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2022年12月23日 (金)【みえDE川柳】 お題:走る
ピストルでズドンと脅し走らせる/伊東真 さん
「走らせる」というからには運動会のスタートのピストルだろう。
「パン!」だの「(用意)ドン!」だのという音で表現することが多いが、この句は「ズドン」という重々しい音になっていて、「脅し」という言葉とよく合っている。
運動が苦手で走りたくない子どもも、こうなったら走るしかないだろう。もっとも最近は、音に敏感な子どもも少なくないことが明らかになってきて、保育園や幼稚園はもちろん小学校でも、ピストルではなく笛などでスタートの合図をするらしい。
「ズドンと脅す」など、もってのほかなのだ。
ビリの孫アップで写す徒競走/破れ蓮 さん
この句で重要なのは、「アップで写す」というところ。懸命に走る表情をアップで写してしまえば、1位だろうとビリだろうと同じ写真ができあがる。
もちろん大切な孫のこと、何位であろうとかわいさに差はないのだが、明らかにビリの写真では孫自慢も少々しにくいし、写真を見せられた方も褒め方に悩むだろう。
川柳の世界では、「孫の句は抜けない(入選しない)」と言われるが、それは「孫」である必然性がないのに孫の句にしてしまうから。この句は「孫」がうまく生かされている。
ひたすらに走り続けてタダの人/なるほどマン さん
いわゆる現役世代のうちは、自分のため、家族のために、ひたすら走り続ける他ないのが多くの人の経験するところ。
その結果、高い評価や大きな報酬を手にする人もいるが、それはむしろ少数。大多数はほどほどの評価やそこそこの報酬、すなわち「タダの人」で終わることになるわけだが、走り続けたことに何らかの価値があるのかもしれない。
「タダの人」というオチが、共感を呼ぶ句。
<入選>
食料がないのか街を走る猪/羽馬愚朗 さん
愛犬に走らされてるドッグラン/こまっぴ さん
走ったら疲れないかとカタツムリ/アカエタカ さん
僕以外鉛筆走る試験場/市川勲 さん
応援の拍手が僕を走らせる/クライミング さん
走っても走ってもまだジムの中/ジャック天野 さん
やみくもに走ることない救急車/ベルベル さん
助走なら日本一だとほめられる/かぐや姫 さん
走っても大差が無いと悟る年/中央線の旅人 さん
自己記録目指して走る最後尾/福村まこと さん
橋倉久美子 先生
439句ものご投句をいただきました。人間はもちろん、動物他いろいろなものを走らせた句がありました。
入選しない理由の一つに、リズムの問題があります。川柳は575のリズムが基本ですが、中8、下6は句をいたずらに重くしてしまい、
川柳の特長である軽やかさがなくなってしまいます。指を折ってでも今一度リズムを確かめ、推敲(こう)をしてください。
また、「鬼ごっこ」「パトカー・救急車」「逃げ足」「カタツムリ」などを詠んだ句で、うまくまとまっているけれど、すでに同じような内容が詠まれているため入選にできない句がありました。
逆の見方をすれば、それだけ実力のある方の句だと思います。懲りずにご投句をお願いします。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |
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2022年11月25日 (金)【みえDE川柳】 お題:写真
遺影でも存在感をしめす父/春爺さん
作者の父親は常に自信を持ち、知識や教養も高く堂々として存在感にあふれたお方であられたのであろう。
そして、亡くなられた後もその遺影にまで存在感が漂っているというのである。
多くの人達に尊敬され、惜しまれつつ亡くなられたことだろう。
そして、多くの人が生前にうけた御恩に感謝をしながら、遺影に手を合わされたに違いない。
遺影をテーマにした句が、たくさん寄せられた中にあって、ずっしりとした重みのある素晴らしい一句である。
注文は斜め15度妻を撮る/田舎のマダムさん
