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File37 竹籠(たけかご)

 

壱のツボ 煤竹の歴史の艶を味わう

まずは日本でも指折りの竹籠のコレクションを紹介しましょう。
愛好家の斎藤正光さんが20年に渡って集めた竹籠の数々。

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それぞれユニークな形をした竹籠は全て花を生けるためのものです。

壁に吊るされたこの籠はその名も「みの虫」。美しい曲線と艶を持つ昭和初期の名品です。


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幅の広い竹をねじって作った大胆な作品。

こんなモダンな造形の竹籠もあります。

竹籠は大正から昭和にかけて斬新なデザインの作品が数多く作られました。

竹籠愛好家 斎藤正光さん 「みんな好きなんですけど、その中でいうと特に好きなのはこの作品です。荒く編んでているところと密に編んでいるところ二つが合体しているんですけど。もうひとつねじれという要素が加わっているんですね。一見破綻しそうな形の物をうまくまとめている、すばらしい物だと思っています。」

気品があるすっきりとした直線滑らかで光沢のある質感。
竹籠は竹の持つ美しさを最大限に生かした日本を代表する工芸品です。


小川後楽堂 蔵

日本では古代から様々な竹の道具が生活の中で使われてきました。

花を生けるための竹籠が広まったのは江戸時代中頃のこと。当時流行した煎茶の席で唐物と呼ばれる中国様式の籠が飾られました。
隙間なく編み込まれた格調の高い中国風の作品が京や大阪を中心に盛んに作られました。

 

明治に入ると日本では独自のデザインによる竹籠が生まれます。
自由で軽やかな和風のスタイルが確立されたのです。

まずは竹という素材に注目しましょう。
日本には600種におよぶ竹が自生しているといわれます。


厳しい目で竹を選んでいるのは竹芸家の田邊竹雲齋さん。竹籠作りの技を祖父の代から受け継ぐ三代目です。

600種類もの竹の中で籠の材料となるのは30種類ほど。最も一般的な素材は日本各地に分布する真竹です。

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真竹の竹ヒゴで編まれた竹籠。
繊維が細い真竹ならではの軽やかな表情です。これは高知県にしか自生しない虎竹(とらちく)。 

虎のような斑点を持つ非常に珍しい竹です。


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虎竹を使った竹雲斎さんの作品。
白い肌と黒の斑点が籠に独特の表情を与えています。

数ある竹の中でも最高級の素材といわれるのがこの煤竹。長い時間をかけて燻された竹です。

竹雲斎さん 「これは真竹の煤竹といいますが、400年たった竹は濃いアズキ色の味っていうんですかね、年代によって作られたアズキ色っていうのは雅やかな良さがあると思いますけども。」

こちらがその煤竹で作られた名品。ご覧ください、この色。 数百年のときが生み出した深みのある艶です。

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竹籠鑑賞1のツボ 「煤竹の歴史の艶を味わう」

 

昔懐かしい茅葺きの民家。煤竹はここで生まれます。

かつて毎日の煮炊きに使われていた竃。たきぎを焚いた煙は屋根へとのぼっていきます。 屋根の骨組みに使われている竹は数百年かけて燻されアズキ色に変化します。

 

煤竹の断面。煤が内側にまで染み込んでいます。これが深い艶の秘密です。
年代物の煤竹を使って作られた竹籠。人の手では生み出すことができない色です。
煤竹の中でも最も貴重なのが鳳尾竹(ほうびちく)といわれるもの。雪国の山にしか生えない細く肉厚な竹が燻されたものです。

 

竹雲斎さんは東北や山陰を回って鳳尾竹をさがしてきました。

今では、茅葺きの家が少なくなり鳳尾竹を手に入れることは至難の業です。
 
鳳尾竹はもろく折れやすいため名人の手をもってしても簡単には編めません。  

何度も熱湯にひたし柔らかくしながら慎重に編んで行きます。


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竹雲斎さん 「人工的なものを使うと、品とか、そういうものが薄くなって、品格が少し落ちるような気がしますね。やっぱり自然で長年かかって生まれたものは、ひとつのものに歴史がのってるって解釈したら一番ぴったりくるんではないかと思います。」
最高の鳳尾竹をふんだんに使って編み上げられた籠。鳳尾竹のもつ自然の丸みが籠に上品な柔らかさを与えています。
編み目につもった埃。実はあえて古さを出すためにつけられたものです。

深い艶を持つ竹籠。それは長い時が育んだ 味わいです。

 

