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華やかな役者の演技を引き立てる、絵巻のような舞台。
観客を魅了してやまない、大仕掛けの『からくり』。
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こちら、旧金毘羅大芝居(きゅうこんぴらおおしばい)・金丸座(かなまるざ)。
江戸時代後期の天保六年に建てられた、今に残る最も古い歌舞伎の芝居小屋です。
そもそも、江戸時代から芝居小屋は神聖な場所でした。
色とりどりの幟(のぼり)や、正面に組み上げられた櫓(やぐら)は、芸能の神を招き祝うためのものです。
芝居小屋の中で観客は、日常を忘れて舞台に酔いしれたのです。
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金丸座はおよそ八百人の観客を収容することができます。
一階の客席は升形に区切られ、観客は床に座って芝居を楽しみました。 |
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観客は『歩み』と呼ばれる、板の上を通って、自分の席につきます。
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天井全体に、張り巡らされた竹組み、『ぶどう棚』。
ここからさまざまな装置を吊(つ)るしたり、花吹雪を散らせたりしました。
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また、客席の左右には『明かり窓』。
電気が無かった江戸時代、公演は主に日中に行われ、この窓を開け閉めして、明るさを調節しました。
毎年、春に行われる「こんぴら歌舞伎」では、江戸時代の雰囲気を再現しています。
もともとほの暗い中でも目立つようにと、衣装や舞台装置が派手になったともいわれています。
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鮮やかな色使いとバランスの取れた構図で、芝居を引き立てる、歌舞伎の舞台装置。そこには、どんな秘密が隠されているのでしょう。
長年、歌舞伎の大道具を手がけてきた、金井勇一郎さんにうかがいましょう。
金井「歌舞伎の舞台セットは、西洋の演劇には無い、日本独自の美的感覚によって作られています。陰影はいっさい付けないで、錦絵のようにほとんどすべてが平面的な構成であるところが最大の特徴だと思います。俳優さんが舞台に上りますと、まさに、動く錦絵と言えます。」
錦絵とは、多色刷りの浮世絵版画のこと。
そこで、最初のツボは、
「舞台は動く錦絵と心得よ」
金井さんに、舞台装置を建て込んでいただきました。
出来上がったのは、『義経千本桜』の舞台。
桜咲き乱れる、吉野山の場面です。 |
| 最初に、「張物(はりもの)」と呼ばれる背景の描き方を見てみましょう。
金井「花びら一つ一つは精密に描かずに、デフォルメして描いております。これは、お客様の全体を見た時に美しく見えるように描かれています。」
確かに、近くから見た桜の絵は、形もシンプル。
それぞれの花は大ぶりで重ならないように描かれています。 |
| また、松の木や川などもデフォルメすることで、遠くから見てもわかるようにくふうされています。
錦絵に通じる省略の技法によって物語を象徴する背景が美しく浮かび上がります。
平面的に描かれながらも、舞台に広がりや奥行きが感じられるのには理由があります。
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まずは、舞台の上に飾られた「吊り枝」、実はこの、吊り枝があることによって、舞台に広がりがでるのです。
余白を埋めることで、無限に広がる桜を想像させてくれます。
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さらに、奥行きを作り出すくふうです。
『義経千本桜』などに使われる千畳敷の大広間。かなり奥行きがあるように見えますが、実は、わずか1メートルで大広間の奥行きを表現しています。
床も天井も壁も極端に狭まる形になっているため、より奥行きがあるように感じられるのです。
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限られた舞台の空間をより大きく見せるためのくふうの数々…
そこに役者が加わることで、舞台は、まさに、動く錦絵となるのです。
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