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File56 床の間


壱のツボ 額縁にもてなしの工夫あり


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江戸時代、京都を訪れた大名が宿として使った二條陣屋。

ここには25の部屋があり、そのうち10部屋に床の間が設けられています。


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こちらはこの陣屋の中で最も格が高い、大広間の「床の間」です。

床の間は、客を迎える部屋につくられます。
そもそも「床」とは、ものをのせたり、位の高い人が座る、一段高い場所をいいます。
床の間は、部屋の中で一番神聖な場所とされるのです。

主人は客をもてなすために、さまざまなものを飾ります。
壁には掛け軸。その下には花入や香炉が置かれます。

硯(すずり)箱や書物などは、隣にある「床脇」という空間に収納したり、飾られたりします。

床の間は、こうした美術品を飾る場所として発達してきました。


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「床の間」の起源は室町時代にさかのぼります。

歌会や茶会を催す時、壁に掛け軸をかけ、「押板」と呼ばれる板の上に、美術品をおいて鑑賞しました。
今日のような形になったのは、桃山時代から江戸時代初期にかけてのこと。

その究極が二条城二の丸御殿にあります。
徳川将軍に諸大名が謁見(えっけん)する部屋。

将軍は、豪華に飾られた「床の間」を背に、座りました。

「床の間」は、教養や財力を示す場であり、またそこでの序列を示す役割もあったのです。


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まずは「床の間」の配置に注目しましょう。
こちらは、呉服問屋を営む京都の町家。

江戸中期になると、武家だけでなく、裕福な商家も「床の間」を設けるようになりました。

「床の間」は、落掛(おとしがけ)、床柱(とこばしら)、床框(とこがまち)という木材で四角く囲まれています。

あたかも、大きな額縁のようです。

数々の歴史的な建物を修復してきた中村昌生さん。

中村「そこに飾るものを、亭主が客に対するいろいろなメッセージをですね、心をこめて、そこに何かくふうする訳ですから、それを大変、客に印象的に伝えるためには、やはり額縁が必要である」

床の間鑑賞、壱のツボ。
「額縁にもてなしの工夫あり」。

 


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床の間には、美術品を印象的にみせるためのさまざまなくふうが施されています。

まずは、光。「書院」と呼ばれる窓から光を取り入れます。
和紙を通した光が、床の間を柔らかく照らします。

一方、「床の間」の上部には、小さな壁が設けられ、影をつくっています。
この影が「床の間」の空間に奥行きをもたせています。

影がなく、光が全体にあたると、掛け軸は平面的にみえてしまいます。

また、書院をふさいでしまうと、暗すぎて掛け軸は、よくみえません。




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床の間という、ほの暗い空間の中で、掛け軸に陰影ができ、描かれた世界が奥深くみえるのです。

中村「ややほの暗い、その座敷よりはややほの暗いその空間、そこの中にまたそこは床でも照明が考えられている訳ですね。
付書院などをつくって照明を考える訳です。
飾られるものが最も客に対して印象的にそれを受け止めてもらえるようにするにはですね、適当な明るさというものが必要なんです。
日本人の、光に対する感覚をですね、よく証明していると思いますね」


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さらに、「床の間」の隣に設けられた「床脇」に、ご注目。
ここも客をもてなすための大切な空間です。

書院からの光は、この「洞口(ほらぐち)」(「狆潜り(ちんくぐり)」とも言う)を通して、「床脇」まで届きます。

「床脇」は、客が美術品を手に取って楽しむ場。
例えば、和歌の好きな客を迎える時には、歌集を飾ります。

興にのった時、客が筆をとれるように、硯箱と紙も用意します。
床脇は、客へのさりげない心遣いを示す場なのです。

中村「ここへ集う人も、やはり亭主の心意気を受け止める、受け止めて、そしてそこでお互いに打ち解けた、心の通う集まりをですね、実現しようという、こういう気持ちが、この日本の座敷にこめられている訳ですね」

さまざまな工夫がこらされた「床の間」の配置。
「床の間」は、日本建築の特性をいかした、座敷の中の小さな美術館です。

 

弐のツボ 床柱に木肌を味わえ

「床の間」と、「床脇」の間に据えられた柱を「床柱」と いいます。

「床柱」は、部屋の中で一番大切な柱とされ、最もよい材が 使われます。
そのため、「床柱」は部屋の顔、家の顔とも言われるのです。

「床柱」の種類によって、客のもてなし方も変わってきます。

四角い柱は、格式ばった客間に使われます。

 


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丸い柱は、くつろいで過ごしてもらう部屋に。
木の質感を楽しみます。


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自然木をそのまま生かした床柱。大勢が集まってにぎやかに過ごす場によく合います。


そこで、床の間鑑賞、弐のツボは
「床柱に木肌を味わえ」

 

先ほどご紹介した二條陣屋。
大名の応接室にもなった、大広間の「床柱」には、最高級の杉が使われています。

二條陣屋の当主、小川平太郎さん。

小川「杉の中でも四方柾ですね、これは。
四面とも柾目(まさめ)の柱を使っておる訳で、やっぱり格調が一番高いのが四方柾ではないかと思いますね。」



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柾目とは、木を縦に切り出した時に現れる、まっすぐな木目のこと。

