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File52 土壁


壱のツボ 自然が生み出す多彩な色

地味な存在ながら日本人の暮らしに深く関わってきた土壁。
各地に残る土壁は、懐かしい風景をつくり出しています。


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白が美しい、漆喰(しっくい)壁は石灰を水で練って塗ったもの。
火や水に強く、蔵などに使われてきました。


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白と黒のコントラストが見事な「なまこ壁」。

黒い瓦を漆喰で固めたものです。

江戸時代ごろまで、民家の壁は特別な仕上げを施さない、素朴なものがほとんどでした。


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土壁は竹などの骨組みに、何層もの土を塗り重ねて作ります。この木材に土を塗り重ねる方法は、法隆寺がつくられたときから 1300 年、ほぼ変わっていません。

この構造は通気性があり、湿度も調節してくれます。
湿気が多いと土が水分を吸い込み、少ないと吐き出す。
夏は涼しく、冬は暖かく過ごせます。
土壁は、高温多湿の日本の気候風土に適しているのです。

この壁は機能だけでなく、美しさも兼ね備えていました。
最初に注目するのは「土の色」。

桂離宮や金閣寺の壁の修復を手がけてきた左官の浅原雄三さんは、土の色にこだわり、みずから土を探し歩いてきました。

浅原「壁にはいろんな色土があって、それぞれ使い道がある。
壁の色を見ていくと、色々な意味があることが分かる」


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浅原さんがこれまで集めた色土は30種類近くになります。

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鮮やかな色は、全て自然のままの土の色。これらをブレンドして、多くの色を作り出しました。

土壁鑑賞 壱の壺は「自然が生み出す多彩な色」

色土に恵まれた京都では、さまざまな壁が作られてきました。
左官歴70年の佐藤嘉一郎さんに壁を案内してもらいましょう。

まずは大徳寺・瑞峯院。
鮮やかな白の壁は、京都周辺でよく取れる「白土」に石灰を混ぜてつくったものです。

佐藤「お寺の壁は宗教の場である、修行の場である、そういう観点から白い壁を塗っている。清らかなように。」

清潔感のある白土は、町屋の台所にも使われました。
光をよく反射する白い壁は、電気がなかった時代、朝晩の炊事に役立ったのです。


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西本願寺・飛雲閣の茶室の壁は高貴な色とされてきた赤。
この土は、高価で、特別な場所にしか使うことが許されませんでした。


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大徳寺の茶室、安勝軒の壁は黒く、くすんだ壁。
元は黄褐色でしたが、土に含まれていた鉄分がさび、黒くなっています。

佐藤「茶の湯は本来、禅宗の修行から始まってきている。ものを粗末にしない、質素という気持ちをあらわす意味から、壁も古びた景色を喜んできた。」

壁がさびていく風情さえも楽しむ。日本人は、用途に応じて壁の色を使い分けただけでなく、そこに息づく自然の風合いをも愛してきたのです。

 

弐のツボ  鏝(こて)先に技あり


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続いては、壁の「仕上げ」に注目です。
壁は部屋や用途によって仕上げが異なります。埼玉県にある遠山邸。
この家の外壁は、強度を増すため、鉄粉を加えた壁です。
トイレや廊下など狭い場所の壁は、着物が触れてもすれないように、ツルツルに磨かれています。

微妙な壁の仕上げは鏝(こて)の技術が決め手。
数寄屋建築を多く手がける左官の久住誠さんは、百丁近い鏝を使い分けています。


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「仕上げの種類だけ鏝があって、鏝数がある」

土壁鑑賞 二の壺 「鏝先に技あり」

鏝によって壁の仕上がりはどのように変わるのでしょうか?
こちらは格式を重んじる広間。壁も上品に仕上げることが求められます。

ここで使うのは硬く、分厚い鏝。

土の力に負けず、表面をムラなくきめ細かになでることができます。


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侘(わ)びた趣の茶室は、素朴さを引き立たせた仕上げにします。
薄く柔らかい鏝で優しくなで、土やわらの質感を残します。

職人はこのように鏝を使い分け、部屋に最適な壁の表情を作り出しています。
でもどうしてこんな微妙な違いを出すのでしょう?


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実は日本の伝統的な建築は、書道と深い関係がありました。
書道の真・行・草という書体が、建築にもそのまま当てはまるのです。

一画一画を正確に表現する真書。


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流れるように大胆に崩して書く草書。


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そしてその中間の行書。
この書体の様式が建築にも取り入れられ、壁もそれを考慮して塗られています。


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こちらは真の間。大切な客を迎える部屋で、直線と直角で構成された、格式ばったつくりです。
壁もまたきめ細かくかっちりと仕上げています。


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ややくだけた行の間は、寛いだ空間を演出するため、 壁はざっくりと仕上げています。


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そして草。千利休がつくった茶室、待庵です。
侘びた小屋のような雰囲気を出すため粗く仕上げた壁は、深い精神性を醸し出しています。

参のツボ 鏝絵に込められた物語を読む

最後に、壁の飾りをご紹介しましょう。


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漆喰を材料に鏝で作ったもので、鏝絵とよばれています。


写真家の藤田洋三さんは、全国を歩いて鏝絵の写真を撮り続けてきました。

藤田「生活史が面白かった。この絵にある、横に並んでいる生活がすごく面白かった。その土地土地の紀行や風土、人情、そしてその土地の物語が全部見えてくる。」

これが土壁鑑賞 三の壺 「鏝絵に込められた物語を読む」


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鏝絵は、漆喰を鏝で壁に盛り上げて作ります。

その多くは、左官が施主に、感謝のしるしとして無償で描いたものです。

鏝絵が今も多く残る大分県北部の農村地帯。


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水の神である龍は、火事から家を守ってくれる存在として、しばしば描かれました。


こちらの建物には、農家の生活を支えた、牛や馬が飼われていました。
壁には二匹の猿が描かれています。


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猿は「魔が去る」の「去る」と発音が同じことから、魔 よ けの力があるとされてきました。


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最後にユーモラスな作品をお目にかけましょう。

福禄寿のツルツル頭を大黒さんが散髪するというとぼけた絵柄。
ガラス瓶に入った整髪料を使い、西洋バサミを手にしています。足元は白いブーツ。


この鏝絵が描かれたのは、明治初期。


藤田「まるでですね、坂本竜馬がはかまをはいて、ブーツを履いて、二本差しをやめて、ピストルを差して、頭はちょんまげを切って斬髪にしていたような、そんなものまでも見えてくる。

当時の人々の美意識だの、技術だの、生活だのがむちゃくちゃ入ってて、面白い。」


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真っ白な漆喰のキャンバスに自由に描かれた鏝絵。
そこには、当時の人々の願いや物語がたくさん詰まっています。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Lil' Darlin' Joe Pass
I Loves You, Porgy Miles Davis
Concorde Modern Jazz Quartet
Red Door Joe Pass
Love For Sale Dexter Gordon
I See Your Face Before Me Miles Davis
In A Sentimental Mood Turtle Island
Relaxin' At Camarillo Joe Pass
Recard Bossa Nova Hank Mobley
Have You Met Miss Jones? Oscar Peterson
Stella By Starlight Branford Marsalis
You're Driving Me Crazy Joe Pass
Moritat Sonny Rollins
Parisian Thoroughfare Bud Powell
Do You Know What It Means To Miss New Orleans Louis Armstrong
Swing Guitars Stephane Grappelli