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File114 民芸


「民芸」という言葉の生みの親、それはこちら柳宗悦(やなぎ むねよし)。
東京、目黒にある日本民藝館には柳が集めた品々が展示してあります。


日本民藝館蔵

これは朝鮮半島で日常的に使われていた壺。
やさしい曲線や、ほのかな模様に柳は感動し、身の周りにある美を追い求めるようになります。


日本民藝館蔵

紬(つむぎ)など、庶民の着物として使われた手織りの布。
こうしたふだんの生活に用いる品々を柳は民芸品と名づけました。


日本民藝館蔵

「民芸」とは『民衆的工芸』を短くした柳の造語です。

その意味をこう述べています。

『第一は実用品である事、第二は普通品である事。
沢山出来る器、買いやすい値段のもの。民衆の生活に即したものが民藝品なのです。』
(「民藝の趣旨」より)

身近な生活の道具に美を見出す。
それは当時としては画期的な考え方でした。

 

壱のツボ てらいが無いから美しい

神奈川県、葉山町に住む漆工芸家、伏見真樹さん。

国産の漆にこだわった、なめらかなつやを持つ漆器を30年以上作り続けています。
伏見さんが漆器作りをはじめたきっかけは、書物を通して柳の言葉と出会ったことでした。

『素朴な器にこそ驚くべき美が宿る。作は無慾(むよく)である。
仕えるためであって名を成すためではない。
慾無きこの心がいかに器の美を浄(きよ)めているであろう。』
(「雑器の美」より)

伏見「いいものを作ろう、と考えたらいいものはできない、つまり、欲を出すなということだろう。自分の技術を伸ばすことで周りが見えない、そこまでの向上心は自己満足で、結果的にできたものは醜いんだと理解しました。」


日本民藝館蔵

日々、たくさんのものを作り続ける職人は無欲である。
だからこそ生み出せる純粋な造形に柳は美を見つけたのです。

民芸鑑賞、最初のツボ、
「てらいが無いから美しい」

職人が生み出す美は芸術家をも魅了しました。
柳とともに民芸運動を進めた陶芸家の河井寛次郎です。


河井寛次郎記念館蔵

器を彩る「釉薬(ゆうやく)」を巧みに使い、河井は高い評価を受けていました。
しかし柳は、こうした河井の作風を「しょせん、名品の模倣にすぎない」と批判します。


河井寛次郎記念館蔵

これをきっかけに河井のスタイルは大きく変化しました。
後期の作品。素朴で、温かみのある表情です。

河井は自らを“生涯一陶工”とし、作品に銘を入れることはありませんでした。
柳と同じようにありふれた生活の道具を集め身の回りに置きました。それらはすべて河井の手本となったのです。

河井寛次郎の長女、須也子さん。

河井須也子「家の前の道路工事のとき、土管が積んであって『L型土管』を見て『美しい』、と叫んだのです。」


河井寛次郎記念館蔵

土管にアイデアを得た作品です。
ここには芸術家としての作為は見られずただ、「物を作る喜び」があふれています。
そんなてらいの無さが、民芸の原点です。

弐のツボ 自然の意志を感じよ


日本民藝館蔵

民藝館に入ると一体の仏像が私たちを出迎えます。
柳が愛した「木喰仏」です。
一本の木をざっくりと刻む丸彫りの仏様。
荒々しい木肌を生かした彫りに、柳は人々の深い信仰心を見出しました。


日本民藝館蔵

農村で、野良仕事に使われた竹や、わら細工のかご。
農閑期の手仕事としてつやのある竹がていねいに編まれ美しい表面を作っています。
柳は材料こそが美を形作る力を持つ、と考えました。


日本民藝館蔵

『原料をただの物資とのみ思ってはならぬ。
そこには自然の意志の現れがある。』
(「雑器の美」より)


日本民藝館蔵

室町時代に焼かれた古丹波の大壺。
柳の愛した一品です。表面には流れるような緑の模様。
薪の灰と土が窯の中で生み出した自然の美です。

民芸鑑賞、二つ目のツボ、
「自然の意志を感じよ」


日本六古窯の一つ、丹波。
兵庫県、篠山市では今もふだん使いの器が多く焼かれています。

陶芸家、柴田雅章さん。
民芸の考え方に共鳴し陶芸の道を志しました。皿や椀、水差しなど器を焼き続けて30年になります。

こだわるのは丹波の土。鉄分が多く焼くと硬く締まります。
窯の燃料は赤松の薪。
この灰が、思いもよらない色を生み出します。

柴田さんの作品です。茶色、緑、黄、三色が微妙にまじりあった複雑な色合い。
窯の火が生み出した模様です。

柴田「薪は100年以上山に生えていた木。粘土に至っては100万年前の地層から掘ってくる。どれも自然そのままのもの。自然から与えられる恵みが美を作る。それは人間の持っているものを超える恵みでしょうね」

