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File32 和菓子

 

壱のツボ 菓銘を知って物語を楽しめ

豊かな色や形。日本人は、古くから美しく可憐なお菓子を作り続けて来ました。

平安時代の朝廷の記録。全国各地から納められた菓子が記されています。

どんな物かちょっと見てみましょう。

 

梨、栗。当時はこうした木の実や果実を菓子と書いて「くだもの」と呼んでいました。


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私たちがイメージするお菓子の原型は、同じ頃中国から伝えられました。

当時から作り続けられている唐菓子。小麦粉や米粉の生地で形を作り揚げたものです。


その後、お菓子は日本文化の中で発展して行きます。
源氏物語にも登場する椿餅。 日本のお菓子には一つ一つ風流な名前がつけられてきました。

最初は菓子の名前、菓銘に注目です。こちらは京都、北野天満宮に咲く梅の情景から名付けられました。

この二つには、ある人物の名前がつけられています。

尾形光琳が描いた屏風。 紅い梅が先ほどのお菓子に似ていませんか?

そう、このお菓子は、光琳の雅びで洗練された世界を表現しました。

お菓子の名前に色々な意味が込められるようになったのは江戸時代のこと。

 

この書物は、当時の男性の作法や嗜みについてかかれたものです。

お菓子についての記述もあります。絵とともにたくさんの名前があげられています。 菓銘を聞いて即座に理解するのが教養の証でした。

立田餅にはこんな絵が添えられています。

立田とは紅葉で有名な奈良の竜田川のこと。その情景は小倉百人一首にも読まれています。
「ちはやぶる神代も聞かず立田川、からくれないに水くくるとは」

当時の人々は、お菓子の名前からそこに広がる世界を楽しんだのです。

 

和菓子の文化を研究する藪光生さん。菓銘にこだわりを持つお一人です。

藪光生さん  「菓銘というのは多くの場合地域の名所、花鳥風月、和歌、俳句、そうしたものからつけられています。菓銘をきいていただいて、菓銘の奥に潜む物語をその和菓子と一緒に楽しむと和菓子の楽しみが広がるのです。」

和菓子鑑賞の、最初の壺は 「菓銘を知って物語を楽しめ」


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柿の形をしたこのお菓子は 「初ちぎり」。
なぜこのような名前がつけられたのでしょうか?

 

今から300年程前の事。俳句に一生を捧げた加賀千代女はこんな句を詠みました。

「渋かろか 知らねど柿の 初ちぎり」

藪さん 「結婚して幸せかどうかは行ってみないと分からない。それを、柿を食べてみないと甘いか渋いか分からないことになぞらえて詠まれたものです。期待と不安が同居してるとてもいい俳句ですね。柿の菓子を食べたとき、加賀千代女の 「初ちぎり」 を歌った物語を感じてもらうと、和菓子の楽しみはいっそう広がります。」

お菓子は同じ名前でも職人によって、その表現は様々。3人の匠にお菓子を作っていただきました。
お題は初雪。

 


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最初は、三野宮弘さん。小豆を使った和菓子で定評のある老舗の職人です。

三野宮弘さん 「軒下の柴、燃やす柴です、に初めて雪が降って日陰だからなかなか雪が溶けないところを表現しています。まだうっすらと雪が透けて地が見えるようにしています」

きんとんを細い枝に見立て、そこに降った初雪を表現しました。


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和菓子作り35年の三浦政昭さんは美しい色使いにこだわってきました。

薄い羊羹に、白い落雁の粉を降らせます。

三浦政昭さん 「落雁種と羊羹を張り合わせ小豆餡で巻いたものです。 自然なひび割れが初雪を表していると思います。」

すぐに溶けてしまいそうな雪。儚さを感じさせます。


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最後は2000種類以上の和菓子を作って来た市川勇さんです。
市川勇さん 「梅の花に初雪が降った情景を和菓子にしてみました。」

白い世界に梅の花が一輪。早咲きの梅に降った雪でしょうか?

 

職人が思い描くイメージは様々。作り手が込めた思いを読み解く、和菓子にはそんな楽しみ方もあるんです。

 

弐のツボ 内に込められた世界に遊ぶ


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お菓子の切り口にも見所が有るんですよ。一見、普通のおまんじゅうです。中には三色の餡。

不老不死の仙人が住む山「蓬莱」という名がついています。

餡の色には意味があります。緑の餡は松。 赤い餡と白い皮で紅白。縁起の良さを表しています。

川島英子さん。650年以上続く和菓子屋の、34代目です。  
川島英子さん 「中に込められた餡もとても大事です。割って召し上がった時にお客さんが意外な美しさ、思いがけない美しさに「わー」っと歓声が上げます。やはり中で楽しむ、中で喜んでいただく事も大事です。」

