2020年03月27日 (金)【みえDE川柳】 お題:水(みず)

天 キミといて噴水の音だけになる/加藤当白さん

吉崎先生 青春の一ページを切り取ったようなロマンチックな句。この句は、君と一緒にいて嬉(うれ)しいとか楽しいとかは一言(ひとこと)も述べていない。ただ「噴水の音だけが聞こえている」と言っているだけで、情景をありのままに叙述しているに過ぎない。どう感じ取()るかは読者に任せるというスタンスである。噴水がある場所だから公園のようなところだろうか? ただ噴水の前で佇(たたず)んでいるだけの二人。さっきまで周囲の喧噪(けんそう)は聞こえていたけど、いまは何も聞こえない。静寂の中で噴水の音だけが聞こえている。二人にはもう会話も必要ない。二人の世界があるだけなのである。

 

地 ホース出るまでは役目を知らぬ水/福村まことさん

吉崎先生  これも擬人化の川柳だが、課題である「水」そのものを擬人化している。ホースを扱っているのは人間で、人間は最初から目的があって放水しているが、ホースの中を通過して世に出る「水」は、直前まで自分の役目が分からない。ホースを抜けて対象物にぶつかって初めて己の役目を知る。車に当たって初めて役目は「洗車」だったと知る。草木に当たって「水遣(や)り」、夏の暑い地面に当たって「打ち水業務」、炎に当たって初めて消火作業だったなどと自覚するのだ。発見の中にもユーモアがあって、楽しい川柳になった。

 

人 スポンジになった気分で水を飲む/えみさん

吉崎先生 「スポンジになった気分」が意表を突(つ)いた。動物や植物などの生き物であればともかく、「スポンジ」の擬人化。スポンジに気分なんてあるのかと、思わずクレームを付けたくなる。突っ込みを入れたくなる川柳は佳句が多いとも言える。もちろん、「ナンセンス!」の一言で片づけられる句も多いが、この句は間違いなく佳句である。
 では具体的に「スポンジになった気分」とはどんな気分を言うのか? だが、正直そんなことはどうでもいいのだ。「スポンジになった気分」、これだけで充分(じゅうぶん)佳句に値する。

 

<入選>

このように世渡りせよと水すまし/ほのぼのさん

気持ちよくダム溜め込んだ水を吐く/ホッと射てさん

かみさまがうっかり降らす天気雨/大澤 葵さん

二杯目はお断りする美味い水/マリリン凡老さん

ハネムーン以来陽の目を見ぬ水着/西井茜雲さん

満月を丸ごと飲んだ水たまり/デコやんさん

名水の井戸が長寿の母にさせ/金子鋭一さん

沸点を知らずにずっと水のまま/橙葉(とうよう)さん

蛇口からぽとりと落ちる宇宙観/彦翁さん

詩心を枯らさぬように水を遣る/水たまりさん

 

吉崎先生 吉崎柳歩先生

 人類だけでなく、生きとし生けるものは「水」なくしては存在できません。その「水」がテーマですから、取り組みやすいのか、これまで最多の528句が集まりました。それでも入選句数は変わらず13句だけなので、極めて厳選になりました。
 「水に流す」「水を差す」などの慣用句、「水たまり」「汚染水」などの熟語を読み込んだ句が多くありました。それらを使ったら駄目というわけではありませんが、入選するためには、やはり独自の視点が必要です。惜しいところで競り負けた句に心が痛みます。

投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50


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