過去の入選作

2023年04月28日 (金)【みえDE川柳】お題:鏡

天 着飾ってちょいと斜めに見る鏡/みく さん

橋倉久美子先生  毎日の化粧やネックレスをつけるぐらいなら、顔とせいぜい胸の辺りまで見ればいいだけなので、洗面所の鏡や鏡台ですむ。ところが「着飾って」となると、全身が映る鏡でバランスなども見たいし、後ろ姿も気になる。まして着物なら、帯の結び方や襟足の具合も確かめておきたいところ。かくして姿見の前で、あっちを向いたりこっちを向いたり、さらには体をひねったりということになる。
「ちょいと斜めに」という言い方から、手早く着付けを終えたお姐(ねえ)さんが仕上がりを軽く確かめている、粋な姿を思い浮かべた。
地 きれいかと訊かれて絶句する鏡/桐一葉 さん

橋倉久美子先生  「感想を聞かれた鏡が困っている」とか、逆に「鏡が忖度(そんたく)する」といった意味の句がたくさんあった。同想句は没になる可能性が高いが、表現に抜きんでたものがあると、入選につながることもある。
この句の場合、単に「困っている」で終わらせず、「絶句する」と大げさな表現をすることで成功した。嘘をつくこともお世辞を言うこともできず、さりとて本当のことを言うわけにもいかず、四苦八苦している鏡の表情が見えるようだ。

人 まだすてたものじゃないわと見る鏡/やすさん さん

橋倉久美子先生  川柳の魅力の一つは、自分の弱点や欠点をさらりと吐き出せるところにある。今回の「鏡」でも、鏡に映る自分の姿が今ひとつだという立場の句が多かった。そんな中、この句は「まだすてたものじゃない」と、ポジティブに言ってのけた。このずうずうしさ、楽天的なところも、また川柳ならではである。
もっとも、「まだ」と言うからには、「もうだめかと思っていたけど」という気持ちも根底にあるのだろう。気持ちの微妙な揺れ動きが、話し言葉を使ってうまく表現されている

 

 

<入選>

お風呂場の鏡曇ったままで良い/松山敬子 さん
剃り残し見つけドヤ顔する鏡/福村まこと さん
うつすけど録画機能はない鏡/せいじ さん
絶景を二倍楽しむ水鏡/なるほどマン さん
手鏡で友達になる春の月/よっちゃん さん
病み上がり今日は鏡をスルーする/ムギ さん
鏡拭くそれでも消えぬ顔のシミ/はぐれ雲 さん
はねている髪を鏡のせいにする/汐海 岬 さん
歯磨きをジッと見つめている鏡/だんでらいおん さん
以上にも以下にも映さない鏡/戴 けいこ さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子 先生

 445句のご投句をいただきました。
「眼鏡」を初めとする字結び(意味に関わりなく題の文字を用いること。「鏡(かがみ)」の題に対して、「眼鏡」は「鏡」の字は使っているが「かがみ」ではないので、字結びとなる)やそれに近い句は少なく、よかったと思います。一方、身近な題材だったのでかえって発想が似通ってしまったのか、「鏡の中に母(父)がいる」など、同想句がたくさんありました。
ちょっとした気付き、発見を、口語で、575のリズムで詠むのが川柳の基本です。「誰もが見て(聞いて、感じて)いるけど、まだ誰も言っていないこと」を、身近なところから探しましょう。

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2023年03月31日 (金)【みえDE川柳】 お題:おしゃれ

天 百歳のお洒落上手がよくもてる/あそかさん

丹川修先生  百歳になられてもお洒落(しゃれ)を怠ることなく、紅をさし、首元にはネッカチーフを巻いたりして若々しく、そしてかわいらしく、ちょっぴり色気さえも感じるおばあちゃん。
お孫さんやらひ孫さん達に囲まれいつもにこにこされている。そして、町内の方からもアイドル的な存在で、皆が寄ってくるのだろう。いくつになってもお洒落(しゃれ)っ気を忘れずいることが、若さや元気を保つ一つの秘訣である。
下5の「よくもてる」の素直な表現が良い。

