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File115 祭りの面


ひょっとことおかめが愉快に踊る「江戸里神楽(えどさとかぐら)」。
祭りのとき、神様に奉納するための舞いとして江戸時代から広く親しまれてきました。
面は舞い手の動き次第で、まるで言葉を発しているかのような表情を見せます。


里神楽を舞って70年になる松本源之助さんです。
代々受け継がれてきた面を使って、さまざまな役を演じてきました。

松本「例えば大黒様は、すましてたんじゃ面白くない。また、道化すぎても困るんですよね。神様ですから柔らかく演じるんです。声は出さないけど、自分でもそういう気持ちじゃなきゃね。お面といっしょに自分の体もいっしょに動くと」


ひとつひとつに刻まれた豊かな表情。動きが加わることで、新たな命が吹き込まれます。

 

壱のツボ 誇張された表情を楽しむ

島根県浜田市。
秋、収穫が終わるころ、あちこちの神社で祭りが行われます。
奉納されるのは、この地方に伝わる石見神楽(いわみかぐら)。神話の世界が華やかに演じられます。
お姫様から神々まで個性的なキャラクターが次々と登場し、見る人を物語の世界へと引き込みます。

中でも人気なのが、商売繁盛の神・恵比須様です。
一目で分かる満面の笑顔。いかにも血色の良さそうな色で、笑っている表情が強調されています。

こちらは、ヤマタノオロチを退治する神様、スサノオノミコト。
大きく見開いた目と歯を食いしばった口元が、悪を懲らしめる力強さを表します。

悪事を働く狐(きつね)の面。
真っ赤な口を大きく開けることで迫力を出しています。
祭りの面は、善悪それぞれの性格をはっきりさせることで、どんな役柄なのか分かりやすく表現しているのです。


こんな独特な面は、伝統的に地元の職人が手がけてきました。
その一人、柿田勝郎さん。子どものころから石見神楽に親しんできました。

柿田「神楽の場合は、喜怒哀楽をはっきりというのが本来のものだと思います。能のように非常に幽玄な舞ではなくて、どちらかというと動きの激しい舞ですから、表情もそれぞれにこだわりがあるんですね」

ゆったりと舞う能では、微妙に変化する面の表情で喜怒哀楽を表現します。
一方、動きのある神楽では表情を追うのは困難です。そのため、一目でわかるように性格を際立たせた面が作られました。

祭りの面鑑賞、一のツボ。
「誇張された表情を楽しむ」

面の表情はどのようにして作っていくのでしょうか?
石見神楽の場合、まず粘土で型を作ります。


粘土でできた型に、地元特産の丈夫な和紙を幾重にもはっていきます。
和紙を使うのは面を軽くするため。動きの激しい石見神楽独特の技法です。


乾燥させ粘土の型を壊すと面の原型ができます。
ここにどのように色を塗るかによって、表情が大きく変わります。

その一つが隈(くま)取り。墨を使って陰影をつけ、輪郭を浮かび上がらせます。

柿田「優しい顔、怒った顔、隈取りをしっかりとるわけです。はっきりした方がわかりやすい」

続いて彩色。
白い胡粉(ごふん)で塗られた顔に、真っ黒な眉(まゆ)、そして赤い口。
人目を引くように、あえて原色を使います。


中国の魔よけの神、鍾馗(しょうき)の面。力強さの中にもどこか品格が漂います。


一方、こちちは鍾馗に退治される疫病神。
全体が濃く隈取りされ、邪悪さが強調されています。
喰(く)わんとばかりに威嚇する悪の面です。
原色に彩られ誇張された表情が、勧善懲悪の物語を強烈に印象付けます。

弐のツボ 忿怒の相に隠れた優しさ


岩手県北上市に鬼の面ばかりを集めた博物館があります。
その数1500点あまり。
日本各地で実にさまざまな姿の鬼が作られてきました。


愛知県岡崎市、瀧山寺(たきさんじ)に伝わる鬼。
一本の角に、カッと見開いた目が印象的です。


こちらは佐賀県鹿島市の浮立面(ふりゅうめん)。
細面(ほそおもて)で鋭い形相をしています。


全国の鬼の面を見て歩いてきた学芸員の鈴木明美さんです。

鈴木「鬼の表情は皆さんが知っているように怖い顔、いわゆる忿怒の形相ですが、怖いイメージの他に我々を守るという両犠牲が一つのお面に含まれています。かぶることによって鬼になり、そして魔を祓(はら)う。見れば怖いんですが、そこに秘める心というのは優しいものです」

祭りの面鑑賞、二のツボ。
「忿怒の相に隠れた優しさ」


鬼の面は、悪を表すばかりではありません。それぞれに、意外な素顔があります。
岩手に伝わる伝統芸能「鬼剣舞(おにけんばい)」。
今でも結婚式などのめでたい席や祭りで舞われます。

