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File108 城下町


城下町は、もともと、城を守るための町。
城を中心に、武家屋敷や町家(まちや)が計画的につくられました。

武士が集まって住んだ守りの要、武家町。
屋敷は、藩から貸し与えられたもので、位に応じて、場所や広さが決められました。

城下町は、経済の中心地でもあります。
商人や職人が集まってきました。

呉服町や米屋町など、商(あきな)いごとに住み分けた名残が、今も町名に残っています。

城下町では、敵が城に近づくのを防ぐため、堀が巡らされました。

戦に備えるとはいえ、そこは人の住む町…
昔も今も、心を和ませる風景にあふれています。

 

壱のツボ 土塀が町を引き立てる

まずは「町割(まちわり)」。
江戸時代の都市計画に注目しましょう。

山口県萩。かつて長州・毛利家のおひざ元でした。
江戸時代の姿をもっともよく残す城下町の一つです。


藩の貴重な資料を見せていただきました。
町割を描いた地図です。
萩の町は、今も、この地図を頼りに歩くことができます。

萩博物館副館長、樋口尚樹さんにお話を伺いました。

樋口「江戸時代の道路が、90%以上も道幅を変えずに残っているので、江戸時代の城下町絵図が今でも地図として使えます。」


ここに描かれた町割を詳しく見てみましょう。

海と川、そして、堀によって城を守っています。
本丸に近い白い部分は上級武士が暮らした武家町。

赤い部分は寺や神社で、寺町と呼ばれました。
それ以外の色は、商人や職人が住む町人地です。

右が町人地、左が武家町。
大きな堀が、二つの町を隔てています。

そこには、橋が架かり、なにか建物が描かれています。

「北の総門」。
ここから先は武士が住む町。
一日中門番が警備していました。

町人地と武家町をつなぐ道…
通行は厳しく制限されていました。

武家町に入ると、白い漆喰(しっくい)塗りの土塀が目につきます。

どこまでも続く長い塀…
屋敷の大きさを想像させます。

そんな武家町の一画に、複雑に折れ曲がる道が…
鍵曲(かいまがり)です。

ここに攻め込む敵は、曲がり角ごとに速度を落とすことになります。
しかも、両側が土塀なので、見通しも利きません。

こうした鍵曲も、今では、城下町の風情を伝える景観です。

地元の建築家・三村夏彦さんに、城下町の歩き方をご指南いただきましょう。

三村「いったん、塀に遮られ、あるいは塀にぶつかり、また視点を変えることによって新しいものが立ち上がってきます。歩く過程で、折れ曲がることによって、シークエンスが変わっていくといいますか、景観が少しずつ変化するさまが楽しいのではないかと思います。」

変化に富んだ景観は、土塀があってこそ。

城下町鑑賞、壱のツボ、
「土塀が町を引き立てる」

土塀の一番下は石垣…
壁は漆喰で塗り固めてあります。

さらに雨よけと装飾を兼ねた瓦。
庶民の家に瓦屋根が少なかった時代…ぜいたくな造りです。

美しい町並みを守るために出された藩の「お触れ書き」が残されています。

「屋敷の門や塀に破損しているところが見受けられるが、倹約のご時世とはいえ、見苦しくないよう修繕すべし」

いわば、江戸時代の景観条例です。

土塀を美しく保つためのくふうもされてきました。
かすかに反っているのがお分かりでしょうか…

水に弱い漆喰が、雨に当たらないように考えられています。
角を面取りしているのは、ものが当たって、塀が壊れるのを防ぐためです。

屋敷を守るためにつくられた土塀ですが、景観にも配慮して高さが決められました。

三村「土塀は、当然防御の役割もありますし、道路と家との間の視線をさえぎるという目的もあります。しかし、そういうものを考えながらも、道幅に対して、歩く人が、見る人が、心地良い、圧迫感のない高さ、人間を中心に考えた高さというのが、必ず最後にはあるのだと思います。」

塀の高さは、道幅に合わせて変えられています。
道幅の狭いところでは、低めにつくられました。

庭の緑がのぞき、その向こうには遠くの山々…
整然とつくられた土塀と、自然の緑が、凛(りん)とした城下町の風景を生み出します。

弐のツボ 門に武士の格式あり

次の見どころは、「武家屋敷」。

長州藩の上級武士だった口羽家の屋敷。
江戸後期に建てられました。

口羽家は禄高(ろくだか)およそ千石。
藩の要職に付き、多くの家臣を従えていました。
家の中は、簡素なたたずまい。

これは武家屋敷ならでは珍しい間取り。
座敷の間に、狭い部屋をつくり、客が来たとき、家臣が隠れて主を警護しました。

屋敷でひときわ目を引くのが、この門。幅22メートルもあります。
長屋門と呼ばれ、中には家臣が暮らし、屋敷を警護していました。
外装はなまこ壁。高級な仕上げです。

萩の歴史に詳しい樋口尚樹さん。

樋口「武家屋敷は、門と塀に囲まれた空間です。大きな長屋門は格の高い武家ですね。特にお城に近い武家屋敷地は、他藩の使者なんかがきますし、参勤交代で殿様が行ったり来たりするわけです。そういう人たちの目を配慮して、格式の高い門を造ったということがあると思います。」

