過去の入選作

2022年06月24日 (金)【みえDE川柳】 お題:刻む

天 映画より泣ける玉ねぎみじん切り/田舎のマダムさん

橋倉久美子先生 句の中で二つのものを並べたり比べたりするときは、その取り合わせがカギとなる。意外性がありながら納得させられるものがよいが、両者の距離が遠いほど成功する可能性が高い。この句では、「泣ける」ものとして「映画」と「玉ねぎみじん切り」を並べて、成功している。
 「刻む」の題にタマネギやネギの句はたくさんあった。言わば第一発想である。「第一発想は捨てよ」とよく言われるが、第一発想であっても、そこからの広げ方によっておもしろい句になる好例と言えるだろう。

 

地 刻むより千切る男の粗料理/岩窟王さん

橋倉久美子先生 この句を読んですぐに思い浮かべたのはキャベツ。ちまちまと千切りにしてドレッシングをかけるのではなく、大振りに手でちぎってウスターソースで食べるイメージを持った。「粗料理」は魚のアラではなく一種の造語と受け取ったが、雰囲気のうまく表れた言葉だと思う。
 もっともこのごろは刻んだりカットしたりした野菜もごく普通に店頭に並んでいるし、包丁よりキッチンバサミをよく使うという声も聞く。男の料理に限らず、また千切るかどうかは別として、「刻む」という行為は減っているのかもしれない。

 

人 ライバルと刻んだ記録だと思う/ジャック天野さん

橋倉久美子先生 記録を刻むということは、1分1秒、あるいは1センチ1ミリを競う陸上競技だろうか。水泳や、スピードスケート、スキージャンプかもしれない。いずれにせよ、ライバルと切磋琢磨しながら、少しずつ少しずつ記録を作ってきたのである。
 ぶっきらぼうに言い放ったような句だが、その口ぶりから、ライバルへの感謝や畏敬の念、こつこつと努力してきた自信と誇り、そしてほんの少しの照れまでが感じられる。「ライバル」は川柳でよく使われる題材だが、この句ではプラスの存在として、うまく用いている。

 

<入選>

包丁の手元も香る新生姜/オクラの花さん

古時計時間を刻むのも忘れ/ムギさん

世界史に刻む愚行を見るライブ/船岡五郎さん

刻まれた名前の重さ鎮魂碑/ゆうさん

アナログの時計愚直に時刻む/草かんむりさん

雨垂れが刻むリズムで知る雨量/戴 けいこさん

放課後の僕の予定は分刻み/みくさん

背を向けてひたすらキャベツ刻む妻/汐海 岬さん

刻まれた名も風化する墓仕舞い/比呂ちゃんさん

刻んでもブランド名で売る和牛/福村まことさん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 365句のご投句をいただきました。ありがとうございます。
 ネギやタマネギ、しわ、時間、碑や石が多かったかと思いますが、意外性のある句も多く、楽しませてもらいました。ただ、意外性はあるものの、やや無理のある句やわかりにくい句もありました。また、「刻む」という言葉を使っていない句の中には、「刻む」という題があまり感じられないものもありました。
 よい川柳は、意外性がありながら、読者に「わかるわかる」と共感させたり、「なるほど」と納得させたりする力があります。ただしその前提として、読者にちゃんと伝わることが大切です。意外性を求めるあまり、わかりにくい句や題を離れた句になっていないか、もう一度確かめてみましょう。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2022年05月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:若い

天 日記帳開いて若い僕に会う/ゆきちさん

丹川修先生 日記に書かれているのは若い日の初恋のことなのだろうか。或いはそこには夢や希望に満ちた将来への思いが書かれているのか。また、仕事での失敗の苦い思いが綴られているのであろうか。若き日の日記を通じ、なつかしい思いにひたっている作者。今に到り、若き日の思いに触れ、さらにこれからの人生にも希望や喜びを得られたことだろう。「若い僕に会う」の表現が素晴らしい。あのころはこんなことを考えていたのだと、回想できる日記帳の存在が羨ましい。

 

地 途中下車できる若さを持っている/水たまりさん

丹川修先生 「若い時にはいくらでもやり直しがきく、そして、興味のあることに思いきり挑戦ができる」このような事を詠んだ句は、他にもたくさんあったが、直接的な言い回しではなく、「途中下車できる若さ」と表現をしたところが、この句を成功に導いている。決められたレールから少し外れて途中下車できるのは、やはり若さの特権だろう。この作者は今なお、若さを保っている。

 

