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File51 唐津焼


壱のツボ 堅く締まった土を味わえ

東京・青山にある古美術店。
数多くある焼き物の中で、最も愛好家が多いのが唐津焼です。

吉戸「土を楽しんだり、形を楽しんだり、釉薬(ゆうやく)を楽しんだり、絵を楽しむ。

いろんな楽しみ方ができて人気があるんだと思います。」

唐津焼のふるさと、佐賀県唐津市です。


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唐津焼は今から400年以上前の桃山時代に、庶民が使う器として作られました。
塩やみそなどを入れる壺(つぼ)。
ざっくりとした土の質感、「土味」が魅力です。

白と黒の釉薬が溶けあい、独特の表情を生み出す徳利(とっくり)。
わずか2色の釉薬で複雑で神秘的な色合いを作り出しています。

唐津焼を作ったのは、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に連れてこられた大陸の職人たちでした。

彼らがもたらした技術によって、それまで日本になかった新しい焼き物が誕生しました。


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当時作られた唐津焼は、古唐津と呼ばれます。

古唐津は日本で初めて絵付けを施した焼き物だと言われています。
唐津焼は使うだけでなく、見て楽しむことのできる画期的な焼き物だったのです。

まずは、唐津焼の土に注目です。
400年前に焼かれた古唐津には他の陶器にはない土味があります。

吉戸「いろんな土があるんですけど、この高台で分かるようにやっぱりざっくりしてカリッとあがって力強い土という表現だと思う。
力強くて焼き締まるのが唐津の土の魅力かもしれませんね。」


一見荒い土でざっくり焼かれたように見える古唐津。
しかし、その肌はきっちりと硬く締まっています。

唐津焼鑑賞 壱のツボ   「堅く締まった土を味わえ」


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陶芸家の梶原靖元さん。
古唐津独特の土を再現しようと、20年にわたって研究を重ねてきました。
梶原さんは、古唐津は粘土ではなく、砕いた石を 原料にしているのではないかと考えています。
唐津市周辺に大量にある砂岩です。
ここから質の良い土を取り出すことができると言います。

まずは細かく砕いた石を水にいれます。
焼き物の原料となる目の細かい良質な土は沈殿せずに水にとけています。
この水を何度もこして、粒子のそろった土を取り出します。
堅く焼き締まる秘密はこの土の成分にあります。
実はガラスの原料となる長石が大量に含まれているのです。


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顕微鏡で見た古唐津の破片。
全体がガラス質になっていて白く見えます。
一方、粘土で焼いた陶器はガラス質が少ないことが分かります。
古唐津の土味はこのガラス質によるものなのです。
どっしりとした重厚感ある水指。
古唐津ならではの土が野性的な力強さを生みます。

唐津焼には、土を生かす伝統的な技法もあります
唐津焼を代表する陶芸家、13代中里太郎右衛門さんです。
桃山時代から伝わる技法を見せていただきました。
ろくろを使わず、ひも状に伸ばした粘土を積み上げて形を作ります。
この時土の中には空気が残っています。


その空気を抜くために行うのが「叩(たた)き」です。
木の板で外と内の両面から叩きます。
こうすることで空気が抜け、土は薄く堅くなっていきます。
力の入れ具合によって壺の形はゆがんでいきます。

中里「叩きの面白さはひずみが出てくる、自然に。
それが面白い、自然にデフォルメするところにおもしろさがある。ろくろは機械だからうまくなればなるほど冷たくなりますよ。」


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叩きの技法で作られた桃山時代の壺。
堅く締まった肌は丈夫で、水漏れもなく、実用面でも 優れていました。
表面には叩いた跡が今もかすかに 残っています。
職人の手技によって、唐津焼には あたたかみのある土味が生まれるのです。

 

弐のツボ  筆の運びを確かめよ


日本民藝館 蔵

続いては唐津焼の「絵」に 注目しましょう。
文様が描かれた唐津焼を「絵唐津」と呼びます。

こちらは民芸運動の指導者・柳宗悦が所有していた絵唐津の名品。
水辺に揺れる芦の様子が、簡素で大胆な筆で描かれています。

尾久「唐津焼の絵の魅力は、筆の運びの素晴らしさだと思う。そして筆遣いがあてた瞬間の太い線と、それをつなぐ伸びやかな細い線ですね。
その絶妙なバランスが美しい。そしてその線の美しさは周囲の余白がこれしかないという美感を醸したてる。」


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これが唐津焼鑑賞 弐のツボ
「筆の運びを確かめよ」

絵唐津の線はどのように描かれるのでしょうか。

陶芸家の中里太亀さんです。


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今描いているのは、桃山時代からの伝統的な文様。
大地からまっすぐに伸びる野の花です。