より美しく写真を撮るための技術のようである。
しかし、なぜ15度なのだろうか。きっと、試行錯誤の末、導き出した結論なのだろう。
確かに誰しも美しく若々しく撮ってもらいたいと願っている。
こうした注文を素直に受け入れているご主人様の優しさも同時に伺うことができる。
仲の良いご夫婦である。「写真」の記述はないが、構えたカメラにポーズをとる姿がくっきりと目に浮かぶ。
捨てようとすると目が合うブロマイド/ゆうさん
私たちが子どもの頃、大切なものはブリキの缶に入れて保管したものだ。
男の子はメンコ、女の子はおはじきなどを宝物のように扱っていた。
このブロマイドも長い間、大切にしていたのであろう。
最近になり、整理をしようと取り出しては見たものの、そのブロマイドと目が合ってしまって捨てることを躊躇(ちゅうちょ)してしまった。
憧れたスターの姿が甦(よみがえ)り、瞬時にして自身の若き時代へと時が巻き戻されたことだろう。
「ブロマイド」という懐かしい単語が上手く生かされている。
<入選>
この笑顔昭和が残るセピア色/1刀両断さん
写真では親友らしく見えていた/汐海 岬さん
幸せのシャッターチャンス逃さない/こまっぴさん
集合写真いつも左の端にいる/かぐや姫さん
戦争の写真言葉が下を向く/ムギさん
ハイチーズ笑顔は誰も美しい/谷てる子さん
従順に見せる写真のしたたかさ/福村まことさん
好きな子を指で白状させられる/瑠珂さん
写真よりまず網膜に焼き付ける/火の鳥さん
証明の写真キリリと結ぶ口/だんでらいおんさん
丹川修先生
今回のお題「写真」に対し、免許証、遺影、セピア色、アルバムなどを取り入れた句が多く寄せられました。
今日までの長きにわたる記録である「写真」に対するそれぞれの思いを垣間見ることができ、楽しく選をさせていただきました。
そうした中から、やはり意外性や独自性に富んだ句を入選とさせていただきました。
また、若い方の作品と思われる中に、「盛る」や「映え」などを用いた句も相当数ありました。
言葉は生き物であり進化をするものですが、果たして、それらが今の段階で「写真」の題に対して適切かどうか疑問を感じました。
できる限り正当な用法に沿った句をつくるべきだと思います。たくさんのご投句ありがとうございました。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |
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2022年10月28日 (金)【みえDE川柳】 お題:続く
ディスタンス鳥になりたい日が続く/あそかさん
コロナ禍に見舞われて、やがて3年を迎えようとしている。
現在は行動規制がなくなったとはいえ、まだまだ不安な日が続いている。
以前のようにディスタンスなど気にせず、楽しむことができる日を待ちわびている作者。
大空を自由に飛び回ることができる鳥になり、好きなところへ今すぐにでも行きたいと願っている。
「鳥になりたい」との表現に我慢を余儀なくされている作者の苦悩が滲み出ている。
時事吟(じじぎん)の中にあっても単なる風刺にとどまらず,人間の心理を上手く詠まれた。
目が合って続く言葉を待っている/メダカさん
読み手のこちらまで、なにかドキドキさせられる。作者の待っている言葉とは、果たして何であろうか。愛の告白では。
もしそうだとすれば、何ともロマンチックな句である。それとも・・・などと、結論を見せずに読み手に様々な想像を与えるところに、
この句の上手さと深みを感じる。
ぜひ、作者に答えをお聞きしたい気もするが、それでは前言のコメントに矛盾する。
声のトーン変えて自慢はなお続く/八木五十八さん
自分の世界に入り込むと自然に声のトーンも変わってくるのだろう。
きっと身振り、手振りも派手になり、もう自慢ばなしは誰にも止めることはできない。
眉をひそめる聞き手の顔も同時に見えてくる面白い句である。
この手の状況を詠んだ句は少なくないと思うが、「声のトーン」に目を向けたところが素晴らしい。
