2019年11月29日 (金)【みえDE川柳】 お題:鍋
昼寝でもしようか今日は鍋だから/たごまる子さん
主婦の気持ちを詠んだ楽しい川柳。鍋なら何でもいい。鍋なら賛否をとらなくても家庭内に反対派はいない。鍋の具材も欲を言えばキリがないが、おでん鍋ならスーパーに具材のセットも売ってる。セットでなくても、主婦のベテランなら鍋料理は簡単なのだ。
川柳は普通は575と言って、文節で言えば三つの節、3句体だが、この句は9・8の2句体。17音ということでは変わりない。上句で、「昼寝でもしようか」とつぶやいてみせて、下句で「今日は簡単な鍋だから」と理由を明かしているのが、憎いし上手(うま)い。
湯豆腐の味が分かってきて大人/かぐや姫さん
確かに子供のころは、豆腐とか大根というものはあまり美味(おい)しいものではなかった。それが、どういうわけか歳(とし)を取るにつれて美味しいと思えるようになる。味覚も成長(?)するのだ。鍋と言っても、湯豆腐は他の鍋とはちょっと趣が違う。具材が基本的には豆腐だけ、シンプルでちょっと高級感がある。一人より二人、大勢より二人だけでしみじみと大人の会話をしながら鍋を突っつく、といった雰囲気がいい。湯豆腐の味は大人の味なのだ。湯豆腐の場合、ビールより熱燗(あつかん)のほうが合うだろうか?
困ったら何でも鍋に入れてみる/清詞薫さん
冒頭の「困ったら」は鍋料理に関するものを指しているように思えるが、それだけではないだろう。鍋を入れ物の代表として詠んでいるようにも取れる。鍋料理というものは基本的には「ごった煮」。大勢で鍋を突っつく。具材が足らなくなったら、なんでもいいから放り込んで間に合わせる、という意味だろうが、「鍋」をアイデアや案などの入れ物の象徴と捉えれば、具材は参考になるヒントや意見ということになる。新しい戦略や商品開発を促すための手法と見ても成り立つ。そう言えばブレーンストーミングやKJ法というビジネスの手法もあった。いろいろ解釈できるのも楽しい。
<入選>
猫舌を隠して仕切る鍋奉行/茶唄鼓さん
煮え切らぬ彼とふたりで鍋つつく/よしじろうさん
女子会の鍋は決まってコラーゲン/だじゃれまんさん
豪快に海をまるごと煮込む鍋/あそかさん
煮崩れてからも勝負をやめぬ鍋/橙葉さん
ひび割れてから本物になる土鍋/比呂ちゃんさん
ラーメンを鍋から食べているひとり/アラレさん
単身を一緒に生きた片手鍋/冬子さん
一人鍋こっそり見てる窓の月/みえさん
極楽だ温泉という地球鍋/ホッと射てさん
吉崎柳歩先生
「鍋」という時節柄ぴったりのお題でした。欲を言えば12月締め切りであれば、もっと多くの実感句が集まったかも知れませんね。「鍋」は具象名詞の典型的なものなので、発想が拡(ひろ)がりにくかったかも知れません。鍋を基にした人間関係に目を向けることが肝要でした。鍋奉行、一人鍋を詠んだ句が多かったですね。独自性が当落を分けました。
「鍋の底を磨く」句も多かったですが、同想句の域を出た句はなかったようです。
レベルの高い作品が多く、最終審査に24句が残りました。その中から篩(ふるい)にかけて11句を没にするのは、選者として苦しい作業でした。作品の出来不出来より、選者との意見が、たまたま異なっただけの作品もあったでしょう。懲りずに応募してくださいね。
投稿者:NHK津放送局 | 投稿時間:18:50