「和箪笥」は、現代のインテリアとも調和する家具として見直されています。
野島裕希さん 「落ち着きますよね。箪笥自体の質感ですとか、塗りの深さといいますかね。そんなとこも、とても気に入ってますし」
木の美しい風合いが魅力的な「和箪笥」。その存在感、只者ではありません。
東京都内にある骨董店を、覗いてみました。一口に「和箪笥」といっても、いろいろな種類や形があります。 「和箪笥」が登場したのは、江戸時代の中ごろ。本格的に普及するのは、明治に入ってからです。その頃から、地方色豊かな「和箪笥」が、各地で作られるようになりました。
そもそも、「和箪笥」ってどんな家具のことをいうのでしょうか?
実は、「抽斗(ひきだし)」があるものを、「箪笥」と呼びます。ひしゃくや升のような形の器を抜き出せる家具、それが「箪笥」なのです。 これは、「薬箪笥」。様々な薬を整理分類できるように、たくさんの「抽斗」が取り付けられています。
そろばんが組み込まれた 「掛硯」(かけすずり)と呼ばれる箪笥。
階段だって箪笥になります。 階段の下を巧みに利用した収納スペースです。
「和箪笥」は、このように多種多彩、様々なものが作られました。
和箪笥が醸し出す木の味に、注目です。
ここは、年間千点あまりの「和箪笥」の修復に取り組む工房。 この道25年、「和箪笥」の全てを知り尽くす渋谷新三郎さんに、ツボを聞いてみましょう。
「鏡板」と呼ばれる「抽斗前板」、そこに箪笥職人達のこだわりがあります。
「和箪笥」鑑賞、壱のツボ、「「抽斗前板」の表情を、見よ。」
材が、桐の場合すっきりとした直線的な木目を生かします。欅の場合は、赤みを帯びた力強い木目が好まれます。木目の模様をどう活かすかが、職人たちの腕でした。
材は、取り方によって、木目が変わります。幹の中心に向かって切り取る「柾目」(まさめ)、縦に真っすぐ木目が走ります。
木の中心を外して取る「板目」。山形の木目が出ます。木目の表情は、木の種類や、材を取る箇所によっても変わります。
特に欅には、波型や渦巻き状の木目が現れる部分があります。 「玉杢」(たまもく)と呼ばれ、珍重されてきました。4〜500年位経った木からしかこうした「玉杢」は取れません。
瀬尾政利さん 「これは最高の玉杢、と言ってもいいと思うんですけどね。全体にこの板はあるもんでね、これだけの玉杢っていうのはまずないですよね。あー、難しいですね。もう、やっと手に入ってもすぐ売れてなくなったり。そうするとまた探さなきゃなんないし、探すほうが大変ですよね。」
最高級の「玉杢」だけが持つ文様。 その「玉杢」を使った豪華な箪笥が仙台にあります。 明治中ごろ作られた「仙台箪笥」の逸品です。とくとご覧下さい。 荒々しくうねる見事な「玉杢」。こうした「玉杢」の美しさを、際立たせる伝統の塗りの技が、今も、仙台で受け継がれています。 漆を塗り重ねる「生地呂塗り」という技法です。板の表面が、飴色に透け、かつ、鏡のようにつややかになるように仕上げていきます。そのために、何度も漆の塗りと砥石での研ぎを、繰り返します。
20以上ある最後の工程。鹿の角粉を使って、直接、掌で表面を磨きあげます。
「生地呂」塗りをほどこした前板。年月を重ねると、漆の層の色が抜け、木目の風味が一層浮き立ちます。職人たちの技が、前板の表情に磨きをかけるのです。
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「和箪笥」に取り付けられた様々な金具。意匠を凝らした一つ一つの金具が「和箪笥」の個性を引き立てます。「引き手」にも、たくさんの種類があります。 芽を吹いたばかりの蕨を思い起こさせる「蕨手」。
蛭がうねるような形をした「蛭手」。
そして、力強く重厚な「角手」。
金具の美しさに魅かれて「和箪笥」を手に入れる人もいます。豪華な金具が前面を飾る衣装箪笥。
白瀬愛紗さん 「お部屋が割りとシンプルなんですけど。この箪笥のこの金具自体もアクセントになっていて、お部屋を引き立ててくれる。」
何よりも一番目に付くのが「錠前金具」。透かし彫りで、鶴に松の文様があしらわれ、「和箪笥」に芳しさを加えています。 「和箪笥」の金具は、金偏に芳しいと書いて「錺」(かざり)と呼ばれます。
