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File73 かやぶき屋根


壱のツボ 棟は家の顔

世界遺産に登録されている岐阜県白川郷の屋根は、手を合わせたような形から合掌造りと呼ばれ、屋根裏の大きな空間では、かつて養蚕が行われていました。

かやぶき屋根に用いるのは、ススキや稲わらなど、身近にある材料です。
また、茅(かや)とは、屋根を葺(ふ)くために用いるそれらの草の事を言います。

茅は、高温多湿な日本の風土の中で、優れた機能を発揮します。

油が含まれているため、雨をはじき、音を吸収するので、家の中はとても静かです。また、草を材料として使っているため、風通しが良く、夏は涼しく過ごすことができます。

かやぶき屋根は、日本人の暮らしに最も適したものとして受け継がれてきたのです。

最初に、屋根の最も高い部分、棟に注目しましょう。

棟に草や花、そして木が生えている家があります。これを「芝棟(しばむね)」といい、植物の根を張り巡らせることで、屋根を補強しているのです。

屋根の天辺にある棟は、建物を守る最も重要なところです。
屋根の面が交わる部分を、保護し、雨漏りを防ぎます。
棟を作るのは、かやぶき職人にとって、最も神聖とされる仕事です。

日本中を歩きまわり、かやぶき屋根の歴史を研究してきた安藤邦廣さんにツボを伺いましょう。

安藤「棟は屋根の天辺ですね、茅は軒から噴き上げて棟で収まります。 一番高い所にあるので工夫が凝らされる。その気候風土に対応しないといけない。使う材料はその地域の暮らしを支えている材料が用いられます。結果としてその地域の気候風土、あるいは歴史や文化を反映させた形を地域で作ってきたということですね。ですから、棟は屋根の顔と、その顔を見ればその地域がどこであるか分かるということですね」

かやぶき屋根鑑賞、壱のツボは
「棟は家の顔」

表情豊かな棟が各地で作られてきました。

全国で広く見られるのが、竹を編んで、屋根にかぶせた「竹簀(たけす)巻き」です。

木を交差させてつくる「置千木(おきちぎ)」。
木材が豊富な山間部に多い棟です。

屋根の天辺に茅の束を載せ、突き出た木材に固定する「笄棟(こうがいむね)」は、「おいらん」の髪型を思い起こさせます。

筑波山のふもと、茨城県石岡市。
およそ100棟のかやぶき屋根が点在します。

江戸時代後期に建てられた大場邸には、豪華な造りをした棟「竹簀巻き」があります。

この地方で豊富に採れる真竹を使い、高さ1メートル近くもある棟を作りあげました。
竹の弾力性を活かした複雑なデザインです。

さらに、その上には、棟に献上する木「けんとうぎ」という屋根を葺くために用いた材料への感謝の気持ちを表すものが置かれています。

この地方では、「棟」の両端にも飾り付けを行います。
この部分を、「キリトビ」と呼びます。多くのキリトビには、「竜」という文字が刻まれています。

竜という文字が多いのには訳があります。

鈴木「かやぶき民家にとって、一番火が怖いんですね。竜は海の中や地中、天空に住み、雲や雨を自在に操り水を呼ぶんです。そのため火災除けに竜の文字が彫りこまれているんです」

キリトビには、ここに暮らす人々のさまざまな願いが込められてきました。
この松竹梅は、「家運隆盛」の願いが込められた、ありがたい装飾です。

かやぶきの屋根と、美しい調和を見せる棟は、まさに、家の顔そのものです。

 

弐のツボ 軒の断面にこだわりあり

次は、軒に注目してみましょう。

高い天井を持つかやぶきの屋根は、軒に向かって大きくせり出し、美しい直線を作ります。
軒は、屋根を葺いたあと、職人の手できれいに切りそろえられます。

数多くのかやぶき屋根を手がけてきた沖元太一さん。
伝統的な屋根作りの技を継承する数少ない職人です。

沖元「一番目立つ所なので線を出すとか、そういった経験とかそういうものが必要になってくるんですけども、そういったことに気をつけながら、こういった軒ですと線がきれいに出るかどうかとか、こう曲線のような屋根だと、その曲線がいかにきれいに見えるかとか、そういったところが職人としての経験とか感性とか、そういうものが影響してくるというか。屋根も、同じ屋根が無いと思うので、それに対してどのように葺いていくかとか、そういうことが難しいところだと思いますね」

葺き方によって軒の表情も大きく変わります。

かやぶき屋根鑑賞、弐のツボ
「軒の断面にこだわりあり」

江戸末期に建てられた、茨城県石岡市の木崎邸。

この家の母屋には、他のかやぶき屋根にはない特別な軒の装飾があります。
厚さおよそ1メートルもある、深くせり出した軒。
そこには、色の違う茅が交互に積み重ねられ、層を作っています。

