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File70 苔(こけ)



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京都、高桐院(こうとういん)。

美しい苔の庭を持つ寺として知られています。
四季折々、庭の美しさを引き立てるのが苔です。


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一方、東京では苔を使った緑のインテリアが人気です。
苔を丸めた、「苔玉」は若い女性が買い求めていきます。


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苔の種類は世界中で2万、日本には1600種類。
日本の庭によく見られるスギゴケ。
一つ一つが木のように直立した苔です。


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明るい緑のスナゴケ。
小さな星をちりばめたような形です。


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そしてじゅうたんのようなホソバオキナゴケ。


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苔は古くから、日本人の美意識にさまざまな影響を与えてきました。

立ちかへり 思ふこそなほ かなしけれ
名は残るなる 苔の行方(ゆくえ)よ

思い返すと悲しいことだ
名は残せても、人は死んでしまう。

苔の行方とは死後の世界のこと。
藤原定家は静寂な場所に生える苔をこう例えました。

苔は日本人がもっとも身近に感じてきた自然の美です。

 

壱のツボ 苔が生み出す理想の境地


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京都、西芳寺(さいほうじ)。


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通称、苔寺(こけでら)として有名な寺です。
大きな池を中心に広がる1万坪以上の庭が苔に覆われています。

ここに生えている苔は、ホソバオキナゴケ、スギゴケなど100種類以上。
すべてが苔の緑に埋め尽くされた幽玄の世界です。

日本中の苔を研究してきた秋山弘之さんです。

秋山「一番の基本は光合成をする一番原始的な植物…ふだんは目立たず重要ではないが、場所によっては環境をそのものを作る大きな要素となっているのがおもしろい所。」

苔が作り出す世界に日本人は理想郷を見出しました。

苔鑑賞、壱のツボ、
「苔が生み出す理想の境地」

30年以上、京都で苔を生産している竹村公三さんは、意外にも日光がふりそそぐ広大な畑で栽培していました。

竹村「お日さんがあたって、水をぱっとやれる状態にあり水はけが良くないと無理…
木漏れ日っていうかちょっと傘差したくらいの影があると、ほんま一番いい」

 


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陰を好むと思われがちな苔ですが実は日光が大切なのです。
そしてもうひとつ重要なのが水苔は空気中の水分を吸って生きています。

秋山「簡単な作りなので体の中からすぐ水を失ってしまい乾いた状態になる、夜明け前に朝露を吸うことによって体が新鮮な状態に戻って光合成をする、朝露が大切。」

西芳寺の庭は鎌倉時代末期、禅宗の僧、夢窓疎石(むそう・そせき)によって作られました。
夢窓が造った庭は白砂に覆われた禅の修業の場でした。
しかし、庭はその後戦乱や天災で荒廃していきました。

そして数百年が過ぎた江戸時代になって、庭に苔が生え始めたと言われています。

秋山「せまい谷にあって西芳寺川が流れている、常に空気中の湿度が高い状態に保たれる。苔の生育にとって非常にいい」


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寺の横には、豊富な水をたたえた川が流れ、背後には山があり、こうした自然条件が四季を通じて高い湿気を保つのです。

一度は荒廃した庭は、次々と増える苔によって姿を変え美しくよみがえりました。

人々は苔が一面に生い茂る庭に世俗と離れた静寂の世界を感じ取りました。
庭を作った夢窓疎石の禅の境地にも通じる世界でした。

苔が作りだす神秘の世界、それは日本人が見出した究極の理想郷なのです。

弐のツボ 枯山水の苔に命の森を見よ


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東京都内のお宅。枯山水の庭です。
枯山水とは水を使わずに自然の風景を表した庭のこと。
一面に敷き詰められた砂は大海原を、石組みで険しい山を表しています。
そしてその間を埋め尽くしているのは苔です。

この庭を造った作庭家の重森千青さんです。



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重森「苔があるから岩や樹木ひきたつ…縁の下の力持ち。そんなに高くない人が踏み込める山並みの表現…
虫がいて、動物がいて生き物が糧を取る大切な場所、さらにそこに人間が足を踏み入れる密接な自然に近いような表現」