門構えは武家屋敷の顔…

二つめのツボは、
「門に武士の格式あり」

こちらは、のちに初代総理大臣になる伊藤博文が育った家。
典型的な下級武士の家です。

かやぶきの母屋を囲うのは、塀ではなく生け垣。
それでも、門はあります。
簡素な引き戸ですが、武士の家には、なくてはならないものでした。

用水路に沿って建つ中級武士の屋敷。
ここにも、立派な長屋門があります。
中には家臣が暮らした八畳と六畳の部屋。

この門には、立地を生かした、他にはない設備が見られます。
用水の流れを直接引き込んだ台所です。
萩でも、特に高い格式を誇った益田家。代々、家老を務めました。
門の一部だった大きな物見やぐらが残っています。
やぐらの左側には、幅8メートルもある出入り口がありました。
武家屋敷の門。
そこには武士が、何よりも重んじた格式と美学が表れています。

参のツボ 庭園は殿様の小宇宙

黒い壁が緑に映える岡山城の天守閣。
そのもとに広がる後楽園は、日本三大名園の一つに数えられる大名庭園です。
およそ13万平方メートル。
東京ドームの3倍近い広さです。

大名庭園は、城主の別邸や客を迎える場として作られました。
後楽園をつくったのは、岡山藩主・池田綱政。
みずからの美意識を思う存分反映させました。

敷地の中には能舞台もあります。
能を愛した綱政自身が、時には家臣の家族や領民にも舞って見せました。

お茶は、大名にとって、欠くことのできないたしなみ。
風雅な空間をもてなしの場としました。

後楽園の研究を長く続けている万城あきさんです。

万城「お殿様にとっては、自分がくつろぐ場が一番ですから、自分が好きな場所とか、好きな景色というのを造ったと思います。教養の高さとか、どこらへんに自分は興味があるかといったことを競い合ったのでしょう。その好みが、美意識と一体になると、いろいろな景色が、それぞれのお庭で造られていくんです。それが大名庭園の一つの魅力じゃないかと思います。」

隅々まで、城主の美意識が貫かれた世界。

三つ目のツボは、
「庭園は殿様の小宇宙」

庭園の中央にある大きな池。
水がゆったりと流れます。

ところどころに、島や森が配置され、山水による理想郷が形づくられています。

意外なものがあります。水田です。

城主は、農民が行う田植えの様子を眺めました。
田園風景や人々の営みにも美を見出したのです。

茶畑も作られました。
この地方で栽培されていた茶を庭にも取り込んでいます。
一番茶は城主が、茶の湯に用いました。
大名庭園は、殿様の小宇宙。
自らが治める国の縮図が、ここにあったのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

今回は谷さんも「小江戸」川越へ小旅行。さわやかな秋の空と紅葉の季節、旅情を感じていただけたら嬉しいです。
城下町のような古い町って風情のある町並みはもちろんのこと、歩いて散策しやすいということも大きな魅力ですよね。谷さんが番組の中で言っていたように「ぶらっと歩いてみますか」という気持ちになります。塀の高さと道幅まで計算していたというのは驚きですが、やはり「人間が歩くことを前提に町がつくられている」からでしょう。先日「探検ロマン世界遺産」のロケでイタリアのフィレンツェを訪れたのですが、フィレンツエも意外に小さな街で旧市街はすべて歩いて回れる大きさでした。
自分の足でその町の歴史を確かめながら歩く・・・その町の歴史にゆっくり思いをはせる時間が、その町の印象をより深めるように思います。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Moanin' Art Blakey
The Morning After Chico Hamilton
Theme For Basie Phineas Newborn,JR.
Falling in Love With Love   Helen Merrill
On Green Dolphin Street Duke Pearson
Northern Lights Duke Ellington
I'll Take Romance Paul Smith
The Queen's Fancy Modern Jazz Quartet
It Could Happen To You Bud Powell
Le Sucrier Velours Duke Ellington
Sometimes I Feel Like A Motherless Child Grant Green
What's New Milt Jackson
Big Lip Blues Wynton Marsalis
Waltz For Debby Earl Klugh
I Remember Clifford J. R. Monterose
Picture At An Exibition Niels Lan Doky
For Ellington JohnLewis
Stardust Nat King Cole
Take Me Out To The Ball Game Frank Rosolino