弐のツボ 編み目が織りなす繊細な表情

次は籠の「編み方」に注目です。
職人たちが試行錯誤を重ね生み出してきた編みの技法。現在、100以上の技法が伝わっています。

花籠からオブジェまで手がける竹芸家の田邊小竹さんです。

 

田邊さん 「竹の大きな魅力のひとつとして、編み方の違いによって表情がかわるというのがすごく特徴的です。これは抜き編みという編み方ですが。こういう編み方をして、縦に矢竹をさすと本当に力強い、男性的な籠になります。そして、これは透かし編みという、亀甲編みの透かし編みです。これは非常に繊細な編み方です。こういう編み方をすると非常に日本的で女性的な、そういう軽やかな作品になります。」
この花籠は二つの異なった編み方を駆使して作られています。 等間隔に間を空けた「櫛目編み」はすっきりとした印象。
丸い竹ヒゴで模様を 浮かび上がらせる抜き編みの技法で菱形の模様を描きます。編み方によって竹籠は様々な表情を見せます。

竹籠鑑賞2のツボ  「編み目が織りなす繊細な表情」


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美しく透けて見えるように編む「透かし編み」。最も高度な技術を必要とする編み方です。

透かし編みには細く切りそろえた竹ヒゴが必要です。
2本の刃(は)の間に竹を通し幅数ミリの竹ヒゴを作っていきます。 そして一本一本、丁寧に角を落とします。

全ての竹ヒゴに美しい曲線がつけられているのです。

こうして作った数百本の細い竹ヒゴを複雑に編み込んでいきます。

 

田邊さん 「ただこうまっすぐ見るだけでもきれいなんですけど、歩いてまわったりですとか、籠を移動したときに光を反射してすごくきれいに見えたりですとか、非常に美しい、いろんな美しい姿を見せてくれるものだと思います。」

編み目から透かして見える光は木漏れ日のような柔らかさ。

精緻に編まれた透かし編みが作る幾何学模様の影。

繊細な竹籠の編み目には陰影の中に美を見出す日本人ならではの感性が息づいているのです。

参のツボ 花と竹の調和が生む空間を楽しむ

籠に花を生けて愛でるこれこそ竹籠の最高の鑑賞法です。
大胆なデザインの竹籠に赤いグロリオーサの花。                   
こちらはアメリカ人の竹籠コレクター トラビス・ランディさんのお宅です。

竹の質感と西洋の華麗な花が見事に調和しています。

トラビスさん 「花を生けるのはすごく好きですけど、和ダンスには直線が結構あります、花籠は曲がって曲線の部分が出ます。いろんな竹籠があっていろんな魅力があります。日本の文化のいろいろの部分がこういう籠に入っていると思いますよ。」

籠と花はその組み合わせによって魅力を引き立てあい特別な空間を演出します。

 

竹籠観賞、三の壺 「花と竹の調和が生む空間を楽しむ」

大阪の老舗茶道具店で毎日、花を生けている小林厚さんです。

白を基調としたシンプルな洋間。小林さんが選んだのは鳳尾竹の縦のラインが美しいこの花籠。


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山林にひっそりと生える藪小路の枝を生けます。籠の中に透けて見える藪小路。

冬枯れの生け垣の向こうに広がる景色を連想させます。

小林さん 「あの、ものすごくモダンで。籠の良さをいかに生かすか。花も当然ですが調和ですよね。両方が引き立つように、それでまた空間がなおいきいきするように、そういう意識で生けますね」


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黒い板壁の和室にはどんな籠が選ばれたのでしょうか?

色を抜いた竹の白さが際立つ大振りの籠。椿と蝋梅(ろうばい)の枝を生けます。

真っ白な椿と蝋梅の伸びやかな枝が力強い籠と調和し早春の気配を漂わせます。
小林さん 「竹籠に、その空間にこういう花を生けたい。それだけでいいんじゃないですかね。別に制約もないですし、楽しむ気持ちがすごく大切だと思いますね。」

 

清楚な竹で作られた籠。季節の花と共に輝きを増すのです。

今週の音楽

 

曲名
アーティスト名
Rose room Django Reinhardt
The nearness of you Ella Fitzgerald
As long as I live Oscar Peterson
Easy living Kenny Burrell
Lotus Blossom Kenny Dorham
April in Paris The Lionel Hampton quintet
Points roses Django Reinhardt
Little Lulu Bill Evans
If I should lose you Booker Little
Speakin' my piece Horace Parlan Quintet
Koln, January 24,1975 Part 1 Keith Jarrett
St.Louis blues Dizzy Gillespie
One o'clock jump Benny Goodman Orchestra