実は、根付は私たちにとって身近なものなんです。
今や暮らしに欠かせない、携帯電話。そこにぶら下げられている、キャラクター付きのストラップ。このストラップの元祖が、根付なのです。
根付は江戸時代に流行ったお洒落小物。印籠や煙草入れと組み合わせ、着物の帯につり下げていました。大名から庶民まで皆、お気に入りの根付を持っていたといいます。
そんな根付の逸品がこれ。「つるべに蛙」。井戸水を汲みあげる桶に、蛙が鎮座するしゃれたデザイン。
この蛙のリアルなことといったらどうでしょう、大きさは1センチにも満たないんですよ。
こちらは3.5センチほどの蕎麦打ち職人。一分の隙もない細かな彫りが印象的です。
根付は置物ではなく、帯にさげられるもの。そのため根付師と呼ばれる職人は、 360度、どこから見られてもいいよう、彫刻を施したのです。
根付にはもう一つ特徴があります。これは中国古代の仙人をかたどった根付です。
背中にご注目。穴があいていますね。この紐通しの穴がある事が、根付に欠かせない条件なのです。
根付の使い方を見てみましょう。印籠や煙草入れが、下に来るよう、帯の裏を通して上に出す。そこで 滑り止めの役割を果たします。
デザインは物語の登場人物、干支の動物、身の回りのものまで千差万別。 では優れた根付をどう見分ければいいのか。通に聞いてみましょう。 渡辺正憲(わたなべまさのり)さん、収集歴 30年。その質の高いコレクションは日本有数といわれます。
根付鑑賞最初のツボは 「“極意は小さく丸く”」。根付ならではの、美しさがあるのです。
そんな根付の名品がこちら。江戸時代後期の名工・鈴木正直(すずきまさなお)の作です。大きさはわずか4センチほど。一体どうすれば、こんなに細かく彫れるのでしょう。そしてイノシシの格好にもご注目ください。足が巧妙に折りたたまれています。こうした丸く小さな根付で、正直はその名をはせました。
正直の子孫、阪井正美(さかいまさみ)さん。正直の技を受け継ぐ五代目の根付師です。
朝熊黄楊(あさまつげ)という地元でとれる硬い木にひたすら彫りを加えていきます。
一つ完成するのに1ヶ月。根気のいる作業です。これは初代正直の手になるデザイン集です。ここに丸いデザインの秘密があります。
あくまで写実的でありながら、ポーズを工夫して丸くしようとしていることが分かります。
特に難しいのが龍。この細長い体を、いかに自然に丸めるかが思案のしどころ。結局このポーズに行き着きました。実際に彫ってみると…この通り。見事に丸まっていますね。
これが正直以来、脈々と受け継がれてきた根付の形です。丸ネズミは正直の作品の中でもとりわけ人気の高かったものです。
「手のひらの上の小宇宙」と言われる根付。その小さく丸い世界は実用性と芸術性をともに実現しようとした職人の心意気が、生み出したものだったのです。
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今度は根付を江戸の人々がどう楽しんだか、探っていきましょう。
小野里三昧(おのさとざんまい)さん。今最も将来が期待されている根付師です。 古来人々に愛されてきたカッパ。三昧さんは妖怪や動物の根付を得意としています。
いつも水が入っている頭のお皿ではスズメが水浴び中。古くからあるテーマにひとひねりユーモアを加えるのが、三昧流です。
こちらは猫・猫・猫。この猫たちが合わさると、なんと一匹の猫の顔になるんです。
作品の元になったのはこの江戸時代の浮世絵。三昧さんにとって根付とは江戸の心を体現するもの。絶えず古い根付の心を探りながら、制作に取り組んできたといいます。
根付鑑賞二番目のツボは 「粋な遊び心を楽しむ」。
江戸時代ならではの、のびやかな精神を根付に見ていきましょう。 こちら、どうみても本物の栗?と思いきや、実はこれも根付なんです。質感まで本物そっくりにつくってあります。勘違いしない人、いませんよね?
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根付けで謎々も楽しめます。草履の上に蛙、さて、その心は?
草履は旅の象徴。そこに蛙を合わせて「旅から帰る」。旅から無事に帰る、という願いが、込められているのです。
こうした謎かけは「判じ物」といい、江戸の人々のお気に入りでした。
ではこの判じ物は、どうでしょう。中央に、草刈りなどに使う鎌。その下に奴(やっこ)の文字。そして周りをとり囲む輪っか。このなぞなぞ解けますか?
では正解です。 これは「か、ま、」ですね。奴(やっこ)は「ぬ」と読むのがポイント。そして「わ」。つまり「か・ま・わ・ぬ」。江戸で流行っていた洒落だそうです。
どうしてこんな根付が生まれたのでしょうか?
お上を笑いとばすかのような、とぼけた根付をお目にかけましょう。ぼた餅を くわえた小僧さん。さっと振るとおもちをぱくり。 口が開いたり閉じたりする、からくりの根付です。
江戸の庶民が幕府の目をかいくぐりながら育んだ遊びの精神。お楽しみ頂けましたか?
こちらは都内にある日本で唯一の根付専門店。価格は2〜3万円から何百万まで。客も、学生から企業の経営者まで様々だそうです。
でも、根付好きのどのお客さんもきまってすることがあります。
それはとにかく根付を触ること。
単に商品を手に取るのではなく手のひらで味わうように触ります。
最後の壺は “なれ”を味わう。
なれこそ根付の鑑賞に欠かすことのできないポイントなんですよ。なれとは年月を経た根付が変色したり人が使い込んだことで、すり減ったりした状態をいいます。
象牙でできたイノシシの根付を江戸時代と昭和のもので比較してみます。昭和の方は象牙特有の白い輝きを放ち、毛並みの彫りも細かく揃っています。一方200年前の根付は、全体が黄色く変色し、彫りも一部消えかけています。これがなれです。
アメリカ人の根付コレクター、ジェリー・メステッキーさん。10年前、根付の繊細な技に日本ならではの美を見いだし収集を始めたといいます。
メステッキーさんが集めているのは、よくなれのでたものばかりです。250年ほど前に作られた根付。古びた象牙特有の温かな飴色が、気に入っています。
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