<入選>
固辞をした人がマイクを離さない/松田少納言さん
ゴシップの続きを煽る週刊誌/福村まことさん
幸運の神と続けるお付き合い/春爺さん
あきらめず猫のおねだりまだ続く/戴 けいこさん
続けたらそれが普通になる手抜き/田舎のマダムさん
統計の開始以来が続く危惧/船岡五郎さん
陽射し避け延々続く立ち話/西井茜雲さん
モナリザは微笑み続けねばならぬ/ホッと射てさん
メモ帳の表紙に日記と書いてある/漢方十七錠さん
花マルとバツが交互に続く日々/汐海 岬さん
丹川修先生
「日記に関するもの」「夫婦の間柄」「ダイエット」などに、それぞれ『続く、続かない』を用いた句がたくさんありました。
「続く」のお題に対して「続かない」と詠むことに違和感がなくはないが、基本的には「続かない」のお題がでることはないので、許容範囲と私は考えます。
しかし、お題はより忠実にとらえる方が望ましいとは思います。また、「継続は力なり」の格言を引用した句も多数、見受けられました。
格言や諺(ことわざ)などからヒントを得ることは悪いとは思いませんが、やはり自分の観点、自分の言葉で綴りたいものです。
たくさんのご投句をいただき、ありがとうございました。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |
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2022年09月30日 (金)【みえDE川柳】 お題:拾う
周波数君に合わせて拾う声/ごん太さん
騒がしい中でも、恋心を抱く相手の声を聞きたいと懸命に耳をそばだてる。
なんとしても君の声をキャッチしたい。なんとも微笑ましく楽しい句である。
君の声だけに集中する様子を周波数を合わすと表現したところが、きわめて素晴らしい。
そして、きっちりと周波数が合い、目標の声が聞こえてくるさまを「拾う声」と
したところが、さらに素晴らしい。「拾う」の題にピッタリである。
あっさりとメッキが剥げた拾い読み/ジャック天野さん
しっかりと熟読をして得た知識は簡単にメッキが剥げることはないが、
拾い読みで得たものは、あっさりと剝がされてしまう。同様にスマホなどで、
簡単に得たにわか知識は表面的なもので、少し突っ込まれると答えに窮する。
やはり、経験やたゆまぬ努力によって得た知識や技術は本物の輝きを放っている。
眠れない鍵を拾ったばっかりに/カラリさん
素直にこの句の解釈をすれば、鍵の落とし主は、きっと家にも入れず、
あるいは車のドアも開けることもできず、困っているだろうと思うと気の毒で
なかなか寝付けないということになるだろう。
しかし、それではあまり川柳として面白いとは言い難い。少々理屈っぽい解釈になるが、「鍵」を「何かの問題解決のためのヒント」と解釈すればどうだろう。
それも「拾った」というのだから、自分の努力ではなく、人から与えられたのかもしれぬ。
有難いような、悔しいような複雑な思いが、頭をめぐる。
或いは、「鍵」を「重要な役目」と置き換えれば、さらに面白いストーリーを
想像してしまう。
<入選>
孫たちと拾い集める秋の色/みほりんさん
女子会で噂拾って不眠症/久実さん
趣味の会そっと孤独を拾い上げ/水谷裕子さん
七転び八起きその度拾う傷/化石さん
山ほどのエールを拾う負け試合/汐海 岬さん
幸せを分かち合うため拾う猫/八木五十八さん
掛け声でベンチを目指す球拾い/夜半亭あぶらー虫さん
幸運を拾う四つ葉のクローバー/こまっぴさん
目に見えぬ努力を拾う師の温み/福村まことさん
動物園命拾われ牙捨てる/奥田よしさん
丹川修先生
「拾う神…」「球拾い」「拾い読み」「ゴミ拾い」などを題材にした句が
多く寄せられました。
いつものことながら、その中でも、意外性、独自性が強く感じられるもの
(同想にならないもの)を入選とさせていただきました。
また、中には「拾う」をやや強引に使用した句や「拾う」の反対語である、
「捨てる」を使った句もありましたが、少し、無理があるように思いました。
