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File63 和ろうそく



壱のツボ 櫨(はぜ)が生み出す風合いを楽しむ


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古来、日本の暮らしを照らしてきた和ろうそくのともし火。
主に白は日常使い、朱はおめでたいときに用います。

華やかな絵を施したものは、絵ろうそくです。

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そもそも、日本でろうそくが使われだしたのは奈良時代。
仏教の伝来とともに、中国からもたらされた蜜(みつ)ろうそくが始まりと言われています。

国産のろうそくが登場するのは、戦国時代の終わりごろから。

原料は、漆(うるし)や櫨(はぜ)の実から作られる植物性の蝋(ろう)。
江戸時代半ばには人々の間で広く使われるようになった和ろうそくですが、原料が貴重だったため、まだまだ貴重品でした。

今では手軽に手に入るようになったろうそく。
その大半をしめる西洋ろうそくの主な原料は石油を精製して作るパラフィン。
一方、和ろうそくの原料はすべて植物性。
炎は大きめであたたかなオレンジ色。
時おり見せる不規則なゆらぎは、そよ風など自然界のリズムと同じでリラックス効果があると言われています。

この独特のあかりの秘密はどこにあるのか。
まずはその素材に注目してみます。


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滋賀県で伝統的な和ろうそく作りを続けている大西明弘さんは、櫨の実から作る櫨蝋(はぜろう)を使った、昔ながらの製法にこだわってきました。


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溶かした櫨蝋は42度ほど。
直接手ですくい、目指す大きさになるまで何度も塗り重ねていきます。

大西「やっぱり櫨がいちばんこう肌触りがいいといいましょうか、きれいに燃える、煙もほとんどでない、ほかのどの蝋よりもキメは細かいし、ある一定の温度になるとさらっとする。あんなこと(他の蝋には)ないですもん。もうすばらしいです」


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櫨は九州、四国などで生育するウルシ科の高木。
その実から作られる櫨蝋が、このウグイス色の風合いを生み出しました。

和ろうそく鑑賞一つ目のツボは
「櫨が生み出す風合いを楽しむ」

 

蝋を吸い上げる芯(しん)もまた自然の素材。


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灯心草(とうしんそう)の茎から髄と呼ばれる部分を取り出し、和紙に巻きつけていきます。

芯を巻いているのは大西みよさん。

大西「芯の太さ、状態によって、蝋燭の垂れ方がちがってきます」


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その芯を串にさし、少しずつ蝋を塗り重ねる“生掛け(きがけ)”。
手の加減で、ろうそくの出来が左右される熟練の技です。


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最後に芯を切り出すと現れるのは、美しい年輪模様。
これが一層一層、職人が蝋を塗り重ねた手作りの証です。

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火を灯すと、さらに櫨ならではのよさが引き立ちます。
年輪があるろうそくは、蝋がたれにくく、最後まできれいに燃えます。
すすが出にくく、仏像を痛めないので、お寺でも重宝されてきました。

滋賀県、曹澤寺住職の佐藤好春さん。

佐藤「和ろうそくは仏さまの荘厳さがずっと映し出されていくというような感じだね。
ゆれもありますし炎の大きさ、全然違いますからね」




櫨という自然の恵みと職人の技が生み出す風合い。
そのあかりは、私たちの心と体を、やさしく包みこんでくれます。

 

弐のツボ 花にこめられた雪国の想い

続いて絵柄を見ていきましょう。

和ろうそくに魅せられ、10年にわたって日本各地を訪ね歩いてきた玉野井いづみさん。
特に絵ろうそくに関心をもって集めてきた玉野井さんのとっておきは、伝統的な柄である御所車の絵ろうそく。


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玉野井「昔のものを探して旅をしているときに出会ったものはみな使いかけや割れてるもの、博物館に飾っているものだったが、きれいな形でそろっているのはこれが初めてでした。これは会津(で作られたもの)じゃないかという風におっしゃられるのですが、特定はできないんですよね」

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絵ろうそくは、江戸時代の中ごろ雪深い東北地方で生まれました。
こちらは、山形県鶴岡(つるおか)で作られている伝統的な絵ろうそく。
数ある柄の中でも特によく描かれてきたのが『花』です。