人 鏡見て若いと思うまで化粧/ばばりんさん

丹川修先生 思わず笑いが込み上げてくる。いじらしくもあり、楽しくもある句である。人間、誰しもいつまでも若くありたいし、若く見られたい。こうした気持ちがなくなると、本当に老けてしまう。鏡に向かって、自身が納得いくまでお化粧をして、今日はどちらへお出かけするのだろうか。化粧が上手くいくと、心までうきうきしてくる。「若いと思うまで」と素直に表現したところに、人間味が溢れている。

 

<入選>

若いわね本意を知らずありがとう/奥田よしさん

あんなやつ好きじゃないよと赤らめる/ゆうさん

好奇心にブレーキかけず若くいる/久実さん

大袈裟に驚き絞り出す若さ/福村まことさん

古稀米寿いま一番の若さあり/金子鋭一さん

二十年やっと家電が若返る/葵さん

若い日の話少しは自慢入れ/草かんむりさん

末席の若い意見が光り出す/富田さよ子さん

若く見える方を選んだ試着室/火の鳥さん

Tシャツで世間の波に立ち向かう/汐海 岬さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 「若い」のお題だけに、たくさんの若さが溢れた句に接し、私自身も若い気分にさせられました。また、「若い」を直接詠み込まずに「若い」を巧く表現した句も多数あり、皆さまの工夫に感心させられました。反面、いつも気になることですが、標語的なものや「若い」の一般的な定義を引用(説明)した句も、複数見受けられました。川柳は「人間」を詠い、ニンゲンの歓び・哀しみを詠うと言うところを、心がけてください。
 たくさんのご投句をいただき、大変ありがとうございました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


2022年04月22日 (金)【みえDE川柳】 お題:かばん

天 六年でこんなに縮むランドセル/田舎のマダムさん

橋倉久美子先生 小学校に入学したときには、ランドセルを背負わせるのもかわいそうなほど小さくて、まるでランドセルが歩いているようだった我が子。それが卒業を迎えた今では、ランドセルが背中にちょこんとくっついているように見えるほど、大きくたくましくなった。
 当然ながらランドセルが縮んだわけではなく、子どもの方が大きくなったのだが、「こんなに縮む」という率直な感動の表現で、子どもの成長を喜ぶ気持ちがまっすぐに伝わってくる句になった。

 

地 金曜日カバンにためた愚痴を捨て/汐海 岬さん

橋倉久美子先生 そうか、サラリーマンの鞄には、仕事に必要な書類やパソコンだけでなく、愚痴も入っていたのかと気付かされた。月曜日から愚痴を溜め続けた鞄は、金曜日にはさぞいっぱいになっていたことだろう。
 ところでこの愚痴、いったいどこで捨てたのだろう。居酒屋でぶちまけてきたのか、それとも家に着く前にその辺の溝にでも流したのか。いずれにせよ、週末にはできるだけ鞄を元気で満たして、また月曜日を迎えるのだ。「金曜日」という設定が生きている。

 

人 夕焼けも入り込んでるランドセル/ムギさん

橋倉久美子先生 ランドセルというのは、教科書やノートだけでなく、夢や希望はもちろん、道草をして手に入れた石ころや草花、時にはカエルやダンゴムシなど、ありとあらゆるものを入れるものらしい。夕焼けだって、入れようと思えば入るのだ。
 その上この句は、夕焼けを「入れる」のではなく、「夕焼けも入り込んでる」と、まるで夕焼けがこっそりと忍び込んだかのように詠んでいるところがおもしろい。入り込んだ夕焼けがその後どうなったかを考えると、いくつもの童話が作れそうだ。

 

<入選>

会うたびに孫に背負わすランドセル/みほりんさん

一年生ママも鞄に入りたい/涼妻喧母さん

親の夢だけであふれるランドセル/よっちゃんさん

家族入れ父の鞄の重いこと/夜半亭あぶらー虫さん

終活がわたしの鞄軽くする/宮のふみさん

お出かけをいまかいまかと待つかばん/メダカさん

おばちゃんのかばんに飴が住んでいる/火の鳥さん

銀行を出ると無口になるかばん/ピエロさん

疲れきったかばん乗せてる終電車/久実さん

寅さんの失恋詰まる旅カバン/流星さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 463句のご投句をいただきました。ありがとうございます。
 「かばん」は身近な題ですが、身近過ぎてかえって発想が広がりにくかったのか、よく似た内容の句が多かったように思います。また4月という時節柄、ランドセルの句がたくさんありました。
 入選しやすいのは、意外だけど言われてみれば納得できるという発想の句ですが、たとえ発想が似ていても、表現によって入選に近づくことができます。「似た発想の句を投稿したのに没だった」という方は、入選句の表現に注目してみてください。
 いずれにせよ、リズムが整っていること、言いたいことが伝わりやすいこと、文字や言葉遣いに誤りのないことが大切です。投句の前に、もう一度確かめてみてください。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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