2020年06月26日 (金)【みえDE川柳】 お題:磨く

天 磨いたらお地蔵様が風邪を引く/ムギさん

橋倉久美子先生 題に対して意外なものを持ってきて、しかも読者を納得させることができると、おもしろい句が生まれる。この句は、「お地蔵様」を持ってきたことが成功した。
 もともとお地蔵様はざらざらした柔らかい風合いのもの。まして歳月を経たものは、風化したり苔(こけ)むしたりして、「磨く」とは対極の肌触りになっている。そんなお地蔵様を、墓石や仏像のようにつるつるすべすべに磨いたらどうなるか? 風邪を引かれてしまうだろうと、ちゃんとオチまでつけて、お地蔵様の素朴さを引き立たせた。

 

地 AIが第六感を磨いてる/船岡五郎さん

橋倉久美子先生 もともとAI(人工知能)は、記憶や計算といった単純な思考は得意でも、創造や工夫といった分野は苦手だとされてきた。ところが最近では、AI自らが学習することもできるようになってきたという。AIに小説を書かせる試みもあるそうだから、そのうち「AI川柳」なんていうのも出てくるかもしれない(たった17音なので、小説よりも早く実現するかも)。
 さて、そのAIが、第六感という論理では説明しがたいものまで磨いて身につけたとしたら……? ユーモアの中に、少々空恐ろしさを感じさせられた。

 

人 買い替えは磨いた後で考える/アカエタカさん

橋倉久美子先生 電気製品だろうか。それとも車? かなり古びてくたびれてきたし、薄汚れてもいる。新製品も出回っているので買い替え時かなと思うが、故障もしていないし、機能的にも特に不便を感じているわけではない。さてどうするか、とりあえず磨いてきれいにして、それからゆっくり考えよう。
 この生活感や、もったいない精神を満載した雰囲気が、いかにも川柳的。きっと磨いているうちにまた愛着が湧いてきて、買い替えることなどできなかったんだろうなあ。

 

<入選>

もう磨く鍋はなくなる家籠もり/水たまりさん

リモートに慌てて磨く部屋の壁/風 信子さん

黒電話磨くふりして待ったベル/汐海 岬さん

しあわせが磨いたグラス並ぶ棚/久実さん

抜けられるほどにガラスを磨き込み/羊がゼロ匹さん

焦げた鍋磨いて悔いる長電話/颯爽さん

ピカピカのトイレ意外に恥ずかしい/6年6組てんまのよい子さん

斬られ方磨き主役に持たす花/福村まことさん

簡単に靴も磨いて行く葬儀/ワン吉さん

園庭の魔法で磨く泥だんご/せきぼーさん

 

橋倉久美子先生 橋倉久美子先生

 444句いただきました。入選は天地人含めわずか13句ですから、極めて狭き門。入選するには、キラッと光るもの、なるほど!と思わせるものが必要です。例えば何を磨くかを考えたとき、意外なものを持ってくる方法もあれば、ありふれたものを持ってきて味付けをする方法もあります。天の句、地の句は前者、鍋、靴、歯などを磨くのは後者でしょう。いずれにせよ、自分らしさ、自分だけの見つけ、発見が欲しいところです。
 川柳は暮らしに根差(ねざ)した文芸ですが、それだけに適度な品の良さも必要です。標語のような句では川柳と言えませんが、品のない笑いや単なるウケ狙いにならないようにしましょう。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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