一見、平凡にも見える民衆の工芸品。
そこに息づく豊かな表情はまさに自然からの贈物です。

参のツボ 使い込むほど美しい


日本民藝館蔵

柳の収集品の中にはちょっと変わったものがありました。
これは山形県、庄内地方で使われた「背中当」。重い荷物を背負うとき使ったみのの一種です。
肩や背中の部分を縄やひもで編み、補強した結果このような幾何学的な模様が生まれました。


日本民藝館蔵

いろりの上からつるし、鍋などを掛けた自在かぎの横木。
火の上で使うので、波や魚など水にちなんだ彫刻が施され、煙のため黒光りしたつやが出ています。

長野県、松本市に柳の民芸運動に大きな影響を受けた家具工房がありました。
イギリス家具の良さを取り入れた手作りの家具を50年以上作り続けています。

社長の池田満雄さん。
満雄さんの父、池田三四郎さんが柳の助言をうけ民芸家具の工房をおこしました。

池田満雄「ただ見て美しいのでなく人の役に立って丈夫で健康的な家具を。そして美しくて、置いて慈しめるような家具を作ろうと始めたのです。」

人が、長年使い続けることで増していく、つやと輝き。

民芸鑑賞、三つ目のツボ、
「使い込むほど美しい」

座り心地の良さそうなゆるやかな曲線。
細かい部分まで、ていねいに削りがかけられるように職人は自分で作ったかんなを愛用しています。

組立職人の柴崎玄悟さん。

柴崎「お客さんが触っていて毎日楽しいって言ってくれる。使ってみてどうだったかと教えてくれることが自分にとって大きな力になるんです。」

使うにつれて味わいある表情になり、それがまた愛着を生み出す。
だからこそ民芸品には日々の使用に耐えうる力強さが備わっていなければならないのです。

晩年の柳宗悦の、貴重な肉声が残されています。

柳「直かに物に親しむことが肝心でありまして『知る』よりも『見る』ことを常に基礎とすべきだということを申し述べたいのであります。まず喜びを共にすることを願いたいと存じます。」

美しいものを共有することで心に平和が生まれる。
柳は美こそが、人と人とを結びつけ幸福をもたらすと信じたのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

柳宗悦が民芸運動の拠点とした「日本民藝館」に足を運びました。
お正月ということで初春らしい展示がされていて、小さな人形や絵をながめながら、そのめでたさに心温まるひとときを過ごしました。
長い時間をかけて洗練されていった民芸の健康的な美、柳はただ楽しむだけでなく、そうした日本の美の規範を知り、それを新しい創作にいかすことをも提唱したとのこと。身近に使うためだけに、正直にまっとうにつくられた美しいものを前にすると、なるほど、みずからの生き方を振り返り、美の見方を教えられるような気持ちがし、そうした美を生活の中に取り入れていきたいという気持ちがします。
柳が残した珠玉の言葉の中で、今回紹介した「作は無欲である。仕えるためであって名を成すためではない」という言葉はアナウンサーの仕事にも通じる言葉。職人が精魂こめた日本の美の美しさを、番組を通じてお届けすることに力を尽くそうと思います。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Moanin' Art Blakey
New Orleans Bump Wynton Marsalis
Parisian Throughfare Bud Powell
Cristo Redentor Duke Peason
How Insensitive Irio De Paula & Giannni Basso
Mood Indigo Marcus Roberts
So What Miles Davis
What's New John Coltrane
King Porter Stomp Wynton Marsalis
I Remember Clifford Yoshiaki Masuo & Tsutom Okada
Silver Moon Akiko Grace
Everything Happens To Me Wynton Marsalis
Smokehouse Blues Wynton Marsalis
The Days Of Wine And Roses Bill Evans & Toots Thielemans
Autumn Leaves Jim Hall & Ron Carter
Amazing Grace Naoko Terai
Black Bottom Stomp Wynton Marsalis