2021年08月27日 (金)みえDE川柳 お題:かじる

天 直ぐにでも話してみたい聞きかじり/ゆきちさん

橋倉久美子先生 聞きかじりの句は何句かあったが、「直ぐにでも話してみたい」という気持ちに着目したことで独自の見付けになった。あまり褒められないような心理を、素直に表現したことでおもしろい句になっている。
 ちょっとした情報か、噂話かはわからないが、「ねえ、聞いて聞いて!」と言いたくてうずうずしている様子が目に見えるようだ。「話してみたい」と言っているので、「話してもいいのかな?」とためらう気持ちも、ひょっとしたら少しはあるのかもしれない。

 

地 入門書齧って折れた自尊心/あそかさん

橋倉久美子先生 入門書をかじったものの、かじっただけで終わったとか、投げ出したり諦めたりしたという句はたくさんあったが、「自尊心が折れた」とまでいう句は珍しい。大げさな表現が成功している。それにしても、よほど難しいものに挑戦したのか、それとも逆に、誰にでもできるような簡単なことがたまたま自分にはできずにショックを受けたのだろうか。
 よくある発想であっても、そこからの広げ方や表現の仕方によって、いい句になるという好例。

 

人 一口かじり毒だと気づく毒見役/青い鳥さん

橋倉久美子先生 「毒見役」は、殿様など高貴な人、重要な役割の人が口にするものをあらかじめ食べてみるという、役得(?)もあるが命がけの職。一口かじっただけで毒だと気づいたというのだから、この毒見役、なかなかのベテランか有能な御仁とお見受けした。もっともこれが極めて強い毒だったとしたら、毒だと気づきながら命を落とす羽目になったかもしれない。
 「かじる」という題から、「毒見役」という意外なものを思いついたことで成功した句。

 

<入選>

美味しそうにかじったメダル罪の味/久実さん

列島をかじり台風去ってゆく/はぐれ雲さん

団らんの時間をかじるテレワーク/颯爽さん

かじらずに甘くなる日を知るカラス/ウクレレみっちゃんさん

かじられたカボチャは馬車になれません/ムギさん

ひと口はかじっておこう流行りもの/汐海 岬さん

目印に角をかじって置いておく/富田さよ子さん

槍が岳の鼻をかじりに行く登山/昭和青年さん

鉛筆をかじれば知恵のダシが出る/ジャック天野さん

ぼくたちは地球かじってきたらしい/橙葉さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 383句のご投句をいただきました。ありがとうございます。
 食べ物(リンゴ、キュウリ、パンなど)をかじるのはもちろん、「脛をかじる」句や趣味・入門書(哲学、外国語など)をかじる句が多く、地球や月をかじるというスケールの大きい句もありました。また、人がかじるだけでなく、ネズミがかじる句も目に付きました。人が気付かないようなものを見つけた句を中心に入選にしましたが、よくある発想でも、そこからの広げ方がユニークだったり、表現に工夫したりすることで、おもしろい句が生まれます。
 時節柄「メダル」の句もたくさんありました。「時事川柳」という分野もあるように、世の中の動きは川柳の格好の素材です。ただ、報道そのままを五・七・五に当てはめたり、たとえ著名人であっても人をおとしめたりでは、川柳とは言えません。批判精神のある句でも、批判された本人が思わず笑ってしまうような句が作れたらなあと、私は思っています。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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