鈴木重夫さんは、この地方のかやぶき屋根のほとんどを葺き替えてきた職人です。

鈴木「黒が入るとすごくきれいに見えます。それで考えたのが、軒付けに一番下はわらでその次にこういう古茅(ふるかや)って言うのを使ったらば、白黒で装飾的なことを考えて、この古茅をわざわざ黒いのを使ったわけです。見た目がきれいだっていうのが一番いいんじゃないですか」

さらに、軒に竹を割って埋め込み、豪華さを出しました。

崎「うちの職人はこういうことができるとか、うちの職人は、ということがありますと、生活に余裕があると、どうしても良い職人を呼んできて、うちは負けないようにつくろうじゃないかっていう競争心もあったのかな?」

職人たちは、自分が手がけた軒に飾りを施しました。
こちらの家の軒には、家主の幸福を願って「鶴と亀」が。

軒は、屋根を葺いた職人が、仕上げの美しさを際立たせるところ。その断面に、職人たちのこだわりが隠されています。

参のツボ 黒い艶(つや)の材に歴史あり

最後に屋根裏をのぞいて見ましょう。

築200年のかやぶきの民家の天井裏を見上げると、独特の色と艶を持つ、重厚な木の骨組みが見えます。

鈴木「天井を見上げたときにですね、太い丸太が見えるんですけども、その丸太が構造上の一番大事な部分で、その丸太は最初に建てた時代から現在まで残っている。そこらへんの色合いをですね、そういうところを見ていただきたいと思います」

屋根裏の木材は長年煙でいぶされることで黒い艶を放ちます。

かやぶき屋根鑑賞 参のツボ
「黒い艶の材に歴史あり」

屋根に葺かれる茅の重さは、大きさにもよりますが、数トンにもなり、その重さを受け止めているのが「さす組み」と呼ばれる三角形の屋根組みです。

斜めに組まれた「さす」と呼ばれる木材は、水平に置かれた梁(はり)に45度の角度で固定されています。

梁が、「さす」から伝わる重みをしっかりと支えているのです。

さらに、屋根裏には、釘はいっさい使われていません。
丸太や竹は釘ではうまく固定できないからです。

代わりに使ったのは縄。「いぼ結び」という特別な結び方です。
この「いぼ結び」は、一度結ぶと、自然に緩むことはなく、硬く締まっていきます。

鈴木「50年、100年経つと、もう針金以上に稲わらが硬く締め付けられるからもう絶対緩むことは無いです。いぼ結びじゃなければ、普通にただ結わいただけじゃちょっと無理です」

囲炉裏(いろり)から出る煙は屋根裏をさらに堅固なものにします。

煙に含まれる、有機化合物が縄に少しずつ染み込み、結び目を固めていきます。

また煙には、防虫効果もあります。そのため、虫がつかず、茅が長もちします。

煙にいぶされた天井の竹は、小豆色に変わり、美しい光沢を帯びるようになります。

こうした竹は、スス竹と呼ばれ、竹かごなどの工芸品の材料として重宝されてきました。
最高のスス竹を使って編み上げられた竹かご。
時の重みを感じさせる深い色合いです。

煙にいぶされ続け、黒い艶をまとった屋根裏。

長い年月の間、ここに人が暮らしてきたことで生まれる色です。

生活の知恵が詰まったかやぶき屋根は、日本人の美意識も一緒にはぐくんできたのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

冬の柔らかな光を受けて輝くかやぶき屋根の家、庭には橙色の実をつけた柿の木・・・まさに日本の原風景、心がなごみますね。
今回はかやぶき民家の『美』。棟や軒、柱に梁にすす竹、といくつか共通のポイントがあるんです。「今度古い家を見た時は確認してみよう」と思っていたら、さっそく郊外をドライブ中に、蔵の壁に『竜』の文字を発見!かやぶきの家ではありませんが、きっとこれも「火事が起きませんように」と願ってつけられたもの。見渡せば、その周りにはあちこちに蔵があって、『竜』だけでなく『水』と書かれているものもありました。古い蔵はもちろん、最近塗り替えたような真っ白な壁にも黒々と『竜』の文字が。昔ながらの風習はしっかり受け継がれているんですね。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Django’s Castle Joe Pass
You’d So Nice To Come Home To Jim Hall
Grandfathers Waltz Stan Gets / Bill Evans
Take The “A” Train Duke Ellington
Embraceable You Clifford Brown
You Leave Me Breathless Milt Jackson
Rosetta Joe Pass
Falling Grace Chick Corea / Gary Burton
Country Keith Jarrett
Stolen Moments Turtle Island String Quartet
Nuarges Joe Pass
Come Sunday Booker Ervin
Maiden Voyage Bobby Hutcherson
Smoke Gets In Your Eyes Jo Stafford
Lime House Blues Joe Pass