和菓子鑑賞、ニの壺。内に込められた世界に遊ぶ。

お菓子作りに欠かせないのが白砂糖。

つくね芋や求肥(ぎゅうひ)に混ぜると細かい細工が可能になります。
黒砂糖とは違い、思い通りの色を付ける事が出来ます。
白砂糖は江戸時代初期まで外国から輸入されていた貴重品でした。
 

その後、幕府が生産を奨励したため、庶民にも行き渡るようになります。
江戸時代中頃には、たくさんの菓子屋が現れました。
それぞれの店が競い合い、色や形など工夫がこらされるようになったのです。

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江戸時代から伝わる直径が15センチの大きなおまんじゅう。中を見るとそこにも小さなお饅頭。
子宝に恵まれるようにと願いを込めて、結婚のお祝いなどで配ります。

見えないところに気持ちを込める。日本人ならではのお菓子です。
 

江戸時代人々は物事を直接的に表現せず、その裏にある物を読み取くことに粋を感じて来ました。

そんな遊び心がお菓子にも息づいています。

 

今も金沢に伝わる面白いお菓子をご紹介しましょう。
前田家12代当主が城を改築した際お祝いとして作らせました。中には、土でできた小さなおもちゃ。砂糖菓子が入った物もあります。 何が出るかは開けてからのお楽しみです。今は、新年を祝うおめでたいお菓子として親しまれています。


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こちらも新年のお菓子「花びら餅」。 中を見てみると…

白い餅の上に赤い菱餅。これは天と地を表すともいわれています。

そして味噌餡、これは雑煮を表します。

甘く煮たごぼう。長寿を願い新年に食べる塩漬けの鮎に見立てています。

内側に様々な意味や願いが込められた和菓子。
そこには日本人の美意識が込められています。

参のツボ 意匠に季節を感じよ

秋から冬は、和菓子職人が最も忙しい季節。 新しくとれた米や小豆等を使い、季節にあわせたお菓子が作られます。


これは「亥の子餅」。

イノシシを思わせるこのお菓子は無病息災を祈り亥の月、すなわち11月に食べる習慣が有ります。

イノシシは火の守り神でもあります。 亥の子餅を食べる日にこたつを出すと火事にならないと言い伝えられています。

 

一幸庵主人 水上さん 「季節が72あるのと一緒で、日本人の季節の楽しみっていうのは、他の民族には見られない事じゃないですか。」

 

和菓子鑑賞、最後の壺は意匠に四季を感じよ。


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命がめぶく春。
この季節の代表的なお菓子といえば、桜餅。女の子の健やかな成長を祈るひな祭りに欠かせません。

人々が涼を求める夏。

京都では6月30日に、水無月と呼ばれるお菓子を食べる習慣があります。これ、ある物を表しています。何だかわかりますか?

冷蔵庫が無い時代、冬にとった雪や氷は、氷室と呼ばれる場所に保存されていました。そして水無月の頃、朝廷や幕府に献上されました。しかし、こうした雪や氷は庶民の口に入る物ではありませんでした。そこで人々は、白い外郎(ういろう)のお菓子を氷に見立てたのです。

朝晩の空気が冷たくなる秋。お彼岸には、おはぎです。

材料の小豆は邪気を祓う力があるといわれ先祖の供養に供えられます。粒あんの皮が、秋に咲く「萩の花」に似ている事からおはぎと呼ばれています。

実は、春に食べるぼた餅も同じお菓子。 牡丹の花が咲く春の彼岸に食べる事からそう呼ばれます。

11月になると、お茶の席では新茶が振る舞われます。

茶の湯の正月とも言われる季節、お菓子選びにも気を配ります。


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この日用意されたお菓子。

きんとんに白い氷餅をまぶして表した冬の情景です。四季折々の行事に欠かせない和菓子。
その意匠は、季節の風物を愛でる 日本人の心を映し出しています。


今週の音楽

 

曲名
アーティスト名
Left Field Buddy DeFranco
Oh Lady Be Good Turtle Island String Qurtet
Waltz For Debby Bill Evans
Nancy John Coltrane
Changes Miles Davis
Waltz For Debby John McLaughlin
Blues March Just Wait A Minute!
What Can I Say Dear Red Garland
Someday My Prince Will Come Miles Davis
You Leave Me Breathless Milt Jackson
Waltz For Debby Cannonball Adderley With Bill Evans
Sidewinder Turtle Island String Qurtet
Cleopatra’s Dream Bud Powell
It Might As Well Be Spring Bill Evans
Summertime Miles Davis
Autumn Leaves Stan Getz
Waltz For Debby Cheryl Bentyne
Candy Lee Morgan