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File58 花火


壱のツボ 千変万化する色を味わう


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夏の風物詩、花火。
毎年大小5千近くの花火大会が開催されるほど、日本人に愛されてきました。

華麗な色彩、全身に響き渡る音、そして火薬の香り・・・。
日本の花火は、世界に類を見ない複雑な美しさを生み出してきました。

まずは、花火の色に注目です。

一つの花火が次々と色を変化させていくのは、日本ならでは。
秋田県大仙市の花火師、久米川正行さん。
シーズン前は、何度も花火の試し打ちを行い、思いどおりに色が変化するか、確認します。

久米川「変わる瞬間なんですよね。我々が見たいのは。変わる瞬間。どのように変わっていくか。
変化もパパパと変えていかないと。明るさだけで、変化がわからなかったという場合も出てくるんで。その辺やっぱり難しいですよ」


三色に変化する花火を打上げます。


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金色から、赤、そして銀色へ。
わずか数秒の間に移り変わる光の芸術です。

花火鑑賞壱のツボ。
「千変万化する色を味わう」


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江戸の人々が楽しんだ花火の色。それは、ほの暗い橙(だいだい)色でした。

これは「和火(わび)」と呼ばれる花火。
木炭を原料とする火薬が、燃える色です。

 

明治に入り、マッチの原料、塩素酸カリウムが輸入されると、花火の色に革命が起こりました。
塩素酸カリウムによって、ストロンチウムや銅、バリウムなどの金属化合物が燃やせるようになり、鮮やかな色が出るようになったのです。

さらにこうした金属化合物を混ぜて燃やすことで、多様な色が生み出されました。



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こちらは、大仙市の久米川さんの工場です。


ずらりと並ぶのは、花火玉です。


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花火玉の中には「星」と呼ばれる火薬が詰められています。
この星に、色を変える秘密が隠されています。


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星はすべて職人の手づくり。
これは、球状の火薬に、水で溶いた火薬を加え、少しずつ大きくしていく「星掛け」という作業。
「星掛け」を繰り返すことで、火薬の層を作っていきます。

適当な大きさになると、天日で乾燥させます。

完全に乾燥させては、再び「星掛け」をし、数週間かけて完成させます。

数秒の間に、花火の色を一斉に変化させるためには、ひとりの職人が同じ条件で作った星が必要です。

久米川「子育てと同じだってこと。そういう気持ちで作らないと。星ばっかりじゃなく、花火ってのは、子育てと同じですよ。あきらめたり省略したりするとね、ダメ。絶対いいものができないから」


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これは、ピンクからレモン色へと変わる花火。わずか数秒の間に全ての星が、同時に変化をしました。



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一つの花火が瞬間に見せる千変万化の表情。

それは、職人の技が生み出す日本ならではの色模様です。

 

弐のツボ 真円の菊に目を凝らせ


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次は、花火の「形」に注目しましょう。

日本の花火の中で、最も、高度な技術を要する花火がこちら。
円が何重にも重なる菊型の花火です。


多くの花火大会に足を運び、あらゆる種類の花火を観てきた小西亨一郎さんです。

小西「日本の花火ほど、まんまるい花火っていうのは、ないんです。球状にうまく広がる。
飛び散った星が一斉にスパッと消える。この状況がですね、決まると、おおーという歓声が沸くと。
わずか数秒なんですが、それを見極める目。それが見えたら、本当に花火は楽しくなりますね」


そこで、花火鑑賞弐のツボは、
「真円の菊に目を凝らせ」



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どこから見てもまんまるの花火。どのようにして作るのでしょうか。

菊型の花火にこだわってきた花火師、青木昭夫さん。
花火の神様と言われた祖父の代から、丸い花火を作り続けてきました。

これは、祖父 儀作さんが生み出した三重の円を描く花火。
打上げたとき完全な同心円になるよう、星が配置されています。



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こうした花火玉を作るには、熟練の技が必要です。
まずは、一番外側の星を並べていきます。

このとき星を、すき間無く均等に並べないと、花火の形はいびつになってしまいます。


上空で星に火をつけ、四方に飛ばすための火薬「割薬(わりやく)」 は、花火玉の中で星がずれないようにする役目も果たします。
花火玉の中心が少しでもずれると、完全な同心円にはなりません。

