんな環境にあっても美しいものを求め続けた一途な思いがこめられています。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Lullaby of Birdland George Shearing
Too close for comfort Mel Torme
Stockholm sweetnin' Clifford Brown
Lullaby of Birdland Jaki Byard
Cease the bombing Grant Green
Volare The Poll Winners
My old flame The Tal Farlow
Don't go to stranger Milt Jackson
When a man loves a woman George Shearing
That Slavic Smile The Modern Jazz Quartet
True Blue Tina Brooks
Lullaby of Birdland Sarah Vaughan