四つの面全てに柾目がある材を四方柾といいます。

こちらは元禄年間から続いてきた工務店。

数々の有名建築の「床の間」を手がけてきた棟梁(とうりょう)の斎藤光義さん。

四方柾の取り方を教えていただきました。

全ての面に柾目をだすには、このように木の中心をさけて、切り出さなければなりません。

通常、座敷に使われる4寸、およそ12センチ角の柱をとるには、少なくとも直径1メートル以上の大木が必要になります。

こうして切り出された四方柾は、最も贅沢(ぜいたく)な柱だといわれています。

斎藤「かなり大きな木で、とれる部分て限られてますんで、かなり、それは、完全に贅沢じゃないでしょうかね。
一番高価なものだとは思いますけどもね」


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木目の美しさが味わえるのは、四方柾だけではありません。
丸太の柱の場合、このように根元の部分を削って、木目を出します。
その形から「筍面(たけのこづら)」と呼びます。

筍面は、柱が畳に張り出す部分を削ったもの。
そこから見える木目が、部屋に趣を添えます。


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木目の美しさを引き出すには、こんな方法もあります。

斧(おの)で木の表面を荒く削りとっていきます。

元々は、木を切り出す時、枝や皮をざっくり削るための技法。
それを柱の質感を出すために使います。


茶人、織田有楽斎の茶室、国宝、如庵。
ここの床柱に、この技法が施されています。
豊かで、複雑な木目の表情が、侘(わ)びた風情を醸し出します。

木を愛する日本人ならではの、床柱へのこだわりです。


参のツボ 取り合わせの妙を楽しむ

最後は床の間の飾り付け、しつらいです。

大正時代につくられた京都の町家。
この家の「床の間」には、四季を通して趣向をこらした飾りつけが施されています。

ご主人の川崎栄一郎さん。しつらいにはこだわりがあります。

川崎「そうですね、まず季節によって変わります。
それから時間によって、例えばお客さんを受け入れる時間が夜とか、あるいは朝っていう場合も変わります」



京都で古美術店を営む、柳孝さん。
しつらいの極意を、骨董の名品を用いて、伝授していただきましょう。

柳「やはり季節季節に合った掛物をつるということが基本でしょうね。
それに合わせてまたその時の季節の花をいける、と。
掛物と花生けとのバランス、それを取り合わせというんですが、それが大切だと思いますね」


床の間鑑賞、最後のツボは
「取り合わせの妙を楽しむ」


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まずは、大切な客を迎える時の、少しかしこまったしつらいです。
しつらいの基本は掛け軸。

柳さんが選んだのは徳川三代将軍家光が描いた木菟(みみずく)の絵です。

花入れは、長い掛け軸とあわせる時、床柱の方にずらして置くのが基本。
花が掛け軸と重ならないようにするためです。
花入れに選んだのは桃山時代の伊賀焼。

柳「まああの、古木が描いてあって、ですからああいうちょっと味のあるといいますかね、渋い、そういう花生けがいいんじゃないかな、と思ってね」

掛け軸と見事に調和した花が、かしこまった雰囲気を醸し出します。


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次は、おめでたい時のしつらい。

掛け軸は江戸中期の僧、白隠禅師の書。
花入れには、中国、明の時代の青磁を選びました。

「親」という文字の横には、親孝行するほど子孫は繁栄する、と書き添えられています。


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花入れは、神様にささげる、瓶子(へいし)とよばれる形のもの。

柳「青磁の花生けには鶴丸の模様があるんですよ。白隠さんの親孝行することは非常にいいことだという、どちらかいうとおめでたい意味合いがありますね。
ですから、まあ、それも非常にハッピーなことだなあと思って、青磁の瓶子を選んだんですけどね」




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親しい友人を迎える時には、どんな組み合わせがよいでしょうか。

掛け軸は与謝蕪村が描いた軽やかな味わいの俳画。
花入れには日用品として使われていた信楽焼を合わせました。


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柳「昔の茶人がですね、信楽のああいう小さい寸法のものを選んで花生けにみたてた訳ですよ。
まあ比較的考え方としたら軽い、そういうものに生まれたものですから、俳画と、俳画も軽い絵ですから、どちらもが、まあそういう軽い気持ちでとりあわせてみたんですけどね」

気の置けないもの同士、ゆっくりと語らいたくなるような、肩のこらないしつらいです。

柳「やはりその相手の、お招きする人の気持ちを考えて、とりあわせるべきでしょうね」

こうした取り合わせを読み解くのも、「床の間」を見るときの楽しみの一つ。

「床の間」は、美術鑑賞の場にとどまらず、心の交流の場として日本人の生活にいきづいてきたのです。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Nutty Thelonious Monk
Locomotive Thelonious Monk
You Are Too Beautiful Bud Shank
Last Tango In Paris Karel Boehlee
These Foolish Things Stan Getz
Insensiblement Joe Pass
Nocturne For Flute Bud Shank
Friday The 13th Thelonious Monk
Moon Love Steve Kuhn
The Masquerade Is Over Milt Jackson
Tune Up Miles Davis
Mr. L Curtis Fuller
Reflections Thelonious Monk
Strange Meadow Lark Dave Brubeck
Too Young To Go Steady John Coltrane
Mack The Knife Sonny Rollins
Dinner For One,Please,James J.J.Johnson
When I Grow Too Old To Dream Nat King Cole