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File123 陶器と磁器


やきものは、大きく陶器と磁器に分かれます。
同じやきものでありながら、この二つは一体何が違っているのでしょうか?

京都で、やきものの技術を研究する 横山直範さん。

横山「陶器は主原料として粘土でできています。そして磁器は、陶石という石原料でできているのが、大きな違いです」


陶器をつくる粘土は、各地で採れる土です。
一方磁器は、限られた産地でしか採れない陶石という石を砕いて使います。
陶石には、ガラスと共通の成分が多く含まれています。

横山「磁器はガラス質が多く、陶器はガラス質が少ないということになります」「そのため、磁器の方がよりガラスに近いといえます」

日本のやきものを研究している美術史家の河原正彦さんです。

河原「陶器は温かみがあり、触ってみたいという感性を呼び起こす物質。磁器の方は、きりっとした冷たさを持っていますし、生活の器の中でも高級感のあるもの」「素材としての陶器は、作りやすく、自分の手の中でさまざまな形を作り出すことができますが、磁器の方は、なかなかそういうふうにはいかない」

広く陶器というとき、多くの種類が含まれます。
この壺のように釉薬を掛けないものもありますが、多くは釉薬で多様な表現をします。
釉薬は、防水とともにやきものの化粧でもあります。
磁器は、白地に絵の具と釉薬で絵付けをします。

多彩な日本の陶器と磁器。
そこから、個性的な3つのやきものをご紹介しましょう。

 

壱のツボ 備前焼は土の味 土の力

まずは陶器。岡山県備前市で焼かれてきた備前焼です。

これは桃山時代に作られた備前焼の大とっくり。
炎が土の上に足跡を残したかのような、不思議な模様です。
陶器の魅力は、何といっても土の味わいにあります。
備前焼には釉薬を使いません。
窯で焼かれるうちに生じた色や模様、窯変が、荒々しい土の表情を生かします。

陶芸ギャラリーを営む、アメリカ人のロバート・イエリンさん。
20年前から備前焼に魅了されてきました。

イエリン「これは500年近く前に作られたものだけど、すごく荒いですね。肌をみるとボコボコ穴はあるし、ほんとに土そのままに使ってる」「こういう力をもっているものとか美しさは、現代を生きている方たちも感じている。やっぱり良いものは残りますね」


一つめのツボ
「備前焼は土の味 土の力」

日用の器だった備前焼の美しさが注目されたのは、桃山時代のこと。
茶人たちがその風合いを好み、茶道具に見立てたのです。
たとえばこのとっくり。
茶室では花入として用いられました。
茶人たちは、野趣あふれる土の感触に、新鮮な魅力を感じたのです。

備前焼の粘土は山々から雨水に流され数億年かけてたい積した土で、焼いたとき独特の窯変を生む有機物が多く含まれています。
その粘土を練り上げるとき、目の粗い土や小石を残したまま粘土を練り上げるのも特徴。


備前の陶芸家、伊勢崎満さん。

「粘土を押さえて押さえて、力強く肌がなるように作ると、焼き上がりで肌の重さが違います」

備前焼の器の形は、重く肉厚なものが好まれます。
表と裏から押さえて、土を強く締めることで、備前焼ならではの重量感が生まれます。

桃山時代の種壺。

水差しとして使われました。茶人たちが注目したのは、粘土に含まれた小石が窯の中ではじけたあとです。無骨なたたずまいに茶人たちが感じ取った美。
備前焼は、土そのものをめでる陶器です。

弐のツボ 唐津焼にのびやかな筆がおどる

続いては模様を楽しむ陶器、唐津焼。

唐津焼は、桃山時代に庶民の器として生まれました。
代表的なスタイルは、灰色がかった釉薬と濃い褐色の絵付けです。
絵唐津と呼ばれ、野の草など素朴な図柄が中心。
この壺には、水辺に揺れる芦が描かれています。


美術史家の尾久彰三さん。

尾久「唐津焼の絵の魅力は、筆の運びのすばらしさだと思います。筆遣いが、当てた瞬間の太い線と、それをつなぐ伸びやかな細い線ですね。その絶妙なバランスが美しい。その線の美しさは周囲の余白が美観を醸し立てる」

二つめのツボ
「唐津焼にのびやかな筆がおどる」


唐津焼のふるさと、佐賀県唐津市。
陶芸家の中里太亀さんの工房です。
絵唐津独特の線はどのように描かれるのでしょうか。


これは桃山時代からの伝統的な文様。
大地からまっすぐに伸びる野の花を表しています。
絵の向きに注目してください。逆さまに描いています。
筆を手前に引いて、線を描くためです。

