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古くから日本の食卓を彩ってきた器。それが漆器です。
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料理を引き立てる艶(つや)やかな光沢。
気品に満ちた赤と黒が、食事の一時を華やかに盛り上げます。
石川県輪島市。
日本でも有数の漆器の産地です。
ここで漆器の生産が始まったのは、室町時代のことです。
光を包みこむような塗りの作業。
いつの時代も職人たちは、赤と黒の美しさにこだわってきました。 |
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江戸時代から続く漆器工房の八代目・中室勝郎さん。
漆器の赤と黒には、どんな意味があるのか教えていただきましょう。
中村「漆の本質はやはり“魂の器・魂のこもる器”ということで“精神性の器”だったと思います。日本人は“食”というその命の元である食を盛る器に魂の器を選んだ。その精神性の器が、最も強く人の心に訴えていたのは、赤と黒という色だったと思います。」 |

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漆器鑑賞 最初のツボは、
「赤と黒は魂の色」
漆は数千年の昔から、人の手によって植えられてきました。
塗料や接着剤になる自然の恵みです。
古来人々は、漆には特別な力があると、信じてきました。
触ると、ひどくかぶれる漆には、邪悪なもの寄せ付けない力があると考えたのです。
漆器は、日本では縄文時代から作られていました。
発掘された漆器のほとんどが赤。
縄文時代既に、今と変わらない漆の技術が確立されていました。 |
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赤を生み出す顔料の中で、最も上質とされてきたのは「朱」です。
かつて朱は、辰砂(しんしゃ)という鉱石を砕いて作られました。
発色の良い塗料を作り出すには漆を精製する高度な技術が必要です。
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かくはんし、熱を加えた漆に朱を混ぜることで、初めて光沢のある赤ができるのです。
こうして作られた赤は、ほかのどの顔料よりも鮮やかに発色します。
数千年たっても、あまり色あせることはありません。
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かつて、貴重な朱を用いた器は、儀式の場に用いられるなど、位の高い人々しか使うことが許されませんでした。
漆器が庶民の間に普及した中世以降も、赤は高貴な色として珍重されたのです。
縄文の人々が生み出した漆の赤。
数千年の時を越え、日本人にとって特別な色となりました。
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一方、黒い顔料を塗った漆器が生まれたのは、弥生時代。
以来、日本人は限りなく深い黒を追い求めてきました。 |
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漆器の歴史を研究してきた四柳 嘉章(よつやなぎ かしょう)さん。中世の漆器には、より深い黒を出すための秘密があったと言います。
当時の漆器には、ススを混ぜた黒い漆の上にさらに純粋な漆を塗り重ねられていたことが分かったのです。
四柳「特に中世の時代は、良い品物には必ず中塗りにススを混ぜた漆を何層か塗って、その上にさらに透明な漆を塗り重ねています。完成した時には本当に底艶のある、美しい漆に仕上がるのです。そういうくふうを時代ごとにいろいろ重ねて今日に至っているのです。」
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輪島の老舗(しにせ)、中室さんの工房では、中世の黒を復活させようとしています。
細かい炭素の粉末を混ぜた漆を塗っていきます。
わずかなムラがあると光を拡散し、深い黒は出せません。
わずかに残る刷毛の跡や1ミリ以下の凹凸は、炭を使って磨いていきます。
最後に飴(あめ)色に透きとおった漆を重ねます。
透明な漆を通して深く沈んだ黒が立ち現れます。
「漆黒」と呼ばれる漆の黒は、底知れない闇のような、最も美しい黒です。
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中室「漆の赤と黒。黒は果てることのない宇宙の色、夜の空の色。それが黒だと思います。赤は太陽の赤、血の赤、すなわち命の赤という言う風に言えると思います。」
漆が生み出す、鮮やかな赤と深い黒。
それは数千年に渡って日本人が追い求めてきた究極の色だったのです。
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