地 襟元のおしゃれボタンの開け具合/火の鳥さん

丹川修先生  こんな細かい着こなしにこそ、お洒落(しゃれ)の真髄(しんずい)があるのだろう。「そんなことどうだっていいのじゃないの」などと言ってしまえば、身も蓋もない。
お洒落(しゃれ)とは決して良いものを身に着けるだけでなく、着こなしのセンスが、問われるのであろう。
襟元を開けすぎてもだらしないし、きっちり止めてしまえば、面白みがない。まさしく開け具合である。
微妙なところへの目付けが素晴らしい。

人 名を問わず花のおしゃれを愛でる蝶/福村まことさん

丹川修先生  赤い花も黄色の花も、そして小さな花も最大限おしゃれをし、自分を輝かせ、虫たちを引き寄せる。
「おっ、きれいな花だ。よし、行ってみよう」などと魅了された蝶(ちょう)のささやきが聞こえてくるようである。
上5の「名を問わず」にそれぞれにできるオシャレこそ最高のお洒落(しゃれ)であると暗示されているように思う。

 

 

<入選>

紅をさし春一番を迎え撃つ/汐海 岬さん
サングラスかけてお洒落を締めくくる/ゆきさん
リメイクの昭和の服に付くいいね/近江菫花さん
ゼロ円ですてきなおしゃれその笑顔/ふうちゃんさん
おしゃれした案山子に雀近寄らぬ/ムギさん
羽繕いだけでおしゃれをする小鳥/流星さん
顔うつるほどに磨いた父の靴/夜半亭あぶら―虫さん
前髪を一ミリ切るか切らないか/水曜さん
麻痺の手の母もほころぶネイルケア/田舎のマダムさん
参観日ママが競っておしゃれの日/横手敏夫さん

 

丹川修先生 丹川修先生

 行動制限もほぼなくなった春の訪れにふさわしい「おしゃれ」のお題に楽しい句を多数お寄せいただきました。その中で、髪形やお化粧を句材にしたもの、洋服や着こなしを詠まれたものが、その大半を占めていました。
また、お洒落(しゃれ)を競い合う様を取り上げたものなどには、類似した句が多くありました。
選をさせて戴(いただ)くまでは、表面的(外見的)なお洒落(しゃれ)だけではなく、人生そのものに潜む「お洒落(しゃれ)」な生き様などにスポットを当てた句も期待しておりましたが、残念ながら多くを目にすることはありませんでした。
しかしながら、ほのぼのとした楽しい句ぞろいで、明るい気持ちで選をさせて戴(いただ)くことができ、投句いただいた皆様に感謝いたします。
誠にありがとうございました。

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2023年02月24日 (金)【みえDE川柳】 お題:忍者

天   人参がどうも苦手という忍者/ゆきち さん

橋倉久美子先生 思わず笑った。忍者とて人の子、苦手なものもあるだろうが、よりにもよって人参(にんじん)が苦手だとは。クールでスマートなイメージの忍者が、これではまるで子どもではないか。
  「どうも苦手」という言葉選びも秀逸で、黒頭巾の忍者が人参(にんじん)の入った料理を前に、「これだけはどうも……」と頭を掻いている様子が目に浮かぶ。「ニンジン」という響きも、忍者が口にする(?)「ニンニン」というセリフを思い起こさせて楽しい。ナンセンスユーモアを感じさせる句。

 

地 イケメンの忍者がそろう武家屋敷/よっちゃん さん

橋倉久美子先生 この忍者は、観光地の忍者屋敷で忍術を披露したり、マスコミ相手に広報活動を行ったりするのが仕事。当然ながら身体能力が高く、身だしなみにも気を配っている。派手な衣装とアクロバティックな演技で客を魅了し、拍手と歓声を浴びる存在である。
 忍者というと、表に出ない陰の仕事と思われがちだが、そもそも高い身体能力や特殊な技能・知識を必要とする仕事でもある。現代の忍者は、そのプラス面を押し出すことで、人気を得ているのだ。