玉野井「雪国の暮らしというのは、昼間でもどんよりした状態。
光に対してあこがれがあるんだろうという風に思います。
また、春の彼岸のころ、本来ならお花を供えてあげたいころにも花がない。
光に対するあこがれがあると同時に、花に対するあこがれもあるわけですから、1つのものに2つ、少しでも華やかにということでね。」

和ろうそく鑑賞二つ目のツボは
花にこめられた雪国の想い」



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こちらは新潟県長岡の絵ろうそく。
美しい花々が花瓶に生けられている柄は、仏さまにお供えする花そのもの。



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会津若松で、江戸時代半ばに創業した蝋燭店の小澤徹二さんがしているのは、絵がはがれないようにする上掛けの作業。


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小澤「会津の冬は長い、今でこそいつでもお花がありますが、当時は冬になると真っ白な世界、なんのうるおいもない、そこにひとつ、うるおいをもたせたいということで描いたという方もいらっしゃる」

こうした絵ろうそくは江戸時代、幕府への献上品ともなりました。
少ない色数で、ひとつひとつの花に命を吹き込んでいくのは小澤成子さん。


小澤「なんでこんなに一生懸命やっているんだろうと思うときがあります、 どうせ火をつけてなくなってしまうものに。
でもお客様が火を灯してくださって、心の安らぎを覚えてくだされば、燃やしてこそはじめてろうそくなんだからっていう思いはありますね。」



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小澤さんのお宅に代々伝わってきた古いろうそくには、会津の四季の花々が描かれています。
ろうそくに、鮮やかな花を咲かせたのは、厳しい自然と共に暮らす人々の、素朴な願いでした。

参のツボ 幽玄の世界へ誘う炎のゆらぎ


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最後は、ゆらぎがみせる世界にご案内しましょう。

江戸時代、歌舞伎に使われた差出しと呼ばれる道具があります。
役者の顔の近くまで和ろうそくのあかりを差し出し、照らすことで、
炎のゆらぎが役者の表情を劇的に演出します。

景色を一変させる力を持っている和ろうそくの炎。

和ろうそく鑑賞最後のツボは
「幽玄の世界へ誘う炎のゆらぎ」


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兵庫県香美町の大乗寺には、江戸時代中期を代表する絵師・円山応挙(まるやまおうきょ)の襖(ふすま)絵が残されています。


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ここでは、自然の光や和ろうそくを用いて、応挙の襖絵を鑑賞するという試みを行っています。
ふだんは研究者に限っているところ、今回、特別に和ろうそくのあかりで見せていただきました。



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目の前に広がったのは幻想的な空間。

闇にひそみ、じっとこちらをうかがう孔雀(くじゃく)。
動かないはずの孔雀が静かに呼吸をはじめました。


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松の大木。
太くしなった枝に黒々と浮き立つ、松の葉。
風にゆらいで、ざわざわと音をたてる松のざわめきが聞こえてくるようです。


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床板にも和ろうそくを置いてみると、まるで水面(みなも)のように、家や木々の影がうつしだされ、かすかなさざ波がたっています。


大乗寺副住職の山岨眞應さん。

山岨「和ろうそくは炎が安定しないですよね、ゆらゆらゆれている。
そして余白の部分が風になりますし。
そういう意味で和ろうそくの光が空気をみせてくれる。」




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目にみえない気配までも映し出す、和ろうそくの炎のゆらぎ。
ほのかなあかりの下、その幽玄の世界を味わってみませんか。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Can't We Be Friends? Benny Goodman & his Orchestra
Con Alma Stan Getz Qualtet
Stella by starlight Chet Baker
Full house Wes Montgomery
The song is you Joe Pass
Chez moi Clifford Brown
Stairway to the stars The Three Sounds
My funny Valentine Miles Davis
My heart stood still Nat Adderley
My wild Irish rose Keith Jarrett
I'm getting' sentimental over you Tommy Dorsey & his Orchestra
A night in Tunisia Art Blakey Quintet
Infant eyes Francois Rabbath
Blue in green Bill Evans
Frenesi Artie Shaw & his Orchestra