苔鑑賞、二つ目のツボ、
「枯山水の苔に命の森を見よ」


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京都、瑞峯院(ずいほういん)。
昭和の名作庭家・重森三玲が作った「独坐庭(どくざてい)」。表現しているのは蓬莱山(ほうらいさん)の風景。
古代中国で仙人が住むといわれた山です。


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陸地では苔を使う部分と使わない部分をはっきり対比させています。


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苔がない岩は人間が決して到達しえない険しい山を、一方、苔の部分は命の宿る森を表しここに人々が営む世界があることを示しています。


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一本一本が木のように立っているスギゴケ。自然の森を描写するときに使われます。
緑と茶の色のむらや、不ぞろいな長さが自然の趣を作り出します。

重森「ずっとむこうの蓬莱山に続いていく高くなったところなどは、うねりが苔の高さの違いなどがいろんな形で相乗効果を生んででいる、そのうねりが自然の山に最も近い風景観を出す。」

命の森である苔があることで、人知を超えたより深い自然の存在が強調されます。
苔が配された枯山水と対面することで、人間もまた宇宙の小さな一部である事を知るのです。

参のツボ 盆栽の苔は大地なり

栃木県下野(しもつけ)市にある盆栽の美術館。
見事な盆栽の数々が展示されています。
盆栽師の中村達也(なかむら・たつや)さんは、500点以上ある盆栽の手入れを毎日欠かさず行っています。

中村「何事も根本といいます。
盆栽は根が大事、根が生育する鉢の中では盆栽宇宙の大地。その大地が土が露出してたら味気ない風情も何もない。
そこに苔生えることによって古さと品格神々しさまで感じる。」


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苔鑑賞、最後の壷は、
「盆栽の苔は大地なり」


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樹齢120年の赤松を植えた盆栽、「帰去来」。


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長い歴史の重みを感じさせる松の根元には、さまざまな苔が生えています。

中村「苔がただ単に生えていればいいものではない。自然環境を表している、松には松にふさわしい苔。ヒゴケは松の乾燥しているところに生える、こういったものが混じると趣が出る。」


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ヒゴケは古い松によく見られる苔。

この苔があることで盆栽は長い年月の移ろいを感じさせます。


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樹齢300年の五葉松の「双鶴」。
幹が割れても生き続けている名品です。
幹の内部が枯れて白くなりそこにうっすらと苔の緑が。
この木はまだ強固な生命力を保っていることを示しています。


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名品『千代の松』。


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樹齢500年の五葉松です。
木の肌と苔が一体となって気品と風格を生み出しています。
人間の作為を超え、まさに自然の力がみなぎる巨木。
それを苔が支えています。
鉢に根付く苔は雄大な大地そのものなのです。

高橋美鈴アナウンサーの今週のコラム

暗いところで育つイメージがあった苔が、実は「日当たりのよい、水はけのいい土地を好む」というのはとっても意外でした。何を隠そう、私は以前、苔玉を腐らせてしまったことがあるんです。『苔も育てられないなんて・・・』とずいぶん自己嫌悪に陥ったものですが、どうも水のやりすぎが原因だったようです。ディレクターによると「(太陽の光が必要な苔を)家の中で育てるのはけっこう難しいですよ」とのこと。そうか、失敗するのは私だけではないのかも。確かに広い畑で育っていたスギゴケは本当に元気がよく立派に育っていましたよね。
それにしても、苔を『森』に見立てるなんて、昔の人は本当に観察眼と感性が鋭い!苔を使っている部分とそうでない部分との違い・・・枯山水の庭の奥深さも改めて感じました。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Nuages Django Reinhardt
Hooray For Love Harold Mabern
What A Difference Dinah Washington
A Day Made Flamenco Sketches Dominick Farinacci
I’ll Remember April Sonny Stitt
Haunted Heart Bill Evans
Amazing Grace Naoko Terai
Ferdinando Buddy DeFranco
All Or Nothing At All John Coltrane
I Remember Clifford Yoshiaki Masuo
Body & Soul Dominick Farinacci
I Close My Eyes Jimmy Smith
Everything Happens To Me Chet Baker
It Could Happens To Me Buddy DeFranco