 

人 百態を演じひっそり逝く忍者/あそか さん

橋倉久美子先生 忍者にもいろいろな仕事や勤め方があると思うが、この句の忍者は、ある時は職人に、ある時は店主になどと様々な顔を使い分けながら務めを果たしていたのだろうか。おそらく知人や縁者は少なくないのだろう。ところがその素顔を知る人はほとんどおらず、ひっそりと死んでいったというのである。
 「百態を演じ」と「ひっそり逝く」の落差のつけ方がうまく、一人の忍者の生涯を思わせるドラマチックな句になった。

 

<入選>

電車まで忍者にさせる伊賀の国/ぬいぐるみ班代表まきば さん

世界中マスクだらけにした忍者/ごん太 さん

忍者すら忍び込まないゴミ屋敷/みく さん

経年で忍者屋敷も手すり付き/春爺 さん

忍者とて文化遺産で残る道/夜半亭あぶらー虫 さん

うかつには言えぬ間者の孫がいる/アカエタカ さん

かくれんぼ忍びの術が役に立つ/こまっぴ さん

病室の寝息忍者が見て回る/トラス さん

週刊誌忍者たくさん飼っている/横山閲治郎 さん

ジェンダーレスくノ一なんて呼ばせない/田舎のマダム さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子 先生

「忍者」という題は難しいかと思っていたのですが、442句ものご投句をいただきました。
入選句はもちろん、投句されたほとんどが、「現代の忍者」を詠んだ句でした。「忍者」はどちらかというと過去のもので、身近とはいえない存在なのに、きちんと自分の近くに引き寄せ「今」を詠んだ句となっていることは、たいへんよかったと思います。
一方、リズムの悪い句、駄洒落(だじゃれ)を使った句の他、「忍者」という題がないと何が言いたいかわかりにくい句も少なからずありました。特に具体的なものを表す名詞が題の場合、題の言葉を使って句を作る方が、伝わりやすい句になります。

 

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2023年01月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:跳ねる

天 筆先の跳ねが決意の年賀状/ごん太さん

丹川修先生  「今年こそ」と決意を語った年賀状の筆の跳ねがそのことをはっきりと物語っている。
パソコンで作成する賀状が多いなか、このような肉筆のものには温もりがこもっていると同時に、差出人の新しい年に対する意気込みまで感じとることができる。
このような日常の何でもないことに目を付けたところが素晴らしい。
今年最初の投句にあたり、実にタイムリーな作品である。

地 運命を変えた一球イレギュラー/録画は家康天さん

丹川修先生  この作品は、今回の応募作のなかで、お題の「跳ねる」を読み込まない手法による数少ない句である。
一読して、ボールがグラウンドの起伏のせいで思わぬ方向に跳ねてしまって慌てた様子が、はっきりと目に浮かんでくる。
必ずしも野球だけではなく実社会にあてはめて鑑賞することもできる。
「運命を変えた」のややオーバーと思えるような表現が、逆に効果的である。

人 結果出し野暮な批判を跳ね返す/ゆうさん

丹川修先生  厳しい批判を浴びせられても、くじけることなく素晴らしい結果を出し、その批判を見事に跳ね返したのであろう。
鑑賞者のこちらまで胸がスカッとする。
「あっぱれ、あっぱれ」と言いたい。
スポーツであれ、職場であれ、勉学でもこうあって欲しい。年始にふさわしく勇気をいただいた句である。

 

<入選>

あの頃の日記に君の名が跳ねる/汐海 岬さん
跳ねるにはちょっとマスクが邪魔になる/彦翁さん
不器用で好奇心だけ跳ねている/水谷裕子さん
物価だけ大いに跳ねるうさぎ年/羽馬愚朗さん
御神籤の凶から跳ねて出る覚悟/八木五十八さん
お隣の芝生で跳ねてみたい犬/ラビットさん
気持ちだけ跳ねて上がっていない足/戴 けいこさん
無記名のコラムに筆がよく跳ねる/あそかさん
存分に跳ね回ったという寝顔/ジャック天野さん
一言が言えず終わった跳ねた髪/宮のふみさん

