バックナンバー

File47 和傘


壱のツボ 粋な蛇の目はおしゃれの定番


クリックで拡大表示

京都、宝鏡寺。

天気のいい日、色鮮やかな和傘が境内いっぱいに並びます。

江戸時代から続く和傘のしにせがここを借り、傘の天日干しをしているのです。

西堀耕太郎さんは今では数少なくなってしまった和傘職人の一人です。

西堀「持ってる人を引き立てるといいますか、単に雨だけ防ぐというわけではなくて、そういう美しさっていうのも兼ね備えた道具としてずっと使われてきたものだと思うんですけど。」

日本人に愛されてきた伝統の傘、和傘。

竹を骨組みに用い、そこに和紙を張って作る和傘には美しいデザインが施されてきました。

その機能にもちょっとしたくふうが。
雨風が強いときなど大きさを調整できます。
狭い路地ですれ違う時は、相手をおもんぱかって小さくすぼめるのがマナー。
古来、傘は貴族や僧侶などが権威を示すために用いる特別な物でした。
一方、庶民が雨具として使ったのは被り笠(かぶりがさ)と蓑(みの)でした。
傘が庶民の間に広まったのは江戸、元禄のころ。

人々が装いを楽しむようになってからです。

クリックで拡大表示

岐阜市歴史博物館 蔵

日常的に使われていたのがこの番傘。
商店で貸し出した傘に番号をふった事からその名がつけられたといいます。


クリックで拡大表示

岐阜市歴史博物館 蔵

日本舞踊や歌舞伎などの伝統芸能にも和傘は使われてきました。

薄く透ける絹を張った舞傘は人物をあでやかに見せる舞台の小道具です。


クリックで拡大表示

そして白い輪が印象的なデザインの蛇の目傘。

江戸時代から最もおしゃれな傘として知られてきました。

「蛇の目」はとっても粋な紋様です。
紺や赤など基本となる色に白い円を対比させるすっきりとしたデザイン。
長く日本人に愛されてきた和傘の定番です。

西堀「蛇の目っていうデザインはシンプルだけど力強いデザインですし、非常に美しい。時代を超えて普遍的に美しいデザインだと思うんですね。

たぶん時代の中にはいろんなデザインがあったと思うんですけど、結局残ってるのは無地と蛇の目っていうのが、やっぱり定番としては多いんですね。」

蛇の目は二色の円が作る究極のデザイン 。

和傘鑑賞一の壺

「粋な蛇の目はおしゃれの定番」

蛇の目は日本に古くから伝わる紋様です。

神の使いとされたへびの目をかたどったもので、魔よけの力を持つと信じられてきました。

蛇の目傘が江戸っ子の間で流行したきっかけ、それは歌舞伎でした。
人気演目の一つ、「助六由縁(ゆかり)の江戸桜」。
主人公、助六を引き立てる粋な小道具として蛇の目傘が用いられたのです。


クリックで拡大表示

京都の和傘職人、西堀さんの工房。
蛇の目の紋様は2色の異なった和紙を切り出して構成します。

白と地の色との比率で傘の印象は大きく変わります。
西堀さんに最も粋とされる蛇の目の比率を教えてもらいましょう。

西堀「真ん中の白いところを細くすると、すっきりしたある種シャープなデザインになると思うんですね。
真ん中の白いところが1に対して、上が2、軒の方が3という、1:2:3というような比率になっています。すっきりしたほうがより粋だ、よりきれいだという事で今の太さになったのではないかと思いますけど。」

京都にある 西堀さんの店には茶道や伝統芸能をたしなむ客が多く、その好みが反映されました。

切り出した和紙を傘の骨に張り合わせます。
紙の 継ぎ目が分からないように、幅わずか3ミリの骨の上で慎重に張り合わせていきます。
湿度や気温によって和紙や骨組の状態が異なるため、指先の微妙な調整が必要です。

最も難しいのは、異なった色の和紙を張り合わせる部分。

均一なのりしろを正確にとりながら張っていかないと、全体でゆがみが生じてしまいます。

クリックで拡大表示

美しい同心円を持った蛇の目が完成しました。

おしゃれな傘の代名詞となった 蛇の目傘。
その後、遊び心を加えたさまざまなデザインが生み出されました。


クリックで拡大表示

岐阜市歴史博物館 蔵

二つの輪をずらし、満月に見立てたデザイン。


クリックで拡大表示

岐阜市歴史博物館 蔵

緑の輪を二重にえがいた大胆な蛇の目傘。
地を切り抜いて絵柄を張る「模様継ぎ」の技法で燕(つばめ)があしらわれています。

シンプルで飽きがこない蛇の目は和の装いを最も引き立てる紋様。

和傘の定番として愛されてきた理由です。

 

弐のツボ  開いて花、閉じて竹

和傘を形作る骨組は、さまざまな工芸品にも使われてきた真竹で作られます。
真竹の真っすぐしなやかで加工しやすい性質を生かしてきたのです。

西堀「傘っていうのは閉じてる時の表情とですね、こう広げたとき、まるで花がパッと咲くような感じでですね、開けるときと表情がガラリと異なってまして、開けると非常に華やか。ファッション的な、中から見るときれいなように作ってまして。
閉じたときにですね、こうただ閉じるんではなくて、細くしゅっと、スマートに閉じられるように、渦巻き状に紙をおりたたんで、非常にコンパクトにたためるようになっているんですね。
で、竹の骨なんですけど、和紙自体はこう、中に収まりますので閉じた時でも非常にシルエットがきれいですし、見た目も非常にきれい。

