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筆記具の王様と言えば、昔も今も万年筆です。
手にしたその瞬間、美しさを誰かに自慢したくなる小さな美術品です。 |

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今、万年筆は、世界的なブーム。
特に、日本は愛好家が多い国として知られています。
コレクターたちの交流会では、名品が、盛んに売り買いされています。
万年筆が誕生したのはアメリカ。
十九世紀後半のことです。
軸にインクを蓄え、持ち歩くことのできる画期的な筆記具として、普及しました。
明治の日本も、いち早く輸入。
文豪・夏目漱石も、最初は戸惑いながら、新しい筆記具とつきあい始めました。 |
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そんな漱石が出会ったのは、イギリス製のこの万年筆。
実用本位のシンプルなデザインです。 |

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こちらは、昭和の作家・開高健の書斎。 |

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開高健記念館 蔵 |
愛用の黒くて太い万年筆は、ドイツ製の名品です。
開高は、万年筆と書き手の相性について、こうつづっています。
「使用者の指と化し果てるまでになじみきれるのは一本か二本あるかなしである」(開高健「生物としての静物」より)
相性の良い万年筆は、生涯の伴りょのような存在なのです。 |
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まずは、軸のデザインに注目しましょう。
世界的に知られる万年筆コレクターのお宅。
なんと一万本以上が並んでいます!
中学生のころから万年筆を集め続けてきた「すなみまさみち」さん。
さっそく、コレクションを拝見しましょう。 |

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百年ほど前に、アメリカで作られた万年筆。
軸を十八金の透かし模様で飾りました。 |

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こちらの軸は純銀。
手彫りで、繊細な彫刻が施されています。
二十世紀初頭まで、一般的な軸の素材はエボナイトというゴムの一種。
当時の万年筆の多くは、地味なものでした。 |

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1920年代、世界の人々を驚かせる華麗な万年筆が登場しました。
翡翠(ひすい)のような緑、ジェードグリーン。
当時の新素材・セルロイドです。
すなみ「特殊な配色とか、今までにないようなカラフルなものが、自由に作れるようになりました。
色のある時間を楽しむとか、色のある持ち物をめでるとか…
それが、セルロイドの優しさとない交ぜになって、うけてるんじゃないでしょうか」
万年筆鑑賞 ひとつめの壺、
「セルロイドは総天然色のきらめき」。
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1920代から40年代にかけて、万年筆のデザインは百花繚乱(ひゃっかりょうらん)の時代を迎えます。
セルロイドは、象牙の代用品として開発されました。
鮮やかに発色し、大理石やべっ甲を模した豊かな表情を作ることができます。
都会的でおしゃれな質感と、使い心地の良さ。セルロイドは、人気の素材として、一世を風靡(ふうび)しました。 |
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鳥取市に、セルロイドを使って、万年筆を作り続けている工房があります。 |
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六十年の歴史を持つ工房の社長・山本雅明さん。 |
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数少ない万年筆職人の一人、田中晴美さん。 |

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セルロイドの中でも、特に、ジェードグリーンにこだわりを持ち続けています。
棒状のセルロイドを削って、軸にします。
同時に、セルロイドならではの光沢が出ます。
セルロイドは柔らかく、削り過ぎてしまうこともあるため、加工には熟練を要します。 |

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この工房から生み出された、貴重な万年筆。
間違って色が混ざってしまったセルロイドをあえて生かしました。
二度と作ることのできない名品です。
山本「実用一点張りではなく、持って、眺めて、手にとって、楽しいというのも、万年筆の魅力の一つなのです」 |

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セルロイドは、使い込むほどに艶(つや)を増し、えもいわれぬ輝きを放ちます。
セルロイドの登場によって、万年筆は、総天然色の美しさをまとったのです。 |