 

丹川修先生 丹川修先生

 卯年を迎えるにあたり、うさぎのように跳ねることができる年になればという思いで「跳ねる」のお題をお出ししましたところ、多数の楽しい句が寄せられました。
 微笑ましい気持ちで選をさせていただきました。「飛ぶ、跳ぶ、弾む」などを用いた句も寄せられるのではと思っていましたが、皆さまは、お題に忠実に作句をしていただきました。
 また、お題を読み込まずに、それらの意味を変えずに暗示(反映)させるような手法で作句されたもの(「地」の句のような)は、ほとんどありませんでした。この場合、いかに出された題に正確に呼応させるかが川柳作りの大切な要素になります。是非、挑戦していただければと思います。
 たくさんの投句をいただきありがとうございました。

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2022年12月23日 (金)【みえDE川柳】 お題:走る

天   ピストルでズドンと脅し走らせる/伊東真 さん

橋倉久美子先生 「走らせる」というからには運動会のスタートのピストルだろう。
 「パン!」だの「(用意)ドン!」だのという音で表現することが多いが、この句は「ズドン」という重々しい音になっていて、「脅し」という言葉とよく合っている。
 運動が苦手で走りたくない子どもも、こうなったら走るしかないだろう。もっとも最近は、音に敏感な子どもも少なくないことが明らかになってきて、保育園や幼稚園はもちろん小学校でも、ピストルではなく笛などでスタートの合図をするらしい。
 「ズドンと脅す」など、もってのほかなのだ。

 

地 ビリの孫アップで写す徒競走/破れ蓮 さん

橋倉久美子先生 この句で重要なのは、「アップで写す」というところ。懸命に走る表情をアップで写してしまえば、1位だろうとビリだろうと同じ写真ができあがる。
 もちろん大切な孫のこと、何位であろうとかわいさに差はないのだが、明らかにビリの写真では孫自慢も少々しにくいし、写真を見せられた方も褒め方に悩むだろう。
 川柳の世界では、「孫の句は抜けない(入選しない)」と言われるが、それは「孫」である必然性がないのに孫の句にしてしまうから。この句は「孫」がうまく生かされている。

 

人 ひたすらに走り続けてタダの人/なるほどマン さん

橋倉久美子先生 いわゆる現役世代のうちは、自分のため、家族のために、ひたすら走り続ける他ないのが多くの人の経験するところ。
 その結果、高い評価や大きな報酬を手にする人もいるが、それはむしろ少数。大多数はほどほどの評価やそこそこの報酬、すなわち「タダの人」で終わることになるわけだが、走り続けたことに何らかの価値があるのかもしれない。
 「タダの人」というオチが、共感を呼ぶ句。

 

<入選>

食料がないのか街を走る猪/羽馬愚朗 さん

愛犬に走らされてるドッグラン/こまっぴ さん

走ったら疲れないかとカタツムリ/アカエタカ さん

僕以外鉛筆走る試験場/市川勲 さん

応援の拍手が僕を走らせる/クライミング さん

走っても走ってもまだジムの中/ジャック天野 さん

やみくもに走ることない救急車/ベルベル さん

助走なら日本一だとほめられる/かぐや姫 さん

走っても大差が無いと悟る年/中央線の旅人 さん

自己記録目指して走る最後尾/福村まこと さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子 先生

 439句ものご投句をいただきました。人間はもちろん、動物他いろいろなものを走らせた句がありました。
 入選しない理由の一つに、リズムの問題があります。川柳は575のリズムが基本ですが、中8、下6は句をいたずらに重くしてしまい、
川柳の特長である軽やかさがなくなってしまいます。指を折ってでも今一度リズムを確かめ、推敲(こう)をしてください。
 また、「鬼ごっこ」「パトカー・救急車」「逃げ足」「カタツムリ」などを詠んだ句で、うまくまとまっているけれど、すでに同じような内容が詠まれているため入選にできない句がありました。
 逆の見方をすれば、それだけ実力のある方の句だと思います。懲りずにご投句をお願いします。

