2021年05月27日 (木)航空機産業がアウトドア業界に参入?カギは"夢"

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「え、何ですかそれは。いくらなんでも無謀ですよ」

 

これまで支援してきてくれた担当者から、そう言われたという、新たな挑戦。

 

新型コロナウイルスの影響でピンチに陥った航空機の組み立て会社が挑んだのは、これまで培ってきた技術とは無関係の、アウトドア用品の分野でした。

 

なぜそんな転換ができたのか、キーワードとなったのは“夢”でした。

 

(津放送局 記者 須川拓海)

 

苦境にあえぐ航空機産業

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「これまで従業員は、飛行機を作るというスケールの大きい仕事に夢や誇りを持っていました。今は、不安もある中で辛抱してもらっていて、事業継続ができなくなるおそれもある。何か新しいことを始めないと、と思って…」

 

三重県木曽岬町に工場を構える大起産業の天田淳一専務は、そう語ります。

 

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創業から60年、社員の“夢”も乗せた数多くの飛行機の組み立てを請け負ってきた大起産業ですが、新型コロナウイルスの影響で、主力だったボーイング社の飛行機が大きく減産。

 

国産初のジェット機「三菱スペースジェット」の開発縮小も追い打ちをかけ、航空機部門の売り上げは半分近くにまで減少しました。

 

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従業員は交代で休業を余儀なくされ、徐々に工場の活気が失われていったといいます。

 

社員アンケートで新事業募集!

 

そこで行ったのが従業員を対象にしたアンケートでした。

 

去年6月、400人ほどから新たな事業に関する提案を募ったのです。

 

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最初の質問は「あなたの趣味はなんですか?」。

 

飛行機に変わる“夢”を従業員のプライベートな好みから見いだすのがねらいでした。

 

「興味を持っていること、知見を持っていることが、一番、熱意を持って取り組めることだと思うんです。社員の皆さんの話を素直に聞いて、その中から何か突破口が開けないのかなと思ってやってみました」(天田専務)

 

ザリガニの養殖、家具の製作、船乗り、畑…。

 

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社員からはさまざまな提案が寄せられました。その中で選ばれたのが、アウトドア用品の企画・販売だったのです。

 

提案したのは、当時、社外に出向中だった竹尾滋展さんでした。

 

社内に配られたアンケートの存在を聞きつけ、直接連絡があったと言います。

 

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釣りが趣味の竹尾さんは、コロナ禍によるアウトドア人気の高まりを肌で感じる機会が多く、この企画は絶対にうまくいくと確信していました。

 

「何か新しいことにチャレンジしたいなという思いはずっとありましたが、規模が大きい会社ではないので、新たなことに踏み出せるチャンスはめったにない。何としてでも自分の思いを届けて実現させたいという思いでプレゼンしました」(竹尾さん)

 

天田専務も、竹尾さんの熱い思いに、心を揺さぶられたといい「非常に熱を持っていて。『絶対うまくいきます、成功させます』と言ってくれたので、素直にうれしかったですね」と話します。

 

「いくらなんでも無謀」の声も…

 

しかし、アイディアはすぐに周囲の理解を得られたわけではありませんでした。

 

大起産業の経営相談や支援にあたってきた、中小企業庁三重県よろず支援拠点の立道和久さんは、この企画をはじめに聞いたときは全く理解できなかったといいます。

 

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「え、何ですかそれは。いくらなんでも無謀ですよ」と反対したという立道さん。

 

大起産業の確かな技術を知っているからこそ、これまで培ってきたものをほかの業種に転用する道を探ることを提案しました。

 

そうした中でも、大起産業からは事業を進めたいという強い意向が寄せられました。

 

その思いに、立道さんは考えを改めたといいます。

 

「会社の閉そく感を打開するためにもやるんだ、という熱意を訴えられました。最終的に決めるのは事業者ですから、覚悟を持って取り組むなら私もできる限りのサポートをしようと思いましたね」(立道さん)

 

安全性を追求 相次ぐ壁を打破

 

とはいえ、商品を企画し、消費者に届けるまでを一貫して行うのは会社としても初めて。

 

始まってみると、ブランド名やロゴの決定、材料の表示、実際に製品を作る中国の工場とのやり取りや輸入する船の契約といったさまざまな壁があったといいます。

 

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そんな中でも徹底したのは安全性の追求でした。

 

ミスが許されない飛行機組み立ての品質管理のノウハウを生かしたのです。

 

中国の工場に対しては、飛行機組み立てと同じように資料を作成して検品の徹底を指示しました。

 

飛行機に変わる“夢”を実現するという仕事が、竹尾さんたちに新たな活力を生み出し、やがて開発は軌道に乗り始めました。

 

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竹原さんも「商品を開発しているときはワクワクしかないですね。たぶん起きているときはずっとキャンプのことを考えています。仕事のことしか頭にないくらい」と話します。

 

ついに商品販売、夢は続く

 

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提案の採用から10か月、ついに最初の商品となるテーブルとコンテナボックスの販売が始まりました。

 

売り上げも少しずつ伸びていて、まずは商品を知ってもらおうと、販路拡大に地道に取り組んでいます。

 

「やっとここまで来たなと。思いどおりにならないこともたくさんあって、商品1つ作って世に送り出すのがこんなに難しいことなんだと痛感しました。それと同時に、今は本当にうれしさでいっぱいですね」(竹原さん)

 

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「社員のみんなの“夢”を乗せた商品がようやくできました。前向きでワクワクするような気持ちを、を買っていただく皆さんにも共有してもらいたいですね」(天田専務)

 

従業員に趣味を聞くことから始まった新たな事業。

 

厳しい状況の中で生み出されたアイディアが今、飛行機に変わる“夢”になろうとしています。

 

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(須川拓海 2018年入局 四日市支局に所属 飛行機には数えるほどしか乗ったことがない)

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:16:30


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