青木「これで300メートル開きますから、ここで1ミリ違うと、その何百倍違うわけですね」


全体を叩いて、内部の星のすき間を詰めていきます。
最後に玉を振って音を聴き、星に対する割薬の量が適当かどうか、確かめます。


夜、試し打ちが行われました。

青木「ちょっとね、星が一つちょっと遅くなったんですけどね。
出方としては、まあいいかなと思ってたんですけども。あれでもう少しそろえば」


実は、一つだけ発火が遅れた星があったのです。
完璧な真円を求める青木さんは、わずかな形の崩れも見逃しません。


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毎年開催される大仙市の花火競技会。
多くの花火師が、目新しい演出を試みる中、青木さんは、伝統的な菊型の花火で勝負し、優勝を飾りました。

いくつもの円が重なるように、夜空に花開いては、消えていきます。

菊型花火は、完璧な美を求めて生み出された、究極の形なのです。

参のツボ 火花のうつろいを愛でる


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最後に、小さな線香花火の世界にご案内しましょう。

ここ数年、線香花火を楽しむ人が増えています。
線香花火の持つ優しい光に癒やされるといいます。




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線香花火は、江戸時代に日本で生まれました。
もともとは、わらの先に火薬をつけて、火鉢や香炉に立てて遊んだのが、その始まり。
形が仏壇に供える線香に似ていたことから、この名が付けられました。


東京・蔵前の花火問屋。
ここでは、国産の線香花火を数多く取りそろえています。

社長の山縣常浩さんは、線香花火に特別な想いを持ってきました。


山縣「0.1グラムの火薬の世界であれだけの現象の変化があるわけですよ。ですから例えば人生に例えたり、起承転結があるわけですね。そういうものって、割合日本人好むじゃないですか。それで人気があると思うんですね。ですから、子供の世界でなくてね、大人の世界の花火だと思いますね」

花火鑑賞参のツボ
「火花のうつろいを愛でる」



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愛知県にある、線香花火の工場です。
稲垣博さんは、採算が合わないことから日本では一時期とだえていた、線香花火作りに取り組んでいます。

一番難しいのが、火薬の配合。
硝石・硫黄・松灰(しょうはい)・松煙(しょうえん)の4つの材料を用います。


簡単な作りに見えますが、配合には微妙な加減が必要です。

稲垣「まあまあ自分でこれでOKかなというのには2年くらいかかりましたけど。それが一回2年でできたやつがね、それでずっといいかっていうとね、そうじゃなくて、やるたびにこういう具合に配合試験をして、調合比率を決めています。
そうでないといい花が咲いてくれない」


使用する火薬は、わずか0.08グラム。
しかし、この火薬次第で火花の表情は、全く変わってしまいます。



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さらに、火薬を包む和紙も重要です。
繊維が長く、薄くて丈夫な和紙を、適度な硬さにより上げて初めて、大きく長持ちする火玉を生み出すことができるのです。


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線香花火をこよなく愛した物理学者で随筆家の寺田寅彦。
その火花の魅力を、こう記しています。

「子供の時代の夢がよみがえって来る。今はこの世にない親しかった人々の記憶がよび返される」

「実際この線香花火の一本の燃え方には、『序破急』があり『起承転結』があり、詩があり、音楽がある」


可憐(かれん)にうつろう線香花火。
寺田は、その火花に人生のいとおしさ、そしてはかなさを感じ取ったのです。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Isn’t It Romantic Tal Farlow
'Round Midnight Billy Taylor
Koto Song Dave Brubeck
Don’t Ever Leave Me Keith Jarrett
Stars Fell On Alabama Oscar Peterson
Someone To Watch Over Me Keith Jarrett
Gleensleeves Paul Desmond
The Boy Next Door Oscar Peterson
It’s Only A Paper Moon Earl Klugh
St. Thomas Sonny Rollins
The Boy Next Door Bill Evans
Tenderly Oscar Peterson
I'm Confessin' Joe Pass
Shenandoah Keith Jarrett
For All We Know Paul Desmond
Teo Miles Davis
Alice In Wonderland Branford Marsalis
When The Sainta Go Marching In Louis Armstrong