 

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2022年11月25日 (金)【みえDE川柳】 お題:写真

天 遺影でも存在感をしめす父/春爺さん

丹川修先生  作者の父親は常に自信を持ち、知識や教養も高く堂々として存在感にあふれたお方であられたのであろう。
そして、亡くなられた後もその遺影にまで存在感が漂っているというのである。
多くの人達に尊敬され、惜しまれつつ亡くなられたことだろう。
そして、多くの人が生前にうけた御恩に感謝をしながら、遺影に手を合わされたに違いない。
遺影をテーマにした句が、たくさん寄せられた中にあって、ずっしりとした重みのある素晴らしい一句である。

地 注文は斜め15度妻を撮る/田舎のマダムさん

丹川修先生  より美しく写真を撮るための技術のようである。
しかし、なぜ15度なのだろうか。きっと、試行錯誤の末、導き出した結論なのだろう。
確かに誰しも美しく若々しく撮ってもらいたいと願っている。
こうした注文を素直に受け入れているご主人様の優しさも同時に伺うことができる。
仲の良いご夫婦である。「写真」の記述はないが、構えたカメラにポーズをとる姿がくっきりと目に浮かぶ。

人 捨てようとすると目が合うブロマイド/ゆうさん

丹川修先生  私たちが子どもの頃、大切なものはブリキの缶に入れて保管したものだ。
男の子はメンコ、女の子はおはじきなどを宝物のように扱っていた。
このブロマイドも長い間、大切にしていたのであろう。
最近になり、整理をしようと取り出しては見たものの、そのブロマイドと目が合ってしまって捨てることを躊躇(ちゅうちょ)してしまった。
憧れたスターの姿が甦(よみがえ)り、瞬時にして自身の若き時代へと時が巻き戻されたことだろう。
「ブロマイド」という懐かしい単語が上手く生かされている。

 

<入選>

この笑顔昭和が残るセピア色/1刀両断さん

写真では親友らしく見えていた/汐海 岬さん

幸せのシャッターチャンス逃さない/こまっぴさん

集合写真いつも左の端にいる/かぐや姫さん

戦争の写真言葉が下を向く/ムギさん

ハイチーズ笑顔は誰も美しい/谷てる子さん

従順に見せる写真のしたたかさ/福村まことさん

好きな子を指で白状させられる/瑠珂さん

写真よりまず網膜に焼き付ける/火の鳥さん

証明の写真キリリと結ぶ口/だんでらいおんさん

 

丹川修先生 丹川修先生
 今回のお題「写真」に対し、免許証、遺影、セピア色、アルバムなどを取り入れた句が多く寄せられました。
今日までの長きにわたる記録である「写真」に対するそれぞれの思いを垣間見ることができ、楽しく選をさせていただきました。
そうした中から、やはり意外性や独自性に富んだ句を入選とさせていただきました。
 また、若い方の作品と思われる中に、「盛る」や「映え」などを用いた句も相当数ありました。
言葉は生き物であり進化をするものですが、果たして、それらが今の段階で「写真」の題に対して適切かどうか疑問を感じました。
できる限り正当な用法に沿った句をつくるべきだと思います。たくさんのご投句ありがとうございました。

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2022年10月28日 (金)【みえDE川柳】 お題:続く