できる限り多くの方に入選を果たしていただけることを願っております。
多数ご投句いただきありがとうございました。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |
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2022年08月26日 (金)【みえDE川柳】 お題:網(あみ)
絵日記に網よりデカイかぶと虫/田舎のマダム さん
一読、片手に虫取り網、片手にカブトムシを持ってニコニコ顔で立っている子どもを描いたクレヨン画が浮かんだ。もちろんカブトムシは、虫取り網や自分の顔、頭上で輝く太陽よりも大きく描かれている。添えられた絵日記の文字も、マス目をはみ出していることだろう。夏休みも終盤の今にぴったりの句である。
題の「網」が、名脇役となってうまく生かされている。「デカイ」も、「大きい」では音数が合わないために探した言葉かもしれないが、子どもの喜びや自慢気な表情が浮かんでくる、うまい言葉選びになった。
ごみ置場網にカラスの思案顔/磯の香り さん
「ごみ置場」「網」「カラス」「思案顔」と、名詞だけを助詞でつないだ珍しい作りの句だが、すっきりとまとまっており、情景も十分伝わってくる。
カラスは、良くも悪くも人間に最も身近な鳥のひとつ。大きいし、その辺りを歩いている姿もよく見かけるから、顔つきまで見えてしまうことも少なくない。それだけに「思案顔」もいかにもありえそうで、小首をかしげてごみ置場の前にたたずむカラスの姿が目に浮かぶ。でも、賢いカラスは網をめくりあげることだってあるらしいので、どうぞご注意を。
通信の網で息苦しい地球/戴 けいこ さん
人間の生活そのものが地球に負荷をかけているのは、もはや言うまでもないことである。具体的にはエネルギーの消費やごみの排出などがすぐ頭に浮かぶが、通信網が地球を息苦しくしているとは、意表を突かれた。
しかし、実際に指一本で世界とつながることのできる現実を考えると、細い糸で何重にも取り巻かれた、まるで繭の中にいるような地球が頭に浮かび、確かに息苦しい気持ちになった。
<入選>
遊園地網が子どもを待っている/アナログ さん
漁網の破れ見つけた幸運な魚/火の鳥 さん
張り巡らした網に噂が引っかかる/久実 さん
網目からこぼれるように忘れ物/ちょこべえ さん
法の網潜るためにも学ぶ法/かりんとう さん
金網で守られていた反抗期/汐海 岬 さん
網棚に短命嘆くスポーツ紙/福村 まこと さん
冷房を効かせた部屋に張る網戸/近江 菫花 さん
鉄道網次第に穴が広くなり/瑠珂 さん
義理堅い鮭を迎える定置網/牛美 さん
橋倉久美子 先生
344句のご投句をいただきました。少し難しい題だったようですが、逆に様々な発想の句があったように思います。「水切りネット」「園芸ネット」など、「ネット」の句もありました。題との関わりとして問題はなく、入選候補の句もありましたが、結果的に「網」という言葉を使った句ばかりになりました。
「網(あみ)」と「綱(つな)」は紛らわしいので、あえて題にふりがなをつけたのですが、手書きのご投句には書き間違いもありました。川柳は短いだけに、1文字1文字に重みがあり、没の原因にもなりかねません。誤字、脱字、送り仮名の間違い、変換ミスなどがないか、もう一度確かめてからご投句ください。わかり切っていると思う言葉でも、辞書を引いて確かめることも大切です。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:21:03 | 過去の入選作 |
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2022年07月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:飲む
休肝日設けて酒が旨くなる/こまっぴさん