中里「筆を押して描くと直線が引きにくい。穂先がふにゃふにゃと曲がってしまって。引いて描いた方が直線は描きやすいんじゃないかと」


引いた線は伸びやかで勢いがあります。
唐津焼の文様の多くは、筆を引いて描かれていました。
すっきりとした細い線と、太く力強い線で表されたススキの葉。
線の魅力を最大限に引き立てる、簡素な絵柄です。


絵唐津は、料理の器として活躍してきました。
唐津市にあるしにせの旅館で、地元の食材を使った料理を盛るのは、絵唐津の器です。
女将の大河内はるみさんは……

大河内「昔から伝統的な絵唐津の模様がたくさんありますけど。草だったり木だったりしますけど。これがあんまり精ちな絵が描いてありますと、お料理と合いませんし、シンプルな方がよろしいですね」


あえて描きすぎない、大らかで自由な陶器の味わい。
唐津焼の魅力、わかりいただけましたか?

参のツボ 色絵が際立つ柿右衛門の白


最後は伊万里焼。
日本を代表する磁器です。

伊万里焼は、江戸時代の初めに佐賀県・有田で誕生しました。
最初に作られたのは染付。
呉須と呼ばれる絵の具で青の絵付けをした磁器です。
続いて、多くの色を使った色絵が登場。

そして17世紀後半、伊万里焼の名を世界に知らしめる様式が完成しました。
中心となった作り手の名から、「柿右衛門」と呼ばれます。
たっぶり余白を取った中に、青や赤で描いたみずみずしい絵柄が特徴です。

この明るく澄んだ色彩が、ヨーロッパの王侯貴族も夢中にさせました。
柿右衛門は、色の透明感と鮮やかさが際立っています。
この違いを生む秘密は、地肌の白にあるのです。

人間国宝の十四代酒井田柿右衛門さん。
柿右衛門の白にはどんな特徴があるのでしょうか。

酒井田「柔らかい白になってるんです。その上に乗っている色絵ってのが、ほんわりと楽しそうに、非常にこう、鮮明な色に見れるというか、色の本当の本質を見れるというか、やはり白の温かさというのが非常にいいと思います」

色彩を際立たせるのは、温かな白でした。

三つめのツボ
「色絵が際立つ柿右衛門の白」

有田で焼かれる磁器の原料は、泉山の陶石。
鉄分が多く、焼くと地肌が青みを帯びるため、色絵の色彩をくすませてしまいます。
そこで、ほかの山で採れる2種類の土を混ぜ、青みが出ない素地を作ります。

形を作り素焼きにすると、真っ白な磁器に。
素焼きにしたものを、同じ土で作った釉薬に潜らせます。
そしておよそ40時間。
1300度の炎が、あの柔らかな白を生み出します。
完成した白は濁手(にごしで)と呼ばれます。
濁しとは、この地方の方言で米のとぎ汁のことです。

酒井田「合わせ土してますので、単身の石と違いまして、非常にろくろの成形のときに手がかかる、あるいは乾くときに窯の中で非常にロスが出ます。それだけ犠牲を払っても、やはり色絵の美しさっていうか、味を出したかったのじゃないですかね」


こうして出来た器に、絵付けを施していきます。
磁器ならではの精ちな模様です。
そして、三たび窯の中へ。
すると、濁手の白はそのままに、絵の具が鮮やかに発色します。
真っ白な画用紙に描いた水彩画のように、透明感あふれる色彩。
柿右衛門は、日本で生まれた色絵磁器の最高峰なのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

今まで数々の陶器・磁器をとりあげてきた「美の壺」。その、そもそもに切り込んだのが今回のテーマ。でも、「味わいの違い」がよくわかりました。陶器の土の味わいも、磁器の繊細な絵付けも甲乙つけがたいですね。私は窯元めぐり、というか産地でいろいろな作家のものを見比べるのが大好きなのですが、作家の個性や特徴の出たものには、それぞれ魅かれるものがあります。
今回は弓子さん、びびるさん、谷さんファミリーが集結したのも見どころの一つ。最後に「美の壺」まで登場して何かが始まりそうな予感・・・。
来週からの「美の壺」もどうぞよろしくお願いいたします。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Moanin' Art Blakey
Delicado The Three Suns
Si - Joya Duke Jordan
Satin Doll The Three Sounds
But Beautiful Freddie Hubbard
The lady Is A Trump Horace Parlan
I'm Old Fashioned John Coltrane
You'd Be So Nice To Come Home To Paul Chambers
The Donkey Serenade The Three Suns
What's New Milt Jackson
Gee Baby,Ain't I Good To You Kenny Burrell
Autumn Leaves Miles Davis
Darktown Strutters' Ball The Three Suns
I'll Remember April Sonny Clark
April In Paris Thad Jones
Maiden Voyage Bobby Hutcherson
Stella By Starlight Duke Pearson
Moanin' Ray Charles