天 ディスタンス鳥になりたい日が続く/あそかさん

丹川修先生 コロナ禍に見舞われて、やがて3年を迎えようとしている。
 現在は行動規制がなくなったとはいえ、まだまだ不安な日が続いている。
以前のようにディスタンスなど気にせず、楽しむことができる日を待ちわびている作者。
大空を自由に飛び回ることができる鳥になり、好きなところへ今すぐにでも行きたいと願っている。
「鳥になりたい」との表現に我慢を余儀なくされている作者の苦悩が滲み出ている。
時事吟(じじぎん)の中にあっても単なる風刺にとどまらず,人間の心理を上手く詠まれた。

地 目が合って続く言葉を待っている/メダカさん

丹川修先生 読み手のこちらまで、なにかドキドキさせられる。作者の待っている言葉とは、果たして何であろうか。愛の告白では。
もしそうだとすれば、何ともロマンチックな句である。それとも・・・などと、結論を見せずに読み手に様々な想像を与えるところに、
この句の上手さと深みを感じる。
ぜひ、作者に答えをお聞きしたい気もするが、それでは前言のコメントに矛盾する。

人 声のトーン変えて自慢はなお続く/八木五十八さん

丹川修先生 自分の世界に入り込むと自然に声のトーンも変わってくるのだろう。
きっと身振り、手振りも派手になり、もう自慢ばなしは誰にも止めることはできない。
眉をひそめる聞き手の顔も同時に見えてくる面白い句である。
この手の状況を詠んだ句は少なくないと思うが、「声のトーン」に目を向けたところが素晴らしい。

 

<入選>

固辞をした人がマイクを離さない/松田少納言さん

ゴシップの続きを煽る週刊誌/福村まことさん

幸運の神と続けるお付き合い/春爺さん

あきらめず猫のおねだりまだ続く/戴 けいこさん

続けたらそれが普通になる手抜き/田舎のマダムさん

統計の開始以来が続く危惧/船岡五郎さん

陽射し避け延々続く立ち話/西井茜雲さん

モナリザは微笑み続けねばならぬ/ホッと射てさん

メモ帳の表紙に日記と書いてある/漢方十七錠さん

花マルとバツが交互に続く日々/汐海 岬さん

 

丹川修先生 丹川修先生

「日記に関するもの」「夫婦の間柄」「ダイエット」などに、それぞれ『続く、続かない』を用いた句がたくさんありました。
「続く」のお題に対して「続かない」と詠むことに違和感がなくはないが、基本的には「続かない」のお題がでることはないので、許容範囲と私は考えます。
しかし、お題はより忠実にとらえる方が望ましいとは思います。また、「継続は力なり」の格言を引用した句も多数、見受けられました。
格言や諺(ことわざ)などからヒントを得ることは悪いとは思いませんが、やはり自分の観点、自分の言葉で綴りたいものです。
たくさんのご投句をいただき、ありがとうございました。

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2022年09月30日 (金)【みえDE川柳】 お題:拾う

天 周波数君に合わせて拾う声/ごん太さん

丹川修先生 騒がしい中でも、恋心を抱く相手の声を聞きたいと懸命に耳をそばだてる。
なんとしても君の声をキャッチしたい。なんとも微笑ましく楽しい句である。
君の声だけに集中する様子を周波数を合わすと表現したところが、きわめて素晴らしい。
 そして、きっちりと周波数が合い、目標の声が聞こえてくるさまを「拾う声」と
したところが、さらに素晴らしい。「拾う」の題にピッタリである。

地 あっさりとメッキが剥げた拾い読み/ジャック天野さん

丹川修先生 しっかりと熟読をして得た知識は簡単にメッキが剥げることはないが、
拾い読みで得たものは、あっさりと剝がされてしまう。同様にスマホなどで、
簡単に得たにわか知識は表面的なもので、少し突っ込まれると答えに窮する。
 やはり、経験やたゆまぬ努力によって得た知識や技術は本物の輝きを放っている。