健康であってこそ、食事もお酒もおいしく戴けるというものだ。休肝日を設けることにより、健康的においしいお酒が気持ちよく飲めるということである。お酒に関する句が多くあった中で、休肝日に目を向けた作者の発想が素晴らしい句であり、またそのあとに「酒が旨く(うまく)なる」と続けたために、より明るく健康的な句に仕上っている。
恋ごころ飲み込んでまだ友のまま/汐海 岬さん
「恋ごころ」を飲み込んだとの発想には、意表を突かれた。どんな事情があって飲み込まざるを得なかったのか知る由もないが、もし飲み込まなかったらどうなっていたのだろう。でも飲み込んだがゆえに、今なお友達でいられるのだろうか。それとも吐き出すことがあるのだろうか。このようなドラマ性のある句に、想像をいろいろと掻き立てられて楽しく鑑賞できる。
飲み込んだ不満が腹で跳ねている/戴 けいこさん
不満や愚痴を飲み込んだ句はたくさん頂いたが、ほとんどがその結果「腹が痛む」などと表現をされている。しかし、この句だけは「跳ねている」と詠われている。一応飲んではみたが、全く消化されずに腹の中でピチピチ跳ねていて、作者の苦悩が手に取るように伝わってくる。いかに言葉の選び方が大切であるかを教えられた句である。
<入選>
なみなみと注がぬ試飲の紙コップ/火の鳥さん
想い出を飲んで男が生き延びる/トランスさん
錠剤の愛と信頼口に入れ/牛美さん
オンライン枠はみ出さず飲む仲間/船岡五郎さん
地酒飲むほどに沸き立つ国自慢/福村まことさん
炎天下回し飲みした大やかん/田舎のマダムさん
病院も自分も飽きず飲む薬/流星さん
反省が素直に出来る二日酔い/ムギさん
朝の陽を浴びて美味しい空気飲む/富田さよ子さん
飲み放題参加するまで美女でした/あけみちゃんさん
丹川修先生
「飲む」という拡がりやすいお題だけに、「酒に関する句」「薬に関する句」「愚痴や不満を飲む句」などを中心に幅広い「飲む」の句をいただきました。しかしながら、「酒」や「薬」を飲むということは、ごく一般的で日常的な行為ですので、どうしても同じような発想になりがちです。「第一発想は捨てる」という基本的なところを念頭において作句したいものです。お酒や薬を飲む時のことを思い浮かべながら、じっと考えると違う発想がわいてくるはずです。こうして新しい発想と出会えた時こそが、川柳を詠むうえでの醍醐味ではないでしょうか。
たくさんのご投句をいただき、大変ありがとうございました。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |
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2022年06月24日 (金)【みえDE川柳】 お題:刻む
映画より泣ける玉ねぎみじん切り/田舎のマダムさん
句の中で二つのものを並べたり比べたりするときは、その取り合わせがカギとなる。意外性がありながら納得させられるものがよいが、両者の距離が遠いほど成功する可能性が高い。この句では、「泣ける」ものとして「映画」と「玉ねぎみじん切り」を並べて、成功している。
「刻む」の題にタマネギやネギの句はたくさんあった。言わば第一発想である。「第一発想は捨てよ」とよく言われるが、第一発想であっても、そこからの広げ方によっておもしろい句になる好例と言えるだろう。
刻むより千切る男の粗料理/岩窟王さん
この句を読んですぐに思い浮かべたのはキャベツ。ちまちまと千切りにしてドレッシングをかけるのではなく、大振りに手でちぎってウスターソースで食べるイメージを持った。「粗料理」は魚のアラではなく一種の造語と受け取ったが、雰囲気のうまく表れた言葉だと思う。
もっともこのごろは刻んだりカットしたりした野菜もごく普通に店頭に並んでいるし、包丁よりキッチンバサミをよく使うという声も聞く。男の料理に限らず、また千切るかどうかは別として、「刻む」という行為は減っているのかもしれない。
ライバルと刻んだ記録だと思う/ジャック天野さん
記録を刻むということは、1分1秒、あるいは1センチ1ミリを競う陸上競技だろうか。水泳や、スピードスケート、スキージャンプかもしれない。いずれにせよ、ライバルと切磋琢磨しながら、少しずつ少しずつ記録を作ってきたのである。