「和箪笥」鑑賞、二つ目の壺、「粋を凝らした錺を愛でよ」
「錠前金具」には、縁起のいい吉祥文様が勢ぞろい。長寿の鶴と亀が、鍵穴を守ります。巾着と小槌で、商売繁盛。大切なものをしまって置く箪笥に、庶民の心持が表れています。
丸い部分が「初日の出」、その前を「鶴」が飛ぶ、縁起のいい組み合わせ。こうした「錠前金具」は、当時の職人達が一点一点腕によりを掛けて作りました。
仙台に伝わる金具づくりの技を、継承する八重樫榮吉さん。最後の錺金具職人といわれています。鏨を使って複雑な文様を刻んでいきます。
さらに、念入りな「打ち出し」…。 これらは、伊達藩の兜師の技を引き継いでいるといいます。立体的で迫力満点の竜が姿を現しました。
八重樫榮吉さん 「これだけ盛り上がってる金具ってのはね、日本全国にないと思います。1センチ以上ですか、盛り上がってます。こうやってみますと。これ遠くから見てもバッチとなにと分かるような金物だと思うんですよ。」
そして、錆び止めと「色付け」のため、仕上げに漆を使います。かつて鉄砲や大砲などに施されていた技法です。
八重樫榮吉さん 「最後のお化粧です。金物の」
漆を付けて焼くこと、六回。深みやツヤ、そして、耐久力が生まれます。 まるで命を吹き込まれたように黒光りした龍の錺金具が、前板の上で躍動します。
究極の「和箪笥」に出会うには、日本海に浮かぶ新潟県・佐渡に渡らなければなりません。かつて、港町・小木で、大量の「箪笥」が作られていました。佐々木佐男さんは十数年にわたって、島で作られた 「箪笥」を集めてきました。
佐々木さん自慢のコレクション、船乗り達が愛用した佐渡の「船箪笥」です。
錺金具が、まるで鎧の様に全体を覆っています。荒海の航海に耐えられるように、頑丈に作られました。それをお分かり頂くために、「抽斗」をご覧下さい。
(佐々木さん、「抽斗」を抜き出し、奥に手を入れて…)
佐々木佐男さん 「これが、隠しになってるんですね。」
中をご覧下さい。いちばん奥に、小さな秘密の箱が隠されていたのです。 行きの違う二つの抽斗を巧みに利用して作られたものでした。
佐々木佐男さん 「佐渡の箪笥の隠しはだいたいこういう形態でね。これだけの短い差を、隠しにしてあるんですね。」
船箪笥には、内部に巧妙なからくりが仕込まれているのです。
「和箪笥」鑑賞、三つ目の壺。 「船箪笥に隠しあり 仕掛けあり」
佐々木さんが集めてきた「船箪笥」の中から、もう一つ仕掛けがあるものを、ご紹介しましょう。
佐々木佐男さん 「この底が隠しになるんですけど、このままでは出せないですね。」
仕切り板をずらすと、底板が外れます。二重底になった「隠し」です。佐々木さんは、ここに書付を発見しました。
佐々木佐男さん 「これはこの家のもので、ちょっと出せませんけど、分けてもらった時のそのままの状態です。こういう自然のものをそのまま生かして使った隠しなんていうのはね。職人の技の切れ味というところでしょうかね」
江戸時代から明治にかけて、佐渡には、日本海で物資を輸送する「北前船」が行き来し、大いに賑わいました。船乗りたちは貴重な書類やお金を入れるため、頑丈で巧妙に仕掛けが施された「船箪笥」を必要としました。「北前船」が寄港する地域では、こうした「船箪笥」が、沢山作られたのです。
職人が高度な技術を駆使して作った「船箪笥」、その究極の仕掛けをお見せしましょう。仕掛けは、下の三枚扉にあります。
真ん中の扉を、横にずらして外すと、後ろに「抽斗」が現れます。この「抽斗」は見せかけのもの。扉になっています。その奥に、桐の箱が隠されています。 その抽斗の前板を取り外すと、さらにもう一つの桐箱が。
やはり、蓋を横に抜くと、また桐箱。
一ミリの誤差も許されない、精緻を極めた木工の技です。
四回、扉をはずして、ようやく最後の桐箱に辿り着く厳重な造り。「船箪笥」には、世界に例を見ない、芸術的ともいえる仕掛けが隠されているのです。
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