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File15 風鈴

 

壱のツボ 庶民の知恵が涼を生む


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岩手県、奥州市の水沢駅。ホームに、涼しげな音が響き渡ります。

 

天井からつり下げられた1500個の風鈴。 南部風鈴です。
ここは、江戸時代から、鉄瓶や茶釜などの産地として知られたところ。風鈴も、その伝統の技をいかして作られています。

風鈴の歴史をひもといてみましょう。古いお寺の境内。軒先に吊されているのが風鈴の先祖といわれる「風鐸」です。仏教伝来とともに、日本にもたらされました。


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風鐸は、魔よけの働きをします。風鈴とは似ても似つかない音で、魔物を撃退。

 

風鈴が、いつから夏の風物詩になったのか、よく分かっていません。
でも、江戸時代中頃の浮世絵では、浴衣を着て、縁側に涼んでいる美人の上に、今と全く同じ形の風鈴が見えます。


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風鈴を楽しむツボ、その一。「庶民の知恵が涼を生む」

風鈴には、夏の暑さを少しでもしのごうとした人々の工夫が生きています。

 

庶民的といえば、ガラスの風鈴。目にも涼しく、軽やかな音が特徴です。

東京・江戸川区。ガラス風鈴は、ここで作られています。
型を使わず、ガラスを息でふくらませる、「宙吹き」という技法。

篠原裕さんと儀治さん。父親の儀治さんは、風鈴を作り続けて70年近くになります。
高温で溶かしたガラスに、息を送り込みます。ふくらんでいくガラスを、竿を回してきれいな丸い形にしていき、1分ほどで見事なガラス玉が完成。

軽やかな音を生み出す工夫は、ここからです。
ガラス玉の、口の部分を切り落とし、刃物で削っていきます。
この時、切り口をなめらかにしているのではなく、ギザギザの部分をあえて残しています。


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口がギザギザになっていると、中のふり管がこすれて、音がします。触っただけで、音が響いてきます。この部分がツルツルになっていると、触っただけではまるっきり音がしなくなるのです。

 

弐のツボ 音がゆらいで心地よい

風鈴の音は、なぜ心地よいのでしょうか。


3年前、大手鉄鋼メーカーの技術者たちが、風鈴の音の解明に挑みました。

実験を行ったのは、鉄道の車両が出す音や振動を調査するチーム。
風鈴の音の周波数や、余韻の長さなどを分析します。
使ったのは、南部風鈴。

面白いことが分かりました。風鈴から、周波数の異なる二つの音が検出されたのです。高さの違う二つの音が重なり合って、
私たちの耳に届いていることが分かりました。

資料提供
住友金属テクノロジー
さらに、その低い方の音を細かく調べてみると、波形が滑らかでなく、ギザギザになっています。
ここでも複数の微妙に異なる音が、響きあったり、打ち消しあったりしていたのです。

 

さらに東京工業大学名誉教授 武者利光さんは、風鈴の音は、短冊が風を受けて、不規則なリズムで鳴るのが心地よいと指摘します。

武者利光さん 「風鈴の音を聴くと、非常に良い気持ちですけれどもあれが、あれがピーという音だと、涼しいと感じない。美しさというのは、規則性ではないんです。
風鈴というのは、ガラスにしても鉄の風鈴にしても、振動体。形が複雑ですからいろいろな成分をもった振動数の音が出る。それが重なり合うとゆらいでくる。
それから風鈴というのは、下に短冊がぶらさがって、風が吹くと短冊がトントンと打つが、あの打ち方が規則的だったら、風鈴を聞いてもいいと思わないんですよ。われわれの体のリズムと同じようなゆらぎをもった刺激を受けると、心がリラックスする。」


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風鈴のツボ、その二は、 「音が揺らいで心地よい」

重なり合い、変化する不規則な音が、心地よさの秘密だったのです。


暑さを忘れさせ、気持ちを和ませる風鈴の音。
それは人が自然の中に感じる、「いのち」のリズムに通じていました。

参のツボ 余韻にドラマあり

日本映画界の巨人、黒澤明。
代表作の一つで、風鈴を効果的に使っています。
昭和40年公開の「赤ひげ」。江戸時代の名医・赤ひげと患者たちの物語。
結核で死の床にある佐八の回想です。愛した妻は、地震の後、行方不明になります。その妻と、偶然、浅草寺のほおずき市で、再会するのです。