ぶっきらぼうに言い放ったような句だが、その口ぶりから、ライバルへの感謝や畏敬の念、こつこつと努力してきた自信と誇り、そしてほんの少しの照れまでが感じられる。「ライバル」は川柳でよく使われる題材だが、この句ではプラスの存在として、うまく用いている。
<入選>
包丁の手元も香る新生姜/オクラの花さん
古時計時間を刻むのも忘れ/ムギさん
世界史に刻む愚行を見るライブ/船岡五郎さん
刻まれた名前の重さ鎮魂碑/ゆうさん
アナログの時計愚直に時刻む/草かんむりさん
雨垂れが刻むリズムで知る雨量/戴 けいこさん
放課後の僕の予定は分刻み/みくさん
背を向けてひたすらキャベツ刻む妻/汐海 岬さん
刻まれた名も風化する墓仕舞い/比呂ちゃんさん
刻んでもブランド名で売る和牛/福村まことさん
橋倉久美子先生
365句のご投句をいただきました。ありがとうございます。
ネギやタマネギ、しわ、時間、碑や石が多かったかと思いますが、意外性のある句も多く、楽しませてもらいました。ただ、意外性はあるものの、やや無理のある句やわかりにくい句もありました。また、「刻む」という言葉を使っていない句の中には、「刻む」という題があまり感じられないものもありました。
よい川柳は、意外性がありながら、読者に「わかるわかる」と共感させたり、「なるほど」と納得させたりする力があります。ただしその前提として、読者にちゃんと伝わることが大切です。意外性を求めるあまり、わかりにくい句や題を離れた句になっていないか、もう一度確かめてみましょう。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |
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2022年05月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:若い
日記帳開いて若い僕に会う/ゆきちさん
日記に書かれているのは若い日の初恋のことなのだろうか。或いはそこには夢や希望に満ちた将来への思いが書かれているのか。また、仕事での失敗の苦い思いが綴られているのであろうか。若き日の日記を通じ、なつかしい思いにひたっている作者。今に到り、若き日の思いに触れ、さらにこれからの人生にも希望や喜びを得られたことだろう。「若い僕に会う」の表現が素晴らしい。あのころはこんなことを考えていたのだと、回想できる日記帳の存在が羨ましい。
途中下車できる若さを持っている/水たまりさん
「若い時にはいくらでもやり直しがきく、そして、興味のあることに思いきり挑戦ができる」このような事を詠んだ句は、他にもたくさんあったが、直接的な言い回しではなく、「途中下車できる若さ」と表現をしたところが、この句を成功に導いている。決められたレールから少し外れて途中下車できるのは、やはり若さの特権だろう。この作者は今なお、若さを保っている。
鏡見て若いと思うまで化粧/ばばりんさん
思わず笑いが込み上げてくる。いじらしくもあり、楽しくもある句である。人間、誰しもいつまでも若くありたいし、若く見られたい。こうした気持ちがなくなると、本当に老けてしまう。鏡に向かって、自身が納得いくまでお化粧をして、今日はどちらへお出かけするのだろうか。化粧が上手くいくと、心までうきうきしてくる。「若いと思うまで」と素直に表現したところに、人間味が溢れている。
<入選>
若いわね本意を知らずありがとう/奥田よしさん
あんなやつ好きじゃないよと赤らめる/ゆうさん
好奇心にブレーキかけず若くいる/久実さん
大袈裟に驚き絞り出す若さ/福村まことさん
古稀米寿いま一番の若さあり/金子鋭一さん
二十年やっと家電が若返る/葵さん
若い日の話少しは自慢入れ/草かんむりさん
末席の若い意見が光り出す/富田さよ子さん
若く見える方を選んだ試着室/火の鳥さん
Tシャツで世間の波に立ち向かう/汐海 岬さん
丹川修先生
