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File118 ガラスの器


壱のツボ ぼかしが想像をかきたてる

明治から昭和初期に日本で作られたガラス。
西洋から近代的なガラスの製造技術が入ってくると、当時の職人たちは懸命にその技を学びました。


文様を見てみると、松の葉や青海波(せいがいは)と呼ばれる波が使われています。
いずれも日本の伝統的な文様です。


ガラスは当時の人々にとって、あこがれの品。
和のテイストをもったモダンな作品が次々と登場しました。
こちらはおぜんやおわん、はしに至るまですべて霜が降りたような模様が特徴の結霜(けっそう)ガラスと呼ばれるもので作られています。

日本の食卓に欠かせないしょうゆさし。

厚みのある質感に「波に千鳥」の文様が浮かび上がっています。
1点1点職人たちがこだわりをもって作り上げたガラスの器。
西洋のものを日本独自にアレンジし身近な芸術品です。

現在、女性の人気を集めているガラスの器があります。
大正時代に作られていたものを復刻しました。

こちらは大正から昭和にかけて、盛んに作られた乳白色の器です。
白いレースのようなはかないぼかしがさまざまな文様を浮かび上がらせます。


竹久夢二伊香保記念館館長 木暮享さん。

木暮「これこそ日本の色、大正の色落ち着いた色を出す日本の感性。あからさまに見せないところが想像させる」

ガラスの器一つめのツボは、
「ぼかしが想像をかきたてる」

このぼかしは、「あぶり出し」という技法によるもの。
「あぶりだし」とは、温度差により、文様を浮かび上がらせる技法です。ガラスの原料に「骨灰(こっぱい)」と呼ばれる牛の骨の粉を混ぜます。これを混ぜたガラスを急激に熱すると乳白色になります。


模様を作るには、凹凸のついた型にいれ、空気を吹き込みます。
型の中でガラスをふくらませると凹凸ができ、温度差が生まれます。


このガラスを再び熱すると、ガラスのへこんだ部分だけ温度が急激に上昇し、乳白色になるのです。

そもそも「あぶりだし」は、ヨーロッパの技術。
ヨーロッパのものはガラスの表面がでこぼこしています。

それに対し、表面が滑らか。
最後に再び型にいれ、空気を吹き込むからです。
こうすることで、溶け合うようなぼかし文様が生まれます。

木暮「毎日日常、朝から晩まで自然から受け取るかたち、そこにデザインを生み出す日本人の優れた感性。生活の中に自然を取り入れ、生活を楽しんだ日本人はそれをガラスのなかにも取り込んだんです」

乳白ぼかしのガラスにわずかな色を加えることで、想像がぐっと広がります。
日本で作られてきた、ガラスの器にはたおやかな自然の表情が溶け込んでいるのです。

 

弐のツボ 金が生む鮮やかな赤を堪能たんのうせよ


大正時代、赤・青・黄、さまざまな色がガラスを彩ります。
当時、着色剤の種類が増えたため、多くの微妙な色合いが生まれました。


怪しく輝くこのガラス。
ちょっと驚く物質が入っています。
それは、ウランです。


紫外線を当てると…このように蛍光色に輝きます。
コレクターの間で人気が高いガラスのひとつです。


ガラスを集めて45年。ガラスコレクターの戸澤道夫さんです。

戸澤「美しくなければガラスではない美しくなければ買わない」


そんな戸澤さんが最高の一品だと言うのがこちらのデキャンタとグラス。
ピンクがかった輝くような「赤」がひときわ目をひきます。
この「赤」、金で発色させており、「金赤(きんあか)ガラス」と呼ばれる特別なものなのです。

戸澤「赤でも色々な赤がある。金赤がピンク色のなかでは最高。それがなかなかない」

気品漂う金赤ガラスの赤は究極の赤。

そこで、二つめのツボは、
「金が生む鮮やかな赤を堪能せよ」


日本では、江戸時代から銅で発色させる銅赤ガラスが作られてきました。
銅赤(どうあか)ガラスに比べ金赤ガラスは明るく透明感があります。


明治に入ると、船の行き来が盛んになり、衝突防止のため舷燈(げんとう)をつけることが義務付けられました。
しかし、銅赤ガラスでは、闇夜に十分に光が届かないため、より光を通すものをと試作されたのが、金で発色させる「金赤(きんあか)」だったのです。

金赤ガラスは、火の温度や調合の仕方で発色が変化するため作るのが難しいガラスです。
江戸硝子(えどがらす)伝統工芸士 田嶌文男さん。

田島「金赤は作りにくい。それがひとつの希少価値でじゃないか。」

作る環境や職人の腕によって微妙に色が変化する金赤。
同じ赤が二つとないといわれています。
ひとつひとつ個性を味わう。それもまた金赤を鑑賞する楽しみなのです。

参のツボ あたたかき途上の美を味わえ

東京都小平市にお住まいの伊東さん御一家は、古いガラスの器を生活の中で楽しんでいます。

伊東峰子さん 「器が日常を楽しませてくれる」
伊東寛明さん 「ちょっと不完全なところが良い」

そこで、最後のツボは、
「あたたかき途上の美を味わえ」

ガラスコレクターに人気の骨とう店では、あまねく暮らしのなかで使える古いガラスを数多く取りそろえています。
店主の山本利幸さんはかつてステンドグラス作りを学んでいました。

ガラス作りにたずさわるうち、ひとつひとつに個性がある明治・大正時代のガラスにひかれるようになりました。

山本「意図せず、こういうかたちになってしまったところが手になじむし、あったかい」


山本さんのお気に入りは、このビールグラス。


明治大正時代のガラスには、不格好なものが少なくありません。
しかし、そこにはその時代ならではの空気が封印されているのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

私が生まれ育った北海道でも、港町・小樽はガラス工芸が盛んな町。休日に出かけていって、お店めぐりやギャラリーめぐりを楽しんだものです。
そういえば、昭和一けた生まれの義理の母はガラスの器が大好き。いっしょに小樽に行ったとき、かわいらしい器をみつけて「カキ氷にいいわね」と喜んで買っていたのを思い出します。番組の中でも紹介したように、ガラスの器といえばかき氷!という時代が確かにあり、氷へのあこがれとガラスへのあこがれはある世代の人にはわかちがたく結びついているのでしょう。
そんな時代の「あこがれ」をまとっているからこそ、昔のガラスはノスタルジックなのかもしれません。
それにしても、外国の技術を取り入れながら、しっかり「和のガラス」をつくってしまう日本人の創造力には今回もまた感心してしまいました。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Moanin' Art Blakey
Coppelia The Three Suns
Polovtsian Dance Alex Riel
You And The Night And The Music Paul Smith
Waltz For Debby Earl Klugh
Tom Cat Blues Wynton Marsalis
Si - Joya Duke Jordan
Traumerei Akiko Grace
Crazy Rhyhm The Three Suns
Laura Charlie Parker
Round About Midnight Miles Davis
Cheek to Cheek Turtle Island String Quartet
It Could Happen To You Bud Powell
Alt Wein The Three Suns
Gavotte en Rondeau New Roman Trio
Stardust Branford Marsalis
Stars Fell On Alabama Ella Fitzgerald & Louis Armstrong
Coppelia The Three Suns