実はこの鬼たちは、我々人間を守るってくれるのです。
面に刻まれた忿怒の相は、悪を威嚇して打ち負かすため。

よく見ると鬼剣舞の鬼には角がありません。
中には角だけでなく牙が無い鬼も。改心して仏様に仕えるようになったため、このような表情になったと言われています。

鬼剣舞の面を作ってきた高橋正幸さん。
一つの面の中に鬼と仏、二つの顔を持たせます。

高橋「下向けにすると凄みが出てくるだろうと思います。私はそのように彫っているつもりです。優しいときには顎(あご)があがって、そんなに凄みがなくなる。面の傾きで表情を表したいと思うわけです。剣舞もそういう凄みと優しさを表現しなくてはならないと、私はとらえています」

大切なのは目の彫り。眉と目の境を深く彫りこみます。
ここに出来る影が相反する表情を作り出します。

面の角度によって微妙に変化する表情。上に向けると徐々に消えてゆく目の影。
鬼の目を、慈悲深い仏の目に変えていきます。

高橋「要するに人々の心をときには奮い立たせる、ときには優しくする。本来は優しいものなんですよ、仏ですからね」

さまざまな形で表されて来た鬼の顔。
そこには、秘められたもう一つの表情が隠されているのです。

参のツボ 獅子頭に贅の極み


最後に、華やかな獅子舞をご紹介しましょう。
加賀百万石のおひざもと金沢。加賀獅子(かがじし)は、舞うのに30人以上が関わる大がかりなもの。
江戸時代に藩の奨励で始まったと言われ、今でも秋祭りや正月に町をあげて豪勢に舞われます。


金沢には町内ごとに自慢の獅子頭が伝えられ、その数は200以上にのぼります。
どの獅子頭にも、それぞれ豪華な装飾が施されてきました。

漆をぜいたくに使ったこの獅子頭は、幕末に作られたもの。今も現役です。
白い馬の毛と、光り輝く金箔(きんぱく)で飾られています。

鹿の皮で覆われた獅子頭。その質感がリアルな迫力を生んでいます。
獅子舞に熱中した金沢の人々は、獅子頭を町の名工に作らせました。

加賀獅子保存協会の嶌村義隆さんです。

加賀「これは百万石・前田の殿様からの名残で、各町内が競って田畑を売ってまでも作ったと聞いています。これだけの彫刻師、漆を塗る職人、箔(はく)を打つ職人、全部が集まっている。集大成ですよね」

工芸の粋を集めた獅子頭は、贅を尽くした面の横綱です。

祭りの面鑑賞、参のツボ。
「獅子頭に贅の極み」

加賀の獅子頭は分業で作られます。
まず、その形を彫りだすのが彫刻師。
知田清雲さんは、獅子頭を彫り続けて50年になります。
直径60センチもある地元の桐の木から、獅子の姿を粗彫りします。
細部の表情は、30種類以上もあるノミを使い分けながら彫っていきます。

知田「原木の切り口に顔を彫るもんで、きれいな木目を見ると良い顔が見えるんです。それをいかに出してあげるか、というのが要だと私は思ってます。迷ったらだめで、自分が描いた顔をグッと」

見事な彫りは、塗りの技で彩られます。
加賀に伝わる漆器の技法を使い、漆を何重にも塗ります。

表面を麻布で覆ってから塗るのが美しさの決め手。
こうすることで漆の輝きが増し、いつまでも艶を保つことができるのです。

仕上げには、金箔を用います。
純度の高い上質な金箔をふんだんに惜しげもなくはっていきます。
きらびやかな金の角が全体を引き立てます。

獅子頭ひとつが完成するまでに、およそ1年かかります。
彫刻、漆、金箔。職人たちの技の積み重ねが、この豪華な獅子頭を生み出すのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

「鬼は外〜、福は内〜」もうすぐ節分ですね!
子どもの頃は近所のスーパーが紙でできた鬼の面を配っていて、それを大事にもらって帰り、家でまめまきをしました。
ちなみに私が育った北海道では、まくのは落花生。学校の教室でも帰りの会で先生が豪快に落花生をまきました。
どんなにまいても拾って食べられるのが落花生のいいところ。普段はあまり食べないのに、ついつい食べ過ぎてしまったものです。
私は能や歌舞伎、文楽を紹介する番組も担当しています。いずれも世界無形遺産に登録されている日本を代表する「伝統芸能」ですが、たとえば文楽のような人形芝居も、歌舞伎だって、日本各地に郷土色あふれるものが伝わっています。
今回のような番組を見ると、改めてそんな日本の芸能の裾野の広さを実感します。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
多羅尾伴内 七つの顔の男だぜ
The pearls The Jim Cullum Jazz Band
St.Thomas Sonny Rollins
Caravan Duke Ellington
橋本一子
Popsy The Bobby Timmons Trio
Eternal Joy Joe Lovano
Barrelhouse drag Carl Sonny Leyland
Pandaguru High Five
Lover dance Karel Boehlee Trio
Operation tango Richard Galliano
Manhattan moods McCoy Tyner
Wild Man Blues The Jim Cullum Jazz Band
The Pearls The Jim Cullum Jazz Band
Noble Clifton Anderson
Waltz for Ruth Pat Metheny, Charlie Haden
Love no.1 Keith Jarrett
大菩薩峠
Wild Man Blues The Jim Cullum Jazz Band