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File65 青磁



壱のツボ 雨上がりの空を見よ


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かしこまった席のお花には、青磁の花生(はないけ)を。
透明感のある青が、上品な趣(おもむき)です。
青磁の器を置くだけで、床の間に気高い雰囲気が漂います。

ちょっと気取った料理にも、青磁の器がよく合います。
料理が引き立つのは、青磁ならではの気品があってこそ。


大阪市立東洋陶磁美術館 蔵

青磁とは、鉄を含んだ釉薬(うわぐすり)が青く発色することで生み出される焼き物です。
その起源は古代中国。

12世紀ごろには、現在の青磁のお手本とされる名品が作られました。

青磁は、中国で皇帝たちのために作られ、皇帝たちに愛されてきた特別な器です。
本来その形は、宗教的な儀式に使われた青銅器をかたどったものでした。

そして、色は「玉(ぎょく)」、つまり翡翠(ひすい)を摸したと言われます。
青銅器の形に、翡翠の色… 青磁は、最も高貴な器とされました。


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十二世紀の初めごろ、皇帝のために青磁を焼いた窯(かま)、「汝窯(じょよう)」の跡。

汝窯の歴史は、わずか20年ほど。その間に、史上最高峰の青磁が作られました。
今残っているのは、世界で70点ほどです。




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大阪市立東洋陶磁美術館 蔵

日本にある汝窯の青磁三点のうちのひとつ。
水仙などの花を水栽培し、宮廷を飾りました。
青磁は、その後も中国の限られた窯だけで作られました。
最高級の輸出品として、鎌倉時代の日本にも伝えられます。

青磁といえば「青」。その色に注目しましょう。
青は、空や海、宝石などに見られる色。古来、人は深い憧れを抱き続けてきました。
明るい水色から緑に近い色まで、時代や窯によって「それぞれの青」が焼かれました。

青磁の最高峰、汝窯(じょよう)の青を見てみましょう。
透き通った神秘的な色合いです。

汝窯の青を現代によみがえらせようとする人がいます。
30年前に、台湾の故宮博物院で見た器に感銘を受け、その再現を目指してきた陶芸家・島田幸一さんです。

かつて皇帝たちは、どのような青を理想としたのでしょうか・・・

島田「青い色といっても、空の色から、湖の色から、いろいろあります。その中から、雨の過ぎ去った後の雲の切れ間から見える空の色、つまり「雨過天青雲破処(うかてんせいくもやぶれるところ)」という色を求めたのです。」

十世紀、中国の皇帝・柴栄(さいえい)は言いました。

『「雨過天青雲破処」の器を持ち来たれ』



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刻々と変わる空の色・・・雨過天青の印象もまたさまざまです。
それが、青磁の多様な青を生みました。

青磁鑑賞、最初の壺は、「雨上がりの空を見よ」。


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「青」の秘密は、器の表面を覆う釉薬(うわぐすり)にあります。

釉薬とは、植物の灰を溶いた液体に、長石という石の粉を混ぜたもの。
高温で熱するとガラス質に変化して、器に色つやと強度を与えます。

青磁の釉薬には、わずかな鉄が含まれていて、それを焼くと、独特の青が生まれます。
しかし、青磁の釉薬を使えば、必ず青くなるわけではありません。


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窯の中の酸素を限りなく少なくすることが、発色の鍵。
こうすることで、釉薬に含まれる酸素が燃焼に使われます。

普通、焼いた鉄は茶色くなりますが、酸素を奪われると青く発色するのです。


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焼き上がった青磁の表面。柔らかく光を反射しています。

ここに、もう一つ、独特の「青」の秘密が隠されています。

断面を見てみましょう。

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拡大すると、大小さまざまの泡が・・・窯焚きの際に、空気が釉薬に閉じ込められたのです。
この泡によって光が乱反射し、柔らかな色調を生みます。
釉薬の配合や窯の中の条件を操作することで、古来、多様な青が作られました。

雨上がりの空・・・そこに、あなたの理想の青が見つかるかもしれません。



 

弐のツボ 貫入は人知を越えて


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大阪市立東洋陶磁美術館 蔵

景色とは、模様や質感が生む焼き物の味わいです。

国宝「飛青磁花生(とびせいじはないけ)」。
絵の具で斑点を描き、青い地の中に浮かび上がらせています。
一風変わった景色を持つこうした青磁は、特に茶の湯の世界で好まれました。