美しくなるように作っております。」

クリックで拡大表示

傘を開いた時に放射線状にのびるすっきりとした竹の骨。

閉じたとき、このように一本の竹の姿に見えるように作られています。

和傘鑑賞二の壺
「開いて花、閉じて竹」


クリックで拡大表示

日本最大の和傘の産地として知られる岐阜。

全国に出荷される和傘の骨組のほとんどをここで生産しています。

まず、骨となる竹の表面に 何本もの線をつけます。
実はこれ、竹を割って骨にした後、再びもとの並びに戻すために欠かせない目印なのです。

骨を専門に作る職人、羽根田正則さん。
神経を集中し、一本の竹を割っていきます。

骨は一本3ミリ。
全て、同じ太さに割っていかなくてはなりません。

均等に割った骨を最初に付けた印に合わせて並べ替えます。

羽根田「この骨によって、傘のでき具合は8割方この骨で決まりますので、骨は一番最初の地味な仕事で、できあがった傘は本当にきれいな形になるんですけども。
バラバラですと、節のところがきれいにそろわないわけですね。
そうすると張り屋さんも張りにくいですし、結果的にはいい傘ができないいうことですね。
で、自然の最初の形に戻すいうことです。」


和紙を張る親骨は50本ほど。
そのうちの一本が欠けても竹本来の美しい曲線を再現することはできません。


クリックで拡大表示

和紙を張る前の傘の骨組み。

見事に一本の竹のような丸みを持っています。


クリックで拡大表示

割る前につけた線がそのまま残っているのがおわかりですか?

傘を押し広げるための子骨も同じ方法で作られています。

子骨の先端は二またに裂かれ、親骨と木綿糸でつながれています。

こうして組み立てられた骨は、開くと等間隔に広がり美しい傘の花を咲かせます。


クリックで拡大表示

職人たちがその技を惜しみなく披露したのがこちらの傘。
親骨の一本一本を途中から松葉のように割って広げています。
弾力性をもった竹ならではの美しい曲線です。

こちらは桔梗(ききょう)骨と呼ばれるもの。
2本に割った骨を隣同士で合わせ、桔梗の花びらのような形を作ります。
仕上げには黒い漆を塗って朱色の和紙をひきたてます。

一本の竹を割って作る繊細な骨の組み合わせ。
それが和傘の雅(みやび)を演出するのです。

参のツボ 内なる別世界を楽しむ

最後は「傘の内側」に注目しましょう。
岐阜で和傘作りに50年以上携わってきた藤沢健一さん。

全国の和紙を吟味し、最も適したものを選んできました。
そのポイントは光に当てた時の発色の良さです。

藤沢「みなさん傘をさされる時に、たぶん表から見ても裏から見ても同じ物だと思っている方が多いと思うんですよ。
ところが、良い例でいきますと、この傘をいっぺん見てもらうと、表から見た感じがこんな感じ。
逆に、裏から見た感じがこういう感じ。二面性があって、色の感じが表から見た感じと裏から見た感じが全く違うものが多いんです。
さしている人しか感じられない美しさです。」


和紙を通った光は、柔らかくまったく違った世界を作り出します。


クリックで拡大表示

クリックで拡大表示

和傘鑑賞最後の壺
「内なる別世界を楽しむ」


傘に使われる和紙は、主に楮(つばき)を原料とした丈夫な和紙です。
長い繊維が絡み合うようにすかれているため、光は繊維の透き間で乱反射し独特の柔らかさを生みます。


田中「ここで初めて傘を手にとって広げた時にですね、この骨のさーっとした広がり具合と和紙のすかした感じから、内側の糸がかけてある状態の傘を見まして、なんてこんな手のこんだことを日本人はやるんだろうみたいな。
こんなことは洋傘ではないなと。
それといろんな色がありますわね。紙の色にしてもそうですけど。そういうことを組み合わせるととっても美しいものだと思います。」


クリックで拡大表示

和紙には防水のために植物性の 油を塗ります。

油を吸収することで和紙は透明度を増し、内側から見ると、より明るく光が透けます。
外から見ると黒に見える傘。
内側から見ると濃い紫色。


クリックで拡大表示

藤の花がステンドグラスのように輝きます。


クリックで拡大表示

子骨に施された飾り糸。
傘の内を華やかに演出する和傘独特の装飾です。

傘をさす人だけが味わえる贅沢(ぜいたく)です。

雨の中、和紙の上ではねる雨音もまた、耳を楽しませてくれます。


クリックで拡大表示

和傘は竹と和紙が作り出す芸術品。
その内側には傘をさす人だけが味わえる美の空間が広がっているのです。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
あめふり 中山晋平
GUESS ILL HANG MY TEARS OUT TO DRY EDDIE HIGGINS TRIO
THE BLESSING STEVE KHAN
SINGIN IN THE RAIN KENNY BARRON
DESAFINADO Stan Getz& Charlie Byrd
90 MINUTE CIGARETTE JOHN HART
A LOVELY WAY TO SPEND AN EVENING EDDIE HIGGINS TRIO
WHERE ARE YOU NOW CHICK COREA
COMERAIN OR COMESHINE EDDIE HIGGINS TRIO
I REMENBER CLIFORD LEE MORGAN
I GET A KICK OUT OF YOU COLE PORTER
BIMBOM GILBERTO ASTRUD
CHILDRENS SONG CHICK COREA
POLKA DOTS AND MOONBEAMS EDDIE HIGGINS TRIO
CORAL KEITH JARRETT
SINGIN IN THE RAIN ROYAL SYMPHONIC ORCHESTRA
雨に唄えば オスカー・ピーターソン