「若い」のお題だけに、たくさんの若さが溢れた句に接し、私自身も若い気分にさせられました。また、「若い」を直接詠み込まずに「若い」を巧く表現した句も多数あり、皆さまの工夫に感心させられました。反面、いつも気になることですが、標語的なものや「若い」の一般的な定義を引用(説明)した句も、複数見受けられました。川柳は「人間」を詠い、ニンゲンの歓び・哀しみを詠うと言うところを、心がけてください。
たくさんのご投句をいただき、大変ありがとうございました。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |
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2022年04月22日 (金)【みえDE川柳】 お題:かばん
六年でこんなに縮むランドセル/田舎のマダムさん
小学校に入学したときには、ランドセルを背負わせるのもかわいそうなほど小さくて、まるでランドセルが歩いているようだった我が子。それが卒業を迎えた今では、ランドセルが背中にちょこんとくっついているように見えるほど、大きくたくましくなった。
当然ながらランドセルが縮んだわけではなく、子どもの方が大きくなったのだが、「こんなに縮む」という率直な感動の表現で、子どもの成長を喜ぶ気持ちがまっすぐに伝わってくる句になった。
金曜日カバンにためた愚痴を捨て/汐海 岬さん
そうか、サラリーマンの鞄には、仕事に必要な書類やパソコンだけでなく、愚痴も入っていたのかと気付かされた。月曜日から愚痴を溜め続けた鞄は、金曜日にはさぞいっぱいになっていたことだろう。
ところでこの愚痴、いったいどこで捨てたのだろう。居酒屋でぶちまけてきたのか、それとも家に着く前にその辺の溝にでも流したのか。いずれにせよ、週末にはできるだけ鞄を元気で満たして、また月曜日を迎えるのだ。「金曜日」という設定が生きている。
夕焼けも入り込んでるランドセル/ムギさん
ランドセルというのは、教科書やノートだけでなく、夢や希望はもちろん、道草をして手に入れた石ころや草花、時にはカエルやダンゴムシなど、ありとあらゆるものを入れるものらしい。夕焼けだって、入れようと思えば入るのだ。
その上この句は、夕焼けを「入れる」のではなく、「夕焼けも入り込んでる」と、まるで夕焼けがこっそりと忍び込んだかのように詠んでいるところがおもしろい。入り込んだ夕焼けがその後どうなったかを考えると、いくつもの童話が作れそうだ。
<入選>
会うたびに孫に背負わすランドセル/みほりんさん
一年生ママも鞄に入りたい/涼妻喧母さん
親の夢だけであふれるランドセル/よっちゃんさん
家族入れ父の鞄の重いこと/夜半亭あぶらー虫さん
終活がわたしの鞄軽くする/宮のふみさん
お出かけをいまかいまかと待つかばん/メダカさん
おばちゃんのかばんに飴が住んでいる/火の鳥さん
銀行を出ると無口になるかばん/ピエロさん
疲れきったかばん乗せてる終電車/久実さん
寅さんの失恋詰まる旅カバン/流星さん
橋倉久美子先生
463句のご投句をいただきました。ありがとうございます。
「かばん」は身近な題ですが、身近過ぎてかえって発想が広がりにくかったのか、よく似た内容の句が多かったように思います。また4月という時節柄、ランドセルの句がたくさんありました。
入選しやすいのは、意外だけど言われてみれば納得できるという発想の句ですが、たとえ発想が似ていても、表現によって入選に近づくことができます。「似た発想の句を投稿したのに没だった」という方は、入選句の表現に注目してみてください。
いずれにせよ、リズムが整っていること、言いたいことが伝わりやすいこと、文字や言葉遣いに誤りのないことが大切です。投句の前に、もう一度確かめてみてください。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50 | 過去の入選作 |
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