絵の向きに注目してください。
逆さまから描いています。
筆を手前に引いて線を描くためです。

特別にお願いして、普段と逆の向きで描いてもらいました。
手前から奥へ押すように線を描きます。

中里「押して描くと直線が引きにくい。穂先がふにゃふにゃっと曲がってしまって・・。
引いて描いた方が直線は描きやすいんじゃないかなと」

押した線がどこか弱々しいのに比べ引いた線は伸びやかで勢いがあります。


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唐津焼の文様の多くは、筆を引いて描かれていました。
伸びやかな細い線と太く短い線で表されたススキ。
少ない筆数で描かれた絵は、大らかで自由な味わいがあります。
あえて描き込みすぎないことで線の魅力を引き立てているのです。


絵唐津の魅力は、器としての使いやすさにもあります。
こちらは唐津市にある老舗(しにせ)の旅館。
地元の食材を使った料理をのせるのは、 絵唐津の器です。

女将「昔から伝統的な絵柄津の文様があります。
草だったり木だったりしますけど。これがあんまり精緻な絵が描いてあるとお料理と合いませんし、シンプルな方がよろしいですね。」


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伸びやかな線で描いた簡素な絵は桃山時代に、京や大阪で大人気となりました。
その控えめな美しさは今もなお私たちを魅了します。

参のツボ 肌のとろみに酔いしれよ


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唐津焼の最大の楽しみ、それは器を「育てる」ことです。
数多い唐津焼の中で最も人気があるのが、ぐい呑みや徳利などの酒の器です。

こちらは愛好家垂涎の、斑唐津のぐい呑みです。
使い込むことで、釉薬が薄くなり青や黒の小さな斑模様が浮かんできます。


愛好家は自慢のぐい呑みを持ち寄って、杯を交わします。

こちらはコレクターの等々力孝志さんです。
この日はフランス人のコレクターを招いて唐津焼談義です。

等々力「唐津の杯の魅力は、育てる楽しみなんです。
これで酒を飲めば、この硬い肌がトロトロになるんです。トロトロになったこの杯でお酒を飲めば気持ちも、そして骨までトロトロ になる。それが唐津の杯の魅力。」


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こちらは桃山時代から 使われてきたぐい呑み。
しっとりとした光沢を放っています。

唐津焼鑑賞 参の壺は

 「肌のとろみに酔いしれよ」




ぐい呑みの育て方は至って簡単。

酒を手にとり、肌や高台をなでながらしみこませます。
日々お酒で磨くことで 肌につやが生まれます。


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400年に渡って育てられたぐい呑み。
角が取れて、手に馴染む優しい形になっています。

酒と器を一緒に味わう。

それが唐津焼の大きな魅力です。

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最後に、究極の唐津焼の育て方をご紹介しましょう。

こちらは、古唐津の陶片です。
井上清さんは古美術店を営む傍ら、焼き物の修復を手がけています。


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異なる器の陶片を継いで作ったものを「呼び継ぎ」と言います。
この茶わんには9つの陶片が使われています。
漆で陶片を継ぎ、そこに金を施す技法は、江戸時代の終わりに始まりました。

桃山時代から伝わる完全な形の古唐津は数が限られています。
「なんとか古唐津を手にしたい」 そんな愛好家の想いが、 「呼び継ぎ」の器を作らせました。


井上「唐津が一番呼び継ぎは多いかもしれませんね。
細かく合わせて53継ぎというという話も聞いたことがありますから。
それだけの数のものでも付けて楽しむと言うことかもしれないし。」


呼び継ぎの器も日々使うことで、 育っていきます。


唐津で生まれ育った一力安子さんです。
60年前、嫁入り道具として3点の呼び継ぎの茶わんを持ってきました。
作ったのは古唐津の研究家だった安子さんの父親、 九一さんです。
九一さんは戦前から古唐津の窯跡を調査し、発掘した陶片で呼び継ぎの器を作って楽しんでいました。

一力「いつもなでていましたね。しゃべるときもいつもこうやって、こうやっていたような気がします。」


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父親から受け継いで60年あまり、安子さんも折に触れて、茶わんを取り出し使ってきました。
繰り返し使うことによって生まれたつややかで柔らかい肌。

唐津焼は人に育てられてこそ輝く焼き物なのです。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
Locomotive Thelonious Monk
Blowin' The Blues Away Horace Silver
Whisper Not Wynton Kelly
Just Friends Booker Ervin
The Morning After Chico Hamilton
You'd Be So Nice To Come Home To Paul Chambers
This Love Of Mine Sonny Rollins
Reflections Thelounious Monk
Autumn Nocturne Lou Donaldson
Och Hor Du Unga Dora Art Farmer
I Love You,Porgy Oscar Peterson With Joe Pass
Functional Thelounious Monk
Five Spot After Dark Curtis Fuller
Candy Lee Morgan
I've Grown Accustomed To Her Face Wes Montgomery
Come Sunda Booker Ervin
We See Thelonious Monk
Abide With Me Thelonious Monk