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大阪市立東洋陶磁美術館 蔵

そして罅(ひび)。
いえいえ、貫入(かんにゅう)。
もっとも愛されてきた青磁の景色です。

貫入は、ほかの焼き物にも見られますが、特に、青磁の場合、青と細かい罅が織りなす独特の景色が、鑑賞の対象となってきました。

古い時代の青磁を数多く扱ってきた古美術商の下條啓一さんです。

若いころから貫入の美にひかれてきました。

下條「たまたまハプニングで、窯から出した時に、貫入が生じていたのでしょう。
これも面白いんじゃないかということで、同じ釉薬を使って、同じ焼き方をしたんですね。
そういうことで一つの景色を作るんです。奥行きを作るわけです。
一つの美学なんでしょうね。そこに価値観を感じると言いますか・・・」


すべてを計算しつくしても、思い通りに貫入を作ることはできません。
そこには、人の力を越えた美が、あるのです。

青磁鑑賞の二つ目の壺は
「貫入は人知を越えて」

貫入が出来るのは、青磁が窯から出されたあとのことです。

不思議な音・・・
青磁の表面に貫入が走る瞬間です。


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貫入は、釉薬と地の部分で、冷える時の縮み方が異なるために生じます。
少しでも美しい貫入を作り出すために、さまざまな工夫がされてきました。


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これは二重貫入。
焼き上がった直後に墨汁に漬けるという技法もあります。
先にできた貫入は黒く、その後できた貫入は白く見えます。

思うに任せぬから難しい・・・
しかし、偶然の美は、時として人の技を越えます。
青磁の貫入に、あなたも人知を越えた美を探してみませんか。

参のツボ 和の洗練を愛でる


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大阪市立東洋陶磁美術館 蔵

最後は、日本にやってきた青磁のお話です。

中国で生まれた青磁は、やがてアジア各地へと広まっていきました。
これは、朝鮮半島で発達した高麗青磁。


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地の部分を彫って、そこに白土や黒土を埋め込み、文様を描き出しています。

日本へは、16世紀の末、朝鮮半島から連れてこられた陶工たちによって、青磁の製法が伝えられました。


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今右衛門古陶磁美術館 蔵

江戸時代、青磁は、九州・佐賀藩で焼かれた焼き物=鍋島と結びつきました。
鍋島青磁です。

青磁に、青い染付(そめつけ)の絵を添える・・・
中国や朝鮮半島では、ほとんど見られなかった表現です。


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伊万里市大川内山。
江戸時代から続く鍋島の窯が集まります。

佐賀藩は、製法の秘密を守るため、職人たちをこの山間に集めました。
鍋島は、将軍家への献上品や大名への贈り物として使われた最高級の焼き物です。


窯元の九代目小笠原長春さんは、鍋島青磁を得意としています。

小笠原「将軍家に納めたのですから大変な仕事をしています。
世界最高峰のものを鍋島は研究して、青磁の色が濃く見え、染付の絵もはっきり見える工夫をしました。それが、鍋島独特の技法になりました。」


青磁の青と染付の青・・・二つの青が織りなす美は、日本で育ちました。

青磁鑑賞、最後の壺は、「和の洗練を愛でる」。



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佐賀藩の窯が大川内山に作られたもう一つの理由は、長石の鉱脈があったからです。
ここの長石は、適度の鉄を含み、釉薬に最適です。


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小笠原「不思議ですね。この色が宝石に変わるのですからね。
虎の尾のように縞が入った石が良い石です。」


黄色い部分に鉄が含まれています。
長石を細かく砕いて溶かした釉薬。

江戸時代、この釉薬を巧みに操る「青磁掛け分け」という技で、鍋島青磁を作っていました。
まず、染付の絵を描き、その部分に釉薬を弾く蝋(ろう)を塗ります。
青磁の釉薬をかけて焼くと、背景は青磁、絵は染付になります。
次に全体に透明な釉薬を掛けます。
再び焼き上げて完成です。


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長春さんは、「青磁掛け分け」をさらに進化させ、新しい焼き物を作り出しています。

空を飛ぶ鳥が見た桜の花。
野の緑にも見える青磁の青と咲き誇る桜が、見事な対比を見せています。
長春さんのこの作品は、イギリスの大英博物館にも納められています。


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今右衛門古陶磁美術館 蔵

中国で皇帝のための器として生まれ、アジア各地に、そして日本に伝わった青磁。

今もアジアを代表する焼き物として、愛されています。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
A Smooth One Turtle Island String Quartet
Children’s Song #15 Chick Corea & Gary Burton
Wise One John Coltrane
Time Remembered John McLaughlin
The Midnight Blues Wynton Marsalis
Nancy Ellis Marsalis
Maria Branford Marsalis
Oh Lady Be Good Turtle Island String Quartet
I Remember Clifford Richard Galliano
Waltz For Debby John McLaughlin
Rachel’s Dream Turtle Island String Quartet
A Love Supreme John Coltrane
I’m Your Pal Chick Corea & Gary Burton
The Nearness Of You Norah Jones
Cheak To Cheak Turtle Island String Quartet