2021年04月30日 (金)【みえDE川柳】 お題:種(たね)

天 播いたよりこぼした種がよく育ち/船岡五郎さん

橋倉久美子先生 いかにもありそうなことを、うまく575にまとめた。種というのは案外強いので、意外なところで育つことは珍しくないし、条件が悪いとかえってたくましく育つ場合もある。もっとも、「播いた(まいた)」種は大きく育てようと世話をするのに対し、「こぼした」種は放りっぱなしなので、たとえ同じ花や実がついても、こぼした種の方がよく育ったように思うのかもしれない。
 この句は、人間にたとえて読むこともできる。将来を期待して手をかけた人材より、さほど期待も教育もしなかった人材の方が、うまく育ってなくてはならない存在になることも、往々にしてありそうである。

 

地 ヒマワリの種ヒマワリになる矜持/ジャック天野さん

橋倉久美子先生 矜持(きょうじ)(プライド、自尊心)のある花として、何がふさわしいだろう。バラやユリと答える人が多いかもしれないが、すっくと立ち大きな花を咲かせるヒマワリを思い浮かべる人もいるだろう。しかもヒマワリの種はやや大きく、それとわかる縞模様もあるので、種の時から矜持(きょうじ)があると言われても納得してしまう。ヒマワリを選んだことが、この句のお手柄である。
 「矜持(きょうじ)」という、ふだんは使わないような固い言葉も、まっすぐに伸びたヒマワリとよく合っている。

 

人 なんの種だったのでしょうわたくしは/宮のふみさん

橋倉久美子先生 人生も半ばを過ぎて、しみじみと来し方を振り返っているのだろうか。これといった業績や名声を残すことなく、平凡なままここまで来てしまった。もともとそれだけの種だったのか、それともひょっとしたら、種をうまく芽生えさせることができずにここまで来てしまったのか……。
 「種」という題から、人間しかも自分自身を詠んだ発想が成功した。あなたはあなた自身の種だったのですよ、ちゃんと花も実もつけたのではありませんかと言ってあげたい。

 

<入選>

withコロナ子らの青春種のまま/夜半亭あぶらー虫さん

ごった煮のように種蒔くプランター/羽馬愚朗さん

庭の花褒めたら種を持たされた/つるこざくらさん

種切れになってシリーズ物終わる/青い鳥さん

一つずつ種明かしして真珠婚/涼妻喧母さん

神さまのご指示通りに発芽する/春爺さん

うめぼしの種は悪党づらでよい/比呂ちゃんさん

触れただけで種がはじける反抗期/草かんむりさん

種ひとつ握り旅立つ無人駅/汐海 岬さん

さくらんぼの種の置き場に困るパフェ/新緑さん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 481句いただきました。たくさんのご投句、ありがとうございます。
 時節柄、「ワクチン接種」の句があるのではと予想していましたが、ごく少数でした。また、「種類」「仕種」のような「種(たね)」そのものではない言葉を使った句も少なく、きちんと「種」に向き合った句がほとんどで、たいへんうれしく思いました。
 半面、中8、下6の句が、相変わらず一定の数あります。川柳はリズムも大切なので、別の言葉を探したり順番を入れ替えたりして、リズムを整えるひと手間をかけていただければと思います。
 また、多くの句を読み、そのうえで自分なりの「いい句」あるいは「好きな句」のイメージを持つことも、上達の方法かと思います。ぜひ、多読多作を実践してみてください。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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