人 眠れない鍵を拾ったばっかりに/カラリさん

丹川修先生 素直にこの句の解釈をすれば、鍵の落とし主は、きっと家にも入れず、
あるいは車のドアも開けることもできず、困っているだろうと思うと気の毒で
なかなか寝付けないということになるだろう。
 しかし、それではあまり川柳として面白いとは言い難い。少々理屈っぽい解釈になるが、「鍵」を「何かの問題解決のためのヒント」と解釈すればどうだろう。
それも「拾った」というのだから、自分の努力ではなく、人から与えられたのかもしれぬ。
有難いような、悔しいような複雑な思いが、頭をめぐる。
或いは、「鍵」を「重要な役目」と置き換えれば、さらに面白いストーリーを
想像してしまう。

 

入選

孫たちと拾い集める秋の色/みほりんさん

女子会で噂拾って不眠症/久実さん

趣味の会そっと孤独を拾い上げ/水谷裕子さん

七転び八起きその度拾う傷/化石さん

山ほどのエールを拾う負け試合/汐海 岬さん

幸せを分かち合うため拾う猫/八木五十八さん

掛け声でベンチを目指す球拾い/夜半亭あぶらー虫さん

幸運を拾う四つ葉のクローバー/こまっぴさん

目に見えぬ努力を拾う師の温み/福村まことさん

動物園命拾われ牙捨てる/奥田よしさん

 

丹川修先生 丹川修先生

 「拾う神…」「球拾い」「拾い読み」「ゴミ拾い」などを題材にした句が
多く寄せられました。
いつものことながら、その中でも、意外性、独自性が強く感じられるもの
(同想にならないもの)を入選とさせていただきました。
 また、中には「拾う」をやや強引に使用した句や「拾う」の反対語である、
「捨てる」を使った句もありましたが、少し、無理があるように思いました。
できる限り多くの方に入選を果たしていただけることを願っております。
多数ご投句いただきありがとうございました。

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2022年08月26日 (金)【みえDE川柳】 お題:網(あみ)

天   絵日記に網よりデカイかぶと虫/田舎のマダム さん

橋倉久美子先生 一読、片手に虫取り網、片手にカブトムシを持ってニコニコ顔で立っている子どもを描いたクレヨン画が浮かんだ。もちろんカブトムシは、虫取り網や自分の顔、頭上で輝く太陽よりも大きく描かれている。添えられた絵日記の文字も、マス目をはみ出していることだろう。夏休みも終盤の今にぴったりの句である。

 題の「網」が、名脇役となってうまく生かされている。「デカイ」も、「大きい」では音数が合わないために探した言葉かもしれないが、子どもの喜びや自慢気な表情が浮かんでくる、うまい言葉選びになった。

地 ごみ置場網にカラスの思案顔/磯の香り さん

橋倉久美子先生 「ごみ置場」「網」「カラス」「思案顔」と、名詞だけを助詞でつないだ珍しい作りの句だが、すっきりとまとまっており、情景も十分伝わってくる。

 カラスは、良くも悪くも人間に最も身近な鳥のひとつ。大きいし、その辺りを歩いている姿もよく見かけるから、顔つきまで見えてしまうことも少なくない。それだけに「思案顔」もいかにもありえそうで、小首をかしげてごみ置場の前にたたずむカラスの姿が目に浮かぶ。でも、賢いカラスは網をめくりあげることだってあるらしいので、どうぞご注意を。

人 通信の網で息苦しい地球/戴 けいこ さん

橋倉久美子先生 人間の生活そのものが地球に負荷をかけているのは、もはや言うまでもないことである。具体的にはエネルギーの消費やごみの排出などがすぐ頭に浮かぶが、通信網が地球を息苦しくしているとは、意表を突かれた。

 しかし、実際に指一本で世界とつながることのできる現実を考えると、細い糸で何重にも取り巻かれた、まるで繭の中にいるような地球が頭に浮かび、確かに息苦しい気持ちになった。

 

