| 備前焼の表情を決めるもの… それは炎です。
窯たき。備前焼独特の表情を生み出すためには、薪(まき)を使う昔ながらの窯でなければなりません。
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岡山県立博物館 蔵 |
桃山時代の大徳利。
まるで炎が躍るような、不思議な模様です。
釉薬も絵の具も使わずに、どうやって描くのでしょうか? |
| 焼く前には、何の模様もありません。
しかし、焼き上げるうちに、窯の中で大きな変化が起きます。
窯変(ようへん)です。
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窯変は、どのようにして生み出されるのでしょうか…
備前焼五人目の人間国宝、伊勢崎淳さんです。
伊勢崎淳「太古の時代から人間が焼き物に携わって、縄文土器を例えば作る。それも、土と水と炎でやってる。その姿がそのまま今に伝わってきているような。備前の場合は、火の特徴というか、そういうものを知らないと、なかなか窯は焼けない。だから、土と炎の特徴に逆らわないように、助けてもらいながらやっていく。」
炎をあたかも筆のように操り、窯の中で完成させた絵…
備前焼鑑賞、最初のツボ
「炎の足跡を見よ」 |
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備前焼の窯たきは十日から二週間。
ほかの焼き物と比べ、倍以上の時間をかけます。
使われる粘土の性質が、その理由です。 |
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伊勢崎満さんも、現代の備前焼を代表する作家の一人です。
伊勢崎満「火に弱いので、収縮が多いとか、そういうことがあるので、ゆっくりと長い時間をかけて温度を上げていかないと、壊れることがある。それが備前の特徴にもなった。」
割れないように、ゆっくり焼き上げるうちに、炎の中でさまざまな窯変が起こります。 |
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窯に詰めた状態を再現してみました。
なぜか、横に寝かせてあるものも…
上と下では、火の当たり方が違います。 |
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桟切(さんぎり)と呼ばれる窯変が現れました。
上になって炎が直接当たった部分は、粘土に含まれる鉄分が酸化し、赤茶色に…
灰に埋もれて酸素が不足したところは、黒っぽい発色です。
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薪は赤松に限ります。
含まれる松脂(まつやに)が火力を強め、窯の奥まで炎が届くからです。
この薪が燃えたあとの灰も、窯変に影響を与えます。
灰のかかりやすい場所に置かれたものには、独特の風合いが現れます。
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中央の色が変わっている部分、胡麻(ごま)と呼ばれます。
高温で溶けた灰が、冷えるときにガラスのように固まったもの。
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緋襷(ひだすき)を作るためには、窯に入れる前に藁(わら)を巻きます。
緋襷は、器を運ぶ時に使った藁を取り忘れたことから、偶然生まれたと考えられています。
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緋色の模様は、藁に含まれるアルカリ分と、粘土の鉄分が反応して、浮かび上がったもの。
まさに、炎の足跡のようです。
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桃山時代の徳利。「かぶせ焼き」です。
焼くときに器を重ねた部分だけ、質感が変わります。
茶色い所が、器を被せた部分。
一方、炎が直接当たった部分には、胡麻が現れ、豊かな表情です。
炎が描き出す変化に富んだ窯変…
自然の力を巧みに生かす備前焼ならでは味わいです。
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