野上照代さん 「昔は、ほうずき市のほうずきには風鈴はなかったんだそうです。
黒澤さんが、ほうずきだけでは画にならないし、情緒がないといって風鈴をつけたんです。時代が違ってもいいので、画面の効果を重要視して変えたんですね。風鈴が本当に良くいきていると思います。

黒澤さんは、小道具のように、わからないだろうと思うのでも、見えないものでも絶対許しません。風鈴もスタッフたちがいろいろな風鈴を集めて音を出しては、これがOKとか、ずいぶんやりました。そこで小田原名人が作った風鈴がすごくいい音だということを聞いて、わざわざそれをとりよせたときいています。」

この映画に使われた風鈴は、神奈川県の小田原で作られたもの。
余韻が、普通のものより2倍も長いのが特徴です。
今日最後のツボは、「余韻にドラマあり」


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その風鈴は、今も小田原で作られています。
この工房は、もともと仏壇に置く、鈴で有名でした。余韻の長さには、定評があります。

 

材料は、鉄ではありません。銅にスズなどを混ぜて作った「砂張」という合金。

砂張は、鉄に比べてとてももろく、制作には高度な技術を必要とします。溶かした砂張を一つ一つ、慎重に型に入れてゆきます。


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作曲家・シンセサイザー奏者の冨田勲さんも風鈴に魅せられた一人です。
お宅を訪ねると、宝物のように大事にしている、あるものを出してくれました。
目の前で、組み立ててくれた、これが風鈴だといいます。

その名も「明珍火箸風鈴」。
この奇妙な風鈴と出会ったのは、兵庫県の姫路の駅でした。


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冨田勲さん 「僕がこの明珍の風鈴と知り合って半世紀。まだ、関西の方へ行くと、蒸気機関車が現役の頃でね。姫路の名産だっていうんでなんとなく買っちゃった。高かったですよ、結構。そういう所のおみやげにしては。それで持って帰ったら、いい音がするんでね。それからやみつきになってますけどね。」


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この、糸でつるしただけの
火箸が、なぜこんなにもやわらかく、深い余韻を残すのでしょうか。

火箸の風鈴は、姫路の由緒ある甲冑師の家で作られていました。甲冑師とは、鎧や兜を作る職人のこと。その甲冑師が、明治維新後、火箸作りに専念するようになりました。
現在の当主、明珍宗理さんです。

 

甲冑と同じ鍛え方で、叩いて行きます。
火箸1本を千回叩くといいます。

こうして精魂こめて鍛えた火箸は、高く澄んだ音を出すことが分かったのです。

明珍宗理さん 「これが叩く前の音ですけど、まあまったくこの鉄の金属音ゆうような音ですね。こちらは打ち終わった音です。」

火箸の音に心を揺り動かされた冨田さん。
さまざまな素材や形の火箸を明珍さんの工房から取り寄せました。しかしなかなか、そので風鈴を使う機会はありませんでした。

 

長年の夢が実を結んだのは、出会いから40年後。NHKスペシャル「街道をゆく」のテーマ曲でした。
街道を旅しながら、作家・司馬遼太郎が捜し求めた日本という国の形。
巡礼の鈴を思わせる、明珍風鈴の音は、作家の、「祈り」にも似た思いを響かせます。

今週の音楽

曲名
アーティスト名
WITHOUT WORDS GEORGE SHEARING & JIM HALL
WALTZ FOR DEBBY CANNONBALL ADDERLEY With BILL EVANS
RECADO BOSSA NOVA DUSKO GOYKOVICH
O GRANDE AMOR STAN GETZ & JOAO GILBERTO
MIDAMA CLIFORD BROWN
EASY LIVING PAUL DESMOND
“街道を行く” TM 冨田 勳
BALANCO NO SAMBA STAN GETZ