<入選>

遊園地網が子どもを待っている/アナログ さん

漁網の破れ見つけた幸運な魚/火の鳥 さん

張り巡らした網に噂が引っかかる/久実 さん

網目からこぼれるように忘れ物/ちょこべえ さん

法の網潜るためにも学ぶ法/かりんとう さん

金網で守られていた反抗期/汐海  岬 さん

網棚に短命嘆くスポーツ紙/福村 まこと さん

冷房を効かせた部屋に張る網戸/近江 菫花 さん

鉄道網次第に穴が広くなり/瑠珂 さん

義理堅い鮭を迎える定置網/牛美 さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子 先生

 344句のご投句をいただきました。少し難しい題だったようですが、逆に様々な発想の句があったように思います。「水切りネット」「園芸ネット」など、「ネット」の句もありました。題との関わりとして問題はなく、入選候補の句もありましたが、結果的に「網」という言葉を使った句ばかりになりました。

 「網(あみ)」と「綱(つな)」は紛らわしいので、あえて題にふりがなをつけたのですが、手書きのご投句には書き間違いもありました。川柳は短いだけに、1文字1文字に重みがあり、没の原因にもなりかねません。誤字、脱字、送り仮名の間違い、変換ミスなどがないか、もう一度確かめてからご投句ください。わかり切っていると思う言葉でも、辞書を引いて確かめることも大切です。

 

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2022年07月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:飲む

天 休肝日設けて酒が旨くなる/こまっぴさん

丹川修先生 健康であってこそ、食事もお酒もおいしく戴けるというものだ。休肝日を設けることにより、健康的においしいお酒が気持ちよく飲めるということである。お酒に関する句が多くあった中で、休肝日に目を向けた作者の発想が素晴らしい句であり、またそのあとに「酒が旨く(うまく)なる」と続けたために、より明るく健康的な句に仕上っている。

地 恋ごころ飲み込んでまだ友のまま/汐海 岬さん

丹川修先生 「恋ごころ」を飲み込んだとの発想には、意表を突かれた。どんな事情があって飲み込まざるを得なかったのか知る由もないが、もし飲み込まなかったらどうなっていたのだろう。でも飲み込んだがゆえに、今なお友達でいられるのだろうか。それとも吐き出すことがあるのだろうか。このようなドラマ性のある句に、想像をいろいろと掻き立てられて楽しく鑑賞できる。

人 飲み込んだ不満が腹で跳ねている/戴 けいこさん

丹川修先生 不満や愚痴を飲み込んだ句はたくさん頂いたが、ほとんどがその結果「腹が痛む」などと表現をされている。しかし、この句だけは「跳ねている」と詠われている。一応飲んではみたが、全く消化されずに腹の中でピチピチ跳ねていて、作者の苦悩が手に取るように伝わってくる。いかに言葉の選び方が大切であるかを教えられた句である。

 

<入選>

なみなみと注がぬ試飲の紙コップ/火の鳥さん

想い出を飲んで男が生き延びる/トランスさん

錠剤の愛と信頼口に入れ/牛美さん

オンライン枠はみ出さず飲む仲間/船岡五郎さん

地酒飲むほどに沸き立つ国自慢/福村まことさん

炎天下回し飲みした大やかん/田舎のマダムさん

病院も自分も飽きず飲む薬/流星さん

反省が素直に出来る二日酔い/ムギさん

朝の陽を浴びて美味しい空気飲む/富田さよ子さん

飲み放題参加するまで美女でした/あけみちゃんさん

 

丹川修先生 丹川修先生

 「飲む」という拡がりやすいお題だけに、「酒に関する句」「薬に関する句」「愚痴や不満を飲む句」などを中心に幅広い「飲む」の句をいただきました。しかしながら、「酒」や「薬」を飲むということは、ごく一般的で日常的な行為ですので、どうしても同じような発想になりがちです。「第一発想は捨てる」という基本的なところを念頭において作句したいものです。お酒や薬を飲む時のことを思い浮かべながら、じっと考えると違う発想がわいてくるはずです。こうして新しい発想と出会えた時こそが、川柳を詠むうえでの醍醐味ではないでしょうか。
 たくさんのご投句をいただき、大変ありがとうございました。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |   | 固定リンク


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